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『レベル3―家庭訪問お断り―』

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 まさか、こんな方法を取ってくるなんて!
 来たって事は、杖をコンパクトにして、何かしらの報酬を持って来たという事だよな?
 有言実行。パスカルさんは優秀なのかもしれない。
 弟子を変えた方がいいかも……次会えたら提案してみよう。

 僕は、ため息をつきつつ、椅子に座り直した。
 杖の事は兎に角、彼女が転校生として現れた事は、僕にはどうしようも出来ない事だし、出来るだけ係わらないでおこう!

 「杖野つえのミラさんだ。あきらの親戚だ。日本に来たばかりのようだから皆色々教えてあげるように」

 先生の紹介に僕は固まった。
 その設定、そのままなのかよぉ!!

 帰国子女だの可愛いだの、教室内はミーラさんの話題で大盛り上がりだ。
 さっき、立ち上がった事もあるし、もう誤魔化せないんだろうなぁ。係わりを持たないなんて無理そうだ……。
 僕は小さくため息をついた。



 ホールムールが終わると、ミーラさんの周りには人だかりが出来ている。
 変な事を言わないか心配だが、ほおっておこう。

 「ねえ、審くん。彼女って決まってるのかしら?」

 そう声を掛けて来たのは、これでもかと大きな赤いリボンで髪を縛った二色さんだ。

 「何が?」
 「決まってるじゃない! 部活よ!」

 やめてくれ! 放課後まで一緒だなんて勘弁してほしい。

 「興味ないと思う!」
 「じゃ、落としてきてよ! ツインテールなんて魔女っ子の定番じゃない!」

 知りません。そんな事……。
 でも彼女に行かせて入部したら困る。僕が言ってダメだったって事にしよう。

 僕が頷くと、手がスッと胸ポケットに……。
 なんだろうと見ると、杖型ペンだった。ポケットにすでに装着されている。
 顔を上げると、ミーラさんがニッコリとして立っていた。

 「約束通りコンパクトにしてきたよ」

 僕は青ざめた。受け取る気がなかったのに、不意を突かれて受け取ってしまった!
 しかもこの状況じゃ、受け取り拒否なんて出来ない。
 クラスの大半の者が、僕達を取り囲んでいた。ミーラさんと一緒に移動して来たみたいだ。

 「それ杖型のペンでしょ? そういうのって売ってるもんなんだ! いいわね! 私もほしいわ!」

 隣で嬉しそうに興奮する二色さん。僕は嬉しくない!

 「ねえ、あなたも『かそう部』に入らない?」
 「ちょ! 何誘ってるの!」

 僕がする事になっていたのに! 断られた事にするはずだったのに!

 「七生なおくんも一緒?」
 「そうよ。七生くんも一緒よ! 楽しいわよ!」

 何が七生くんだぁ! 楽しくなんてない! ――って、僕は言いたい!

 「じゃ、入る」
 「いや、そんな簡単に! もっと悩めよ!」
 「だって。一緒にいて、ここの生活を学べって言われてるし」
 「………」

 生活を学べって……いつまで居る気なんですかぁ?!
 もしかして、厄介払いしてませんかー!
 僕はがっくりと肩を落とした。

 「杖野さん、どんな部か知ってるの? 魔女研究みたいだよ? 審くんに付き合わなくてもいいと思うけど……」

 勇気を出して、そう言ってくれた女子に感謝だ!
 僕がうんうんと頷いていると、スッとミーラさんの前に用紙が突き出された。
 僕の後ろからだから振り返ると、何故か大場がいた。

 「何してるんだよ……」
 「何って、気が変わらないうちに入部届書いてもらおうかと思って」

 僕の質問に平然とそう答えた。
 なんで入部届持ち歩いてるだよ! って、もしかして勧誘しにきたのか用紙持って!

 驚いていると、ミーラさんは受け取った。

 「これに書けばいいの?」

 二人が頷くと、胸ポケットのペンで書き始める。

 「杖野ミラ」

 自分の名前を言いながら書いたその字は、凄く綺麗だった。

 いや君、外国から来たって事になってるよね? この字はどうよ……。

 「すご~い。杖野さん、字、綺麗ね」
 「うん。複写だからね」
 「複写?」

 二色さんの言葉にミーラさんは、サラッと凄い事を言った。
 それってつまり魔法って事でだろう!

 「あぁ、ペン字! そう言いたかったんだよな! ペン字で見て書く練習したって!」
 「うん?」

 ミーラさんは、僕の言葉に何それと首を傾げる。
 わからなくてもいいから、頷いておいてくれ……。
 通じたのか、ミーラさんは頷いた。
 安堵するもこれ、毎回、僕がフォローして回るのか?
 憂鬱な毎日になりそうだ……。
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