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『レベル8―僕はスライムより弱かった?―』

―3―

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 僕達は、安達先輩も一緒に二色さんのお家にお邪魔した。そして、僕と大場でキッチンに立つ。
 本を見つつ、二人でお菓子作り。三人は、リビングで女子トーク中。

 「え?! あの杖って本物なのですか?!」

 安達先輩が驚く声が、聞こえて来た!
 何を話しているんだ! 内容が全然女子トークじゃない!

 「おい、ちゃんとやれよな」
 「いや、だって……。先輩に変な事吹き込んで……」
 「うん? 本当の事だろう? 俺、お腹すいたから早く作っちゃおうぜ」

 そうだった。大場は、隠す必要ないと思っているんだった。しかも作ったクッキー食べる気満々だし。
 仕方がないので、サクサクと作って行く。そして、オーブンで焼くまでになった。

 「後は焼きあがるまで待つだけだな。俺達も向こうで休もうぜ」
 「うん」

 早く何を話したか聞きたい!
 きっと、二人の魔法使いトークに、ドン引きしているに違いない!

 「お疲れ様。コーヒーを入れてあげるわ」
 「おぉ、サンキュー」
 「ありがとう」

 二色さんが立ち上がると、私もやりたいとミーラさんもついて行く。僕と大場、それと安達先輩だけになった。

 「あの……二人の話は、半分冗談で聞いて……」
 「魔法使いなんですってね!」
 「え!?」

 安達先輩は、僕をキラキラして目で見て言った!
 嘘だろう! 彼女も魔女っ子大好き派なんですかぁ!?
 この目は間違いなく、二色さんと同じ目だ!

 「あの。今日、訪ねて来たのって……」

 僕は、恐る恐る聞いた。僕の予想が外れますようにって!

 「はい。魔法を使ったのかどうか、聞きたくて……。一か月も悩んじゃいました。聞きに来てよかったです!」

 なんじゃそりゃ!!
 初めは、もじもじと語っていたけど、パッと顔を上げキラキラした目で来てよかったって言われたよ!
 あぁ見た目は凄くいいのに、中身は僕的には残念だ……。
 もしかして、僕が知らないだけで、少女達は魔法使いに憧れているのか?

 はぁ……。
 ため息をついて、ぐったりしていると、チンと鳴った。どうやら出来上がったみたい。

 僕達の目の前には、少し焦げてしまったクッキーが並べられている。焼きあがったクッキーで、お祝いだそうです。――って、何のお祝いだよ!

 「私……魔法使い部入ろうかな」
 「げっほげっほ」
 「お前、汚いって!」

 突然驚くような事を口走った安達先輩の言葉に、僕はむせてしまった。大場が、ギャーギャー言っているがそんな場合じゃない! 止めないと!

 「あの、やめた方がいいです! せっかく生徒会に入ったのに!」
 「いえ。生徒会をしながら部活出来るので問題はないです」

 僕の言葉に、にっこりと安達先輩は答える。
 いや僕が言いたいのは、生徒会に入って先生方の覚えがめでたいのに、この部に入ったらだだ下がりだと言う事なんだけどなぁ。通じてない。

 「あ、そうそう。魔法使い部ではなく、正しくはかそう部ですわ」

 それ訂正しなくても内容は魔法使い部の様なものだろうに……。
 二色さんの訂正に、大場とミーラさんはうんうんと頷いている。

 「そうだ! 魔法見てみる? それとも使って……」
 「ダメ!」

 慌てて変な事を言い出したミーラさんの手を僕は掴んだ!
 こんな所でモンスターをだしたら大変な事になるだろうに!!

 「えぇ~。なんで?」
 「学べよ! ここで出したら大変な事になる!」
 「あ、そっか! じゃ、外でしようよ!」
 「こ、今度な……」

 ジッと三人が期待した目を送っているので、そう答えてしまった。

 「そうね。では、どんなモンスターを出したいか先輩には考えておいてもらいましょう」
 「ちょ、何言って……」
 「モンスター?」
 「うん。私が作った杖で出せるよ!」
 「だから、待てって!!」
 「えぇ! 本当? 私にも出せるの?」
 「勿論だ! 俺、オオカミだしたぜ」
 「私は、雪女よ! 凄かったんですから!」

 ダメだもう。止められない……。
 二色さんの余計な一言で、自慢げにミーラさんが杖の事を話し、大場達がその杖でモンスターを出した自慢話が始まった。
 どうしてこうなるんだよ!
 あぁ、魔女っ子大好きが三人になった……!

 「やっぱりすぐに体験してもらいましょう!」
 「はぁ? いや、クッキー……」
 「持ってけばいいだろう?」
 「わぁーい! じゃ、学校の裏で!」

 またそこですか!
 ミーラさんが提案した場所は、あと少しで雪が降る季節だというのに、雪が見たいと言った彼女のせいで、二色さんがその願いを叶える為に雪女を出した場所だ。
 そこだけ銀世界になって喜んだのは、勿論ミーラさんのみ!
 そんな曰く付きの場所だ!

 「あの……。今日じゃなくても」
 「では、いつならいいのですか?」

 そう質問してきたのは、安達先輩だ!
 彼女も杖でモンスターを出したいらしい。
 勘弁してくれ! 退治するの僕なんだからぁ!!

 「じゃ、今で……」
 「お前、先輩に弱いなぁ」

 ニヤニヤして、大場が言った。
 そうじゃなくて! 僕一人反対しても決定事項でしょって事だよ!
 多勢に無勢だよな……はぁ。
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