君を見つけた夜

藤堂 真琴(とうどう まこと)

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第1話

雨の夜のカフェで

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会社を出たのは、終電を気にしなければならない時間だった。
東京の秋の夜は肌寒く、傘を持たない僕の肩を、冷たい雨粒が容赦なく叩いていた。

「忘れ物、取りに戻るんじゃなかったな……」
独り言をもらしながら、駅へ急ぐ足を止めた。視界の隅に、まだ灯りのついた小さなカフェがあったのだ。

ドアを開けると、コーヒーの香りがふわりと広がる。静かな店内に、客は一人だけ。窓際に座る女性がノートを広げ、ペンを走らせていた。
濡れたコートを脱ぎながら、僕はつい彼女に目を奪われる。髪先が少しだけ濡れていて、細い指がリズムよくペンを動かす姿は、どこか懸命で、目を離せなかった。

「……すみません、そこ、濡れてますよ」
不意に声をかけられ、心臓が跳ねた。彼女は笑みを浮かべ、ハンカチを差し出していた。

「え、あ、ありがとうございます」
慌てて受け取った僕は、ただの通りすがりの客のはずなのに、なぜか彼女の瞳に引き込まれていた。

その夜の出会いが、この先の自分の人生を変えていくなんて――そのときは、まだ想像もしていなかった。
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