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3 シャロン抗議される
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《中等部イケメンパラダイス トップ3がついに! コール様婚約!》
2日後の朝
中等部は騒然としていた。
女子しか購入出来ない『乙女通信』は、朝のうちにさばけてしまっている。
「皆様、ご覧になりましてっ?」
「よ、読みました。……残念ですわ~」
「お相手って、あの、瓶底嬢でしょ?釣り合わないと思いません?」
「貴女声が大きいわ。まあ、コール様がどんなに素敵でも、子爵家の次男ですもの。あの花の顔かんばせで爵位を勝ち取ったと言うことよ」
「……瓶底嬢も面食いだったのねえ」
「クスクス……これ程釣り合わないご縁も珍しいわねえー」
はあ~。
ほおら、内緒なんて土台無理な話だと言う事よ。
シャロンは朝の時間を図書館渡り廊下の閲覧スペースで過ごす。誰も居ない図書館棟にすら、女子生徒のかしましい声が筒抜けだ。
一限は数学。
欠席しようか。
どうせ今日の授業内容は把握できている。教室に行けば、質問の嵐に決まってる。
悪意も善意も
シャロンは人との、同年代との関わりが苦手だ。領地では身分や性別にこだわらずに家の者の息子娘と遊んだ。家の仕事にも混ぜてもらった。
領地での父は穏やかで、父の執務室でシャロンが過ごしても、何も小言は言わなかった。
おかげで、シャロンは、領主の娘としては家人の誰もが親しめる子供ではあったが、貴族の子女という物差しでみると、不出来な変人に仕立て上げてしまった。
令嬢ならではの会話。
本筋にはなかなか触れず、回りくどく腹を探る。自分の好奇心を他人のものとして相手に遠回しに差し出す。
その、自分の立場は傷つけず、必要な言葉を他人から引き出して、保身を図ったり、階級や派閥の中で己が立つよう振る舞ったり、
そんな高等なワザをシャロンは持ち合わせていないのだ。
書物は、真理は、学びは
純粋に個人のものであり、そこに階級も性別もない。
純粋な理論は美しい。
そして裏切らない。
シャロンがそこに活路を求めたのは自然な流れだった。そして、学びはシャロンを裏切らず、次つぎと新たな扉を示してくれた。
おかげで、シャロンは教室に親しい女子がおらず、挨拶と学習内容とお天気の話しか出来ない、いわゆるぼっち状態である。
しかも、その見た目から、男子も冷たい。まあ、ぼっちのくせに常にトップなのだから、男としてのプライドから苛立つのもある。
さらにその学力から、大概の教師は一目置くのだから、面白くはない。
つまるところ、授業以外、学園にシャロンの居場所は教室にはないという事。
それなのに、乙女通信、である。
分かっている
突然の好奇の集中
引き出したい言葉
(お父様が整えたのですわ
何しろ私しか跡継ぎはいないのですから
政略……そうですね
ローラン様は不本意かもしれません)
はあ~。
皆が聞きたい言葉は
マルグリット家主導の婚約であること
伯爵位と領地を餌に美男子を釣ったこと
ローラン子爵家は嫌々ながらで、あること 勿論コール本人も
(そして私がほんのり頬でも染めれば、あいつらは溜飲を下げるんでしょうね)
瓶底嬢のシャロン博士も
女だったのかー
侮蔑を隠しもしない顔、顔。
そんなウンザリな想像をしていると、目の前の書物に
ダン!
と、手としわくちゃの紙が現れた。
「マルグリット嬢!どういう事だ!婚約をペラペラと!」
「………」
本が痛む。そんな不平を乗せて、じろりと目を向けるが、コールは怒気を隠そうともせず紅潮した顔で睨んでくる。
「ご機嫌よう。コール様」
「おい!」
机の上にはコールが置いた紙屑。
開くと、噂の『乙女通信』だった。
「学園では秘密に、という約束だったじゃないか!」
「私、誰にもお話してはおりませんが」
「現に漏れてるじゃないか!……ったく使えない」
なんだそれ。
私との婚約がそんなに恥か。
だったら結ばなきゃいいじゃないか。大体この縁は、子爵家からと聞いているぞ。
「私は約束を違たがえる人間ではありません。人から婚約を問われた事もございません。この件は、私には非はございません」
「う」
「婚約の日に父は領地に帰りました。社交で我が家から漏れることも考えられません」
「む」
「直接『乙女通信』の方々に伺ってみたらいかがでしょう」
「ぐ」
器用な男だ。一音で会話をつなぐ。
「……っ、まあいい!周りに聞かれたらあれこれ言わず、頷くだけにしておけ!どんな噂が聞こえても言い返さずに。……そのうち皆飽きるだろう」
「そうですね。それがいいと思います。……お話は、それだけでしょうか」
「ああ。まあ、いい」
「コール様」
「なんだ」
「周りの目もございます。せめて私をシャロンとお呼びください」
シャロンは無表情なまま、答えはAです、と同じ口調で告げる。
「あー、わかった」
俯き加減で、座っているシャロンに話していたため、前髪がほつれている。苛苛とその束を耳にかけ、美しい横顔が、ふん!と後ろ向きになり、ドスドスと去って行った。
(やっぱり、午前中はここに居よう)
婚約というのは、もっと甘いものではなかったのだろうか。
女友達も、姉妹も居ない、母も居ないシャロンにとって、それを確かめる術すべはなかった。
2日後の朝
中等部は騒然としていた。
女子しか購入出来ない『乙女通信』は、朝のうちにさばけてしまっている。
「皆様、ご覧になりましてっ?」
「よ、読みました。……残念ですわ~」
「お相手って、あの、瓶底嬢でしょ?釣り合わないと思いません?」
「貴女声が大きいわ。まあ、コール様がどんなに素敵でも、子爵家の次男ですもの。あの花の顔かんばせで爵位を勝ち取ったと言うことよ」
「……瓶底嬢も面食いだったのねえ」
「クスクス……これ程釣り合わないご縁も珍しいわねえー」
はあ~。
ほおら、内緒なんて土台無理な話だと言う事よ。
シャロンは朝の時間を図書館渡り廊下の閲覧スペースで過ごす。誰も居ない図書館棟にすら、女子生徒のかしましい声が筒抜けだ。
一限は数学。
欠席しようか。
どうせ今日の授業内容は把握できている。教室に行けば、質問の嵐に決まってる。
悪意も善意も
シャロンは人との、同年代との関わりが苦手だ。領地では身分や性別にこだわらずに家の者の息子娘と遊んだ。家の仕事にも混ぜてもらった。
領地での父は穏やかで、父の執務室でシャロンが過ごしても、何も小言は言わなかった。
おかげで、シャロンは、領主の娘としては家人の誰もが親しめる子供ではあったが、貴族の子女という物差しでみると、不出来な変人に仕立て上げてしまった。
令嬢ならではの会話。
本筋にはなかなか触れず、回りくどく腹を探る。自分の好奇心を他人のものとして相手に遠回しに差し出す。
その、自分の立場は傷つけず、必要な言葉を他人から引き出して、保身を図ったり、階級や派閥の中で己が立つよう振る舞ったり、
そんな高等なワザをシャロンは持ち合わせていないのだ。
書物は、真理は、学びは
純粋に個人のものであり、そこに階級も性別もない。
純粋な理論は美しい。
そして裏切らない。
シャロンがそこに活路を求めたのは自然な流れだった。そして、学びはシャロンを裏切らず、次つぎと新たな扉を示してくれた。
おかげで、シャロンは教室に親しい女子がおらず、挨拶と学習内容とお天気の話しか出来ない、いわゆるぼっち状態である。
しかも、その見た目から、男子も冷たい。まあ、ぼっちのくせに常にトップなのだから、男としてのプライドから苛立つのもある。
さらにその学力から、大概の教師は一目置くのだから、面白くはない。
つまるところ、授業以外、学園にシャロンの居場所は教室にはないという事。
それなのに、乙女通信、である。
分かっている
突然の好奇の集中
引き出したい言葉
(お父様が整えたのですわ
何しろ私しか跡継ぎはいないのですから
政略……そうですね
ローラン様は不本意かもしれません)
はあ~。
皆が聞きたい言葉は
マルグリット家主導の婚約であること
伯爵位と領地を餌に美男子を釣ったこと
ローラン子爵家は嫌々ながらで、あること 勿論コール本人も
(そして私がほんのり頬でも染めれば、あいつらは溜飲を下げるんでしょうね)
瓶底嬢のシャロン博士も
女だったのかー
侮蔑を隠しもしない顔、顔。
そんなウンザリな想像をしていると、目の前の書物に
ダン!
と、手としわくちゃの紙が現れた。
「マルグリット嬢!どういう事だ!婚約をペラペラと!」
「………」
本が痛む。そんな不平を乗せて、じろりと目を向けるが、コールは怒気を隠そうともせず紅潮した顔で睨んでくる。
「ご機嫌よう。コール様」
「おい!」
机の上にはコールが置いた紙屑。
開くと、噂の『乙女通信』だった。
「学園では秘密に、という約束だったじゃないか!」
「私、誰にもお話してはおりませんが」
「現に漏れてるじゃないか!……ったく使えない」
なんだそれ。
私との婚約がそんなに恥か。
だったら結ばなきゃいいじゃないか。大体この縁は、子爵家からと聞いているぞ。
「私は約束を違たがえる人間ではありません。人から婚約を問われた事もございません。この件は、私には非はございません」
「う」
「婚約の日に父は領地に帰りました。社交で我が家から漏れることも考えられません」
「む」
「直接『乙女通信』の方々に伺ってみたらいかがでしょう」
「ぐ」
器用な男だ。一音で会話をつなぐ。
「……っ、まあいい!周りに聞かれたらあれこれ言わず、頷くだけにしておけ!どんな噂が聞こえても言い返さずに。……そのうち皆飽きるだろう」
「そうですね。それがいいと思います。……お話は、それだけでしょうか」
「ああ。まあ、いい」
「コール様」
「なんだ」
「周りの目もございます。せめて私をシャロンとお呼びください」
シャロンは無表情なまま、答えはAです、と同じ口調で告げる。
「あー、わかった」
俯き加減で、座っているシャロンに話していたため、前髪がほつれている。苛苛とその束を耳にかけ、美しい横顔が、ふん!と後ろ向きになり、ドスドスと去って行った。
(やっぱり、午前中はここに居よう)
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