いざゆけ乙女通信!瓶底メガネの令嬢は美形婚約者をざまぁ出来るか?

ぽんぽんぽん

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シャロン反論をくらう

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「わあ!本人だ!」

女子寮の面談室に、バタバタと階段を下りてきた蜂蜜色の髪の少女が大きな声を出す。

およそ貴族の子女とは思えない振る舞いだが、この大きな青い垂れ目が、その無作法を帳消しにする位の愛嬌がある。

「初めまして。シャロン・アネット・マルグリットです」
「キャロライン・ジュゼッペです。以後お見知り置きを……て、言うか、光栄だわ~!中等部1番の頭脳に会えるなんて~。しかも御本人から来てくださるなんて!」

手を胸の前で組んで、キャッキャするキャロライン。とても自然で嫌味がない。

「ね!どうしてこの時間に私が寮に戻っていると分かったの?」
「え。……5限と6限の移動休憩に4年教室フロアを訪ねたら、貴女が午後授業に出ていないと聞きました。私はその前に保健室に居たから、病や怪我ではない。なら、授業よりやりたい事がある。……それなら多分『乙女通信』に関わる事。なら、自室に戻るに違いない。そんな風に考えて」

パチパチパチと小刻みな拍手をして、キャロラインは
「正解!」
と、本気で嬉しそうにしている。
その、自然な表情の変化も、およそ淑女らしくはない。
らしくはないけれど嫌味がない。

「ね!誰もまだ居ないわ。ここでお茶しましょう!お父様からの異国の茶葉なの。きっと気に入るはず。ちょっとお待ちになってね、私、お茶は得意なの」


成程。

これが相手のパーソナルスペースに切り込む素養なんだ。
羨ましい。

キャロラインは所謂美少女ではない。
けれど、その見た目と表情は、百人のうちの大半が、好感を持つだろう。

眩しい人。

自分を卑下する自動回路でも着いているのだろうか、心のどこかに苦い痛みを感じる事に、シャロンに自虐の笑みが浮かんだ。

「もう、ね、ある事ない事情報や噂が入ってきて、きちんと整理したかったの。6限は黒板しか見つめてない倫理学のシュローダー先生だから、居なくても分からないし!」

茶器をテキパキ並べて、あっけらかんとサボりを告げる。まあ自分など朝から教室にも居ないのだから、言えた義理ではない。

「噂、とは、私に関わる事ですか?」
「そうね。貴女と、ローランの情報ね。……そのブカブカの制服。ドルファー子爵令嬢のせいでしょ。お取り巻きの」

速い。
もう、ランチルームの一件が耳に入っている。

「貴女も災難よね。あのプレイボーイのせいで、恨まれて」
「その事ですけど」

香りの高い茶は、緑が濃い。
ああ、東方のものだ。
1口つけて、砂糖を少し加える。

キャロラインは黙って言葉を待つ。
その微笑はただの無邪気な少女でない事を物語る。

シャロンは居住まいを正して硬い声で告げた。
「『乙女通信』代表のジュゼッペ様に抗議に参りました。謝罪を要求します」

その言葉にキャロラインは笑みを深める。モードが切り替わっているのが伝わる。


シャロンは無表情なまま、カップに口をつけた。うん、和らいで美味しい。

「『乙女通信』が私とローラン様の婚約を公表したおかげで、この有様です。ゆっくり浸透していれば、私が一方的に虐められる事はなかったのでは」

「成程」

「大体記事の対象者に事前の了解もなく不特定多数に知らせるなんて暴力と同じ。そして私にはそれに対する対応策を練る時間もありませんでした。
よって、謝罪を要求します。それから次号に謝罪文を。勿論私の検閲の後に
さもなくば、廃刊運動を起こします。生徒会と教授会に申請します」

(素晴らしい)

キャロラインは舌を巻いた。
たった12歳でこの論法。理論で攻めてそこに感情的な言葉はない。

「……順番を間違えましたね。
まずは、マルグリット様、ご婚約おめでとうございます」

「―ありがとうございます」

そういえば。
誰一人シャロンに祝いを言う人は居なかった、と、心で苦笑する。
まあ、人を避けていたのだから、当たり前かも知れないが。

「その上で、代表として向き合わせて頂くわ。
 出し抜いた事は、礼を欠きました……申し訳ございません。事前の打診がなかった事に関しては、全く仰る通りです。配慮に欠けたわ。改めて、マルグリット家とローラン家に、詫び状を送らせて頂きます。」

「承りましょう」

「ですが」
カチャリと小さく陶器の音をさせて、ソーサーにカップを戻して、キャロラインのターンとなる。

「そもそも慶事が広まる事の何が問題なのでしょう?
お身内の忌中でもなく、どちらも初めての婚約。祝う事があっても、秘匿しなければならなかったご事情がお有りでしたか?」

「……」

言われてみると。

婚約を黙っていようというのは、コールが勝手に言い出した事で、こちらには何の事情とやらは、ない。

ランチルームの一件は……

勝手に公爵令嬢の一群が、イチャモンをつけて来た。そこに何の理屈もない。

あるのは乙女通信で、婚約が知れ渡ったという事実のみ。
一気に広まるか、じわじわ伝わるか、いずれにしても、あの手のいじめはいつかは遭遇したのだろう。

「マルグリット様の不利益は、失礼ですがコール・ローランの都合ではない?」

そうだ。

「慶事を隠したがるのは、後ろめたい事があるからでは?」

そうよ。知ってるわ。

「ローランは貴女を庇いましたか?守って下さいましたか?」

いいえ。
それどころか、私のリークではないかと疑っていたわ。

「ミリア・ダンブルグ嬢の横紙破りには呆れるけれど、それもローランの日頃の振る舞いの結果と言えますわ。ドルファー嬢は貴女に謝罪して当たり前。
……まったく、あの連中は。本当にあれが王子の婚約者だと言うのだから恐れ入るわ」

分かってる。
私があの子達みたいに綺麗なら、あんな風には扱われない。
そんな事、分かってる。

「まあ、でも」

キャロラインは二杯目をシャロンの分も注いでから、柔らかい声音で諭すように伝えた。

「もう少し貴女は、婚約の意味を自覚しなくては。相手や相手の家と繋がると言うことは、守るべきものや戦う相手が増えると言うことよ。

妬ましい人へのあしらいも、目移りする男の手綱も、今や貴女のさじ加減にかかってしまったの。
逃げて文句を噛みしめても、誰も肯定してはくれないわ」

「………!」
ガチャンと、カップが落ちてテーブルクロスを緑の液体が染まる。

「マルグリット様?」

貴女も
貴女も言うの?
私に、しっかりしろ、と。


私が悪い。
私が私が


ため息をついても、教室を避けても、逃れられない
私の、責任……


シャロンの表情が全く無くなり、カップを取り直そうとして、視界が揺れた。

「……っく、ひっく」

(………あ!)

いつの間にか、シャロンはヒクヒクと喉が鳴り、ポロポロと頬に涙が伝うのを他人のように知覚する。

「あ、あらあらあら!
マグリット様!」

(な、なに?理詰めの博士が)

あわあわとキャロラインが、拭くもの!とキョロキョロしながら、
マリーマリー!と、
自分のメイドを呼び、立ち上がってシャロンの頭を抱く。

「は、ハンカチは、ランチルームで、ひ、ひっく」

美魔女教師が編み込んだ可愛い髪を揺らして、ぶかぶかの長い袖で泣きじゃくるシャロンは、実に十二歳らしい幼さで。

急に目の前の少女が痛々しくて、愛おしくて、キャロラインも頰を赤らめる。

「分かってる!分かってるわ。わ、私のお部屋へ参りましょ?ね?今日はいろいろ辛かったのよね?
なのに私までいじめちゃって……
ああ、マリー、部屋を整えて頂戴
マグリット様、お辛いわね、ごめんなさいね」



シャロンは眼鏡の中にまで指を入れて、ヒクヒク泣くだけ。
キャロラインは小さな肩をさすりながら

(何この可愛い生き物!)

と、ギャップ萌えしていた。



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