18 / 22
18
しおりを挟む
今日も朝から晴天。二人は昨日と同じように棚田の雑草をむしり、土を掘り起こしていた。昨夜の会話は本当にあったのか、と思うくらいに普段と変わりなく二人は付かず離れずの会話を交わす。そして日暮れ前には風呂を沸かし、日没後に夕食を摂った。
……夕食の後片付けも終わり、いつものとおり葉奈は縁側に座って星を眺めていた。……ただ今夜は、いつもならばすでに車に向かっているはずの二賀斗が未だに居間に居座っていた。
「…………」
二賀斗は膝を抱えたまま、ジッと黙って柱に寄りかかっていた。
葉奈は横目で二賀斗の様子をうかがう。
「……」
「……」
二人は黙ったままでいた。
「……にっかどさん、電気消して」
葉奈の緊張した声が部屋に響く。二賀斗はゆっくり立ち上がると、言われるがままに壁に掛けられた電球のスイッチをOFFにした。
その瞬間、居間は暗闇の中に沈んだ。
「……そっちに、行ったほうがいい?」
葉奈の声が震えている。
「……いや、来ないでくれ」
暗闇の中で二賀斗の低い声が漂う。
「え? どうしたの。……にっかどさん、電気点けて」
「……葉奈ちゃん」
葉奈は背後に気配を感じた。
「えっ? なに?」
葉奈に緊張が走る。
「そのままで、聞いてほしい。……じ、実はさ、君に……会ってほしい人が、いるんだ」
「……だれ」
落ち着いた、それ以上に凍てついた葉奈の声が水滴のように静かな空間に落ちて広がる。二賀斗の心音が一気に高鳴る。
「ハァ、ハァ……あの、俺の学生時代の、……後輩なんだけど」
極度の緊張に、息を切らしながら二賀斗は答える。
「……その前に、言うことあるんじゃない」
葉奈の口から出たその言葉に二賀斗の身体が強張った。
〈な、何もかも……お見通しだ! 初めっから葉奈は全部わかりきっていたんだッ!〉
二賀斗は自分の浅はかさに顔が赤くなり、全身から緊張の汗をにじみ出した。
「ガハッ……ハァ……」
二賀斗はゆっくりと膝を床に付け、そして頭を下げた。
「す、すみませんでした。……君に、ウソをついてました。はじめっから、君に会うためにここに来ました。……ごめんなさいッ!」
涙ぐんだ声でそう言うと、二賀斗は頭を床に押し付けた。葉奈はゆっくりと近寄り、二賀斗の肩にそっと手を置く。
「……頭上げて、にっかどさん。隣に来てきちんと話して。……もぅ男でしょ、泣くな!」
「グスッ……ごめん」
二人は縁側に並んで座った。そして二賀斗は下を向きながらも落ち着いて話し始めた。
「……俺の大学時代の親友の彼女。その子は今、動物病院で獣医をしながら山に住んでる動物達を保護する活動をしているんだ。でも……、同じ獣医だった俺の親友は、一年前に渡航先のアフリカで密猟者に殺されちまった。ゾウの保護活動中に。……明日夏。彼女の名前だけど、明日夏は変わっちまったよ。……あんなにおとなしいやつだったのに、まるで何かに憑りつかれたみたいに保護活動にのめり込みやがった。警察沙汰まで起こして……」
二賀斗は葉奈の方を向いた。
「明日夏のじいさんが昔、不思議な出来事を見たって言ってたそうだ。……よくはわかんないけど、明日夏のじいさんが若いころに泊まった旅館が火事になって、それでその旅館の女中さんが火事になったその建物に入って行ったら、その火事が一瞬で消えたとか……。俺は明日夏からその女中さんを見つけてほしいってお願いされたよ、その人と話がしたいからって。……俺はアイツにそんな夢みたいな話ある訳ないって何度も言った。でもアイツは聞き入れなかった。だから俺はあいつの気が済むまで付き合おうって思い、その女中さんの関係者を調べまくった。……そして、君にたどり着いた」
葉奈は二賀斗の目をジッと見つめている。
「お願いだッ。あの火事のことについて何か知ってるんなら、君からあいつに言ってくれないか? 実際何もなかったんだろ? 言ってくれよ! そんなオカルトチックなこと、現実にある訳ないってさ! あいつにそう言ってくれるだけでいいんだッ!」
すがるような表情で二賀斗は葉奈に訴えた。
葉奈は二賀斗から視線を外すと、おもむろに立ち上がった。
「……少し、歩こうよ」
二人は山桜の木の方に向かってゆっくりと歩き出した。季節の移ろいが際立ってきたのか、夜は冷たさを感じるようになっていた。月明かりが二人を青白く照らし出す。
葉奈は山桜の幹に寄りかかると、静かな口調で話し始めた。
「あのさ。……あの小屋、おばあちゃん家だって言ってたの憶えてる?」
「ん、ああ」
「……ごめんね。あれ、ウソなんだ。ほんとはお母さんが仕事してたときに知り合ったおばあさんの家なんだ」
葉奈は幹に寄りかかりながら空に浮かぶ月を見上げた。
「えっ?」
二賀斗は驚いた顔で葉奈を見た。
「……私のお母さんってさ、生まれつき耳が聞こえなかったの。……かわいそうだよね、生まれつきだなんて」
二賀斗も葉奈の隣に歩み寄ると、同じく桜の幹に寄りかかった。
「……私もそうなんだけど、お母さんも母子家庭で育ったんだって。……今も昔も、他に頼れる人って誰一人いなかった。だからね、私のこと愛情いっぱいに育ててくれたよ、お母さん。朝から晩まで働き詰めだったけどね。……ほんと、お金無かったなー、あはは。……お弁当開くの、恥ずかしかったァ」
葉奈は昔を思い出すと急に下を向いてしまった。
「はは、……そっか」
「うん。……お母さん、毎日毎日私の手をギュッと握ってくれたんだ。毎日毎日。お母さんが手を握ってくれるとね、何だか元気が出たの。……大好きだったなぁ、お母さん」
そう言うと、葉奈は急に黙り込んだ。
「……葉奈ちゃん、大丈夫?」
二賀斗が葉奈の方に目を向けると、葉奈は前を向いて思いつめた様な顔をしていた。
「……お母さん、毎日毎日私の手を握ってくれた。でもね、でも、私が中学生の頃あたりから何か、だんだんお母さん痩せてきちゃったの。……どうしたんだろって思ってた。それでもお母さんは毎日毎日私の手を握ってくれた。私、高校卒業したらすぐ就職してお母さんのこと楽させようって思ってた。……でもね、私が高三のときの冬に、お母さん急に体調崩してとうとう入院しちゃったの。私、毎日毎日病院にお見舞いに行ったわ。お母さんも手話で私に“必ず毎日来てね”ってお願いしてたから」
満天の星が二人のはるか彼方で輝いている。
葉奈は興奮した様子で話を続けた。
「……高校の卒業式の一週間前にね、病室のベッドでお母さんが突然、手話でこう言い出したの。“……葉奈、あなたにはお父さんという人は存在しません。私が二十歳のとき、突然あなたがお腹に宿りました。そして私にも父親はいませんでした。私も突然、私の母親のお腹に宿りました。……私たちは不思議なチカラを備えてこの世に生まれて来ます。……人の願いを実現させるチカラ。でもそれは、自分の意思で使えるものではなく、ヒトが抱く強い願望に触れると自分の意思とは関係なくそのチカラが溢れ出るようです。その願いは、たった一人の“強い願い”かもしれないし、大勢のヒトの束ねられた“強い願い”かもしれない。そのチカラが出ることで私たちの身体がどうなってしまうのかもその時にならないとわかりません。……だからあなたのおばあちゃんもいつも気をつけていたそうです。そして私にもよく話していました。なるべく目立たないように、なるべくヒトの願いに触れないように”って」
葉奈の小さな唇が小刻みに震え始める。
「……“でも、代を重ねるごとにそのチカラが薄れていったのかもしれません。あなたのおばあちゃんは生涯でたった一度しか、そのチカラが出なかったそうです。……私が思うに、もしかしたら私はそのチカラを次世代に繋げさせる為の栄養源なのかもしれません。私が生まれながらに耳が不自由で、ヒトの思いに鈍感なのも、た、たぶんそれに関係があるのでしょう”」
葉奈の声が震え出した。
「“わ……私は、自分の使命に抗えませんでした。……わ、私は自分の命を毎日毎日あなたに注ぎ続けました。……あなたの手を握れば握るほど、あなたがつらい目に遭う時を早めてしまうとわかっていても。……本当にごめんなさい。私のやっていたことは、結果としていたずらにあなたを苦しい世界に導いただけ。私を恨んでください。……そして、どうか最後まで生き抜いて”」
二賀斗は目を見開き、愕然としながら葉奈を見つめていた。
「……そ、そう言うとお母さん、私の手を握ろうとした。……わ、わたし、お母さんの手を振り払ったわ! そしたらお母さん、今までに一度だって見せたことのない怖い顔で私を見た。……うっ……うう、……あっ、うぅ」
葉奈は下を向くと両手で顔を覆い隠した。
「わ、私……お母さんの手を握った。……お、お母さん、いつものように優しく微笑んでくれた。“これでおしまい”。これがお母さんの最後の言葉。……その夜、お母さん死んだわ」
二賀斗は突然、思い出した。
「ち、ちょっと待って。もしかしてあの時の宇宙人とか自分の雰囲気とか言ってたのって……」
止めどなく流れる涙を振り払うと、葉奈は二賀斗に食ってかかった。
「そうよ! どう思う! ねえ、どう思う! こんな話信じられる? ……私、否定してほしかった! 強く……強く否定してほしかった。だって、怖かったのよ。ヒトの欲望で私の身体がどうにかされちゃうなんて! 高校の卒業式も怖くて行けなかった! 就職したけど続けられなかった! 怖くて怖くていつもビクビクしてた! ……誰かが私を狙ってくる。……ハァ、ハァ。いつか誰かが……。居ても立ってもいられなかった。アパートに閉じこもって、何日も何日も。……物音がする度に怖くなって……」
葉奈は嗚咽を漏らしながらしゃがみこんで頭を抱え込んだ。
「うええ……えええ……」
葉奈の胸の奥底に今まで閉じ込められていた苦悩が涙となって止めどなく流れ落ちる。
二賀斗はゆっくり膝を落とすと、静かに葉奈の背中をさすった。
「……がんばったね。……たった独りで、よくがんばった」
「うあああああああ――――――――――!」
葉奈は二賀斗に抱きつくと、気の済むまで大声で泣いた。
「ヒョー……ヒョー」
何処からか鳥のさえずる声が聞こえる。二人は地面に腰を下ろし、山桜の幹にもたれ掛かっていた。
「……お母さんがね、亡くなる直前に言ったの。……逃げ出したいときがあったら、お母さんの知り合いのおばあちゃんが昔住んでいた山小屋が使えるからそこに行きなさいって。……お母さんがいなくなってからもしばらくの間、一人でアパートにいたんだけど、不安で不安でどうしようもなかった。……寂しくて、怖くて、もう色んな感情が頭の中をひっかきまわして、大声で叫びたくっても周りを気にして叫べなかった。とにかくもう……精神的に狂いそうだったんで私、思い切って住んでいたアパートを解約してここに来てみたの。でもね、……ひどかったァ、ここの生活。独りきりにはなれたけど電気は無いし、水は沢水、ガスもない。人間社会で生きてきたんだって、つくづく思い知らされたわ。……街に帰っても精神的にきついだろうし、そうかと言ってここでの生活もできそうにないし、ほんとどうしよう、もう死んじゃおっかなーっていつも考えてた。実際、裏のボロ家で何度か首吊ろうとしたの。……でも、それも怖くてできなかった。いったいどうすればいいのって悩んでいたら、突然にっかどさんが現れたんで私、ほんとにびっくりしちゃった。……あの時は、ほんとごめんなさい」
葉奈は膝を抱えながら二賀斗の方を向いて、謝った。
「ううん、そんなことないよ全然。……そうだったんだ」
「それからしばらくしてまたにっかどさんがここに来たから、私のこと探しに来たんだ、って直感したんだけど、もう生活がすさみ切ってて、もうホントどうでもよくなってたし、……それに何より誰かと話ししたかったし」
大泣きしたせいか、葉奈の声はかすれていた。
「……そっか。でも、俺じゃない方が……ホントはよかったかもな。つまんない話ばっかで話し相手にならなかったろ」
二賀斗は自傷気味に苦笑いしながら言った。
「そんなことない! そんなことないよ。にっかどさんがケーキ持ってきたとき、あんな二、三分しか会話してなかったのに、……なんだろうね。にっかどさん、私の中にスッと入ってきた。……心の緊張が一気に解けた感じがしたの。にっかどさんだったから私もここまで自分を出せたんだよ。他の人だったら……舌かんで死んでたかも」
葉奈はそう言うと、二賀斗の袖を掴んだ。
「……俺なんかでも役に立つんだね」
「……そんな、ありがと」
葉奈は恥ずかしそうに下を向いて微笑んだ。
「……ねぇ、私なんかにこんな色々してくれたのって、私に近づくためだったの?」
葉奈は二賀斗に尋ねた。
二賀斗はうつむくと申し訳なさそうに答えた。
「黙っていて、ほんとに悪かった。……ほんとは、君のおばあさんやお母さんの事を調べたあとに君に会いに来たんだ。そして、ここで君に怒鳴られて、それでもうこの件は終わりにしようと思ったんだ。……でも、あの雨の日、君がこの桜の枝に乗っかって独りでたたずんでいたの見たら何か……。余計なお世話だったよね。……でも、俺は君のために何かしたかった! ホントに何かしたかったんだ。どんなことでも。……正直、もう目的なんかどうでもよくなってた」
葉奈は二賀斗の肩に頭をもたれ掛けた。
「私って、なんなんだろ。……人間、なのかな」
その言葉を聞くと二賀斗は突然、葉奈の両肩を掴んで彼女を睨んだ。
「やめろッ! もう! どうしてどいつもこいつもそんなことばっかり言うんだよッ! たかが人間如きにそんな都合のいい能力なんかある訳ないだろォ! 金持ちになりたいって俺が思ったら君が金持ちにしてくれるんか! 社長になりたいって思ったら次の日社長になれるんか! 今の今まで黙ってたけど俺は何度も君を抱きたいって思ってた。でも実際どうだ! 俺に抱かれたのかよ! さっきの話覚えてるか? あの女中、お前のばあさんなんだよ! 旅館が火事になって、その火事が突然消えて、お前のばあさんが怪しまれた! だけどな、怪しいって言ううわさはあったけど誰一人お前のばあさんがやったってはっきりと断言した奴はいなかった! 同調圧力なんじゃねえのか! お前のばあさん自身も圧力に飲まれたんじゃねえのか! だから自分に変な力があるって思い込んだんじゃねえのかァッ! …………ハァ、ハァ、ハア。……きみは、君はただの人間だよ。この世にたった一人しかいない、大切な女の子なんだよォ」
二賀斗の目から涙がこぼれた。
「……」
葉奈は静かに二賀斗を見つめたまま、黙ってその言葉を聞いていた。
「……ノセボ効果って、聞いたことあるかい?」
「ううん、知らない」
「……思い込みって、時にすごい能力を発揮することがあるんだ。……昔、外国で起こった出来事だ。ある患者が医者から余命数ヵ月の末期がんって診断を受けた後、絶望して急激に体調を崩した。それからその患者は、数ヵ月待たずに死んじまったそうだ。……あとでその患者の身体を調べてみたら診断は誤診、腫瘍は小さくて転移も無かったそうだ。……なぁ、強い思い込みで人は死んじまうんだよ! もちろん君のお母さんがそれで死んだなんて言う気はない! そうじゃない。……ただ、そういう現象もあるんだよ! 当然、たった一人の大切な母さんからそんなこと言われたんじゃ君じゃなくたって信じちまうよ。……でも、あり得ねえだろ、あんな話! ……だから自分勝手に……思い込むなよォ。……君の人生は、これからもっと輝きに満ちるんだ! ……ウウッ」
二賀斗はむせび泣く声が漏れないよう両手で顔を押さえた。その姿を見て葉奈も目を赤くする。
「……にっかどさん、私のこといっぱい気にかけてくれてほんとにありがと。……ねぇ、憶えてる?」
「グスッ……なに」
「あなたのこと、嫌いじゃないよって言ったこと」
「……忘れるわけないよ。……お、俺だって」
「自然なことなのかなァ。……やってあげたいとか、手伝いたいとか、そういう尽くしたいって気持ちになっちゃうのって。今ね、にっかどさんの笑顔が一番見たい。そのためならどんなことだってできそうな気がする。私がその人と会えばにっかどさん笑顔になれる?」
葉奈はそう言うと、恥ずかしそうに膝と膝の間に顔を埋めて背中を丸くした。
「……葉奈ちゃん」
二賀斗は丸まった葉奈の背中を見つめた。
「……会うよ、その人と。今度は私がにっかどさんを助ける番だもん」
葉奈は顔を上げると、そう言って二賀斗に優しく微笑んだ。
……夕食の後片付けも終わり、いつものとおり葉奈は縁側に座って星を眺めていた。……ただ今夜は、いつもならばすでに車に向かっているはずの二賀斗が未だに居間に居座っていた。
「…………」
二賀斗は膝を抱えたまま、ジッと黙って柱に寄りかかっていた。
葉奈は横目で二賀斗の様子をうかがう。
「……」
「……」
二人は黙ったままでいた。
「……にっかどさん、電気消して」
葉奈の緊張した声が部屋に響く。二賀斗はゆっくり立ち上がると、言われるがままに壁に掛けられた電球のスイッチをOFFにした。
その瞬間、居間は暗闇の中に沈んだ。
「……そっちに、行ったほうがいい?」
葉奈の声が震えている。
「……いや、来ないでくれ」
暗闇の中で二賀斗の低い声が漂う。
「え? どうしたの。……にっかどさん、電気点けて」
「……葉奈ちゃん」
葉奈は背後に気配を感じた。
「えっ? なに?」
葉奈に緊張が走る。
「そのままで、聞いてほしい。……じ、実はさ、君に……会ってほしい人が、いるんだ」
「……だれ」
落ち着いた、それ以上に凍てついた葉奈の声が水滴のように静かな空間に落ちて広がる。二賀斗の心音が一気に高鳴る。
「ハァ、ハァ……あの、俺の学生時代の、……後輩なんだけど」
極度の緊張に、息を切らしながら二賀斗は答える。
「……その前に、言うことあるんじゃない」
葉奈の口から出たその言葉に二賀斗の身体が強張った。
〈な、何もかも……お見通しだ! 初めっから葉奈は全部わかりきっていたんだッ!〉
二賀斗は自分の浅はかさに顔が赤くなり、全身から緊張の汗をにじみ出した。
「ガハッ……ハァ……」
二賀斗はゆっくりと膝を床に付け、そして頭を下げた。
「す、すみませんでした。……君に、ウソをついてました。はじめっから、君に会うためにここに来ました。……ごめんなさいッ!」
涙ぐんだ声でそう言うと、二賀斗は頭を床に押し付けた。葉奈はゆっくりと近寄り、二賀斗の肩にそっと手を置く。
「……頭上げて、にっかどさん。隣に来てきちんと話して。……もぅ男でしょ、泣くな!」
「グスッ……ごめん」
二人は縁側に並んで座った。そして二賀斗は下を向きながらも落ち着いて話し始めた。
「……俺の大学時代の親友の彼女。その子は今、動物病院で獣医をしながら山に住んでる動物達を保護する活動をしているんだ。でも……、同じ獣医だった俺の親友は、一年前に渡航先のアフリカで密猟者に殺されちまった。ゾウの保護活動中に。……明日夏。彼女の名前だけど、明日夏は変わっちまったよ。……あんなにおとなしいやつだったのに、まるで何かに憑りつかれたみたいに保護活動にのめり込みやがった。警察沙汰まで起こして……」
二賀斗は葉奈の方を向いた。
「明日夏のじいさんが昔、不思議な出来事を見たって言ってたそうだ。……よくはわかんないけど、明日夏のじいさんが若いころに泊まった旅館が火事になって、それでその旅館の女中さんが火事になったその建物に入って行ったら、その火事が一瞬で消えたとか……。俺は明日夏からその女中さんを見つけてほしいってお願いされたよ、その人と話がしたいからって。……俺はアイツにそんな夢みたいな話ある訳ないって何度も言った。でもアイツは聞き入れなかった。だから俺はあいつの気が済むまで付き合おうって思い、その女中さんの関係者を調べまくった。……そして、君にたどり着いた」
葉奈は二賀斗の目をジッと見つめている。
「お願いだッ。あの火事のことについて何か知ってるんなら、君からあいつに言ってくれないか? 実際何もなかったんだろ? 言ってくれよ! そんなオカルトチックなこと、現実にある訳ないってさ! あいつにそう言ってくれるだけでいいんだッ!」
すがるような表情で二賀斗は葉奈に訴えた。
葉奈は二賀斗から視線を外すと、おもむろに立ち上がった。
「……少し、歩こうよ」
二人は山桜の木の方に向かってゆっくりと歩き出した。季節の移ろいが際立ってきたのか、夜は冷たさを感じるようになっていた。月明かりが二人を青白く照らし出す。
葉奈は山桜の幹に寄りかかると、静かな口調で話し始めた。
「あのさ。……あの小屋、おばあちゃん家だって言ってたの憶えてる?」
「ん、ああ」
「……ごめんね。あれ、ウソなんだ。ほんとはお母さんが仕事してたときに知り合ったおばあさんの家なんだ」
葉奈は幹に寄りかかりながら空に浮かぶ月を見上げた。
「えっ?」
二賀斗は驚いた顔で葉奈を見た。
「……私のお母さんってさ、生まれつき耳が聞こえなかったの。……かわいそうだよね、生まれつきだなんて」
二賀斗も葉奈の隣に歩み寄ると、同じく桜の幹に寄りかかった。
「……私もそうなんだけど、お母さんも母子家庭で育ったんだって。……今も昔も、他に頼れる人って誰一人いなかった。だからね、私のこと愛情いっぱいに育ててくれたよ、お母さん。朝から晩まで働き詰めだったけどね。……ほんと、お金無かったなー、あはは。……お弁当開くの、恥ずかしかったァ」
葉奈は昔を思い出すと急に下を向いてしまった。
「はは、……そっか」
「うん。……お母さん、毎日毎日私の手をギュッと握ってくれたんだ。毎日毎日。お母さんが手を握ってくれるとね、何だか元気が出たの。……大好きだったなぁ、お母さん」
そう言うと、葉奈は急に黙り込んだ。
「……葉奈ちゃん、大丈夫?」
二賀斗が葉奈の方に目を向けると、葉奈は前を向いて思いつめた様な顔をしていた。
「……お母さん、毎日毎日私の手を握ってくれた。でもね、でも、私が中学生の頃あたりから何か、だんだんお母さん痩せてきちゃったの。……どうしたんだろって思ってた。それでもお母さんは毎日毎日私の手を握ってくれた。私、高校卒業したらすぐ就職してお母さんのこと楽させようって思ってた。……でもね、私が高三のときの冬に、お母さん急に体調崩してとうとう入院しちゃったの。私、毎日毎日病院にお見舞いに行ったわ。お母さんも手話で私に“必ず毎日来てね”ってお願いしてたから」
満天の星が二人のはるか彼方で輝いている。
葉奈は興奮した様子で話を続けた。
「……高校の卒業式の一週間前にね、病室のベッドでお母さんが突然、手話でこう言い出したの。“……葉奈、あなたにはお父さんという人は存在しません。私が二十歳のとき、突然あなたがお腹に宿りました。そして私にも父親はいませんでした。私も突然、私の母親のお腹に宿りました。……私たちは不思議なチカラを備えてこの世に生まれて来ます。……人の願いを実現させるチカラ。でもそれは、自分の意思で使えるものではなく、ヒトが抱く強い願望に触れると自分の意思とは関係なくそのチカラが溢れ出るようです。その願いは、たった一人の“強い願い”かもしれないし、大勢のヒトの束ねられた“強い願い”かもしれない。そのチカラが出ることで私たちの身体がどうなってしまうのかもその時にならないとわかりません。……だからあなたのおばあちゃんもいつも気をつけていたそうです。そして私にもよく話していました。なるべく目立たないように、なるべくヒトの願いに触れないように”って」
葉奈の小さな唇が小刻みに震え始める。
「……“でも、代を重ねるごとにそのチカラが薄れていったのかもしれません。あなたのおばあちゃんは生涯でたった一度しか、そのチカラが出なかったそうです。……私が思うに、もしかしたら私はそのチカラを次世代に繋げさせる為の栄養源なのかもしれません。私が生まれながらに耳が不自由で、ヒトの思いに鈍感なのも、た、たぶんそれに関係があるのでしょう”」
葉奈の声が震え出した。
「“わ……私は、自分の使命に抗えませんでした。……わ、私は自分の命を毎日毎日あなたに注ぎ続けました。……あなたの手を握れば握るほど、あなたがつらい目に遭う時を早めてしまうとわかっていても。……本当にごめんなさい。私のやっていたことは、結果としていたずらにあなたを苦しい世界に導いただけ。私を恨んでください。……そして、どうか最後まで生き抜いて”」
二賀斗は目を見開き、愕然としながら葉奈を見つめていた。
「……そ、そう言うとお母さん、私の手を握ろうとした。……わ、わたし、お母さんの手を振り払ったわ! そしたらお母さん、今までに一度だって見せたことのない怖い顔で私を見た。……うっ……うう、……あっ、うぅ」
葉奈は下を向くと両手で顔を覆い隠した。
「わ、私……お母さんの手を握った。……お、お母さん、いつものように優しく微笑んでくれた。“これでおしまい”。これがお母さんの最後の言葉。……その夜、お母さん死んだわ」
二賀斗は突然、思い出した。
「ち、ちょっと待って。もしかしてあの時の宇宙人とか自分の雰囲気とか言ってたのって……」
止めどなく流れる涙を振り払うと、葉奈は二賀斗に食ってかかった。
「そうよ! どう思う! ねえ、どう思う! こんな話信じられる? ……私、否定してほしかった! 強く……強く否定してほしかった。だって、怖かったのよ。ヒトの欲望で私の身体がどうにかされちゃうなんて! 高校の卒業式も怖くて行けなかった! 就職したけど続けられなかった! 怖くて怖くていつもビクビクしてた! ……誰かが私を狙ってくる。……ハァ、ハァ。いつか誰かが……。居ても立ってもいられなかった。アパートに閉じこもって、何日も何日も。……物音がする度に怖くなって……」
葉奈は嗚咽を漏らしながらしゃがみこんで頭を抱え込んだ。
「うええ……えええ……」
葉奈の胸の奥底に今まで閉じ込められていた苦悩が涙となって止めどなく流れ落ちる。
二賀斗はゆっくり膝を落とすと、静かに葉奈の背中をさすった。
「……がんばったね。……たった独りで、よくがんばった」
「うあああああああ――――――――――!」
葉奈は二賀斗に抱きつくと、気の済むまで大声で泣いた。
「ヒョー……ヒョー」
何処からか鳥のさえずる声が聞こえる。二人は地面に腰を下ろし、山桜の幹にもたれ掛かっていた。
「……お母さんがね、亡くなる直前に言ったの。……逃げ出したいときがあったら、お母さんの知り合いのおばあちゃんが昔住んでいた山小屋が使えるからそこに行きなさいって。……お母さんがいなくなってからもしばらくの間、一人でアパートにいたんだけど、不安で不安でどうしようもなかった。……寂しくて、怖くて、もう色んな感情が頭の中をひっかきまわして、大声で叫びたくっても周りを気にして叫べなかった。とにかくもう……精神的に狂いそうだったんで私、思い切って住んでいたアパートを解約してここに来てみたの。でもね、……ひどかったァ、ここの生活。独りきりにはなれたけど電気は無いし、水は沢水、ガスもない。人間社会で生きてきたんだって、つくづく思い知らされたわ。……街に帰っても精神的にきついだろうし、そうかと言ってここでの生活もできそうにないし、ほんとどうしよう、もう死んじゃおっかなーっていつも考えてた。実際、裏のボロ家で何度か首吊ろうとしたの。……でも、それも怖くてできなかった。いったいどうすればいいのって悩んでいたら、突然にっかどさんが現れたんで私、ほんとにびっくりしちゃった。……あの時は、ほんとごめんなさい」
葉奈は膝を抱えながら二賀斗の方を向いて、謝った。
「ううん、そんなことないよ全然。……そうだったんだ」
「それからしばらくしてまたにっかどさんがここに来たから、私のこと探しに来たんだ、って直感したんだけど、もう生活がすさみ切ってて、もうホントどうでもよくなってたし、……それに何より誰かと話ししたかったし」
大泣きしたせいか、葉奈の声はかすれていた。
「……そっか。でも、俺じゃない方が……ホントはよかったかもな。つまんない話ばっかで話し相手にならなかったろ」
二賀斗は自傷気味に苦笑いしながら言った。
「そんなことない! そんなことないよ。にっかどさんがケーキ持ってきたとき、あんな二、三分しか会話してなかったのに、……なんだろうね。にっかどさん、私の中にスッと入ってきた。……心の緊張が一気に解けた感じがしたの。にっかどさんだったから私もここまで自分を出せたんだよ。他の人だったら……舌かんで死んでたかも」
葉奈はそう言うと、二賀斗の袖を掴んだ。
「……俺なんかでも役に立つんだね」
「……そんな、ありがと」
葉奈は恥ずかしそうに下を向いて微笑んだ。
「……ねぇ、私なんかにこんな色々してくれたのって、私に近づくためだったの?」
葉奈は二賀斗に尋ねた。
二賀斗はうつむくと申し訳なさそうに答えた。
「黙っていて、ほんとに悪かった。……ほんとは、君のおばあさんやお母さんの事を調べたあとに君に会いに来たんだ。そして、ここで君に怒鳴られて、それでもうこの件は終わりにしようと思ったんだ。……でも、あの雨の日、君がこの桜の枝に乗っかって独りでたたずんでいたの見たら何か……。余計なお世話だったよね。……でも、俺は君のために何かしたかった! ホントに何かしたかったんだ。どんなことでも。……正直、もう目的なんかどうでもよくなってた」
葉奈は二賀斗の肩に頭をもたれ掛けた。
「私って、なんなんだろ。……人間、なのかな」
その言葉を聞くと二賀斗は突然、葉奈の両肩を掴んで彼女を睨んだ。
「やめろッ! もう! どうしてどいつもこいつもそんなことばっかり言うんだよッ! たかが人間如きにそんな都合のいい能力なんかある訳ないだろォ! 金持ちになりたいって俺が思ったら君が金持ちにしてくれるんか! 社長になりたいって思ったら次の日社長になれるんか! 今の今まで黙ってたけど俺は何度も君を抱きたいって思ってた。でも実際どうだ! 俺に抱かれたのかよ! さっきの話覚えてるか? あの女中、お前のばあさんなんだよ! 旅館が火事になって、その火事が突然消えて、お前のばあさんが怪しまれた! だけどな、怪しいって言ううわさはあったけど誰一人お前のばあさんがやったってはっきりと断言した奴はいなかった! 同調圧力なんじゃねえのか! お前のばあさん自身も圧力に飲まれたんじゃねえのか! だから自分に変な力があるって思い込んだんじゃねえのかァッ! …………ハァ、ハァ、ハア。……きみは、君はただの人間だよ。この世にたった一人しかいない、大切な女の子なんだよォ」
二賀斗の目から涙がこぼれた。
「……」
葉奈は静かに二賀斗を見つめたまま、黙ってその言葉を聞いていた。
「……ノセボ効果って、聞いたことあるかい?」
「ううん、知らない」
「……思い込みって、時にすごい能力を発揮することがあるんだ。……昔、外国で起こった出来事だ。ある患者が医者から余命数ヵ月の末期がんって診断を受けた後、絶望して急激に体調を崩した。それからその患者は、数ヵ月待たずに死んじまったそうだ。……あとでその患者の身体を調べてみたら診断は誤診、腫瘍は小さくて転移も無かったそうだ。……なぁ、強い思い込みで人は死んじまうんだよ! もちろん君のお母さんがそれで死んだなんて言う気はない! そうじゃない。……ただ、そういう現象もあるんだよ! 当然、たった一人の大切な母さんからそんなこと言われたんじゃ君じゃなくたって信じちまうよ。……でも、あり得ねえだろ、あんな話! ……だから自分勝手に……思い込むなよォ。……君の人生は、これからもっと輝きに満ちるんだ! ……ウウッ」
二賀斗はむせび泣く声が漏れないよう両手で顔を押さえた。その姿を見て葉奈も目を赤くする。
「……にっかどさん、私のこといっぱい気にかけてくれてほんとにありがと。……ねぇ、憶えてる?」
「グスッ……なに」
「あなたのこと、嫌いじゃないよって言ったこと」
「……忘れるわけないよ。……お、俺だって」
「自然なことなのかなァ。……やってあげたいとか、手伝いたいとか、そういう尽くしたいって気持ちになっちゃうのって。今ね、にっかどさんの笑顔が一番見たい。そのためならどんなことだってできそうな気がする。私がその人と会えばにっかどさん笑顔になれる?」
葉奈はそう言うと、恥ずかしそうに膝と膝の間に顔を埋めて背中を丸くした。
「……葉奈ちゃん」
二賀斗は丸まった葉奈の背中を見つめた。
「……会うよ、その人と。今度は私がにっかどさんを助ける番だもん」
葉奈は顔を上げると、そう言って二賀斗に優しく微笑んだ。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冷遇妃マリアベルの監視報告書
Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。
第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。
そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。
王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。
(小説家になろう様にも投稿しています)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
裏切りの代償
中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。
尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。
取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。
自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる