陰キャでオタクな修行僧とキャビンアテンダント

藤咲レン

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修行1日目

3フライト目:羽田→那覇(2)

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機体が那覇空港へ向けて離陸した後、機内は静かさに包まれていた。午後便ということではしゃいでいる家族連れは少なく、どちらかといえば僕のような1人の男性客、若いカップル、高齢のご夫婦が目立った。

おそらく1人の男性客は修行僧だ。

沖縄に男1人で遊びに行くなんて正気では考えられないからだ。

そんな僕の勝手な乗客分析をしているうちに、機体は離陸し東京の空へ舞い上がった。

今回乗っている機体は小型機ということで2フライト目のように液晶ディスプレイは完備されていなかった。その代わり、機内にWiFiが準備されているようで、航空会社のアプリをダウンロードしておくことで接続が可能となる。もちろん利用料が無料というのはありがたい。ただ、僕は特にこの無料WiFiを使ってやりとりをする相手がいるわけではないので、せいぜいニュースサイトをサーフィンすることくらいだった。やることがないので、ネットニュースに目を向ける。

その間に、隣の男女のカップルは眠りについていた。
よくよく見ると2人は手を繋いだ状態でお互いの肩にもたれながら眠っているようだ。
僕からすると、こういう関係になるにはどうすれば良いのか検討がつかない。1人の女性を幸せにするために必要な男の要素は何なんだろうか?お金、地位、顔、など色々と浮かぶが、どれも僕自身にはもち合わせていないことを認めることになってしまい、テンションが下がることを危惧して隣のカップルの様子は無視して気にしないことにした。

僕だって誰か女性とお付き合いして結婚したいという希望は持っている。しかし、35歳まで彼女なし、さらに童貞ということで恋愛の仕方をすっかり忘れてしまっている。それで修行に打ち込んでいるとなると、ますます恋愛や結婚から遠ざかっていることは自分でもわかっている。それでも修行という行為に惹かれて、今、3フライト目を飛んでいる状況だ。

きっと隣の若いカップルは上級会員や修行僧の精神はわかるはずがないだろう。
僕はそういう気持ちを持ち、隣のカップルが羨ましかったり妬ましかったりしないよう、気持ちを別のことに逸らした。

既にシートベルト着用サインが消えていたので、頭上の荷物棚に入れていたリュックを取り出し、新刊の漫画を取り出し読み始めた。

昔から本を読むのは好きだ。種類を問わず、漫画や小説などオールジャンル。ただ、今の僕のマイブームはこの漫画だ。2フライト目で観ていた映画よりもストーリーは漫画の方が先を行っている。

ただ、読み物の中で苦手な種類も当然ある。それは恋愛モノだ。今ハマっている漫画は全く恋愛の要素はない。なので僕にとっては読みやすい。恋愛ものになると、どうしても主人公やそれを取り巻く人物の感情に共感できない、正確には共感したいと思わないからだ。

今の僕は年齢=彼女いない歴なので、漫画のようなサクセスストーリーを経験したことがない。ましてや、隣の席に座っているカップルのように、異性と一緒に旅行に出かけた経験もない。そのため、心の奥底では羨ましいとは思っているが、現実はそう甘くないので想像しないようにしている。だから僕は恋愛モノの本は手に取らないようにしている。



今搭乗している機体は天井に取り付けられた小さなモニターで現在地が表示されるようになっている。今はちょうど和歌山県の沖合を飛行しているようだった。通路側なのであいにく窓の景色は見られず、このモニターで場所を確認するしかない。

ちょうどモニターを眺めていると、キャビンアテンダントがワゴンを押しながらドリンクのサービスを行なっていた。

「ご搭乗ありがとうございます。お飲み物は何になさいますか?」
「どんな飲み物がありますか?」
「はい、温かいお茶やコーヒー、冷たいお茶、お水、オリジナルソフトドリンクをご用意しております」

僕は航空会社オリジナルのソフトドリンクが気になりオーダーした。柑橘系の果汁が入っているようで甘酸っぱく飲みやすかった。僕の中では修行中はこれを進んで選ぼうと思った。



その後も漫画を読み進め、ちょうど降下を開始しシートベルト着用サインが点灯した頃に最終ページまで辿り着いた。そのため、足元に置いていたリュックに漫画を戻し、再び頭上の荷物棚にリュックを戻した。



本日2度目の那覇空港への着陸。飛行ルートは午前中の便とは違うようで、午前の南から旋回して着陸するのとは別に、今回は北からそのまま着陸する様子だった。なぜ着陸ルートが変わるのかは少し興味があったが、飛行機にそれほど詳しくない僕は理由を知らない。修行を終わる頃にはおそらく飛行機に詳しくなっているんだろうなと僕自身に語りかたけた。

ドスンという音と共に機体は那覇空港に着陸した。

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