陰キャでオタクな修行僧とキャビンアテンダント

藤咲レン

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修行2日目

6フライト目:那覇→羽田(3)

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ベンチに座り始めて1時間ほどして、いよいよ搭乗開始の時刻になった。僕は優先搭乗をする権利がなく、更に復路は普通席利用なので、搭乗列が短くなるまでそのまま待つ。

ようやく搭乗列が短くなったので、僕は立ち上がり改札機を通過し、ボーディングブリッジを渡った。

渡った先で乗客に挨拶をする白いジャケットを着用したチーフパーサーは往路と同じ女性であった。僕の外観は特徴があるわけではないが、何度かビジネスクラスで応対をして頂いたので、チーフパーサーは私のことを覚えていたようだった。

「ご搭乗ありがとうございます。あら、お早いご帰宅ですね」

そう挨拶を受けて、僕は「はい、そうなんです」と返事をすることが精一杯であった。やはり乗客の顔を覚えているのはキャビンアテンダントの鏡だなぁと思い感心しつつ、そのままビジネスクラスを通過し、後方の普通席へと移動する。

後方で出迎えるキャビンアテンダントは僕が往路でビジネスクラスに乗る人はいないだろうと思い、挨拶に対して軽く会釈をしながら自分の座席へと向かう。

今回は機体中央席を指定した。理由は先週の修行で先ほど会話を交わした男性客から“できるだけ前方席が良い“と言われたからだ。更に中央席だと隣に誰も来ない可能性が高く、少しリラックスできるためにここを選んだ。

案の定、3人掛けの座席には僕以外は誰も座らず、そのままドアクローズのアナウンスが機内に流れた。午前中に那覇を出発する便なので搭乗率は5割程度。空港内の混雑もなかったようで、機体はあっという間に沖縄の空に舞い上がった。



しばらくして雲の上へと出た後、シートベルトサインが消灯し、僕は前方座席下に収納していたリュックサックから新刊の漫画を取り出し読み始める。

僕はこの機内で漫画を読む時間がとても好きだ。もともと漫画喫茶が好きだったので、普段の休日は近所の漫画喫茶にて6時間パックで入店し、午前中から夕方まで入り浸っている。漫画喫茶にはドリンクバーがついているので飲み物には困らない。そして昼飯は店舗に隣接したコンビニにてパンやおにぎりなどを購入し、自分のブースで食べる。そしてまた漫画を読む。漫画喫茶とはいえ、自分の家よりもずいぶん快適なので休日はもっぱらそこで過ごしていた。

今はというと機内が僕の漫画喫茶になっている。

ドリンクはキャビンアテンダントが持ってきてくれる。そして誰にも邪魔されず、快適な空間で漫画を読み進められる。地上も空の上も同じく僕にとっては快適空間なんだ。

しばらく漫画を読んでいると、キャビンアテンダントがドリンクサービスにやってきた。

「お飲み物は何になさいますか?」
「ホットコーヒーをお願いします。砂糖とミルクは不要です」
「かしこまりました。お熱いのでお気をつけくださいませ」

そう言って座席のドリンクホルダーに置いてくれる。

この機内も最高の漫画喫茶だと思う。



もともと1人で過ごすことが好きな僕にとって、漫画以外の本も読むことは好きだ。特に好きなのは小説。主人公が困難に立ち向かい、悪者をギャフンと言わせるストーリーが痛快で好きだ。なぜかというと、僕のような陰キャラには小説に出てくるような主人公と同じように強い正義感はなく、“太いものには巻かれろ“タイプだ。だから自分では到底できないことを成し遂げる主人公の姿を想像して、すごいことやってるな~と思うことが好きなんだ。

今読み進めている漫画も同じようなストーリーだ。家族を奪われた主人公が憎き犯人を成敗するために自らを鍛錬し、仲間を連れて少しずつ犯人に近づいていくストーリーだ。まだ読み始めたばかりではあるが、修行が終わる頃には漫画は完結しているかもしれない。ネット上ではそろそろ完結するとの噂があるからだ。

35歳になって漫画を読んでいる人をどうかという人もいるが、これも立派な趣味だ。そして修行も僕にとっては趣味になっている。何と言っても1人で楽しめる趣味は最高なんだから。
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