陰キャでオタクな修行僧とキャビンアテンダント

修行2日目

6フライト目：那覇→羽田（４）

2時間ほど漫画を読み続け、座席に取り付けられた液晶ディスプレイに表示される地図を見る。まもなく房総半島上空に到達するところまで来ていた。

ポーン

シートベルト着用サインが点灯し、僕は漫画に付箋を挟み、リュックに収納した。

中央席なので外の景色は見えないが、今日の東京も晴れ渡っている。冬の東京はほとんど雨や雪も降らずに乾燥している。田舎暮らしの時は毎日雪が降っていたので、雪がないのはこんなにも過ごしやすいのかと思い、上京したばかりの頃は感動していたものだ。しかし、今となってはたまに雪が恋しくなることもある。

僕の実家には両親が2人で暮らしている。実家には年に数回のペースで帰っているが、帰るたびに「結婚はしないのか？」と聞かれるので、この点だけは僕を実家から遠ざける要因になっている。しかし、両親も既に定年退職し悠々自適の生活と言ってしまうと大袈裟ではあるが、変化の少ない老後を送っているのでたまには顔を出して安心させたいという思いもある。もっとも、安心したいのは僕かもしれない。いつも1人で過ごす日々ではあるが、実家に帰ると話し相手ができるからだ。

そして実家には一匹の犬がいる。僕が働き始めた頃に飼い始めたらしく、既に10歳ほどの年齢だ。帰省するたびに遊んであげていたので、帰省すると尻尾を振って喜んでくれる。70歳の両親には激しい遊びは難しいので、僕が遊んでやるのだ。

雪のない季節はドッグランへ連れて行き、一緒になって走ったり、ボールを投げて“持ってこい“をさせたりと、割と僕のことを好いてくれている犬だ。去年の年末に帰省して、その時には庭の雪の中を一緒になって走り回ってあげた。

「修行を兼ねて一度実家に帰るのもありだな」
那覇空港で再会した修行僧の男性客に言われたように、単純にポイントを貯めるだけではなく、本当に自分が行きたい場所・行ってみたい場所を選んでいくこともたまにはあるかと思った。次に実家に帰るのは・・・今の予定だとGWかなと思っていると、飛行機は羽田空港のA滑走路に着陸した。