冒険者は覇王となりて

夜月桜

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第一章

第五話

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「ふふ、レインも大きくなったんだね」
 夜。
 レインの冒険者テスト合格祝いと称して、作りすぎたかな? と思った料理も、レインが美味しいといいながら綺麗に完食してくれた。
 お腹いっぱいになって、レインは寝ちゃったけど。
 私はまだ、寝れなかった。
「だって、レインに大好きって言って貰えた!」
 あの時、キュンとした。めちゃくちゃキュンとした。
……。どこが、とは敢えて言わないが。
「ふふふ~ん。あー、好きだよ。大好きだよ、レイン!」
 洗濯しておくから置いておいて、と言ってレインが脱いだ服に顔を押し付ける。
 す~はー。
「ふふ、レインの匂いがする」
 ニタぁ~と、自分でも頬が緩みきってるのが分かる。
でも、止まらない。
「はぁ~、レイン……」
 明日は寝不足かな?
 私の頭は冷静にそんなことを考えているけれど、止まらない。止める気もない。
 そして、私が結局寝不足になったのは。
言うまでもないことである。
 
翌日。
何やらやけにご機嫌なフィル姉に見送られ、ギルドを目指していた。
「今日、俺のサポーターが決まるんだよな。ティナさんみたいな可愛い子だったらいいけど」
 ティナさんが俺に向かってほほ笑んでくれる姿を思い浮かべて、危うく顔が緩みかける。
 いや、既にニヤけていたのかもしれない。すれ違った人の視線が、変なものを見るような視線だった、気がする。
 ともあれ、サポーターとは。
それは、冒険者一人一人に付く専属のギルド職員のことで、冒険に関するアドバイスや手助け、情報を与えてくれる、冒険者にとってかけがえのないパートナーである。
 年によって、冒険者になれる人数が異なるのは、このサポーター試験に受かったギルド職員の数が年によって違うからである。今年は15名だったので、ティナさん以外にも14名いることになる。
 新人の冒険者は、新人のサポーターと共にこれからの冒険者生活の第一歩を踏むのが、ここ、迷宮都市ギルドの伝統だ。

「あ、レインさん!」
 ギルドに入ると、俺の姿を見つけたティナさんが駆け寄ってくる。
「おはようございます! もう掲示板はご覧になりましたか?」
「いえ、まだです。今来たところなので……」
 なんだ? やけにグイグイ来るが……。
「そうですか! では、早く確認してください! 待ってますから!」
 待ってる? 
 よくわからないが、そう言い残してティナさんがカウンターへと戻って行く。
「掲示板は、あれか」
 目線の先に、それはあった。昨日の魔法使いの姿も見えるし、間違いないだろう。
「ふむ。あいつは、歩く目印と名付けるか」
 赤いローブを纏った魔法使いは、昨日今日とあいつしか見かけていない。それだけに、やけに目立つ。
 まぁ、俺があいつを目印にする機械など、これが最初で最後かもしれないが。
「どれどれ」
 ちょうど人がはけたタイミングで、俺も掲示板の前に立つ。
「レイン、レイン……」
 15人中、15番目。つまり一番下に俺の名前はあった。
 そして、その隣には。
「お、おぉッ!」
 ティナ、と。そう記されていた。
「なるほど、そういう事か」
 さっきの、待っている。
 それは、先にカウンターで待っている。そういう事だったのだ。
「というか、ティナさんも嬉しそうだったよな?」
 そう考えると、嬉しさが湧き上がってくる。
「ティナさん!」
「レインさん!」
 俺はティナさんの待つカウンターへ、少し急ぎ足で向かう。そこではティナさんが笑みを浮かべて待っていてくれた。
「もう確認は済みましたか?」
「ええ。改めて。レインです、今日からよろしくお願いします」
「はい! ティナです。不束者ですが、精いっぱいサポートさせていただきます。今日から一緒に頑張りましょうね、レインさん!」
「はい!」
 ガシッ、と握手を交わす俺とティナさん。
(「うぉ、手ちっちゃ。それに柔らかい……」)
「? レインさん?」
「ヘッ⁉ あ、ああすいません。ティナさんがサポーターになってくれたのがうれしくて……」
「ッ⁉ わ、私もレインさんでよかったです」
 そこで赤くなられると、誤解しそうになるからやめてほしい。
 ともあれ、手を握って不純なことを考えていたことには気づかれていなさそうなので、まぁ良しとする。
 こうして俺は、満面の笑みを浮かべるティナさんと共に、冒険者としての第一歩を踏み出したのだった。
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