冒険者は覇王となりて

夜月桜

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第一章

第六話

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「ではレインさん、こちらがギルドに所属する冒険者の証、バッジになります」
「ありがとうございます」
 受け取ったバッジは銀色でできていて、真ん中にはⅤと刻まれている。
「その数字ですが、それは等級を表します。等級は、簡単に説明すると……」
ティナさんの説明によると、等級とは冒険者の格を表しており、
Ⅰ等級:上層の階層ボスをソロ、もしくは少数パーティで討伐
Ⅱ等級:上層へ到達
Ⅲ等級:中層の階層ボスを討伐
Ⅳ等級:中層へ到達
Ⅴ等級:新人 下層攻略組
 と、分けられるという。
「ああ、それと。そのバッジ、再発行にお金がかかるので、くれぐれも無くさないようにお願いしますね? それがないと、迷宮にも入れませんから」
 このバッジは、冒険者としての証明と共に、迷宮への入場券としての役割も示している。だが、万が一他人の物を拾っても、迷宮には入れない。
 詳しくは知らないが、依然フィル姉に聞いたことがあった。なんでも、ギルドが独自に編み出した魔法の効果だとかなんとか。
「ちなみに、無くすといくらくらい取られるんでしょうか?」
「銀貨5枚です」
「おぉ……」
銀貨5枚。
 この都市では、銅貨、銀貨、金貨の三枚の硬貨が使用されている。
 銅貨、銀貨は、それぞれ10枚で一つ上の硬貨と同じ金額になる。
 一般人の月収の平均が、約銀貨2枚だというところから考えると、かなりの再発行料だということが分かる。
「き、気を付けます」
「はい、お願いしますね。それで、レインさん。早速ですが、今日はどうしますか?」
「そうですね。せっかくなので、迷宮には行ってみようと思ってるんですが、何かおすすめのクエストなどはありますか?」
「そうですねー。ええと……。あ、これなんかどうでしょうか? 迷宮草の採取クエストです」
 迷宮草。文字通り、迷宮に生える草の事である。
 迷宮にのみ生息する特殊な草で、この都市でしか取れないことから、他国などには需要があるのだという。
 因みに効果としては、疲労回復や治癒があり、ポーションと呼ばれる治療薬を調合する際にも使われる、幅広く活躍してくれる草でもある。
「確かに、これくらいなら何とかなりそうですね」
「では、こちらをおねがいしますね。レインさん、くれぐれも、気を付けていってきてください。簡単だと侮って死んでしまう新人の冒険者さんたちが、これまでに何人もおられたんですから」
「わかりました。気を付けて、行ってきます」
「はい、行ってらっしゃい!」
 まぶしいくらいの笑顔に見送られ、俺はギルドを後にした。

「はぁッ!」
 ゴブリンの首元めがけて剣を振る。
「ぐぎゃぁ⁉」
 ゴブリンの断末魔の声を聴いて、剣を収めた。
「にしても。切れ味良すぎだろ、この剣……」
 ゴブリンとはいえ、その首を切り落とせば、首にある骨を切ることになる。普通であれば骨を切る衝撃が腕に伝わるのだが、今の一撃にそんなことはなかった。
 肉に刃が食い込み、骨を切り、そして振り切るまで。一切衝撃はなく、無駄な力を入れる必要性すらなかった。
 それに、試しにと思ってゴブリンの攻撃も食らってみたが、痛みすら感じなかった。攻撃軽減の効果を付与していたといっていたが、フィル姉の魔法の腕は、見事の一言に尽きる。
 ゴブリン程度の下級モンスターでは、傷一つ付ける事ができないのだろう。
 こんなに素晴らしい装備をくれたフィル姉に再度感謝しつつ、俺は迷宮草を求めて足を進めた。

「あった、これだな」
 少し歩くと、小さい広間のような空間に出た。そこには一面びっしりと、紫色の光を放つ、お目当ての迷宮草が群生していた。
「あるだけもらっておくか」
 フィル姉からもらったアイテムボックスの中へと、摘んでは収納していく。
 見た目は小さい袋なのだが、その見た目とは裏腹に、無限に収納ができる代物だ。
「あると便利だから」ということでもらったのだが、俺は知っている。アイテムボックスと呼ばれるアイテムが、市場では高値で取引されていることを。
「ほんと、感謝しかないな。その恩に報いるためにも、必死に働かないとな」
 俺はせっせと迷宮草を収穫していく。広くないといえど、一人でやるには中々に骨が折れる。
「ふぅ、終わった」
 数分かけて、迷宮草を収穫し終えた。
中腰で収穫しなければいけなかった為、腰が痛い。
「この後どうするか。もう少しモンスターを討伐して経験を積んどきたいし、進むか?」
 まだまだ体力的には余裕がある。かといって、初めての冒険で深追いしては、それこそティナさんの言っていた通り、死ぬ結果につながるかもしれない。
「帰り道を進みつつ討伐していく、って感じでいいか」
 方針を決め、俺は出口を目指した。

「ねぇ、そこのあなた」
 ゴブリンを討伐し終えて剣に付いた血を払うと、背後から声を掛けられた。
「ん?」
 振り返ると、そこには一人の女性が立っていた。
 というか、こいつは昨日、俺の後にギルドに来た冒険者か?
 その顔には見覚えがある。
「貴方、私と同じ、新人冒険者よね? 昨日のあれ、見てたわ」
「あれ?」
 やはり、こいつも俺と同じ冒険者か。それはいいとして、あれってなんだ? 心当たりがないが。
「貴方、昨日絡まれている冒険者を助けていたでしょう? あの現場をね、見ていたの」
「ああ、あれか」
 昨日の不正の場面の事を言っているらしい。
「それで? それがどうかしたのか?」
「ええ。テストという、言い方を変えれば他人を蹴落とすレースをしている中において、そんな他人を助けたあなたに興味が沸いてね。もしよければ、ギルドまで一緒に行かない?」
「構わないぞ」
「ありがとう。私はリアよ。一応、ヒーラーをやっているわ」
「俺はレイン。見た通り、戦闘担当だ」
 リアと並んでギルドを目指す。
 それにしても、綺麗な奴だな。
 思わず横目にリアの姿を見てしまう。
 水色の長い髪。目鼻立ちのくっきりした顔立ち。起伏は薄いがスタイルのいい長身は、可愛いというよりは、綺麗だと思わせる。
「ふふ、私の体をじっと見て、どうかしたの?」
「なッ……⁉」
 見ていたのがばれたらしい。リアの口元は、ニヤリと嫌に歪んでいた。
「まぁ、私自分の体には自信があるから。見られるのには慣れているわ。どう? 綺麗?」
 目も口も、俺をからかっているのが分かる。見ていた俺が悪いのだが、それでもこうもマウントを取られたままだと面白くない。
「ああ、メチャクチャ綺麗だ。思わず見惚れていたくらいにな」
「へ? あ、そ、そぅ……」
 俺のストレートな返しに、一瞬目を見開いたかと思えば、頬を染めてうつむいてしまった。
 一本返せたらしいな。
 が、一つ誤算だったのは。
 俺に、こんな空気にした後のリカバリーができるほど女性と話した経験などなく。
何となくお互い気まずい雰囲気のまま、ギルドに戻ることになったのだった。
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