冒険者は覇王となりて

夜月桜

文字の大きさ
11 / 32
第二章

第十話

しおりを挟む
「爆ぜなさい!」
 目の前から襲い掛かってくるゴブリンに向かって杖を向け、炎の魔法を放つ。
「グギャッ⁉」
 正面から喰らったゴブリンは、生きたまま火葬される。
「あ、素材取る前に燃えちゃった……」
 1階層を一人で進む少女は、ここまで順調に探索を行っていた。
 これまでは他人と組み、その緊張などからうまくいかなかったが、今日は違う。一人で好きにやれて、且つ報酬が引かれることもない。
最高の環境だ。
「やっぱり、私って強いのね。うん、順調だし、このまま2階層に行ってみようかな? モンスターはオークとウルフが追加で出るのよね? オークの部位も、ウルフの部位も、ゴブリンを倒すよりも早く稼げるし。うん、2階層なら何とかなるかな」
 ここまで順調なのだから、2階層でも大丈夫。そう判断して、少女は2階層へと続く階段を上った。
「ふーん。2階層といっても、下と何も変わらないのね」
 階段を上った先に広がっていたのは、1階層と変わらぬごつごつとした岩肌の通路。
 一見、特に変わりはない。
「グギャ」
 少し進むと、ゴブリンが現れる。
「なんだ、ゴブリンじゃない」
 2階層ということで警戒していたが、相手も変わらないとあっては拍子抜けだったらしく、溜息をつく少女。
「燃えなさい」
 小さめの火球を放つと、ゴブリンが燃える。
 火が収まり、死んだことを確認して再び探索を開始した。
 が、順調なのはここまでだった。
 よくある新人冒険者の慢心。
 そこに加えて、この少女にはこれまでの緊張から解放されたことによる全能感に酔っていたのかもしれない。
 出てくるオークやウルフ、ゴブリンを片っ端から魔法で吹き飛ばし、時に素材を回収し。
 気が付けば、それなりに奥まで来てしまっていた。
「爆ぜろ!」
 目の前に現れたウルフに向かって炎の魔法を放つと、見事命中。燃え盛る火炎に包まれて、ウルフは絶命した。
「はぁ、はぁ……。さすがに、疲れてきたわね」
 ここまで戦い詰めだった少女の体力は、限界が近づいていた。魔力も、かなり消費してしまっている。
「でも、ここまでかなり素材も採取できたし、帰って売ればそれなりの稼ぎになるわよね」
 少女が採取したのは、オークの耳や手。ウルフの耳など、持ち運びが比較的楽なものだった。これは取引価格としては低い方に入るのだが、ゴブリン相手に稼ぐよりも、割はいい。
「さて、それじゃあ帰るとしますか。帰り道は……」
 そうして、壁につけた血を確認するために背後を振り向いたときだった。
 少女の目は、驚愕に見開かれる。
「う、嘘でしょ……」
「グモォォッ」
 目の前には、オークの群れがいた。おそらく、これまで殺してきたモンスターの血の匂いに引かれたのだろう。
「どうしよう、この数はさすがに多いな……」
 目の前には軽く10を超えるオークの群れ。対して、背後にはどこまで続くか分からない通路。
「逃げるが勝ち!」
 少女は急いで踵を返して走り出す。
「グモォォッ!」
 そんな少女を、血走った眼をしたオークたちが追いかける。
 オークは、繁殖する種族を問わない。つまり、この少女は繁殖母体として目を付けられたのだ。
「爆ぜなさい!」
 振り向いて、渾身の魔力を込めて魔法を放つ。
 幸いにも、ここは一本道。爆発の余波は後ろのオークにまで伝わり、まとめて数体を吹き飛ばした。
 が、さらに後ろから数体のオークが出現する。
「きりがないッ」
 少女は焦りを覚える。少ない魔力、蓄積した疲労。そして、後ろから迫るオークたち。
 少女はレッグホルダーに手を伸ばす。が、そこには何もない。
「こんなことなら、ケチるんじゃなかった⁉」
 赤字になった状況の節約といて、少女はポーションの購入を止めていた。が、それは冒険者にとって命とり。
 一番節約してはいけないところを節約してしまったのだ。
「クソッ⁉」
 再度渾身の魔力で魔法を放つ。
 が、先ほどよりも体力がなくなってきていたためか。
 オークは思ったよりも近くにいた。
 当然、その分近くで魔法が爆発し、爆風が少女自身も巻き込んだ。
「キャァッ!」
 爆風に吹き飛ばされて、その拍子に杖が手を離れる。
「いたた……」
 腰を打ち付けて、さすりながら立ち上がる。
「あ、そういえば杖!」
 煙が晴れて、周囲を見渡す。
その時、近くでポキッ、という何かが折れた音が聞こえてきた。
「え?」
 その音がした方を振り返る。
 そこには、無残にも粉々に踏み潰された少女愛用の杖だったものが転がっていた。
「あ、あぁ……」
 ズシン、ズシン。
 少女の目の前には、先ほどの爆発で生き残ったオークが1体、立っていた。
 少女は走る。少しでも距離を取り、逃げる為に。
 が、再度不幸が少女を襲う。
「嘘、でしょ……」
 行きついた先は、壁。
 つまり、この通路は行き止まりだったという訳だ。
「グモモォ」
 オークはゆっくりと、少女へと近づいていく。
 その目は赤く輝き、少女を縛り付ける。
 ガクガクと全身が震え、壁を背にヘナヘナと座り込んでしまう。
「や、ヤメテ……」
 ボタ、ボタッと、地面が濡れる。オークが獲物を前にして、唾液を口から垂れ流しているのだ。
「い、いやぁ……」
 口から零れるのは、情けない掠れ声のみ。
 今日の朝、サポーターから、「十分に注意して探索してくださいね」と言われた声が、脳裏を反芻する。
「だ、だれか、助けて……」
 オークの手が少女に伸びる。
地獄へと誘う、悪魔の手が。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

扱いの悪い勇者パーティを啖呵切って離脱した俺、辺境で美女たちと国を作ったらいつの間にか国もハーレムも大陸最強になっていた。

みにぶた🐽
ファンタジー
いいねありがとうございます!反応あるも励みになります。 勇者パーティから“手柄横取り”でパーティ離脱した俺に残ったのは、地球の本を召喚し、読み終えた物語を魔法として再現できるチートスキル《幻想書庫》だけ。  辺境の獣人少女を助けた俺は、物語魔法で水を引き、結界を張り、知恵と技術で開拓村を発展させていく。やがてエルフや元貴族も加わり、村は多種族共和国へ――そして、旧王国と勇者が再び迫る。  だが俺には『三国志』も『孫子』も『トロイの木馬』もある。折伏し、仲間に変える――物語で世界をひっくり返す成り上がり建国譚、開幕!

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...