冒険者は覇王となりて

夜月桜

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第二章

第二十五話

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 第4階層から9階層までは、3階層まで出現するモンスターと変わりはない。難点があるとすれば、上の階層になるにつれ迷宮が広がり、俺たちの体力を蝕んでいく。そのため、それ相応の準備をしなければならないのだ。
 俺達は今、6階層で休息をとっていた。10階層へと行くことを決めた俺たちだったが、マッピングの済んでいない階層へ行くことは危険だから、とアルマさんがマッピング済みの地図をもらっていた。
「レイン、ご飯出来たよ!」
 地図を見ていた俺に、セレナが声をかけてくれる。
 今日の夕飯はリアとセレナに任せていた。
「ありがと。おお、うまそうだな」
 目の前には、湯気を立てるシチューがある。
「お代わりもいっぱいあるからね!」
 ここに来るまでに倒した魔物の肉と、採取した植物で作られたシチュー。俺はスプーンですくって口に運ぶ。
「うまッ」
「本当に⁉」
 俺の感想に、リアが喰い気味で尋ねてきた。
「あ、ああ。うまい」
「そ、そう。よかったわ」
 顔が赤いが、恥ずかしいのか?
「リアね、本当は料理したことないんだって。だから、私が教えながら作ったの」」
「へー。セレナは料理できるんだな」
「まぁ、ね。ほら、村にいた頃は普通に作ってたし」
「なるほどな」
 セレナは意外に普通の女の子だということは、ここまでで理解していた。が、料理も上手で可愛いとか、意外に良い嫁になるんじゃないか?
「それで、レイン。明日は遂に10階層に行くのよね?」
 リアが真剣な表情で話しかけてくる。
 俺は頷く。
「そうだ。明日は10階層。オーガを見つけ次第討伐して、心臓を採取。即時離脱だ」
 俺の言葉に二人は頷く。
 リアは案外平気そうな顔をしているが、セレナは足の震えが隠せていない。怖いのは俺も同じだ。
「今日は二人が先に寝ていいぞ。俺が少し長めに見張りをした後、二人を起こす」
「じゃあ、お言葉に甘えるわ。セレナ、こっちに来なさい」
「へ、なんで?」
「なんでって……。貴方、レインの前で脱ぐ痴女なの?」
「なッ⁉」
 セレナはリアが言わんとしていることに気が付いたらしい。顔を真っ赤にしながら奥へと消える。
 が、顔だけ出して。
「レインのエッチ……」
「俺何にもしてないし、言ってないだろ⁉」
「意気地なし」
「どうしろと⁉」
 リアの追加砲撃に突っ込む俺だった。

 二人も寝静まった夜。
 俺は地図を広げながらなんどもシミュレートしていた。
 迷宮に絶対はない。常に万が一に備えることが、生還への近道だ。
「オーガね」
 オークの上位互換。
 大きさは約3メートル前後。全身が筋肉で包まれていて、そこから繰り出される攻撃は、まともに喰らえば人間など跡形もなく吹き飛ぶ。加えて、オークとは比較にならない身のこなし。
 中層に行く冒険者である以上、オーガを狩れなくては話にならない。が、それを前に絶命する冒険者も多い。
 俺は剣の手入れをしながら見張りを続ける。
 すると、背後から人の気配がした。
「レイン」
「リアか。どうした、交代はもう少し後だぞ?」
「そう。でも、目が覚めちゃって。隣、いいかしら?」
 俺が通路の壁に背を預けている横に、リアが並ぶ。
「どうかしたのか?」
「別に。ただ、明日の事を考えてたら少し不安になってね」
「そうか」
 食事のときには平気そうに見えたけど、セレナ同様リアも緊張していたらしい。
「セレナは?」
「もうグッスリよ。案外図太いのかもね」
「だな」
 この環境に身を置いてグッスリ眠れるのは、セレナの才能だな。
「レイン」
「なんだ?」
「明日、私が以前のセレナみたいになったら、助けてくれるかしら?」
「いきなりどうした?」
「いいから答えて」
「ん? まぁ、助けるだろうな」
「そ。ならいいわ」
 それだけ言うと、リアは俺の横を離れる。
「もう少ししたら呼んで。セレナを起こして交代するわ」
「お、おう……」
 別れ際に見たリアの表情は、笑みを浮かべていたのだった。
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