冒険者は覇王となりて

夜月桜

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第二章

第二十六話

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 翌日。
 俺たちは休息を終えて準備を終える。
「いいな? ここからは10階層まで寄り道なしで進む。極力体力、魔力は温存しておけ」
「貴方は気を付けなさいよ?」
「私、もう前みたいにバカスカ撃ったりしないよ!」
 軽口を叩けるなら上等だ。
「行くぞ」
 俺たちは6階層を抜ける。

 9階層から10階層への連絡通路。
 ここを登れば、遂に10階層だ。
 運が良かったのか、ここに来るまでにはそれほど戦闘をすることなく、したとしてもセレナの魔法は温存して戦うことができた。
「いいな? 行くぞ」
 俺の言葉に、後ろに続くリアとセレナが頷くのを確認して一歩を踏み出した。
 10階層に着くと、そこは砂地だった。
 どこからか吹き付ける風に乗せられた砂が、全身を襲う。
「砂地か。噂には聞いてたが」
「たった一階でこんなにも違うのね」
「いたッ! 目に砂が入った!」
 冷静に周囲を見渡すリアに、騒ぐセレナ。この様子なら、オーガが出てきたとしても慌てるようなことはないだろう。
「行くぞ。オーガを見つけて、早々に離脱する。視界が悪いから、方向感覚を失うなよ」
 ここで方向感覚を失ったら、二度と戻れないかもしれない。十分に気を付けながら、俺たちは進む。
 
やがて前方に見えてきたのは、オーガだった。それも、運がいいことに一体。
手には大剣だろうか。遠目からでもわかるくらい、茶色く変質したそれは手入れなどされていないことが分かる。
「なんでオーガが大剣なんて持ってるの?」
「死んだ冒険者の遺品を拾ったんだろ。俺たちも死ねば、ああやって身ぐるみはがされるかもな」
「オークじゃないだけマシね?」
「だから、もうオークやめて!」
 リアとセレナは冗談を言い合っている。まだ余裕はあるみたいだ。
「とっとと始末するぞ。悠長にしている時間はない」
 俺は腰に提げている剣を抜く。
 それが合図になり、二人も戦闘態勢を整えた。
「行くぞ!」
 俺が飛び出す。
 敵は俺の接近に気が付くが、対処される前にまずは一振り。
 俺の脳内では斬りつけた左足が飛んで膝をつくはずだったが、現実は肉を浅く裂いただけだった。
「クソッ、早い!」
 続けざまにリアが殴りつけ殴打をヒットさせるも、数歩よろめいた程度だ。
 それでも深追いせずにリアはすぐにその場を離脱。
「爆ぜろ!」
 次いでセレナの魔法が炸裂する。
 9階層までであれば、これで問題なく討伐できたのだが。
「グガァァ⁉」
 砂を巻き上げる咆哮が、あたり一帯を震わせた。
「しぶといな」
「あれだけの攻撃を受けて、膝もつかないのね。中層、中々に厄介ね」
「わ、私の魔法が効いてない?」
 オーガの予想を超える強さに、俺は、おそらく二人も気を引き締める。
 9階層までの相手と一線を画すことは、今の一連の攻撃で証明された。
「来るぞ!」
 オーガが狙いを付けたのは、リアだった。
 オーガは方向と共に錆びた大剣を振りかぶってリアに叩きつけた。
 その一撃は余裕をもって回避したリアだが、大剣によって巻き上げられた砂で視界が遮られたらしい。
 オーガが返した手で放つ裏拳に気が付いていない。
「はぁーッ!」
 俺は跳躍し、振りかぶった剣でオーガの手を叩きつける。
 剣はオーガの手の皮膚を浅く切り裂き、リアを庇うことに成功した。
「無事か?」
「ええ、平気よ。砂がある場所での戦闘だと、こういうこともあるのね」
「ああ、今ので勉強になった。次は挟み撃ちで行く。セレナ! お前は俺たちが注意を引き付けてるうちにでかいの頼む!」
「わかった!」
 セレナの返事を聞き、俺は剣を握りしめる。
 リアも、拳を構えた。
「行くぞ!」
「ええ!」
 二人、左右に分かれて走る。
 俺は先ほど斬りつけた左足に狙いを定め、一撃離脱の容量を繰り返して、その筋肉質な足を徐々に削っていく。
 いかにフィル姉の武器が優れていても、俺の技量が追い付かないことには真価を発揮できない。
 それでも、武器の性能のおかげでオーガの左足からの出血が無視できない量になるのを確認する。
 オーガは縦横無尽にあたりを攻撃したおかげで、周囲には砂が巻き上がっている。かろうじて目視で来たリアは、攻撃を避けつつ撤退したのが確認できた。
「セレナ!」
 俺も離脱し、セレナの名を叫ぶ。
「待ってました! 全てを飲み込み、霧散しろ! 《クリティカル・バースト》!」
 セレナの魔法。それも、これまで温存していた魔力の大半をつぎ込んだ、指示通りどデカい奴だ。
 砂で視界が遮られていたオーガは、その魔法の対処が遅れる。
 ドカーン!
 オーガを中心に、セレナの放った特大魔法が炸裂する。
「決まった!」
 セレナが嬉しそうな声を上げる。
「いや、まだだ!」
 巻き上がる砂塵の中で、あれだけの魔法を食らってなお動く影を捕らえる。そいつは腕を振り上げて……
「リア、避けろ!」
 その方向は、拳を構えたリアの方向。
 俺の叫びが間に合ったのか、すぐに後方に跳躍するが。
「がッ⁉」
 ガード下腕の上から大剣が叩きつけられ、地面に背中を叩きつけられた。
 駆け寄るが、幸いにも腕が切られているわけではない。錆びた武器のおかげだな。
「二人ともポーションを呑んでおけ。今の攻撃は、確実に効いてる。セレナに今のやつをもう一発頼みたい」
 リアを抱えて、暴れるオーガの元から少し離れた位置にいるセレナの元まで行き、そう伝える。
「帰りの事を考えると、もう体力的にも限界だ。次で決めるぞ」
 俺の言葉に頷く二人。すぐにポーションを取り出し、飲み干した。
「バッチリよ。いつでも」
「私もいいよ! 魔力全快!」
「よし、さすがフィル姉。あいつの攻撃が止んだら仕掛ける」
 痛みからひたすらに周囲を滅多打ちするオーガ。
 が、その攻撃もオーガ自身が疲れたからか、大人しくなる。
「今だ!」
 再度、俺とリアで仕掛ける。
 俺は今度こそオーガの左足を切断するべくひたすら一か所集中攻撃。
 リアは右足を駆け上り、腹部に強烈な殴打を叩き込んでいる。見ると体が淡く光っていて、強化系の魔法が付与されているのが分かる。
「おらぁッ!」
 そして俺も、負けじと一か所を攻撃したことで、遂に切断した。
「グガァァッ⁉」
 オーガが痛みから絶叫を上げる。左膝をついて、無防備をさらした。
「セレナ!」
 この隙に、全てを込める!
「全てを飲み込み、霧散しろ! 《クリティカル・バースト》!」
 セレナの、本日二度目になる全力魔法が火を噴いた。
 痛みで動けないオーガに、魔法が直撃し、爆散した。
「グ、ガァァ……」
 ドサリ。
 砂塵の中の影が揺れたかと思うと、それは更なる砂塵を産みながら地面伏した。
 討伐、完了だ。
「やったね!」
 セレナが俺の元まで駆け寄ってきて、パチン! とハイタッチを交わす。
「ああ。セレナ、お見事だ。完璧だな」
「でしょ! 私は、もうお荷物じゃないもんね」
 セレナが胸を張る。
 大きな胸がそのはずみに揺れた。
「ふん、駄肉を揺らして男を誘惑するなんて。卑猥ね」
「卑猥ってひどくない⁉」
 こいつらは、いつもこうやって言い合ってるな。よく飽きないもんだ。
「いいから、心臓採るの手伝ってくれ。さすがに一人だと難しい。
「わかったわ」
 セレナの胸を鷲掴みにしていたリアは、最後にギュッと掴むとこちらにやってくる。
「キャン!」
 一方、強く揉まれたセレナは、短くだが喘ぎ声を萌らす。
「ふん。なんで私は大きくないのかしら……」
 小声で言った本音が聞こえてしまう。
 女子にも悩みは人それぞれあるらしい。
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