Face of the Surface

悟飯粒

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彼らは新人類編

大瀑布と大剣

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 俺が勇者の魔力を完璧に引き出せないのは性格が原因だ。一年前、大量の人間を殺してしまったばかりに俺は[人を傷つけること]が怖いのだ。だから発想を変えるべきなのだ。イリナや宏美、遼鋭と会話して俺はハッキリと理解した。

 「水を高威力で発射したとしてもたかが知れている。それじゃあ宝の持ち腐れだ。水ならば水なりの特性を使って初めて武器になる。」

 しょせん水鉄砲はおもちゃ。水で戦うのならば別のアプローチが必要なのだ。俺は水を放出して水溜りを作り出すと目を閉じ頭の中でイメージする。波の音………気泡が弾け、白い泡が波間に消えていく大量の魚が泳ぐ命を抱える大海を。すると水溜りから水が溢れ出し体積が暴発し噴水のように空高く飛ぶと、更に水のかさは増し津波となってこの空間を覆い、自然と大地を飲み込むとぴたりと動きは止まった。空に浮く大海は一枚の風景画のようだ。

 「この世界に大量に存在する水を作り出すのは容易だ。この世で最も数の多い水素原子と酸素の化合物だからな。作ることはわけない。水の最大の長所は[物量]だ。」

 圧倒的な体積で敵を閉じ込め窒息させる。これなら相手を殺すことなく無力化できるはずだ。水を高威力で発射したところで固体の高威力発射には遠く及ばない。液体である事を最大限に生かすべきだ。

 「調子良いじゃん。」

 俺の練習を眺めていたイリナが笑いかけた。

 「方向性さえ決まればあとはその努力をするだけだからな。…………正直、お前と初めて出会った時、俺はその方向性を失っていた。」

 イリナが俺に会いに来たと分かった瞬間、てっきり俺は殺されるものと思っていた。だから怒らせる為にドロップキックをかましたわけなのだが…………まさかカイと勘違いされるとは思っていなかった。だって普通に考えてさ、炎帝とイリナ、カイの戦いを書ける人間なんて限られてるじゃん。生き残った炎帝とイリナだけじゃん。
 …………それだけじゃない。イリナがまだカイに縋っているのだと分かってしまい自分の正体も明かせなかった。あの状況で俺が炎帝だとわかればイリナの精神が壊れるのは容易に想像ができてしまったんだ。どうすれば良いか分からないから、ひとまず恨みを買う様に行動していたけれど………思い返せばチグハグだったのは否定できない。

 「カースクルセイドを滅ぼし、最後はお前に殺される。それが1番綺麗な終わりかただ。」
 「…………まだそれ言うの?」
 「言い続けるよ俺は。どんな形であれ俺はイリナのパートナーを殺し、勇者を虐殺した勇者領の最大の敵だ。勇者やイリナをどんなに助けたところでその罪は消えない。罰せられなければいけないんだ、同等かそれ以上の刑罰でね。」

 一年前、妹を助ける為にあの場所に向かい俺は人を殺した。殺しても誰かのためなら許されると信じて殺し続けた。…………最悪だ。これこそがもっとも断罪されなければいけない悪なのだ。自身を正当化しながらの悪行ほどタチが悪いものはない。

 「だから俺は殺される。全てを終えた後に、みんなに全てを委ねて死ぬのさ。それが俺の唯一の罪滅ぼしなんだ。」
 「…………私は納得いかないけどね。」

 体育座りし両膝に顔を埋め両目だけ出したイリナが呟いた。

 「君の言っていることはとても素晴らしいことで、全ての人間が見習った方がいいほど清々しいことだってのはよくわかる。多分間違ってはいないんだと思う。否定はしない…………でも私はそれを正しいと肯定することもできない。欠落しているよ大事な何かが。なんて言えばいいのか分からないけれど、そんな感じ。」
 「…………かもなぁ。」

 俺も腰に両手を置いて空を見上げた。

 「なーにしけた話してんすか。」

 俺達の間に割って入ってきた黒垓くろがい君。彼はワープの能力を持っているから相変わらず神出鬼没だ。

 「飯田さんにカイの力があるなんて喜ばしいことっすよ。もっと喜びましょうよ。うぇーーいって。」
 「まぁ、嬉しいんだけどさ………他の話も聞いちゃったしね。」
 「…………ああ、なるほど?良くないっすよそういうの。」

 黒垓君が俺を小突いてくる。………何と勘違いしてるんだ?

 「告るならもっと良いタイミングでやらないと。だからフラれて変な雰囲気になるんすよ。」

 俺は無言で黒垓君を小突いた。二の腕の筋肉と筋肉の間に、人差し指の第二関節を鋭く尖らせてだ。深くぶっ刺さったのが指に伝わってくる。

 「いっ………なんつー地味に激痛な攻撃の仕方を!」
 「言っていいことと悪いことがあるよ、黒垓君。」

 俺はそのまま空を見上げた。あーーキッツイなぁ今の言葉。

 「…………もしかして今の発言、かなりアウト?」
 「500%アウトだね。」
 「最悪な空気だよ。」

 俺は空を、イリナは地面を眺めながら無言を貫く。

 「…………そ、そう!そうだ!オラが飯田さんの勇者の力を見てあげるっすよ!」

 俺の頭を両手で挟んで強引に自分の顔の前に持ってきた黒垓君は、その黒くて大きな瞳で俺のことを直視してくる。

 「ほらほら!ガーディアンフォースの1人と戦えることなんてそうそうないんすから!来てくださいよ!」
 「いや、すばるさんと戦ったことあるし………」
 「現役の!現役のガーディアンフォース!2人しかいないんすよ!」
 「えーーでもぉ…………」
 「後でイリナさんの恥ずかしい写真あげますから!」
 「よっしゃあやろうか黒垓君!」

 俺は黒垓君が作り出したワープゲートに一瞬で飛び込みイリナから逃げる!

 「はっや!いや、ちょっ………このクソどもが!」

 そして逃げた2人を探す為にイリナは全力で走り出した!



 「黒垓君約束だからな。」
 「いいですともっ!ワープ能力によるストーキングでコツコツ貯めた秘蔵の写真をあげましょう!」

 うわっ、ワープ能力便利だなぁ!めっちゃ欲しい!写真と同じぐらいワープ能力も欲しい!しかしこんなふざけた空気も彼が放つ殺気によって一瞬で吹き飛んだ。普通に考えれば彼のワープ能力は戦闘向きではないはずなのに…………凄まじいな。一歩間違えれば終わるぞと空気だけで脅されている。戦い慣れているのがよくわかる。
 俺は深呼吸し息を吐き出し続ける。まぁいい、それほど彼は強いってことだ。思う存分に胸を借りようじゃないか。そして息を吐き出し切った瞬間、俺は右掌を相手に向ける!

ドッ!!!

 そこから放たれた水は高波を呼び、海と形容した方が良いほどの大瀑布となると黒垓君を飲み込もうとうねり続ける!

 「ヒューーゥッ!量だけ見れば第二類勇者クラスだ!でも速度がこれじゃあ誰にも当たらんすよ!」

 走りながら白色の扉を連続でくぐりワープを繰り返しながら高波をかわすと、彼は空中に躍り出た!そして白色の足場を空中に生み出し蹴り飛ばし方向転換する!ええぇ!?ワープ能力だけじゃないのかよ!大量の水を操り彼を飲み込もうとするも、彼は空中で何度も足場を作り方向転換することでスタイリッシュにかわし続ける!無理だ!今の俺が彼を捕まえ切るのは不可能に近い!物量だけじゃあダメだ!
 すぐに作戦を変え、俺は黒垓君を挟む様に2つの炎の壁を作り出し逃げ場を消すと、彼目掛けて水を放つ!水と炎が触発し水の進行と共に無数の爆発を生み出しながら、今までの比にならないほどの体積と質量を持って襲いかかる!逃げ場を失えば速度は関係ないはずだ!

 「あっっっまぁあああいいい!!!!」

ザンッ!!!!

 海と炎の壁が一刀の元に両断される!そして一瞬で彼は閉じ込められていた場所から大きく離れ、俺の視界の先、距離にして100m先まで近づいていた!両手には白色の大剣。両腕をクロスさせ、左腕に隠れた口元がニヤついているのが表情でわかる。そして着地と同時に俺に向かって一直線に距離を詰める!ここしかない!!

 俺は全力で魔力を放った!!


 ~10分後~

 「ちょっとー!ようやく見つけた!私の変な写真渡してないでしょうね!…………て、敵襲!?」

 イリナが駆けつけるとそこには氷漬けになった狩虎と、それにマッキーペンでいたずら書きする黒垓君がいた。黒垓君はともかく、狩虎の状態はかなり危険だ。

 「あーイリナさん。違う違う、飯田さんの能力っすよ。」

 うんこを描きながら黒垓は説明をする。

 「オラが彼の体を切ろうとした瞬間、何かを狙ってこうなっちゃったんすよ。完璧な自滅っす。」
 「あーーさぶぅっ!!」

 弱体化した炎では解凍にかなり時間がかかるようで、ようやく氷を溶かし切った狩虎は体を震わせながら焚き火を作り出し体を暖める。

 「ほ、炎の逆をややややろうとし、したたたら………」
 「口回ってないから言わなくていいよ!ちゃんと暖まって!」

 震える狩虎をイリナと黒垓は見続ける。

 「………炎の逆、無限の熱エネルギーの放出ではなく熱エネルギーの吸収に発想を転換させた。その結果として水を媒体とした熱の移動を行い、氷が生まれたと。」

 刻々と頷く狩虎。寒さによる震えと見えなくもない。

 「あーーそう言えばカイも氷を操れたね。水の固体の姿なんだから、第二類勇者が操れないわけないもんね。」
 「…………多分これ、カイの時よりもやばいっすよ。」

 狩虎が次の段階にステップアップしたのだから本来は喜ぶべきなのに、黒垓は笑うことなく神妙に考え続けていた。

 「カイの魔力だと[水の三態を操る]程度で済みましたけど、飯田さんの場合はもっと根幹、なぜ水は状態変化をするのかってとこまで踏み込んでいる。[水を媒体にした熱エネルギーのコントロール]…………ヤバイっすよマジで。魔力の解釈が広がってる。」

 黒垓はブツブツと言い続ける。

 「…………慶次が危惧してた理由もよくわかるな。」

 そして思考がまとまったのか、彼は真顔から笑顔に戻るとうずくまって震えてる狩虎に視線を合わせる為にしゃがんだ。

 「イリナさんと飯田さんの冒険にオラも同行してもいいっすか?」

 こうして黒垓が狩虎達の仲間になった………のだろうか?
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