Face of the Surface

悟飯粒

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彼らは新人類編

殺戮は赤色で始まる

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 「前方から特大魔法を感知!二部隊をもって対処せよ!」

 雷を纏った巨大な氷塊が5個ユピテルの元へと飛んでいく!しかし前方途中で勇者が生み出した嵐と熱戦が氷塊を4つ砕く!巨大な魔力同士の衝突は綺麗な氷の破片となって宙にばら撒かれる!

 ドッッオオンンンン!!!

 空間に断層を生み出し対処しきれなかった最後の一つを破壊すると、ユピテルの軍は進軍していく!

 「魔力以外に身体能力も警戒しろ!全身全霊を以って踏み潰せ!」

 ユピテルは勇者領では稀有な[指揮官]である。勿論イリナを含んだ第二類勇者も部隊を任され指揮をすることはあるが、この世界が階級制であるがために部隊で動くことにそこまでの意味がなく存在価値が少ない。だがユピテルは[指揮官]を任されている。その理由は3つある。
 第一に彼女の魔力である。[空間に断層を生み出す]魔力は空間の非連続性により敵の攻撃を完全に遮断することができ、物体ではないから破壊することもできない。接近さえ許さなければいかなる敵の攻撃だろうと全て防ぐことができるのだ。
 第二に彼女の賢さだろう。彼女は複数の情報を同時に処理することができる。テレパシーで伝えられる遠方の状況、魔力感知班からの警告、各部隊の状況………全てを平行処理出来てしまうのだ。イマイチよく分からない人に具体的に説明すると、ラジオと音楽をかけながら小説読んで学校の宿題をやるようなものだ。一つずつやれよと言いたくなる。

 「敵軍の殲滅率40%!まだ気を抜くな!ここからが正念場だ!」

 戦いが始まってから20分、ユピテルが率いる2つの軍隊は敵を挟み込み総攻撃を仕掛けていた。カースクルセイドは大規模魔力を連発して現状を打開しようとするが、こうなってしまってはよっぽどのことが起きない限り無理だろう。側から見れば順調。しかしユピテルは指揮をとりながら不安を抱いていた。
 偽炎帝がなぜこの大一番でいないんだ?奴の炎は狩虎がいないこの戦場においてかなり有効な武器になるはずだ。それなのに一体、なぜ………

 突如、カースクルセイドが動き出す!ユピテルの元へと一直線に向かい始めた!確かにこの陣形は一点突破に弱く、カースクルセイドの狙いはよく分かる。しかしここで第三の理由………

 カースクルセイドの目の前に漆黒の壁が出現し、そこに敵が魔力を放つがビクともしない!さらに壁が延長し敵を囲むとそこに魔力が集中砲火される!
 ユピテルの魔力を利用すればどこでも好きなように地形戦術を展開することができる。ユピテルの能力はまさに[指揮官]として相応しいのだ。

 ピシッ!

 しかし、その漆黒の壁にヒビが入る。そのヒビは広がっていき、最後には壁が音を立てて崩壊した。壁と言っても断層だから破片が散らばるなんてことはないのだけれど、彼ら勇者の脳裏にはガラスが砕け散ったような衝撃が叩き込まれていた。

 「…………ありえない」

 ユピテルが呟いた。ユピテルの魔力は物理的に破壊不可能であり、この光景は基本的に見ることができない。驚くのも仕方がない………が、ユピテルの驚きはそっちではなかった。

 「ありえていいはずがない!優太お前は!」

 空間の断層を壊すことができるのは3人しかいない。全ての魔力を使える昴と、物理法則を作り替えることが出来る亜花。そして最後の1人が漆黒のフードを外しながらユピテルの元へと歩いていく。

 「第二類勇者だろ!裏切っていいわけがない!」
 「んん~っ知ったこっちゃないねぇ。俺は強い方につくのさ、弱いものイジメが好きだからなぁ」

 ユピテルが空間の断層を作り出すが、槍を投げると断層は破壊され消えていく!

 「正義だ悪だなんて興味がない。俺は甘い汁を吸いながら楽して生きていたいだけなんだ。んーーっそれが強者として生まれた者の特権だろう?」
 「………クソ野郎が」

 ユピテルは断層を複数個生み出した!それを破壊するために優太は槍を作り出し投げるが、その瞬間!他の勇者達が魔力を放出!確かに優太の出現は予想外だが、優太達を囲っているユピテル達が優勢なのは明らかだ。彼女達は優太めがけて集中砲火する!

 グチャッ!

 魔力を放出していた勇者の首が逆方向にへし折れた。そこから3秒間で30人の首が宙を舞う。
 階級が1つ違うということは何もかもが違うということ。勇者領の最高戦力である優太を止められる者などこの場には誰1人としていなかった。勇者達が目で追えない速度で走りながら優太は勇者達を殲滅していく。

 それでもユピテルは諦めない。断層を何個も生み出しながら優太を誘導しようとする!しかし優太は止まらない!誘導などされない!断層を破壊しながら突き進む!
 ここで止めないと全てが終わる!狩虎を解放するしか手段はないのか!?いやでも、そんなこと………許さない!魔族のせいでどれだけの人間が死んだと思っているんだ!奴らは信用に値しない!解放したところでどうせ裏切らに決まってる!

 「私にボタンを預けてください!私がボタンを持っていればユピテルさんが優太を足止めしている間に逃げきれます!」

 寿々乃井が聞いてくる。………確かに、狩虎の力を解放もせず、カースクルセイドを欺くにはそれが最高の手段か。ここで私は死ぬのだろうが決意と共に死ねるのだ、誇りに思おう。

 「ああ、なんとか逃げ切ってくれ」

 私は胸ポケットからボタンを取り出すと寿々乃井に手渡した。

 「………騙されてやーんの!」

 そう言うと寿々乃井は優太の元へと走って向かう!
 まさか寿々乃井も裏切り者だったのか!?

 「おいやめろ!貴様!」
 「優太様!ここに飯田狩虎を殺すボタンがございます!これを奪ってきた私をどうか助けていただけないでしょうか?」

 渡すな!片膝を地面につけて丁重に渡すな!やめろ!ふざけるな!

 「んんーー、実に賢いやつだ。しょうがない、助けてやろう」
 「ありがとうございます!」

 渡しちゃった!渡しちゃったよどうしよう!

 「というわけでユピテルさん!ここから逃げましょう!」

 寿々乃井が私の手を掴んで走っていく!

 「ちょっと待て!あのボタンを奴らに渡すわけにはいかないんだ!大変なことになるぞ!」
 「ええ、これから大変なことになります!だから今のうちに逃げるんです!」
 「バカ!カースクルセイドが力をつけたら逃げるところなんてどこにもなくなるんだぞ!」
 「ふっ、だといいんですけどねぇ」

 ………なんだその笑いは。

 「………さっきはああ言ったが、俺は希望を持った人間をいたぶるのが好きなんだ。助けてなんてあげないよーん」

 ユピテル達が逃げていくのを笑いながら見ていた優太の指に力が加わる。

 「それに俺らが狩虎を殺すまでの時間があれば逃げ切れるとでも思っているのか?んっんーーっ。甘いねぇ。俺らにはもう狩虎の力なんて必要ないのさ。今までの素行からやつを制御するのは不可能と判断してるからなぁ。それに俺達はもう勇者領を壊すだけの力をつけている!ここで………んんーーっ!死んでいただきまーす!!」

 そして優太はボタンを押した。

 次の瞬間、背後が明るく照らされた。優太が後ろを振り向くとそこには真っ赤な炎によって何もかもがなくなった大地で1人だけが立っていた。

 「素行が悪いと思ってるんならもっと疑うんだったな」

 男は炎を纏いながら歩いていく。
 その一歩ごとに大地は燃え上がり空気が枯れていく。
 その一歩ごとに弱い人間は燃え上がり悲鳴をあげながら絶命していく。

 「さぁて、殺戮だ」

 狩虎が腕を振るうと、世界が赤く塗り潰された。
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