Face of the Surface

悟飯粒

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鏡にキスを編

魔を操る者

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 ~5分前~

 「ここで魔力を探知したんだな?」

 白色の扉から出てきたユピテルが黒垓に聞いた。

 「らしいっすよ。飯田さん近辺の魔力を探知していた奴が言ってたんで間違いはないと思うっす」

 ウィンディゴと狩虎の交信を確認してから、ユピテルはウェンディゴを倒すために最速で行動していた。全ては恨みを果たす為………この手でウィンディゴを殺す為。

 そこは洞窟だった。鬱蒼と生い茂る森林の中にひっそりと出来たそこは暗く、常に水が滴り落ちピチョンと音を立てる。ユピテルと黒垓はぬかるんだ泥道を下へ下へと降りて行った。
 徐々に光が消えていく。水滴の音と足音だけが洞窟内にこだまし、静寂に耳が痛む。

 「………ユピテルさんでしたか」

 何もない暗闇から声が聞こえてきた。私は声が聞こえてきた方に切り掛かるが、やはりそこには誰もいない。

 「私の名はウィンディゴ。先に言っておきますが私はあなたの婚約者を殺していません。私は戦闘が得意ではないので、勇者を倒せるほどの力はないのです」
 「飯田狩虎の言ったことを信じろと言うのか?」
 「私的にはそうですが、今のあなたにそんなことを言ったって意味のないことは知っています。信じなくて結構です」

 ウィンディゴもまた飯田狩虎と同じ言葉を言った。その言葉にユピテルはイラついていく。全てを見透かされたような言い方が気に入らなかったのだ。ユピテルがこの2年間どんな思いで生きてきたのか知りもしないのに、それすら知っているように振る舞っているのが許せなかった。

 「ただ、あなたがここに来たと言うことは少なくとも、今の勇検で起こっていることと2年前の事件の主犯は同じではないと考えているわけですよね。そこは認識していただきたい。」
 「…………………」

 しかしユピテルは頷かない。ただ無言で目と耳を澄ませてウィンディゴの位置を探る。

 「ウィンディゴさん、そんなこと言ったって意味ないですよぉ。この人は復讐を果たしたくて仕方ないんです。相手は誰でもいい、復讐さえできればね」

 闇の中から女の声が聞こえてきた。そして姿を表したのは染島そめじま梅雨美つゆみ。100人以上の勇者を再起不能にした大犯罪者だ。

 「飯田君に頼まれてウィンディゴさんを助けにきましたぁ。彼を倒したければまずは私を倒して下さい」

 そして梅雨美も剣を引き抜く。白銀が一筋、闇の中に現れた。

 「………貴様のような危険な人間とも面識があるのか、飯田狩虎は」
 「何を言ってるんですか私よりも危険な人間が飯田君ですよ。私はただの部下です。………騙されてますよ、あなた」

 白銀が闇の中を動きユピテルに切りかかった。剣と剣がぶつかり合い火花が散りユピテルと梅雨美の顔を一瞬だけ照らす。そしてそこから始まる剣戟は、幾千もの太刀筋が圧倒的な速さでぶつかり合い絶え間なく洞窟内を照らしていく。

 「そのやり場のない怒りを晴らすために貴女は敵を作り出す。誰もが納得する分かりやすい怨敵。それには魔族が相応しく、事件発生時に確認されたウェンディゴに白羽の矢を向けた。あなたの今の怒りなんてそんなものです」

 梅雨美の攻撃が加速していく。魔族のはずなのに梅雨美はユピテルに引けをとらない………いや、凌駕し始めた身体能力でユピテルを追い詰めていく。
 魔族なのに身体強化系の魔力?そんなの聞いたことがないぞ………そう思った時。

 「まさか。私の魔力はそんなものじゃあないですよ。………飯田君にまだ教えてもらってないんですか?」

 サンッ!!

 ユピテルの剣が両断された。切られた刃が洞窟の天井に突き刺さる。

 「貴女たちは本当に………」

 火花が消え姿を隠した梅雨美。しかしその一瞬の気配の変化によってユピテルの肝を凍らせた。圧倒的な脅威が目の前に立っていることをユピテルはようやく自覚したのだ。

 「そんな悠長なことをしてたら滅ぼしますよ?」

 すぐに気配を消した梅雨美はユピテルの元から離れていく。

 「貴女の婚約者を殺した犯人はきっと飯田君が見つけ出します。だからそれまで貴女はちゃんと強くなったほうがいいですよ。そのままじゃあ犯人を倒せるかどうかも怪しい………弱いままじゃあ復讐はできない。違いますか?」
 「だからってあの男を信じろと言うのか!」
 「彼の言動を信じられなくても力は間違いなく本物です。それはもう見ているでしょう?」
 「しかし奴は今魔王の力が封じられて………」
 「魔王の力だけなら私達は彼について行くことはなかった。貴女が知らない力を飯田君はまだ持ってますよ」

 そして気配が完璧に消えた。きっとウェンディゴと一緒にこの場からもう既に離れているのだろう。しかしそれよりもユピテルは勇検の方が気にかかった。梅雨美の言葉が気になって仕方がない。飯田狩虎の知らない力?………確かに私達はまだ魔族の力の全てを知らない。ただ害をなすだけの彼らのことを知ろうとしていない………

 「戻ろう、黒垓」

 想像を絶するようなことが三次試験で起きる気がする。嫌な予感をしながらユピテルは試験会場へと戻った。


 ~試験会場~

 「おいおい逃げんなよ狩虎ぉ!」

 ハンマーで地面を叩くと巨大な亀裂が地面を走り、周りにある建築物の全てを飲み込んでいく!うわぁだめだぁ!あの人本気で俺をぶっ潰すつもりだ!

 「ディーディア君!君1人でグレンに勝てたりする!?」
 「出来るわけないでしょ!そんなことできたらこんなことせずに勇者になってるわ!」

 どうしましょうねぇ!他の受験者と協力してグレンを倒せるわけもないし………これはあれだな、俺の力を測ろうとしてやがるな。

 俺は立ち止まりグレンの方を振り返る。

 「二次試験と同じになっちゃうんだけどさ、危険人物を見つけて倒してきてくれない?」
 「え!?1人で戦うつもりですか!?無理ですって!」
 「大丈夫。………巻き込まれるなよ俺達の戦いに」

 バキバキバキッッ!!

 身体の中から音が鳴り響く。そして俺は姿勢を下げると一気に飛び出した。

 パァァアアンッ!!!

 音速を超えて破裂する空気を突っ切りグレンが持つハンマーを蹴り飛ばす!上空にふき飛んだハンマーに目もくれず、俺はグレンに殴りかかる!が、カウンターを決められた俺は吹き飛ばされ何個もの建築物を貫いていくが、両手両足を無理矢理地面に叩きつけ停止すると矢のように飛び出す!

 「5分で終わらせる!」
 「そりゃこっちのセリフだタコ!」

 そして狩虎とグレンの戦いが始まった!


 「…………第二類勇者クラスの力を引き出せたの?」

 観戦していたイリナが首を傾げた。狩虎の今の動きは第二類勇者クラスのものだ。苦戦に苦戦を重ねて聖騎士長クラスの力をようやく引き出せた一次試験に納得がいかないようだ。

 「多分あれは魔族の力だ」

 ウィンディゴを倒しに行っていたユピテルが戻ってきた。

 「ウィンディゴは倒せたの?」
 「ダメだった。梅雨美に阻まれた」
 「梅雨美って………あの?」
 「ああ、あの梅雨美だ」

 染島梅雨美。100人以上の勇者を再起不能にした魔族だ。再起不能になった勇者は全員、命だけは助かったが精神が崩壊して今は施設の中で暮らしている。階級は最高幹部だと思われ、魔力は不明。ユピテルとの戦いでも梅雨美は魔力を見せなかった。

 「魔族のくせに私と互角以上の身体能力を見せてきた。魔族は何かしらの方法で身体能力を上げる術があるのだろうな」
 「………………」
 「どうしたイリナ」

 狩虎を見つめていたイリナの表情が段々と曇っていく。

 「………私達が今まで戦ってた魔族ってなんだったんだろうね」
 「………?どういうことだ」
 「今まで私が倒してきた階級の低い魔族と、青ローブを始めとした階級の高い魔族が同じだと思えないんだよね」

 今までの戦いの記憶を遡りながらイリナは言葉を紡ぐ。魔族は身体能力が低く、魔力の扱いに秀でている。それが特徴なのに、階級の高い魔族はそれを悉く無視していく。

 「もしかしたら、私達は思っている以上に魔族のことを知らないのかもしれない」

 ドッッッォォオオンンン!!!!

 狩虎が振り抜いたパンチによってグレンのガードが吹き飛び、隙だらけの顔面に蹴りが叩き込まれる!!踏ん張って耐えたグレンの体に更なる追撃が突き刺さり、最後のボディーブローで吹き飛ばされた!!

 「さっきの威勢はどうしたグレン!はその程度じゃ止まらないぞ!」
 「まーた誰かをトレースしやがったのか。ペッ、芸がねーな」

 血を吐き捨てグレンは飛び出した。

 「分かってんだろ!?そりゃあ所詮付け焼き刃だ!真似事じゃあ本当の実力者にゃ勝てねーんだよ!」
 「それは勝ってから言え!」

 頭部めがけて放たれた上段蹴りをかわすが、その蹴りのあまり回転率の速さにすぐに体勢を整えた狩虎が連続で狩りを放つ!

 「二次試験の時もそうだ。お前に合った戦い方をしていれば怪我をすることなどなかったんだ。その戦いはお前にゃ向いてねーよ」

 グレンは蹴りを片手で受け止めると狩虎を地面に叩きつけた!そしてめり込んだ狩虎めがけて放たれる連打によって地面が砕け散り大穴が出来る!

 「技にお前の体が追いついてねー。身体能力だけに任せるのがお前じゃないだろ?」
 「しゃあねーだろ!俺は身体を使った戦いに慣れてねーんだよ!」

 狩虎は両壁面をぶん殴り崩壊を加速させ、自分とグレン目掛けて瓦礫が落下するように仕向けた!しかしこの程度じゃあ勇者にダメージは与えられない。グレンは構わず攻撃を………

 穴から大量の水が噴き出した!穴の中には水が満たされ絶え間なく水が溢れ出す!事前に察知したグレンはその水の攻撃をかわして地上に出ていたが、もしあの攻撃に飲み込まれていたらただでは済まなかったかもしれない。

 「お前に必要なのは必要最低限の体の動かし方だけだ。それも一次試験で習得済み。なにもイリナみたいな脳筋戦法を強制するつもりはねぇ。おまえは勇者じゃねぇし魔族でもねぇ。頭でっかちになるな………つっても今のお前は希望的観測にすがらねぇもんな」

 穴の中から溢れ出した水が空中でとぐろを巻いて水の竜巻となった。そして地上にある全てを飲み込んで巻き上げるが、巻き込まれた物体の全てが空中で停止する。竜巻の中にあるのに物体達は微動だにすることなく固定されているのだ。

 「強すぎるってのは可哀想だよなぁ!合理的に行動すれば全て解決しちまうんだもんなぁ!安心しろよ、俺がお前の合理性を全て否定してやる!」

 グレンは右手に生み出した竜巻を水の竜巻にぶつけて対消滅させると、水が溢れる穴に向かって黒色の風をぶつけた!!黒色の風は大地もろとも水を切り裂き細切れにすると、更に巨大化していき大地を半径1km吹き飛ばした!!

 「お前の全てを否定して希望にすがらせてやる。感謝するんだな」
 「調子くれたこと言いやがって………」

 狩虎が穴から這い出てきた。彼の周りには赤くドロっとした液体が浮遊し、時たまに滴り落ちて大地を溶かしていた。

 「後悔しても知らないからな」
 「逆だ逆、てめーは俺に感謝するんだよ」

 風と水がぶつかり合い、グレンと狩虎の戦いは加速して行く。
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