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鏡にキスを編
ミフィー君英雄計画計画
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勇者領の最高戦力である第二類勇者。たった9人のみで構成されるそれは、1人1人が人智の及ばない力を有している。大地が吹き飛ぶのなんて当たり前。天候が狂喜乱舞し、空間は破裂。法則は著しく乱れ、そのあまりに膨大なエネルギーに次元が歪む。彼らのその力は天災と呼ぶに相応しく、本気になった彼らを止める手立てはない。
グレンも例外ではないのだが、彼が今まで本気を出したことは片手で数えられるほどしかなく、また対峙した敵が全て死んでいることから彼の全力は未知数。唯一彼の全力を見たことがある人間が言うには「悪魔のようだった」と思わせるほどだったらしい。その気性の荒さと魔力が相まってグレンは[風神]と恐れられ嫌厭されていた。
グレンの一撃によって吹き飛ばされた俺は空中で体勢を立て直そうとした時、もう既に目の前に来ていたグレンの攻撃をモロに喰らう!1発で骨がへし折れ筋肉が潰れる!しかしこれで着地でき………
グレンが生み出す風が俺を下に落としてくれない!まずいまずいまずい!空中はグレンの独壇場だ!このままじゃあ!
俺のガードの上からお構いなく放たれた槍による一撃!右腕と胸を貫き血が溢れ出す!しかしその血が地面に落ちることはなく空中で動きが止まる。まるでそこに物があるみたいに………
「悠長なことやってんじゃねぇよしぬぜぇぇええ!?」
そして俺の頭を掴みそこに叩きつけるとグレンは空中を駆け巡り、風でできた壁に頭を高速で擦り付けられ削られる!そしてグレンが俺を上空に投げ飛ばすと、空中で一方的な蹂躙が始まった。
死が急速に迫ってきている。1分後?10秒後?………最悪1秒後には死んでいるだろう。風の聖剣を持ってないのにここまで強いなんて………なにが亜花君は危険だよ、グレンの方がよっぽど危険じゃないか。これイリナよりも強いぞ。
勇者領で随一と呼ばれる暴力を一身に浴びた狩虎は走馬灯のようなものを見ていた。………この戦争の世界では驚くべきことなのだが、狩虎はこの世界に来てからまだ走馬灯を見たことがなかった。全ての戦いを余力を残して戦うことができた彼が命の危機を感じることなどなかったからだ。
カイを殺し、勇者を大量に殺し、人々に恨まれながら死んでいく。イリナに殺されたかったが、俺が死ぬことで少なくとも勇者は喜ぶはずだ。俺に殺された勇者の遺族達が喜ぶのならそれで…………俺は右手を握り締めた。
ドンッ!!!
顔面めがけて振り下ろされたパンチをかわしながら俺はクロスカウンターを放ち、グレンの横っ面をぶん殴った!
「何考えてんだよ俺は!!」
死に直面した人間の大半はその死を受け入れる。しかし僅かにいるのだ、己の使命の為にその死に抗おうとする人間が。身体から流れ出る血を止める暇すら惜しんで立ち上がり、前に進もうとする人間が。
大量に人を殺したのに俺の死一つで贖えると思ってんのか!無理に決まってんだろ馬鹿か!死ぬのはもっと先だ!カースクルセイドを滅ぼし勇者領を改革してから死ななきゃ、俺に殺された奴らは報われない!死は結果を伴うことで始めて浄化されるんだ!寝ぼけるな!途中で投げ出すな!
身体から溢れ出す水蒸気を爆発させ、爆発的な推進力によってグレンを蹴り飛ばした!!そのまま俺はグレンに向かって突撃する!!
死ぬ為に世界を平和にしようとしてる奴が善人ぶってんじゃねぇ!全てを使え!俺が手にかけた力だろうと遠慮なく利用しろ!甘えを捨てろ!同情する権利もないんだ理解しろ!
一歩ごとに俺は加速していく。地面は弾け飛び、身体から溢れ出す水蒸気を纏い襲いかかる!幾度となく振り回される槍をかわすが、鋭利な風が俺の身体を切り裂いていく。しかし関係ない。俺は風に切り裂かれながら魔剣で斬りかかりグレンを押していく!!
剣と槍がぶつかり合い散らす火花が空中に静止する。そして俺はその火花を巻き込むように剣を振るう!魔剣と槍の衝突によって生み出されるエネルギーは凄まじく、その力の全てを利用するためだ!紫色の魔剣が炎に染まっていく。
「そうだ優しさで人は救えねぇ!力だ!他を凌駕する力がなきゃ誰も救えねぇ!そんなもんじゃねぇだろもっとこいや!」
俺とグレンが生み出す輝きの全てを取り込み、紫色の魔剣は赤紫色に変わりグレンの槍を斬り裂いた!!が、その大振りを事前に察知していたグレンは俺が振り抜くと同時に距離を詰めていた。俺に腹パンをかまし、頭が下がった瞬間に俺の膝上を踏み台にして強烈な膝蹴りを顔面に叩き込まれる!そして空中に浮遊したグレンは空中で回転して回し蹴りを放ち俺を吹き飛ばす!!
まずい顎が外れた!力めなきゃ話にならない!後方に水でクッションを作り出し勢いを殺し、俺は顎を無理矢理くっつけ………
ドゴォオオンンン!!!
その隙に距離を詰めたグレンが顔面を殴ってきた!!両手でガードしたが、まずすぎる!!後方に水を使ってしまったから吹っ飛んで威力を殺せない!!グレンの連打が始まる前に俺は緑色の水を目の前に敷き詰める!!しかしグレンはそれを無視してぶん殴り続ける!!俺は後方の水の塊全てを一瞬で気化させた!!その水蒸気爆発による推進力で殴られながら無理矢理ゼロ距離へと近づき魔剣の側面でグレンを突き飛ばす!!
このままじゃ負ける………何か、何か策を考えろ!この状況を打開する策を!
「ニヤッ」
俺の思考を見据えてかグレンが笑った。…………違うだろ。グレン相手に小細工は意味がない。これでまでの戦いで身にしみてるだろう。グレンは全てにおいて俺を上回り思考もバレている。こいつを倒すには………実力で越えるしかない。
槍と剣のぶつかり合いがまた始まった。迸る火花を吸収し振るたびに威力が増す魔剣と、ぶつかり合うたびに生まれる風圧を吸収し振るたびに威力が増していくグレンの槍。加速度的に威力が増していく2人の剣戟。赤色の軌跡と緑色の風が2人を包んでいた。
頼む、図々しいのは承知だが俺に力を貸してくれ!
ギチッギチと薄皮一枚下で筋肉が膨らんでいる!剣を振る速さと力強さが増していく!次だ!この一撃でこの戦いを全て終わらせる!
槍と剣がぶつかり退け反った時だった。紫色の魔剣が2つに分かれた。赤色と青色の2振の剣。
「やれ小僧!」
俺は意を決して踏み込んだ。空中の2つの剣をキャッチし止まることなく振り払う!真っ赤に燃え上がる火炎と青く荒々しい水流がグレンへと襲いかかる!終わりだ!これならば止められない!
ガィイインンン!!!
止められ………た?グレンの右腕からさらに槍を持った腕が2本生えて俺の剣を受け止めたのだ。
「ざーんねん。俺はまだ全てを出し切ってない」
「いっっ!?!?」
槍が俺の太ももに突き刺さる!脚に一切力を入れられなくなった俺は尻餅をついた。まずすぎる、これじゃあ戦うどころじゃない!これじゃあ!
「さぁどうするまだ策があるか?」
近づいてくるグレンに俺は石を投げまくるが、その石はぶつかることなく風に切り裂かれてチリになる。グレンが歩くたびに地面に這い上がりグレンの背後に鎧が現れる。2体、5体、9体………いつの間にかグレンは大軍の先頭になっていた。魔力は1人に1つなんだろ?なんだこれどうなってんだよ!
「近寄るな!」
俺は石を投げながらグレンから離れる!どうすりゃいいのか一切わからないが、このままじゃあ殺されるのは目に見えてる!少しでも時間を稼いで何かを考えるんだ!この状況をどうにかする方法を!
「優しさは常に隙と弱さを生み出す。お前がもっと早くから勇者の力に頼っていたら結果はまた違ったものになっていたかもしれない。お前のその冷酷さと優しさが今回の結果を生んだんだ。そして弱い奴は………死ぬ。それが自然の摂理だ」
俺は魔剣をぶん投げた!しかしグレンはそれを簡単に弾いた。終わった…………
「だがその弱さ、俺は結構好きだぜ」
グレンは腰を下ろして俺の目を見て言った。
「…………は?」
「お前は優しすぎるんだ。自分が生み出した結果に責任を持ちすぎている。そんなに自分を責めるな」
そして俺の頭に手を置いて笑った。
「試験合格だ。よく俺を追い詰めた」
試験合格?………はぁ!?
「そんなの認めるわけないだろ!俺はまだあんたに勝ってない!」
「今のお前が俺に勝てるわけがねーんだよ。そんだけ実力差が広がってんだぜ?あ、その魔剣で俺の背中刺そうとしても無駄だからな」
さっき投げた魔剣を遠隔操作で背中に刺そうとしたのを見破れてる!
「俺はお前が第二類勇者の力を引き出せるようになればそれでいいんだ。勝ち負けなんて興味ねーのさ。だって俺が勝つのは確定だから?」
「…………納得いかねぇ!こういう合格の仕方はなんかやだ!やだ!」
「じゃあ今この場で俺に殺されるか?再開したらそうなるぞ」
…………分かってるけどさぁ!そんなことさぁ!
「殺されるのは嫌だけどこんな合格の仕方はやなの!もっとこう、劇的に終わらせないとメリハリがないでしょ!」
「ちっ、めんどくせーやつだな………そうだ、Vサインやってみろよ」
「………ピース」
俺は警戒しながらピースサインをした。するとグレンは手のひらを俺に見せてきた。
「はいジャンケンでお前の勝ち。試験合格」
「そういうことじゃねぇんだよなぁ!!」
立ちあがろうとするも力が入らない。そりゃあそうか、太もも刺されてるんだもんな。骨も至るところ折れてて右胸と右腕にも穴が空いていて……
カクン
俺は倒れた。今の状況を自覚した瞬間、目の前が真っ白になった。力も入らなくなって…………あ、やばい、意識失う。
「無駄口叩く余裕もねーだろ。合格にしてやるんだ、ほら感謝しやがれ」
言葉を発しようにも口が動かない。喉が鳴らない。ニヤついたグレンの顔を最後に俺は気を失った。
「ふーー、ヨチヨチ歩きもいいとこだな」
鎧を着た小間使いに狩虎の治療をさせながら、グレンは地面に座った。
「………すごいね、ミフィー君から力を引き出すなんて」
そして見ていたイリナはため息を吐いた。イリナがどれだけ頑張っても出来なかったことをグレンはたった1日でやってしまったのだ、落ち込むのは仕方がないことだろう。
「落ち込むこたぁねーよ。狩虎は特にお前に負い目を抱いている。あいつがお前の前で勇者の力を使うのを嫌ってたんだ、どう頑張っても引き出せなかったはずだ。気にするな」
「…………だけどさぁ」
「…………………」
グレンは兜を取って深呼吸をした。流れ落ちる汗を拭い、今度は小手を外す。するとグレンの腕はボロボロだった。
「そういや試験前に言ったよな、狩虎は勇者領を裏切るつもりだってな」
「う、うん…………」
「それを阻止するための方法はなんだとおもう?」
「分かんないよそんなの。裏切らないように説得するとか?」
「説得できるような人間じゃねーだろ。そんぐらいわかってるだろ」
イリナを頷く。そんな簡単に折れる人間なら、先日の殲滅戦で裏切ることなどなかったし、イリナの前に現れることもなかった。イリナはそれをよく理解している。
「…………狩虎を英雄にする」
「…………何言ってんの?」
グレンの発言を理解できなかったイリナは露骨に不快な声を出した。こんなに勇者に嫌われているミフィー君が英雄になんてなれるわけがないじゃないか…………
「もし勇者が狩虎の裏切りに疑問を持つことができたら、狩虎の裏切りを止められるかもしれない。まぁそれをさせない為に狩虎は自分の好感度を下げているわけだが…………ならば英雄にしてやればいい。今回の勇検で[狩虎がグレンを倒した]ことにして勇者領に発表する」
「………めっちゃいいじゃんそれ!」
なるほどそうすればいいのか!めっちゃ頭いいじゃんグレン!それならばミフィー君が裏切り辛くなるし、いいことづくめじゃん!
「それでも狩虎が裏切り問答無用で勇者を殺す可能性がある。それを阻止する為にもイリナ、お前はもっと強くなれ」
今よりも強く………イリナは右手を強く握りしめた。殲滅戦の時はミフィー君が手加減してくれたから勝てたのだ。もし彼が本気になったら………今の私じゃあ一方的にやられてしまう。強くならないといけない、彼を止める為に。
「俺から言わせればお前ら2人はまだまだ未熟、ヨチヨチ歩きもいいところだ。希望の象徴だと持て囃されて成長を止めたらまた同じ結果になるぜ?」
「…………わかってる」
ああ、でも、やっと指針ができた気がする。ミフィー君を英雄にすればいいのか…………とても難しい道だけれど、それでもやらないとまた彼が人を殺してしまう。これ以上彼に人殺しをさせてはいけない。
この日から私とグレンによる[ミフィー君英雄計画]が始まった。
「ねぇ先生」
亜花君が走ってきた。
「どうした亜花」
「他の受験者が皆殺しにされてるんだけど、どうしたらいい?」
「………………」
完璧に忘れてた。そうだ、この試験に危険人物が紛れ込んでたんだ。私とグレンは亜花君の案内のもと、受験者が殺されている場所に急いで向かった。
グレンも例外ではないのだが、彼が今まで本気を出したことは片手で数えられるほどしかなく、また対峙した敵が全て死んでいることから彼の全力は未知数。唯一彼の全力を見たことがある人間が言うには「悪魔のようだった」と思わせるほどだったらしい。その気性の荒さと魔力が相まってグレンは[風神]と恐れられ嫌厭されていた。
グレンの一撃によって吹き飛ばされた俺は空中で体勢を立て直そうとした時、もう既に目の前に来ていたグレンの攻撃をモロに喰らう!1発で骨がへし折れ筋肉が潰れる!しかしこれで着地でき………
グレンが生み出す風が俺を下に落としてくれない!まずいまずいまずい!空中はグレンの独壇場だ!このままじゃあ!
俺のガードの上からお構いなく放たれた槍による一撃!右腕と胸を貫き血が溢れ出す!しかしその血が地面に落ちることはなく空中で動きが止まる。まるでそこに物があるみたいに………
「悠長なことやってんじゃねぇよしぬぜぇぇええ!?」
そして俺の頭を掴みそこに叩きつけるとグレンは空中を駆け巡り、風でできた壁に頭を高速で擦り付けられ削られる!そしてグレンが俺を上空に投げ飛ばすと、空中で一方的な蹂躙が始まった。
死が急速に迫ってきている。1分後?10秒後?………最悪1秒後には死んでいるだろう。風の聖剣を持ってないのにここまで強いなんて………なにが亜花君は危険だよ、グレンの方がよっぽど危険じゃないか。これイリナよりも強いぞ。
勇者領で随一と呼ばれる暴力を一身に浴びた狩虎は走馬灯のようなものを見ていた。………この戦争の世界では驚くべきことなのだが、狩虎はこの世界に来てからまだ走馬灯を見たことがなかった。全ての戦いを余力を残して戦うことができた彼が命の危機を感じることなどなかったからだ。
カイを殺し、勇者を大量に殺し、人々に恨まれながら死んでいく。イリナに殺されたかったが、俺が死ぬことで少なくとも勇者は喜ぶはずだ。俺に殺された勇者の遺族達が喜ぶのならそれで…………俺は右手を握り締めた。
ドンッ!!!
顔面めがけて振り下ろされたパンチをかわしながら俺はクロスカウンターを放ち、グレンの横っ面をぶん殴った!
「何考えてんだよ俺は!!」
死に直面した人間の大半はその死を受け入れる。しかし僅かにいるのだ、己の使命の為にその死に抗おうとする人間が。身体から流れ出る血を止める暇すら惜しんで立ち上がり、前に進もうとする人間が。
大量に人を殺したのに俺の死一つで贖えると思ってんのか!無理に決まってんだろ馬鹿か!死ぬのはもっと先だ!カースクルセイドを滅ぼし勇者領を改革してから死ななきゃ、俺に殺された奴らは報われない!死は結果を伴うことで始めて浄化されるんだ!寝ぼけるな!途中で投げ出すな!
身体から溢れ出す水蒸気を爆発させ、爆発的な推進力によってグレンを蹴り飛ばした!!そのまま俺はグレンに向かって突撃する!!
死ぬ為に世界を平和にしようとしてる奴が善人ぶってんじゃねぇ!全てを使え!俺が手にかけた力だろうと遠慮なく利用しろ!甘えを捨てろ!同情する権利もないんだ理解しろ!
一歩ごとに俺は加速していく。地面は弾け飛び、身体から溢れ出す水蒸気を纏い襲いかかる!幾度となく振り回される槍をかわすが、鋭利な風が俺の身体を切り裂いていく。しかし関係ない。俺は風に切り裂かれながら魔剣で斬りかかりグレンを押していく!!
剣と槍がぶつかり合い散らす火花が空中に静止する。そして俺はその火花を巻き込むように剣を振るう!魔剣と槍の衝突によって生み出されるエネルギーは凄まじく、その力の全てを利用するためだ!紫色の魔剣が炎に染まっていく。
「そうだ優しさで人は救えねぇ!力だ!他を凌駕する力がなきゃ誰も救えねぇ!そんなもんじゃねぇだろもっとこいや!」
俺とグレンが生み出す輝きの全てを取り込み、紫色の魔剣は赤紫色に変わりグレンの槍を斬り裂いた!!が、その大振りを事前に察知していたグレンは俺が振り抜くと同時に距離を詰めていた。俺に腹パンをかまし、頭が下がった瞬間に俺の膝上を踏み台にして強烈な膝蹴りを顔面に叩き込まれる!そして空中に浮遊したグレンは空中で回転して回し蹴りを放ち俺を吹き飛ばす!!
まずい顎が外れた!力めなきゃ話にならない!後方に水でクッションを作り出し勢いを殺し、俺は顎を無理矢理くっつけ………
ドゴォオオンンン!!!
その隙に距離を詰めたグレンが顔面を殴ってきた!!両手でガードしたが、まずすぎる!!後方に水を使ってしまったから吹っ飛んで威力を殺せない!!グレンの連打が始まる前に俺は緑色の水を目の前に敷き詰める!!しかしグレンはそれを無視してぶん殴り続ける!!俺は後方の水の塊全てを一瞬で気化させた!!その水蒸気爆発による推進力で殴られながら無理矢理ゼロ距離へと近づき魔剣の側面でグレンを突き飛ばす!!
このままじゃ負ける………何か、何か策を考えろ!この状況を打開する策を!
「ニヤッ」
俺の思考を見据えてかグレンが笑った。…………違うだろ。グレン相手に小細工は意味がない。これでまでの戦いで身にしみてるだろう。グレンは全てにおいて俺を上回り思考もバレている。こいつを倒すには………実力で越えるしかない。
槍と剣のぶつかり合いがまた始まった。迸る火花を吸収し振るたびに威力が増す魔剣と、ぶつかり合うたびに生まれる風圧を吸収し振るたびに威力が増していくグレンの槍。加速度的に威力が増していく2人の剣戟。赤色の軌跡と緑色の風が2人を包んでいた。
頼む、図々しいのは承知だが俺に力を貸してくれ!
ギチッギチと薄皮一枚下で筋肉が膨らんでいる!剣を振る速さと力強さが増していく!次だ!この一撃でこの戦いを全て終わらせる!
槍と剣がぶつかり退け反った時だった。紫色の魔剣が2つに分かれた。赤色と青色の2振の剣。
「やれ小僧!」
俺は意を決して踏み込んだ。空中の2つの剣をキャッチし止まることなく振り払う!真っ赤に燃え上がる火炎と青く荒々しい水流がグレンへと襲いかかる!終わりだ!これならば止められない!
ガィイインンン!!!
止められ………た?グレンの右腕からさらに槍を持った腕が2本生えて俺の剣を受け止めたのだ。
「ざーんねん。俺はまだ全てを出し切ってない」
「いっっ!?!?」
槍が俺の太ももに突き刺さる!脚に一切力を入れられなくなった俺は尻餅をついた。まずすぎる、これじゃあ戦うどころじゃない!これじゃあ!
「さぁどうするまだ策があるか?」
近づいてくるグレンに俺は石を投げまくるが、その石はぶつかることなく風に切り裂かれてチリになる。グレンが歩くたびに地面に這い上がりグレンの背後に鎧が現れる。2体、5体、9体………いつの間にかグレンは大軍の先頭になっていた。魔力は1人に1つなんだろ?なんだこれどうなってんだよ!
「近寄るな!」
俺は石を投げながらグレンから離れる!どうすりゃいいのか一切わからないが、このままじゃあ殺されるのは目に見えてる!少しでも時間を稼いで何かを考えるんだ!この状況をどうにかする方法を!
「優しさは常に隙と弱さを生み出す。お前がもっと早くから勇者の力に頼っていたら結果はまた違ったものになっていたかもしれない。お前のその冷酷さと優しさが今回の結果を生んだんだ。そして弱い奴は………死ぬ。それが自然の摂理だ」
俺は魔剣をぶん投げた!しかしグレンはそれを簡単に弾いた。終わった…………
「だがその弱さ、俺は結構好きだぜ」
グレンは腰を下ろして俺の目を見て言った。
「…………は?」
「お前は優しすぎるんだ。自分が生み出した結果に責任を持ちすぎている。そんなに自分を責めるな」
そして俺の頭に手を置いて笑った。
「試験合格だ。よく俺を追い詰めた」
試験合格?………はぁ!?
「そんなの認めるわけないだろ!俺はまだあんたに勝ってない!」
「今のお前が俺に勝てるわけがねーんだよ。そんだけ実力差が広がってんだぜ?あ、その魔剣で俺の背中刺そうとしても無駄だからな」
さっき投げた魔剣を遠隔操作で背中に刺そうとしたのを見破れてる!
「俺はお前が第二類勇者の力を引き出せるようになればそれでいいんだ。勝ち負けなんて興味ねーのさ。だって俺が勝つのは確定だから?」
「…………納得いかねぇ!こういう合格の仕方はなんかやだ!やだ!」
「じゃあ今この場で俺に殺されるか?再開したらそうなるぞ」
…………分かってるけどさぁ!そんなことさぁ!
「殺されるのは嫌だけどこんな合格の仕方はやなの!もっとこう、劇的に終わらせないとメリハリがないでしょ!」
「ちっ、めんどくせーやつだな………そうだ、Vサインやってみろよ」
「………ピース」
俺は警戒しながらピースサインをした。するとグレンは手のひらを俺に見せてきた。
「はいジャンケンでお前の勝ち。試験合格」
「そういうことじゃねぇんだよなぁ!!」
立ちあがろうとするも力が入らない。そりゃあそうか、太もも刺されてるんだもんな。骨も至るところ折れてて右胸と右腕にも穴が空いていて……
カクン
俺は倒れた。今の状況を自覚した瞬間、目の前が真っ白になった。力も入らなくなって…………あ、やばい、意識失う。
「無駄口叩く余裕もねーだろ。合格にしてやるんだ、ほら感謝しやがれ」
言葉を発しようにも口が動かない。喉が鳴らない。ニヤついたグレンの顔を最後に俺は気を失った。
「ふーー、ヨチヨチ歩きもいいとこだな」
鎧を着た小間使いに狩虎の治療をさせながら、グレンは地面に座った。
「………すごいね、ミフィー君から力を引き出すなんて」
そして見ていたイリナはため息を吐いた。イリナがどれだけ頑張っても出来なかったことをグレンはたった1日でやってしまったのだ、落ち込むのは仕方がないことだろう。
「落ち込むこたぁねーよ。狩虎は特にお前に負い目を抱いている。あいつがお前の前で勇者の力を使うのを嫌ってたんだ、どう頑張っても引き出せなかったはずだ。気にするな」
「…………だけどさぁ」
「…………………」
グレンは兜を取って深呼吸をした。流れ落ちる汗を拭い、今度は小手を外す。するとグレンの腕はボロボロだった。
「そういや試験前に言ったよな、狩虎は勇者領を裏切るつもりだってな」
「う、うん…………」
「それを阻止するための方法はなんだとおもう?」
「分かんないよそんなの。裏切らないように説得するとか?」
「説得できるような人間じゃねーだろ。そんぐらいわかってるだろ」
イリナを頷く。そんな簡単に折れる人間なら、先日の殲滅戦で裏切ることなどなかったし、イリナの前に現れることもなかった。イリナはそれをよく理解している。
「…………狩虎を英雄にする」
「…………何言ってんの?」
グレンの発言を理解できなかったイリナは露骨に不快な声を出した。こんなに勇者に嫌われているミフィー君が英雄になんてなれるわけがないじゃないか…………
「もし勇者が狩虎の裏切りに疑問を持つことができたら、狩虎の裏切りを止められるかもしれない。まぁそれをさせない為に狩虎は自分の好感度を下げているわけだが…………ならば英雄にしてやればいい。今回の勇検で[狩虎がグレンを倒した]ことにして勇者領に発表する」
「………めっちゃいいじゃんそれ!」
なるほどそうすればいいのか!めっちゃ頭いいじゃんグレン!それならばミフィー君が裏切り辛くなるし、いいことづくめじゃん!
「それでも狩虎が裏切り問答無用で勇者を殺す可能性がある。それを阻止する為にもイリナ、お前はもっと強くなれ」
今よりも強く………イリナは右手を強く握りしめた。殲滅戦の時はミフィー君が手加減してくれたから勝てたのだ。もし彼が本気になったら………今の私じゃあ一方的にやられてしまう。強くならないといけない、彼を止める為に。
「俺から言わせればお前ら2人はまだまだ未熟、ヨチヨチ歩きもいいところだ。希望の象徴だと持て囃されて成長を止めたらまた同じ結果になるぜ?」
「…………わかってる」
ああ、でも、やっと指針ができた気がする。ミフィー君を英雄にすればいいのか…………とても難しい道だけれど、それでもやらないとまた彼が人を殺してしまう。これ以上彼に人殺しをさせてはいけない。
この日から私とグレンによる[ミフィー君英雄計画]が始まった。
「ねぇ先生」
亜花君が走ってきた。
「どうした亜花」
「他の受験者が皆殺しにされてるんだけど、どうしたらいい?」
「………………」
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アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
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高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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