異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

文字の大きさ
7 / 79
一章 始まりの道筋

夜は明けて

しおりを挟む
次に目覚めた時はもう完全に明るくなってから、だった。でも何だろう。朝日を浴びて起きるだなんて生まれてから殆どしてなかったし、何より逃げて生き延びたということでとても爽やかな気持ちになれた。

「よう、ぐっすりだったな」

 地面の焚き火はすでに消されていたが、スティーグさんも寝る前と変わらない場所に座っていた。多分寝ずに見ててくれたんじゃないかな。そんな気がする。

「改めて、ありがとうございました。スティーグさん」

「さんはいらねぇよ。俺は目の前の事にできる事をしただけだ。運が良かったとだけ思っとけ」

 僕の言葉にちょっと視線を逸らして答えるあたり、もしかしてちょっと照れているのかもしれない。ああでも、この感謝は何物にも変え難いね。

「起きたばっかで悪いが、早々に移動しねぇとな。これでも腹に入れてろ」

 放り投げられたのは普通の、そう普通のパンだった。硬いけど、カビが生えてたりしない普通のパン。

「ちっ、一々飯で泣くなよ…… 街に行ったらもっとマシなもん食えんだから」

 そうは言ってもやっぱり、人生最高のパンだもんね。泣きたくもなるってもんさ。

「あとこれを履け。サイズは合わんだろうが、裸足よかナンボも良い」

 パンを必死で頬張る僕の足元に茶色の何かが放り出される。うーん…… ああ、革のサンダル? かな。靴底に紐だけって感じの簡素なものだ。

「足が痛くなったら言え。背負うぐらいはしてやる。それまでは何とか自分で歩いてくれよ」

 それくらい、頑張って当たり前だ。しかし本当スティーグって見た目にそぐわない優しさだよね。僕が女って事も気付いてなかったって事はそれこそ打算なんて何もなしで助けてくれたんじゃないだろうか。これは何とかしてでも恩は返さないと。

「こっから行くのは寝る前に言ったが、クラーンの街に行く。大体、 そうだな俺の足で日が登り切る頃に着くくらいの場所だ。まぁ日が暮れそうなら、お前を担いでいくさ。スキル石クラフトシュタイン後何個だっけな……」

 スキル石クラフトシュタイン? 何か聞き覚えのない単語がでてきた。名前からしてファンタジーっぽいよね。やっぱり魔法とかすぎるとかってあるのかな?

「何不思議そうな顔してんだ、スキル石クラフトシュタインなんて…… ああそうだったよな。下手すりゃ何もしらねぇか。ほれ」

 そういって彼は小さな袋から手のひらにジャラジャラと小石を出して見せてくれた。どれも赤や青の色とりどりの半透明な小石だ。これで何か魔法どかーんとかするのだろうか。

「何期待した目で見てるのかは知らんが、こりゃただの低級よ。ガキが期待する様な石何ざ高くて買えやしねぇ」

「そうなんだ。でも綺麗だね」

「それぞれスキルが対応する神様の色を表してるらしいぜ、俺も使うしか能がねぇから詳しくしらねぇけどよ」

 出した小石が袋に戻されてしまう。ちぇー、一個くらい欲しかったのになー。

「物欲しそうな目で見てもやんねーよ。それこそ飯の種だからな。つーか、こんなの普通に農家だろうが使ってるだろ」

「僕ってぶっちゃけて、要らない売られる用の子供だったから。そういうの見るも何も、さっき言ったみたいに牛小屋くらしには縁がない代物だね」

「……くそっ、そういうのはそんな明るく言う事じゃねぇんだよ」

 僕の答えに不満があったのか、ブツクサ言いながら頭を搔くスティーグ。明るく言おうが暗く言おうが売られる予定だったのは間違いないけどね。脱走したけど。いやー、何だかんだで成功すると本っ当にすっきりするよね!

「売り物が逃げたって事は追っ手がかかる可能性だってある。夜の間にそういうのが来た様子はなかったが、食ったらさっさと靴履いて逃げねぇとな」

「そこまで本気で追いかけられると、ちょっと怖いなぁ…… でも、銀貨30枚ってそんな本腰入れないとだめな金額?」

「ああ? 30枚だぁ? そりゃえらく安く買い叩かれてるじゃねぇか。だけどよ問題はそこじゃねぇ。買い取る前に商品が逃げたってなると、人買いは売り主にその金額を払えって言うんだよ。お前の親、親か? そいつにすりゃあ銀貨30枚手に入れるどころか逆に取られる立場になるんだ。そりゃケツに火ぃついたみたいに探し回るだろうよ」

 まさかの-銀貨30枚ってなると、うん間違いないね。鬼のような目をして探すに違いない。あ、でも若干ざまぁみろって思っちゃう。そそくさとパンをねじ込んで、靴を履く。たしかにサイズは合ってないけど、紐できつく締めとけば違和感はそこまでないし、何より素足に比べたらかなり楽だ。

「ここらに狼が出るって事は昨日でわかってるだろ。日が暮れるまでに街に行くぞ」

 彼の言葉に僕は頷くと、伸ばされた手を取って立ち上がる。昨夜も思ったけど、怪我をしていたところに包帯が巻かれているものの、痛みはーーない。足や手を動かして確認している僕にスティーグが声を掛ける。

「ほら、行くぞ」

 この声が、僕にとってこの世界での人生の始まりだった。

 道中、彼は僕と手を繋いで色々な事を話してくれた。スティーグは冒険者だったらしい。冒険譚だったり、出会った人との話だったり。この世界の事をなにも知らない僕にはそれがとても煌びやかな世界に感じた。でもーー

「こんだけ言って何だがな。冒険者になろうとか思うんじゃねぇぞ。この仕事はな、簡単に命が消えてく仕事だ。それこそさっき話してやった剣使いの奴だって、もう死んでる。名前だけが派手で、運が悪けりゃそれこそ銀貨1枚で死ぬのが冒険者だ。」

「じゃあなんだってスティーグはそんな仕事をしてるの?」

「そりゃぁ生きる為と、自分の後悔の尻拭いさ。これ以上は詮索はなしだ。何にせよ、冒険者にだけはなろうとするなよ」

 でも僕の心は既に決まってしまっていた。彼が何と言おうとも、何れは冒険者に、彼みたいな冒険者になるって。それを口に出すのは野暮だからね、黙ってるけど。

 それからも彼は歩きながら様々なこと、本当は知ってるはずの事を教えてくれた。街のこと、生き物や植物のこと。そしてーー出会わない方が良い、魔物のこととかも。魔物の話にやっぱりいるんだなーって期待の目で見てしまった僕を彼は嗜めてきたけどね。

 やがて僕が歩き疲れてしまった時には、なんて事ないかのように僕を背負って歩いてくれた。その背中はとても大きくて、いつか絶対にたどり着いてみせる、そう思わせてくれる背中だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  ブックマーク・評価、宜しくお願いします。

この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました

okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

無能と追放された俺の【システム解析】スキル、実は神々すら知らない世界のバグを修正できる唯一のチートでした

夏見ナイ
ファンタジー
ブラック企業SEの相馬海斗は、勇者として異世界に召喚された。だが、授かったのは地味な【システム解析】スキル。役立たずと罵られ、無一文でパーティーから追放されてしまう。 死の淵で覚醒したその能力は、世界の法則(システム)の欠陥(バグ)を読み解き、修正(デバッグ)できる唯一無二の神技だった! 呪われたエルフを救い、不遇な獣人剣士の才能を開花させ、心強い仲間と成り上がるカイト。そんな彼の元に、今さら「戻ってこい」と元パーティーが現れるが――。 「もう手遅れだ」 これは、理不尽に追放された男が、神の領域の力で全てを覆す、痛快無双の逆転譚!

八百万の神から祝福をもらいました!この力で異世界を生きていきます!

トリガー
ファンタジー
神様のミスで死んでしまったリオ。 女神から代償に八百万の神の祝福をもらった。 転生した異世界で無双する。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

処理中です...