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一章 始まりの道筋
お勉強その2
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「種とは端的に申し上げれば、神の種です」
昼食を食べ終えた僕らは再び書庫に戻り、勉強の続きを行っている。
「加護の元に種を育て、芽吹き枝を伸ばし葉を茂らせ、花咲き、実を宿すことに成功した者は神へと至るといわれています」
「いわれてるってことは、本当はわからないとか?」
「いいえ、過去には実際に神へ至った方の記録が残っております。今の狩猟神、パルム様は約520年前の人間です」
目の前に開かれた本には弓を持った女性の絵。これが狩猟神とやらになった人だろうか。傍らには彼女の来歴らしきものが記されており、それによれば彼女は幾多の魔物の襲来から人々を守り、その果てに当時の魔物の王であったハフギフーリーと戦い、神へと至ったらしい。
「植物の種が発芽に至るのに光・水・空気が必要なように、私どもに宿る種の発芽には魂の経験が肝要です。」
「魂の経験?」
「はい、狩猟神パルム様のように魔物等との闘いを糧とするのも経験の一つですね。それ以外にも様々な手段が経験であると考えられていますが
―― 実はパルム様より前の方については神としての姿のみの描写が多く、またパルム様以来、神に成られたお方も今のところいらっしゃらないため、具体的に何をすれば結実へと至るのかは未だ研究段階です」
つまりほとんど何もわからないに等しいということだ。とはいえ、魔物を倒すことが経験の一つであるならば、冒険者になるのはやっぱり道としては間違いではないのだろう。それにしても発芽すら条件がわからないとなれば、まさか植物を育てるよりも簡単ということもありえないし、更に条件は難しそうだ。これは次に神と出会うことがあれば、問い質した方がよさそうだ。心の片隅に留めておこう。
「またご加護によっても何をすれば発芽しやすいというのもまちまちでして、一概に何が答えというのも申し上げられません。種を発芽させても何も為されない方もいらっしゃいますし、種のまま偉大な成果を残される方もいらっしゃいますので、種のことはあまり考えすぎないほうが良いのかもしれませんね」
種は才能、と言い換えてもいいのかもしれない。磨いて光らせるも曇らせるも自分次第。神に成れるかどうかはその上での自分の行動次第だろう。
「それに比べますと、スキルや魔法については比較的容易で、スキルは自らの修練により手に入れるもの、魔法は神様の力を借り受けて望みの現象を引き起こすことです。どちらも加護による左右はございます」
「それだと、モノによっては似たような魔法とスキルが存在するってこと?」
「良い質問です。そうですね、修練の果てに魔法に近い力を得られる方もいらっしゃいます。基本的に同じ効果であれば歴史が古い分スキルより魔法が有利です、しかしながらスキル石をその身に宿す程の修練を為された場合は、その発動速度や研ぎ澄まされ方で魔法に勝ることも不可能ではありません。」
また本がめくられ、蜘蛛の巣のような絵が描かれたページになる。
「こちらはどのようなことを学べばどのスキルや魔法を得やすいか、などが凡そ体系化されています。構造上魔法も一緒に記入されているこちらの図が系統樹と呼ばれるものです。」
なんでこの世界って専門用語っぽいのがちょいちょいわかりにくい言葉なのかな。系統樹だってスキルツリーじゃダメなんだろうか。その方が僕はわかりやすいんだけどなぁ。
「系統樹につきましてはご希望でしたら簡略なものでしたらこちらに備えております。専門として学ぶのであれば、頑張ってお金を貯めてきちんとした学院へ行かれるか、どなたかへの弟子入りをされるのが確実でしょうね」
そりゃそうだよね。何事も肝心な事は特化して学ばないと意味はない。
「ベリエル様の加護を受けていらっしゃるので、どの分野でも伸びは期待できると思いますよ」
どの分野でもと言ってはいるが、それは暗に器用貧乏って事にはならないだろうか。
「ただその分申し上げにくいのですが、安易な選択を行うと何事も実らないということでもありますので、道はよく考えて歩む事をおすすめいたします。」
ほら、やっぱりー。なんでこうここはテンプレみたいにまさか万能な力が! とかそういう風にならないかな。ほんっとままならない。
「何れにせよ、大事なことは神とその力を知り、理解することです。さぁ、オーゲニア王国がエーデル教に残された歴史をしっかり勉強いたしましょう」
「えーと、魔法のお勉強とかは……」
「すべては歴史が語ってくれますよ。さぁ。」
ずどんと、分厚い本が机に置かれる。あれ、フィリーネさん優しそうとか思ってたけど、実はスパルタ系……?
「そろそろスティーグが迎えに――」
「彼の大体日が傾くまではお仕事をされてますよ。魔法を使い、冒険を志すのであれば、逃げてはなりません」
顔は笑顔だけど目が笑ってなーい!
にこにこと飽くまでも終始笑顔のフィリーネさんと睨めっこを続けながら僕はこの世界の歴史をがっつり学ぶハメになった。
「勉強は―― 嫌って程やったってツラしてるな」
夕方になって帰ってきたスティーグをぐったりとした顔で出迎えると、半笑いで頭をガシガシ撫でまわされる。
「メルタさんは算学がお得意なようです。当面は私の元に通い、歴史と算学を学ばれることで何れ開かれる道もあるでしょう」
僕が冒険者になりたいって思っていることを、フィリーネさんは秘密にしておいてくれた。きっと途中で心変わりをするんじゃないかとか思ってくれてるのかな。
「へっ、ガキっぽい見た目のわりにゃ中身はマシな方だったか?」
「僕がガキっぽかったらスティーグは中身が子供だよね」
「てめぇ…… 最初のおとなし気な雰囲気はどこにいきやがった」
ふーんだ。人のことを雑に扱う人には雑に対応してやる。ぷいとそらした顔を両手で掴まれてぐにぐにと揉まれる。
「ぶぎゅむぎゅ」
「スティーグさん。女の子の顔はそのように扱うものではありませんよ。特に女性の肌は弱いものです」
そうだそうだー、ちょっとは反省しろー、とか思っていると頭を上から押さえつけられる。
「時間取ってわりぃな、フィリーネ。これから頼むぜ」
「いいえ、人を教え導くことはこの身の責務です。お気になさらぬよう。」
「お前も礼ぐらい言えっての」
「明日もよろしくお願いしまーす」
明日はもうちょっとゆっくりできるとうれしいけど、そうはいかないだろうなぁ。
宿に帰る道のあかね色は疲れた目に、結構しみた。
昼食を食べ終えた僕らは再び書庫に戻り、勉強の続きを行っている。
「加護の元に種を育て、芽吹き枝を伸ばし葉を茂らせ、花咲き、実を宿すことに成功した者は神へと至るといわれています」
「いわれてるってことは、本当はわからないとか?」
「いいえ、過去には実際に神へ至った方の記録が残っております。今の狩猟神、パルム様は約520年前の人間です」
目の前に開かれた本には弓を持った女性の絵。これが狩猟神とやらになった人だろうか。傍らには彼女の来歴らしきものが記されており、それによれば彼女は幾多の魔物の襲来から人々を守り、その果てに当時の魔物の王であったハフギフーリーと戦い、神へと至ったらしい。
「植物の種が発芽に至るのに光・水・空気が必要なように、私どもに宿る種の発芽には魂の経験が肝要です。」
「魂の経験?」
「はい、狩猟神パルム様のように魔物等との闘いを糧とするのも経験の一つですね。それ以外にも様々な手段が経験であると考えられていますが
―― 実はパルム様より前の方については神としての姿のみの描写が多く、またパルム様以来、神に成られたお方も今のところいらっしゃらないため、具体的に何をすれば結実へと至るのかは未だ研究段階です」
つまりほとんど何もわからないに等しいということだ。とはいえ、魔物を倒すことが経験の一つであるならば、冒険者になるのはやっぱり道としては間違いではないのだろう。それにしても発芽すら条件がわからないとなれば、まさか植物を育てるよりも簡単ということもありえないし、更に条件は難しそうだ。これは次に神と出会うことがあれば、問い質した方がよさそうだ。心の片隅に留めておこう。
「またご加護によっても何をすれば発芽しやすいというのもまちまちでして、一概に何が答えというのも申し上げられません。種を発芽させても何も為されない方もいらっしゃいますし、種のまま偉大な成果を残される方もいらっしゃいますので、種のことはあまり考えすぎないほうが良いのかもしれませんね」
種は才能、と言い換えてもいいのかもしれない。磨いて光らせるも曇らせるも自分次第。神に成れるかどうかはその上での自分の行動次第だろう。
「それに比べますと、スキルや魔法については比較的容易で、スキルは自らの修練により手に入れるもの、魔法は神様の力を借り受けて望みの現象を引き起こすことです。どちらも加護による左右はございます」
「それだと、モノによっては似たような魔法とスキルが存在するってこと?」
「良い質問です。そうですね、修練の果てに魔法に近い力を得られる方もいらっしゃいます。基本的に同じ効果であれば歴史が古い分スキルより魔法が有利です、しかしながらスキル石をその身に宿す程の修練を為された場合は、その発動速度や研ぎ澄まされ方で魔法に勝ることも不可能ではありません。」
また本がめくられ、蜘蛛の巣のような絵が描かれたページになる。
「こちらはどのようなことを学べばどのスキルや魔法を得やすいか、などが凡そ体系化されています。構造上魔法も一緒に記入されているこちらの図が系統樹と呼ばれるものです。」
なんでこの世界って専門用語っぽいのがちょいちょいわかりにくい言葉なのかな。系統樹だってスキルツリーじゃダメなんだろうか。その方が僕はわかりやすいんだけどなぁ。
「系統樹につきましてはご希望でしたら簡略なものでしたらこちらに備えております。専門として学ぶのであれば、頑張ってお金を貯めてきちんとした学院へ行かれるか、どなたかへの弟子入りをされるのが確実でしょうね」
そりゃそうだよね。何事も肝心な事は特化して学ばないと意味はない。
「ベリエル様の加護を受けていらっしゃるので、どの分野でも伸びは期待できると思いますよ」
どの分野でもと言ってはいるが、それは暗に器用貧乏って事にはならないだろうか。
「ただその分申し上げにくいのですが、安易な選択を行うと何事も実らないということでもありますので、道はよく考えて歩む事をおすすめいたします。」
ほら、やっぱりー。なんでこうここはテンプレみたいにまさか万能な力が! とかそういう風にならないかな。ほんっとままならない。
「何れにせよ、大事なことは神とその力を知り、理解することです。さぁ、オーゲニア王国がエーデル教に残された歴史をしっかり勉強いたしましょう」
「えーと、魔法のお勉強とかは……」
「すべては歴史が語ってくれますよ。さぁ。」
ずどんと、分厚い本が机に置かれる。あれ、フィリーネさん優しそうとか思ってたけど、実はスパルタ系……?
「そろそろスティーグが迎えに――」
「彼の大体日が傾くまではお仕事をされてますよ。魔法を使い、冒険を志すのであれば、逃げてはなりません」
顔は笑顔だけど目が笑ってなーい!
にこにこと飽くまでも終始笑顔のフィリーネさんと睨めっこを続けながら僕はこの世界の歴史をがっつり学ぶハメになった。
「勉強は―― 嫌って程やったってツラしてるな」
夕方になって帰ってきたスティーグをぐったりとした顔で出迎えると、半笑いで頭をガシガシ撫でまわされる。
「メルタさんは算学がお得意なようです。当面は私の元に通い、歴史と算学を学ばれることで何れ開かれる道もあるでしょう」
僕が冒険者になりたいって思っていることを、フィリーネさんは秘密にしておいてくれた。きっと途中で心変わりをするんじゃないかとか思ってくれてるのかな。
「へっ、ガキっぽい見た目のわりにゃ中身はマシな方だったか?」
「僕がガキっぽかったらスティーグは中身が子供だよね」
「てめぇ…… 最初のおとなし気な雰囲気はどこにいきやがった」
ふーんだ。人のことを雑に扱う人には雑に対応してやる。ぷいとそらした顔を両手で掴まれてぐにぐにと揉まれる。
「ぶぎゅむぎゅ」
「スティーグさん。女の子の顔はそのように扱うものではありませんよ。特に女性の肌は弱いものです」
そうだそうだー、ちょっとは反省しろー、とか思っていると頭を上から押さえつけられる。
「時間取ってわりぃな、フィリーネ。これから頼むぜ」
「いいえ、人を教え導くことはこの身の責務です。お気になさらぬよう。」
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