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一章 始まりの道筋
それから
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それから僕はフィリーネさんや教会の人たちからいろんな事を学んだ。世界の成り立ち、神様の歴史、算数に国語―― そして魔法と武術。
まぁ武術に関してフィリーネさんはあまり良い顔はしなかったけども、『身を守る術』として教わることを許してくれた。教えてくれたのは聖堂に詰めてる騎士さんで手の空いてる人。それなりに傷だらけになる体を、魔法の授業の一環として癒してスティーグの元に帰る。これを何日も繰り返した。
魔法も覚えてしまえばなんのその。要は神様の故事から引っ張ってくる、古ければ古いほど効果を及ぼしやすいということさえ理解してしまえば、あとは暗記ものだった。魔力操作がーとか全属性使えるだと……! とかそういうのは一切なし。極論、故事のイメージがしっかりしていれば一言でも魔法は成立してしまうのだ。むしろひとことで収めない場合、神様の力の借り受けなので、発動すれば大災害しなければ身の破滅だなんて厄介な代物、それがこの世界の魔法だった。
とはいえ、きちんと事象を理解しているか否かも関わるので習得は容易ではない。フィリーネさん自身も得意なのは癒しに関する魔法のみだったので、僕が覚えられたのもその系列が2種類と攻撃用が1種だけ。いやはや、最初っから全部の魔法を使えるとかそういうチートは一切なかったのだ。ままならないね。
かわりに武術の方は、力の神様の加護がうまく働いてくれたのか、騎士の人が「冒険者として躓かない」程度にはできるようになったとほめてくれた。
少しづつ時間に余裕ができるようになってからは、フィリーネさんに紹介してもらったお店でちょっとしたアルバイトをしたりして、スティーグにお金を渡すこともできた。なんというか、最初は受け取るのをすっごい渋ってたね、彼。どうやっても受け取ってくれないので、最終的に彼の財布に忍び込ませていたら人の財布に手ぇ出すなって拳骨されたっけ。そこから口喧嘩を経て、僕が助かったと思うにふさわしい金額までは受け取ると約束させた。力で勝てなくても口では勝てるもんね。
ことここに至るまで星は3回巡り、僕は一応14歳ということになって身長も伸びた。うん、身長は伸びた。それ以外はって? 出せる力の割に筋肉がついていないように見えるね。細っこいままだ。まぁ筋肉ムッキムキな見た目になるっていうのも僕的にはちょっと考えものだったから、これは運がよかった。加護さまさまだね。それだけだよ。
「で―― 今なんつった? 俺ぁ耳が悪くなったのか? もう一回言ってみろ」
そんなこんなを経て僕は今、鋭い目を一層細めて、こめかみに青筋を這わせたスティーグといつもの宿のテーブルで睨み合っていた。
「冒険者になりたい。そう言ったよ。」
ズドンと勢いを付けて酒の入ったコップがテーブルにたたきつけられた。あまりの勢いに周囲が静まり返る。
「何度も言ったはずだな? 冒険者にはなろうと思うなって。てめぇ人の話聞いてなかったのか!」
「聞いてたよ。フィリーネさんにも反対はされた。それでも僕は冒険者になりたい。」
「人がわざわざ助けてやったのに、どこぞで野垂れ死ぬ道を選ぶってか? 冗談もたいがいにしやがれ!」
もう何も聞く気はない、そういわんばかりに酒を煽り、顔をそらす。だけど僕だって、ここで引くわけにはいかない。
神様に言われたことだって当然あるけど。それ以上に――
「僕を助けてくれた人みたいな冒険者になりたいって思うことが、そんなに悪いこと?」
「おー、悪いね。それこそ今まで働いてきたパン屋に勤めて、そこらのいい男ひっかけて、幸せに生きる道だってあるだろうがよ。」
「それはスティーグが思う僕の幸せだよね。僕自身の幸せじゃあない」
「生意気抜かしてんじゃねぇぞ! クソガキが! 何のために助けたと思ってやがる!」
2度目、コップをテーブルに叩きつけようと手が振り上げられるが、その手はそれよりもさらに大きい手によって防がれた。
「やかましい。騒ぐなら、外でやれ」
「うるせぇ、チクショウ!」
掴まれた手を振り払い、残りの酒を煽るとスティーグはテーブルにお金を叩きつけて外へ出て行ってしまった。まだ、話したいことだってあるのに。
「メルタは、少し、こっちへ」
顎で指され、大男さんの後ろについていく。カウンターを超えた先、彼の私室ともいえる部屋だ。
手持無沙汰に立っていると、椅子をすすめられる。彼と向かいあうように座ると、ゆっくりと口を開いた。
「なんで、冒険者なのに、冒険者になるなっていうのかな」
「あいつには、それなりの、過去がある。そして俺も、冒険者は進めない。若い奴が死んでいくのは、気持ちが良いものじゃ、ない」
「確かに、僕はその過去を知らないよ。だからって頭から否定しなくても……」
「俺から言えるのは、それだけだ。どうしても冒険者になるなら、もう一度、スティーグと、話し合うんだな」
それだけ言うとその大きいからだを揺らしながら部屋から出て行ってしまう。もう一度話し合うだなんて、できるんだろうか。
私室を出て、自分たちの部屋に向かう。扉を開けてみても、そこにスティーグはいない。
久々の、本当に久々の一人の夜を、僕はベッドで丸まって過ごした。
まぁ武術に関してフィリーネさんはあまり良い顔はしなかったけども、『身を守る術』として教わることを許してくれた。教えてくれたのは聖堂に詰めてる騎士さんで手の空いてる人。それなりに傷だらけになる体を、魔法の授業の一環として癒してスティーグの元に帰る。これを何日も繰り返した。
魔法も覚えてしまえばなんのその。要は神様の故事から引っ張ってくる、古ければ古いほど効果を及ぼしやすいということさえ理解してしまえば、あとは暗記ものだった。魔力操作がーとか全属性使えるだと……! とかそういうのは一切なし。極論、故事のイメージがしっかりしていれば一言でも魔法は成立してしまうのだ。むしろひとことで収めない場合、神様の力の借り受けなので、発動すれば大災害しなければ身の破滅だなんて厄介な代物、それがこの世界の魔法だった。
とはいえ、きちんと事象を理解しているか否かも関わるので習得は容易ではない。フィリーネさん自身も得意なのは癒しに関する魔法のみだったので、僕が覚えられたのもその系列が2種類と攻撃用が1種だけ。いやはや、最初っから全部の魔法を使えるとかそういうチートは一切なかったのだ。ままならないね。
かわりに武術の方は、力の神様の加護がうまく働いてくれたのか、騎士の人が「冒険者として躓かない」程度にはできるようになったとほめてくれた。
少しづつ時間に余裕ができるようになってからは、フィリーネさんに紹介してもらったお店でちょっとしたアルバイトをしたりして、スティーグにお金を渡すこともできた。なんというか、最初は受け取るのをすっごい渋ってたね、彼。どうやっても受け取ってくれないので、最終的に彼の財布に忍び込ませていたら人の財布に手ぇ出すなって拳骨されたっけ。そこから口喧嘩を経て、僕が助かったと思うにふさわしい金額までは受け取ると約束させた。力で勝てなくても口では勝てるもんね。
ことここに至るまで星は3回巡り、僕は一応14歳ということになって身長も伸びた。うん、身長は伸びた。それ以外はって? 出せる力の割に筋肉がついていないように見えるね。細っこいままだ。まぁ筋肉ムッキムキな見た目になるっていうのも僕的にはちょっと考えものだったから、これは運がよかった。加護さまさまだね。それだけだよ。
「で―― 今なんつった? 俺ぁ耳が悪くなったのか? もう一回言ってみろ」
そんなこんなを経て僕は今、鋭い目を一層細めて、こめかみに青筋を這わせたスティーグといつもの宿のテーブルで睨み合っていた。
「冒険者になりたい。そう言ったよ。」
ズドンと勢いを付けて酒の入ったコップがテーブルにたたきつけられた。あまりの勢いに周囲が静まり返る。
「何度も言ったはずだな? 冒険者にはなろうと思うなって。てめぇ人の話聞いてなかったのか!」
「聞いてたよ。フィリーネさんにも反対はされた。それでも僕は冒険者になりたい。」
「人がわざわざ助けてやったのに、どこぞで野垂れ死ぬ道を選ぶってか? 冗談もたいがいにしやがれ!」
もう何も聞く気はない、そういわんばかりに酒を煽り、顔をそらす。だけど僕だって、ここで引くわけにはいかない。
神様に言われたことだって当然あるけど。それ以上に――
「僕を助けてくれた人みたいな冒険者になりたいって思うことが、そんなに悪いこと?」
「おー、悪いね。それこそ今まで働いてきたパン屋に勤めて、そこらのいい男ひっかけて、幸せに生きる道だってあるだろうがよ。」
「それはスティーグが思う僕の幸せだよね。僕自身の幸せじゃあない」
「生意気抜かしてんじゃねぇぞ! クソガキが! 何のために助けたと思ってやがる!」
2度目、コップをテーブルに叩きつけようと手が振り上げられるが、その手はそれよりもさらに大きい手によって防がれた。
「やかましい。騒ぐなら、外でやれ」
「うるせぇ、チクショウ!」
掴まれた手を振り払い、残りの酒を煽るとスティーグはテーブルにお金を叩きつけて外へ出て行ってしまった。まだ、話したいことだってあるのに。
「メルタは、少し、こっちへ」
顎で指され、大男さんの後ろについていく。カウンターを超えた先、彼の私室ともいえる部屋だ。
手持無沙汰に立っていると、椅子をすすめられる。彼と向かいあうように座ると、ゆっくりと口を開いた。
「なんで、冒険者なのに、冒険者になるなっていうのかな」
「あいつには、それなりの、過去がある。そして俺も、冒険者は進めない。若い奴が死んでいくのは、気持ちが良いものじゃ、ない」
「確かに、僕はその過去を知らないよ。だからって頭から否定しなくても……」
「俺から言えるのは、それだけだ。どうしても冒険者になるなら、もう一度、スティーグと、話し合うんだな」
それだけ言うとその大きいからだを揺らしながら部屋から出て行ってしまう。もう一度話し合うだなんて、できるんだろうか。
私室を出て、自分たちの部屋に向かう。扉を開けてみても、そこにスティーグはいない。
久々の、本当に久々の一人の夜を、僕はベッドで丸まって過ごした。
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