異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

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一章 始まりの道筋

独り立ち

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「メルタちゃん、おまたせ」  

 しばらく何をするでもなく、広間を行き来する冒険者の人たちを眺めていると、不意に声がかけられた。どうやらメダルとやらができたらしい。 

「はい、これがここの街で冒険者として登録した証。他の街に入るにも身分証の代わりになるからなくさないようにね」
 鈍く銀色に光るメダルには片方に大きく盾と杖と剣の紋章、反対側には『赤髪のRothaarigeメルタMelta クラーンにてBei Klang』の文字とあまり見たことのない旗のような紋章が刻まれていた。いかつい文様だから多分国とか領地の紋章だろうか。

 縁には一か所穴があけられて、同じく鈍色の細い鎖が通されており、首から掛けられるようになっていた。持ち上げるとしゃらりと軽い音を立てるけれども、これが冒険者の証と思えば心持ち重いような気もする。  

「もし、あなたがどこかで行き倒れてる人に会って首にこの証を下げていたら、それを持ってきてね。場合によっては家族にとっての唯一の遺品になるから」

 要するに、僕が生きていた世界でいう認識票ドッグタグってことか。失くすのもそうだけど、僕のこれが届けられることのないようにしないとね。 

「あとは…… その恰好じゃどの仕事にも不向きだから、きちんと装備は揃えることね。冒険者になるってスティーグと別れたんだから、そのくらいは自分でできるわね?」
「はい」

 ラウラさんが口にした名前に少し心が抉られるけども、もう決めた事は変えられないし、変わらない。一言だけ返事を返すと、僕は手にしていたメダルを首にかけて、そのまま足を外へ向けた。 

「武器とか防具、探すならここから南に行ったところに比較的安いお店があるわ。ラウラからの紹介っていえば割引もあるから。いってみなさい」

 そんな僕の背中に声がかけられる。きっと紹介の見返りとかもあるんだろうけど、どの店がいいとか悪いとかまだわからない僕にとってはありがたい情報だ。まずはその店を探して、生きていくための道具をそろえよう。
―――――――――――――――――――――――

「お嬢ちゃんの手持ちの金で防具ならこの辺りかな」

 教えてもらって行った先のお店で出されたのは、それこそなんの変哲もないズボンとチュニック、皮鎧だった。一応女性向けのものらしく、腹部はコルセットの様な形でその上から胸部の鎧を重ねる形だ。だがなんだろう、異世界、ファンタジーって聞いて頭の中にまるでドレスみたいな鎧を若干想像してしまっていたのだから、ちょっぴり残念。ちなみにそういうのはないのかって聞いてみたら「そういうのも在るにはあるが、魔法付与もできてどんな攻撃にも咄嗟に対処できるベテラン向け」だそうだ。確かに太ももとかお腹とか露出してる鎧って一体何を防御するのかわからないもんね。そういう意味ではこの鎧だって悪くはない。きちんと要所には金属板もつけられてるし、分厚い皮はちょっとやそっとじゃ貫いたりできなさそうな硬さだ。ただ、うん。野暮ったい、それに―― 

「野暮ったいって気持ちはわかるけど、冒険者になるなら命あっての物種、見た目は後々でいいと思いますが」 

 いえ、それよりも…… 胸元スッカスカなのが悲しいんです。成長しろよ! 僕の体!

「隙間が気になるならあとで布でも詰めればいい緩衝材になりますよ。…… おっきくて合わないと特注だから、この方が良いんじゃないですか?」 

 格差を視覚で叩き込まれるのがいやなんですー!  まぁそれをこの人に文句いっても仕方ない。きっとこの大きさなのは店主さんの趣味の大きさなんだ……   

「いや、なんですその顔…… あと武器はこの辺りから選んでください。予算的にあまり良いのはないですけど」

 ぶすくれた顔をしていたのが通じてしまったのか、ちょっと困った顔をしながら油のにおいのする一角へ案内される。そこには乱雑に剣やら弓やらなんやかんや武器が一通りごちゃごちゃと置かれていた。鎧もさくっと決まったけど、武器だって使うものはもう決まっている。

「じゃあ、武器はこれで」

「鎧に野暮ったいって雰囲気だしといて、また野暮ったい武器を選んだね」

 そう、僕が選んだのは棒の先に尖った金属が取り付けられた――僕の腕ほどの長さのメイスだ。そりゃファンタジーだから剣を使って丁々発止だなんてのは憧れだけど、3年間聖堂の騎士さんと学んで学習したんだ。ぶん殴ったほうが早いって。

 剣は刃筋を通すことを考えたり、攻撃に際してどう防御されるかを考えたり、手入れだって色んなのが必要だ。だけどメイスはとっても簡単、とにかく勢いで殴る。下手な盾なんて腕ごとひしゃげるし、それこそ守ってない部分に当たれば一気に大ダメージだ。ね、すごい効率がいいよね!  幸いというかなんというか、力の神様による加護は僕の場合、物理的な力として機能してくれたから、重いもの分回す分については不都合がない。聖堂騎士さん曰く「あなたは技巧にて敵を斬るより、大槌か重さに任せて叩き斬る戦いが向いているでしょう。見た目によりませんね」だそうだ。見た目云々は余計だと思うけど。  

「買ってくれる分に文句はないよ。服と鎧とメイス、ナイフ全部で大銀貨8枚だね」 

 武器とか防具屋さんってイメージには程遠いほそっこい店主さんが、先もって渡していた僕のお金の袋から代金をつまみ取る。

 残るは大銀貨3枚。考えて使わないと……  

 ここから先、生き残るには自分の腕一本。あとはもう、やるしかないのだ。こうして僕は、冒険者としての一歩を踏み出した。
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