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三章 王都にて
友達と
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「そうなんだ、冒険者だったんだ」
あれからしばらくしてそこそこ打ち解けた僕らは、お互いの境遇を話し合っていた。
ミュールと名乗った彼女は商家の妾の子だったらしく、支度金だけ渡されて体よく追い出されたため、なんとか生きていく術を学ぶべく、この学院にやってきたらしい。
その出自もあって商人のことをあまり良く思っていないようで、最終的に魔法使いとして独り立ちするのが彼女の目標だとか。
「じゃあメルタは冒険者として私の先輩なんだ。また色々教えてね」
「といっても僕もそんなに出来ることがないのと、魔法を使える仲間がほしくて来た口だし、これからよろしく」
同い年で背格好も近い僕らであったが、大きな違いが一つある。もう言わずもがな、ばいーんである。同じくらいの年齢でここまで違うって何が原因なんだろう。若干悲しくなってくる。
「もうひとりの同室のタリヤちゃんは今多分打ち込みとかしてると思うから後で紹介するね」
こう、女の子ばかりの環境ってかなり久々だから、同性でありながらもどこか緊張してしまう。
アラン相手だったら軽口でも叩いて笑い合ってるんだろうけど、そもそも話題に乏しいのでどうしても沈黙の間ができてしまう。
「寄宿舎っていってもほとんど寝るためだけの場所みたいなものだし、すぐに慣れるよ。きちんと出先さえ報告してれば夜までに帰ってきてなくてもいいし。結構緩いと思うよ」
となると独自に泊りがけで仕事しにいったりする人もいるんだろうね。
僕としてはこの一年で自分の上達もそうだけど、しっかり仲間も見つけないといけないから、授業の方に重点を置きたいところだ。
「何ならお昼前に魔法の授業もあるから、早速受けてみる?」
「そうだね、一回どんな感じなのか見てみたいかも」
「授業なら私も一緒だから、鐘がなったら一緒に行こう」
早速一緒に行動できる仲間が見つかったのは良いことだ。
魔法の勉強となると少し気が重たくなるけど、これも出会いと自分の強化のためだ、仕方ない。
そう割り切ってしまえば、これからの一年という制限時間も楽しみなものになってくる。アランと少し離れることになるのは残念だけど、武術の方の授業なら一緒になれるかもしれないし。
あ、でもこんなこと考えてると僕がアランのことを恋しく思ってるみたいで癪だから、しばらく頭から外しておこう。
どうしても今朝の出来事が頭に登って気になるんだよね。別に日本にいた頃には恋愛も失恋もしたことあるし、初恋ってわけでもないのに妙にドキドキするのがちょっと腹立たしい。
僕ってあんな壁ドンもどきされて落ちるような軽い人間じゃないつもりだったんだけどなあ。
「さっきから難しそうな顔して考え込んでるけど、何かあった?」
「ううん、一緒に冒険者やってた子と今離れ離れだからちょっとどうしてるのかなーって」
「なになに? 男の子? 男の子なの?」
僕の言葉に急にミュールが飛びついてくる。あー、このぐらいの年の時って妙に人の恋話とか好きなんだよねぇ。
「男の子だけど、別にそういうんじゃないよ。相棒だよ相棒」
「いいじゃない、危ない冒険を経て燃え上がる恋! 応援するわよ!」
なんか完全にスイッチが入ってしまったらしく、僕の話は聞いてくれそうにもない。
でもアランに恋、かぁ……
うん、先日のデリカシーの無さについて大減点だから、ないない。
「そういうミュールこそどうなのさ。寄宿舎にいるっていってもここには男の子いるんだから、ちょっと色気のある話でもないの?」
「私? うーん、気になる子がいないわけじゃないんだけど……」
「だけど?」
「身分の差がどうしてもついてくるのよ。だから無理かなーって」
くぁー、そっちだって良い青春してるじゃん! 身分違いの恋とかそれこそ燃え上がるんじゃないの?
「それに向こうからしたら、私なんて群がってくる女の子の一人だろうし…… 無理だよ」
「そんな事ないない! こういうのはどうやって印象に残るかが鍵だからさ、僕は応援するよ!」
人の恋話ってやっぱり楽しいよね。もちろん応援はするし、必要なら手助けだって何でもするつもりだ。
それに身分違いの恋とかまさにテンプレの流れ、これを間近で応援しないで何をしろっていうのさ。
まぁ僕の方は、乙女の柔肌触りまくりーの壁ドン男だから横に置いておいてほしい。
こういう色気のある話って久々だからか、少し熱がはいってしまう。
これで彼女を仲間として勧誘する手は途絶えちゃうけど、他にも魔法学びたい人はたくさんいるだろうし、そっちはこの後の授業に期待しよう。
それ以外にも、スキルについても学べるだろうし、ギルドで聞いた情報では食事もタダらしいから色々と期待できるよね。
僕としては補助系のスキルをしっかり覚えて、前衛としてきっちり立ち回れるようにしたいっていうのがメインかな。
特に今後も神様と戦闘になる可能性を鑑みると、人を増やすのも大事だけど、個人としての能力をしっかりこの機会に高めておきたい。
その点についてはきっとアランも同じだろう。だからこそ、お金を稼ぐ手を止めてここにくる決心をしたわけだし、そのための金貨10枚だ。損にならないようにしたいね。
なんて色々考えているうちに、敷地内の鐘楼から鐘の音が響き、僕はミュールに案内されるに任せて別の建物にある教室へ向かった。
あれからしばらくしてそこそこ打ち解けた僕らは、お互いの境遇を話し合っていた。
ミュールと名乗った彼女は商家の妾の子だったらしく、支度金だけ渡されて体よく追い出されたため、なんとか生きていく術を学ぶべく、この学院にやってきたらしい。
その出自もあって商人のことをあまり良く思っていないようで、最終的に魔法使いとして独り立ちするのが彼女の目標だとか。
「じゃあメルタは冒険者として私の先輩なんだ。また色々教えてね」
「といっても僕もそんなに出来ることがないのと、魔法を使える仲間がほしくて来た口だし、これからよろしく」
同い年で背格好も近い僕らであったが、大きな違いが一つある。もう言わずもがな、ばいーんである。同じくらいの年齢でここまで違うって何が原因なんだろう。若干悲しくなってくる。
「もうひとりの同室のタリヤちゃんは今多分打ち込みとかしてると思うから後で紹介するね」
こう、女の子ばかりの環境ってかなり久々だから、同性でありながらもどこか緊張してしまう。
アラン相手だったら軽口でも叩いて笑い合ってるんだろうけど、そもそも話題に乏しいのでどうしても沈黙の間ができてしまう。
「寄宿舎っていってもほとんど寝るためだけの場所みたいなものだし、すぐに慣れるよ。きちんと出先さえ報告してれば夜までに帰ってきてなくてもいいし。結構緩いと思うよ」
となると独自に泊りがけで仕事しにいったりする人もいるんだろうね。
僕としてはこの一年で自分の上達もそうだけど、しっかり仲間も見つけないといけないから、授業の方に重点を置きたいところだ。
「何ならお昼前に魔法の授業もあるから、早速受けてみる?」
「そうだね、一回どんな感じなのか見てみたいかも」
「授業なら私も一緒だから、鐘がなったら一緒に行こう」
早速一緒に行動できる仲間が見つかったのは良いことだ。
魔法の勉強となると少し気が重たくなるけど、これも出会いと自分の強化のためだ、仕方ない。
そう割り切ってしまえば、これからの一年という制限時間も楽しみなものになってくる。アランと少し離れることになるのは残念だけど、武術の方の授業なら一緒になれるかもしれないし。
あ、でもこんなこと考えてると僕がアランのことを恋しく思ってるみたいで癪だから、しばらく頭から外しておこう。
どうしても今朝の出来事が頭に登って気になるんだよね。別に日本にいた頃には恋愛も失恋もしたことあるし、初恋ってわけでもないのに妙にドキドキするのがちょっと腹立たしい。
僕ってあんな壁ドンもどきされて落ちるような軽い人間じゃないつもりだったんだけどなあ。
「さっきから難しそうな顔して考え込んでるけど、何かあった?」
「ううん、一緒に冒険者やってた子と今離れ離れだからちょっとどうしてるのかなーって」
「なになに? 男の子? 男の子なの?」
僕の言葉に急にミュールが飛びついてくる。あー、このぐらいの年の時って妙に人の恋話とか好きなんだよねぇ。
「男の子だけど、別にそういうんじゃないよ。相棒だよ相棒」
「いいじゃない、危ない冒険を経て燃え上がる恋! 応援するわよ!」
なんか完全にスイッチが入ってしまったらしく、僕の話は聞いてくれそうにもない。
でもアランに恋、かぁ……
うん、先日のデリカシーの無さについて大減点だから、ないない。
「そういうミュールこそどうなのさ。寄宿舎にいるっていってもここには男の子いるんだから、ちょっと色気のある話でもないの?」
「私? うーん、気になる子がいないわけじゃないんだけど……」
「だけど?」
「身分の差がどうしてもついてくるのよ。だから無理かなーって」
くぁー、そっちだって良い青春してるじゃん! 身分違いの恋とかそれこそ燃え上がるんじゃないの?
「それに向こうからしたら、私なんて群がってくる女の子の一人だろうし…… 無理だよ」
「そんな事ないない! こういうのはどうやって印象に残るかが鍵だからさ、僕は応援するよ!」
人の恋話ってやっぱり楽しいよね。もちろん応援はするし、必要なら手助けだって何でもするつもりだ。
それに身分違いの恋とかまさにテンプレの流れ、これを間近で応援しないで何をしろっていうのさ。
まぁ僕の方は、乙女の柔肌触りまくりーの壁ドン男だから横に置いておいてほしい。
こういう色気のある話って久々だからか、少し熱がはいってしまう。
これで彼女を仲間として勧誘する手は途絶えちゃうけど、他にも魔法学びたい人はたくさんいるだろうし、そっちはこの後の授業に期待しよう。
それ以外にも、スキルについても学べるだろうし、ギルドで聞いた情報では食事もタダらしいから色々と期待できるよね。
僕としては補助系のスキルをしっかり覚えて、前衛としてきっちり立ち回れるようにしたいっていうのがメインかな。
特に今後も神様と戦闘になる可能性を鑑みると、人を増やすのも大事だけど、個人としての能力をしっかりこの機会に高めておきたい。
その点についてはきっとアランも同じだろう。だからこそ、お金を稼ぐ手を止めてここにくる決心をしたわけだし、そのための金貨10枚だ。損にならないようにしたいね。
なんて色々考えているうちに、敷地内の鐘楼から鐘の音が響き、僕はミュールに案内されるに任せて別の建物にある教室へ向かった。
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