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二章 新たな出会いと冒険

入学

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翌朝、どこか気まずい空気の中ながらも朝食を食べ終えた僕たちは、ギルドに学校の場所を聞いて、その場へ向かった。

 出迎えてくれたのは巨大な門。どうやら聞いた話では、とある大貴族の屋敷だった一区画を丸々学校として開放しているのだとか。

 もともとは庭だったであろう場所は均されて、ところどころに打ち込み人形が付きたてられている。目のまえに堂々とその姿をさらす学舎もとてつもなく大きい。こういうのもまたファンタジーっぽいなぁとか思いながらも場所を把握しているアランについていく。



「今からって入学できますか?」



 しばらく歩いた後、学者内の受付と思しき男性にアランが問いかける。珍しく言葉が丁寧だ。



「ええ、可能ですよ。オーゲニア王立教育学院は学びを望まれる方をいつでも受け入れております」

「二人分、入学をお願いしたいんですけど」

「承知致しました。では入学金は二人分で金貨20枚ですが、御持ち…… ですね」



 アランの腰袋から金貨が取り出される。僕たちのなけなしのお金だ。でもお金だけ出せばだれでも受け入れてくれるって、入学試験とかはないのかな? よくテンプレだと、入学試験でドカーンとやって、こいつ何者!? みたいな展開があるんだけど、そういうのないの?



「では、何の学びを志されますか?」



「えっと俺は剣を、こいつはえーと魔法と武術両方で」



 ちょっと待って、なんで僕だけ二つっていうか魔法まで勉強しなきゃなんないのさ。

 抗議の意味も含めて彼の服を引っ張るが、涼しい顔で無視された。



「では、こちらの書類を」



 2枚の紙が手渡される。1枚は入学を志望しますっていう紙と、もう1枚は怪我においては個人の責任であること、また殺人にいたった場合は王国の法で裁かれることなどなど注意事項とそれに対する誓約書だった。

 なんだろう、妙に日本を思い出させる書類仕事だ……



「ありがとうございます。では寄宿舎の方にご案内しますので、こちらへ」



 書類を確認した男の人がそれを後方の女性に手渡すと、受付から出て僕たちを案内してくれる。



「ちょっとアラン、なんで僕だけ魔法と武術ダブルなの」

「いや、おれ魔法絶対無理だし。メルタは少しは使ってるんだから手が増えていいかなーって思ってさ」

「その実、人探しを僕に押し付けようってんじゃないだろうね」

「ははは、俺には剣と弓以外無理!」



 絶対押し付けるつもり満々じゃん。もう、こうなったら僕の独断と偏見で選んじゃうし。後で文句言っても知らないからね。

 さっきまでの雰囲気を振り払うかのように笑う彼に視線を縫い付けたまま、廊下を歩く。



「お二人は仲がよろしいようですが、寄宿舎では一応男女は別となっております」



 いや、別にそういう関係なわけじゃないんですけど。何れにせよ、僕が声を掛けるのは女の子になるだろうから、その方がありがたい。

 あとは運よく魔法を中心に覚えようとしていて、冒険者を目指している子がいるかどうかだ。



「ではアランさんはこちらへ、メルタさんはしばらくお待ちください。別に案内の者がまいりますので」



 いつの間にか辿り着いていた分かれ道になった渡り廊下で、二手に分かれる。

 ぼんやりと何をするでもなく、床の上を眺めているとコツコツと別の足音が聞こえてくる。

 その音に視線を上げると、そこには先ほど書類を受け取っていた女性の職員がこちらへ向かってくるところだった。



「メルタさんですね、女性の宿舎はこちらです」



 先ほどアランが案内されていったのとはまた別の方向へ案内される。

 なんか寄宿学校で魔法を覚えるってなると某魔法学校みたいなのを想像していたけれども、宿舎の中はなんの変哲もないただの部屋数の多いお屋敷といった感じだった。

 時々すれ違うのは僕と同じくらいかその前後の、当然女性ばかりだ。



「寄宿舎では原則相部屋になりますので、一緒になる部屋の方とは仲良くしてくださいね」



 やがて、案内してくれた職員さんの足が一つの部屋の前で止まる。扉にはネームプレートらしき小さな金属板がつけられており、その4つの内2つには文字が記入されていた。



「では、こちらの部屋がメルタさんの居室になります。学舎につきましては、一年ごとに更新になりますので、来年の今頃学舎を出られるか、継続して学びを志すかを職員まで申し出てください。継続の場合は改めて金貨10枚をいただくことになりますので、そちらも併せてよろしくお願いいたします」



 それだけ言い切ると、もう仕事は終わったといわんばかりに去って行ってしまう。

 いきなりここに一人で放り出されても若干困るのだけれども、アランに声を掛けたときのことを思えば、同じ女性に声をかけるくらいなんてことはない。そう自分に言い聞かせると、思い切って目のまえの扉のをこつこつ叩く。



「はいはーい」



 中からは鈴の様なころころとしたかわいらしい声が返ってくる。扉が開けば、そこには焼きたての様な目に優しい茶色の髪をした女の子がいた。僕と身長は同じくらいなので、思いっきり見つめあうことになる。



「えーと、新しい学生さん?」

「はい、メルタっていいます。今日からよろしくお願いします」

「同じくらいの年でしょ? そんな固くならなくていいから、仲良くしよ」



 誘われるがままに中に入れば、2段ベッドが二つに壁に向けて学習机のようなデスクが4つ並べられている部屋だった。



「ごめんね、二人で下の段を使ってるから、上の段を使って頂戴。荷物はここね」



 教わった場所に荷物を固めておき、入って右側のベッドの上が僕の居場所になった。

 さぁ、これからは情報集めとお勉強の時だ。
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