異世界島流しの罪名は、世界樹の枝を折ったから!? ~一難さってまた一難な僕っ娘冒険記~

矢筈

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三章 王都にて

さぁ、初めてのチートだ!

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「―――――Liberiuris
 
 書庫に誰もいない事を確認して、力を発動させる。そうすれば僕の手の上に光輝く本が広がる。
 いちばんこの本が目立ちそうだけど…… 僕の思っている理屈が通じるならば、いけるはず。
 
隠れ蓑Occultus
 
 自分の姿がどうなっているかはわからないけど、この魔法で姿を隠すことができているはずだ。僕の周囲にはヴェールのように揺らめく透明な壁が浮かんでいる。多分これが効果範囲だろう。そこそこの広さはある。
 
音無しSilentium
 
 こっちの魔法で音も消える。うん、この本は一応神様の言う通り、本を開いていればどんな魔法も発動詩だけで使えるようだ。
 とくに落とし穴もなく、魔法は発動している。
 あとは持続時間だ。魔法を発動させたまま、書庫の隅っこで息をひそめる。
 ………… 結構な時間を本を読んだりして過ごしたが、一向に切れる様子がない。途中で人がきたけど、僕の目の前を何にも気づかず通りすぎて行ったくらいだ。んーと、元に戻ろうとしたらどうすればいいんだろ。と思っているうちに、透明のヴェールが消える。うん、大体本2冊を流し読みするぐらいだから、1時間くらいだろうか。時間にはかなりの余裕がある、つまり事前に発動させて通り抜けられるわけだ。
 学院から王都の門を抜けるくらいは十分に保つだろう。次点の問題は門が開いているかどうかだ。最悪しまっていることを考えて次の魔法を試す。
 
Volanscaelum
 
 ふっと持ち上げられる感覚とともに、僕の体が宙に浮かぶ。これも問題なし。うん、知恵の神様の力は無事にチートな効果を持っていてくれるらしい。これだけ使えれば、脱走は比較的楽にできる。降り方は…… これ昇るのはいいけど、どうすればいいんだろう。空中であたふたしてみるも、下に下がる気配がない。ええい、これは問題だ。なんかほかに魔法はないだろうか。
 しばらくもたもたしていると、この魔法の特性がわかった。この魔法、飛空だなんて名前になっているけど、実質無重力状態のようなものなのだ。地面をければ、その方向に一気に飛んでいくことができる。つまり降りる時はさかさまになって壁や天井をければいい。そして地面に再び足をつけば魔法は解除される。よかった、これでなんとかする方法ができた。
 確認がすれば、ここに居る必要もない。法の書を消して書庫を出る。
 あとは部屋に戻って荷物を纏めないと。
 部屋の扉を開けてみれば、ミュールとタニヤが荷物を纏めているところだった。
 
「タニヤも一緒に来てくれるんだね」
「……家的には良くないけど、放り出された身だから」
 
 そうだよね、タニヤは騎士の出だ。本来なら誇って今回の徴兵に参加しなければいけないくらいだろう。でも彼女としてはそこまでの思い入れはないらしい。
 
「メルちゃん、大丈夫なの?」
 
 その中でもやっぱり不安げなのはミュールだ。何せ方法も何も伝えていないのだから、その不安な気持ちはわかる。でも今知られて万が一にでも誰かに伝わればまずいことになるかもしれない。だからこそ、何も言えない。
 
「僕を信じてほしい」
 
 僕の真剣な表情に何かを感じたのが、黙って頷くと彼女は荷物整理に戻っていった。
 
「ただ、ミュールも良かったの? 好きな人と――」
「彼は貴族だもん。私とはどうやっても立ち位置が違うから…… それに彼に伝えてバレた時にメルちゃんに迷惑かかるでしょ?」
 
 どこか悲しそうな顔で答える。そっか、結局彼女は恋心よりも、僕たちを取ってくれたわけだ。彼女の悲しみはわからないでもない。
 でも脱走を手引きする側である以上、僕はこれ以上何もいうことができなかった。
 
「生きていれば、いつかまた会えるから。その為に私は生き残る道をえらんだだけ、メルちゃんまで悲しむ必要はないよ」
 
 いつの間にか、僕の眉根にもしわが入っていたらしい。心配してくれたミュールが僕の頭を抱きしめて撫ででくれる。
 わーお、顔にばいーんがダイレクトアタックだ。うん、今は何もいわないでおこう。
 夕食後、夜の帳が下りてきた頃、窓の外を見れば星々が瞬いている。今日は雲一つない快晴だ。月明かりのおかげで真っ暗というわけではないけど、外はかなり暗い。
 この時間はみんな寝静まっている時間なので、音をたてないようにこっそりと行動を開始する。
 
Liberiuris
 
 部屋で力を発動させれば、光輝く本が手に現れる。
 起き上った二人と肩をよせ、隠れ蓑と音無しを唱えれば、見えず聞こえずの塊の出来上がりだ。よっぽど変なことをしない限り気づかれないだろう。
 ドアを少し開けて周囲を伺うも、特に何もなし。あとは僕が手に持った本を閉じないように気を付けて移動するのみだ。
 僕たちは恐る恐る廊下を進み、男子寮の方へと向かった。
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