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三章 王都にて
急転
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「はーどわーくぅ」
休みの日の夜、僕はまだ早い時間ではあるものの、自分のベッドの上に転がっていた。
ここ数か月、普通の日は学校の授業に調べもの、休みの日は実績稼ぎで休む余裕がほとんどなかった。
さすがの僕でも疲れるというものだ。
それよりも不満というかもやもやする点もある。あの日以来、アランの僕との距離が若干遠いことだ。
今までは手を取ってくれたりとかあったのに、最近はめっきりだ。
釣った魚には餌をやらないタイプなんだろうか。いやまぁ釣り上げられたつもりはないんだけど。
一体どういうつもりなんだろう。
そんなことを考えながらぽやーっとしているといつの間にか眠ってしまっていた。
翌日、目を覚まして朝食を済ませて教室へ向かうと何やら騒がしかった。
「なにかあったの?」
「帝国側が条約破りの戦術で、王国の砦を3つも焦土にしたって……」
なにか不安そうな顔で教えてくれたのはミュールだ。
つい先日紛争中とは聞いていたけど、またなかなかヤバい状況になっているらしい。
しかも条約破りとは穏やかじゃないね。
「それで、王国側も兵力補充のために、志願兵を学校にも求めてきてるのよ」
なるほど、ミュールの不安顔の原因はそれか。
渡された紙を見てみれば、怪しい文面が踊っている。
生還の果てには名誉と称賛だなんて、条約破ってくる相手に生還だなんて頭が痛くなってくるね。
しかも、外を見てみれば、学校の外へ通じる門は閉じられ、外には兵士が数人立ちふさがるようにして立っている。
なんてことはない、志願とは口ばかりでどうにかして強制的に徴用するつもりなのだ。
何せ街や村の若者を徴用するよりも、ここにいる人間を集めた方が魔法にしろ武術にしろ使える可能性が高いんだから。
これはまた、悩ましいことになったなぁ。
そう考えていると、教室の扉が開いてアランがこっちへ手招きしてくる。
「どうしたの?」
「いや、メルタも聞いただろ、これ」
彼も手に件の紙を持っている。アランもどうしたものか悩んでいるのだろう。
「うーん、徴兵されるつもりはないから、脱走しようかなって」
「できるのか?」
「まぁ門さえなんとかできれば」
正門はとてつもなく大きいが、裏門はそうでもない。魔法をいくつか重ねれば抜けることも不可能じゃない。
だけど問題はそれよりも……
「僕たちが脱走したとして、ミュールとかタニヤを残していくのは気が重いんだよね……」
「だよなぁ…… 男の方は逆に盛り上がってるけど、そっちはそうでもないか」
逃げ出す手段はあったとしても、どうしてもその腰が重くなってしまう。
友達が徴兵を喜んでいないのに、おいていくなんて僕には、出来難い。
「僕のわがままで、二人だけを救っても、他の人はどうなんだっていうのもあるし」
一人救うなら、全員を救わないとただのエゴになる。
かといって一体どれだけの人間が脱走を願って、それを成し遂げられるのだろうか。
もし失敗でもすれば、普通に徴兵されるよりも厳しい状況に置かれるであろうことは想像に難くない。
「わがままでも、いいんじゃねぇの。神様だって世界の全員は救えねぇよ」
アランの言葉ではっとする。それは、確かにそうだ。
いつだって救われるのは、自分で動いて藁をも掴む思いで足掻いた人間だけだ。
「じゃあ、僕のわがままでミュールとタニヤに声を掛けるよ。方法は夜、話すね」
「おう、俺のダチはみんな喜んで行く奴ばっかだから、気にするなよ」
それだけいって彼と別れる。うん、腹は決まった。
ここでのんびりと自体が悪化するのを待っている場合じゃない。
「ミュール」
「ねぇ、どうしようメル…… 戦争で徴兵って、人を殺さないといけないの?」
声を掛ければ怯えで震えた声でミュールが返してくる。
そんな彼女の耳元にそっとつぶやく。
「本当に徴兵で連れていかれる前に、今日の夜、学校を脱走しよう」
それでも彼女の不安そうな顔は変わらない。
「だ、大丈夫なの?」
「ちょっとした裏技でなんとかできると思うんだ。ただ徴兵されて戦場に連れていかれるのを待つよりいいかなって」
「……メルちゃんの事を信じる。何をすればいい?」
怯えの表情が消え、どこか決心した顔でミュールが答える。
「タニヤにも声をかけておきたいんだ。頼める? 僕は方法の実験だけしてこないと」
「わかった。まかせて。他の子には……」
「ごめん、僕がなんとかできるのは、僕の手が届く範囲だけなんだ。それだけは、理解してほしい」
「そう、だよね。」
こればかりは、悪いと思う。けど、きっと魔法だって万能じゃない。僕だってできることには限界がある。
その限界がわからない以上、不確定要素は含めたくないんだ。
「私こそ、無理言ってゴメンね」
ミュールが悲しげに笑うのを見て、胸がちくりとする。
本当はもっと色々やりたいんだけどね。
さて、僕は僕で実証実験をしてみないと。ぶっつけ本番はさすがに怖くなる。
ひっそりと教室を抜け出すと、僕は書庫へ向かった。
休みの日の夜、僕はまだ早い時間ではあるものの、自分のベッドの上に転がっていた。
ここ数か月、普通の日は学校の授業に調べもの、休みの日は実績稼ぎで休む余裕がほとんどなかった。
さすがの僕でも疲れるというものだ。
それよりも不満というかもやもやする点もある。あの日以来、アランの僕との距離が若干遠いことだ。
今までは手を取ってくれたりとかあったのに、最近はめっきりだ。
釣った魚には餌をやらないタイプなんだろうか。いやまぁ釣り上げられたつもりはないんだけど。
一体どういうつもりなんだろう。
そんなことを考えながらぽやーっとしているといつの間にか眠ってしまっていた。
翌日、目を覚まして朝食を済ませて教室へ向かうと何やら騒がしかった。
「なにかあったの?」
「帝国側が条約破りの戦術で、王国の砦を3つも焦土にしたって……」
なにか不安そうな顔で教えてくれたのはミュールだ。
つい先日紛争中とは聞いていたけど、またなかなかヤバい状況になっているらしい。
しかも条約破りとは穏やかじゃないね。
「それで、王国側も兵力補充のために、志願兵を学校にも求めてきてるのよ」
なるほど、ミュールの不安顔の原因はそれか。
渡された紙を見てみれば、怪しい文面が踊っている。
生還の果てには名誉と称賛だなんて、条約破ってくる相手に生還だなんて頭が痛くなってくるね。
しかも、外を見てみれば、学校の外へ通じる門は閉じられ、外には兵士が数人立ちふさがるようにして立っている。
なんてことはない、志願とは口ばかりでどうにかして強制的に徴用するつもりなのだ。
何せ街や村の若者を徴用するよりも、ここにいる人間を集めた方が魔法にしろ武術にしろ使える可能性が高いんだから。
これはまた、悩ましいことになったなぁ。
そう考えていると、教室の扉が開いてアランがこっちへ手招きしてくる。
「どうしたの?」
「いや、メルタも聞いただろ、これ」
彼も手に件の紙を持っている。アランもどうしたものか悩んでいるのだろう。
「うーん、徴兵されるつもりはないから、脱走しようかなって」
「できるのか?」
「まぁ門さえなんとかできれば」
正門はとてつもなく大きいが、裏門はそうでもない。魔法をいくつか重ねれば抜けることも不可能じゃない。
だけど問題はそれよりも……
「僕たちが脱走したとして、ミュールとかタニヤを残していくのは気が重いんだよね……」
「だよなぁ…… 男の方は逆に盛り上がってるけど、そっちはそうでもないか」
逃げ出す手段はあったとしても、どうしてもその腰が重くなってしまう。
友達が徴兵を喜んでいないのに、おいていくなんて僕には、出来難い。
「僕のわがままで、二人だけを救っても、他の人はどうなんだっていうのもあるし」
一人救うなら、全員を救わないとただのエゴになる。
かといって一体どれだけの人間が脱走を願って、それを成し遂げられるのだろうか。
もし失敗でもすれば、普通に徴兵されるよりも厳しい状況に置かれるであろうことは想像に難くない。
「わがままでも、いいんじゃねぇの。神様だって世界の全員は救えねぇよ」
アランの言葉ではっとする。それは、確かにそうだ。
いつだって救われるのは、自分で動いて藁をも掴む思いで足掻いた人間だけだ。
「じゃあ、僕のわがままでミュールとタニヤに声を掛けるよ。方法は夜、話すね」
「おう、俺のダチはみんな喜んで行く奴ばっかだから、気にするなよ」
それだけいって彼と別れる。うん、腹は決まった。
ここでのんびりと自体が悪化するのを待っている場合じゃない。
「ミュール」
「ねぇ、どうしようメル…… 戦争で徴兵って、人を殺さないといけないの?」
声を掛ければ怯えで震えた声でミュールが返してくる。
そんな彼女の耳元にそっとつぶやく。
「本当に徴兵で連れていかれる前に、今日の夜、学校を脱走しよう」
それでも彼女の不安そうな顔は変わらない。
「だ、大丈夫なの?」
「ちょっとした裏技でなんとかできると思うんだ。ただ徴兵されて戦場に連れていかれるのを待つよりいいかなって」
「……メルちゃんの事を信じる。何をすればいい?」
怯えの表情が消え、どこか決心した顔でミュールが答える。
「タニヤにも声をかけておきたいんだ。頼める? 僕は方法の実験だけしてこないと」
「わかった。まかせて。他の子には……」
「ごめん、僕がなんとかできるのは、僕の手が届く範囲だけなんだ。それだけは、理解してほしい」
「そう、だよね。」
こればかりは、悪いと思う。けど、きっと魔法だって万能じゃない。僕だってできることには限界がある。
その限界がわからない以上、不確定要素は含めたくないんだ。
「私こそ、無理言ってゴメンね」
ミュールが悲しげに笑うのを見て、胸がちくりとする。
本当はもっと色々やりたいんだけどね。
さて、僕は僕で実証実験をしてみないと。ぶっつけ本番はさすがに怖くなる。
ひっそりと教室を抜け出すと、僕は書庫へ向かった。
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