無能と罵られて伯爵家を追放された先は、危険度SSの魔獣の森でした~ハズレスキル《コピー》が覚醒したので危険地帯を開拓します~

果 一@【弓使い】2巻刊行決定!!

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第26話 望まれぬ客

《三人称視点》

 宿屋を満喫した。
 端から見れば、それは普通で当たり前のことだろう。
 本来宿屋とは、一日の疲れを癒し、翌日のために英気を養う場であるのだから。万が一にも、ストレスなどあってはならない。

 だが――それは、あくまで帝都などにある宿だ。
 忘れてはならない。帝国の僻地にあるこの魔獣の森は――安らぎなどとは程遠い、嘆きの砂漠、死神の絶海に並ぶ、世界三大魔境だということを。

 そんな森の、ど真ん中で――ハンス達四人は、温泉にのんびり浸かり、“キラー・ボア”と思しき肉のステーキに舌鼓を打ち、その上ぐ~っすりと朝まで眠ってしまった。

「いやいやいやいや、おかしいだろ!? どうなってんだよ、ここは!」

 朝の陽ざし差し込む開放的なエントランスで、仲間たちを前にしたリーダーのハンスは、思わずといった調子でそう叫んでいた。

「キラー・ボアのお肉って、あんなに美味しかったっけ? 前、集団討伐の報酬でもらったことがあったけど……ここまでの味じゃなかったわ」
「ああ。ありゃ相当仕込みに手間暇かけてるぜ……それに、温泉もすごかったな。たしか、オオヤマト帝国の文化だったか? 星空を見ながらの入浴が、あんなにもいいものだったなんて……目から鱗ってもんだ」

 エインとゴーラルが、ハンスに続いて首肯する。
 料理の凝りようも、疲れを癒す温泉も、どれも一級の宿に劣らない。いや、そればかりか、圧倒的に優れているとさえいえる。
 なにせ――

「常に探知魔法をかけて、それでも風の音にさえ怯えながら夜を明かしていたのに……まったくストレスがありませんでしたわ」

 カーミルが、頬に手を当てながら話を締めくくるようにそう言った。

 強力な魔獣が絶えず徘徊するこの特別警戒区域で、誰もが周囲を警戒せずに眠ることができてしまった。警戒すべき魔獣の襲撃の気配も、まるでなかった。

 さすがに、ベッドには布製品が使われておらず、カサカサとした肌触りだったが……この場所で、温もりに包まれながら眠ることがどれほど大変かわかっているから、文句など出ようはずもなかった。

「危険地帯で、庭に“フレア・フォックス”までいるもんだから、最初は警戒してたが……」
「警戒するなんて、バカらしかったわね」

 ここまでぶっ飛んでいると、一周回って落ち着いてくるものだ。
 ハンス達が苦笑いしていると、ふと奥から人影が現れた。

「おはようございます、お客様」

 朝日を照り返す鮮やかな茜色の髪と、理知的な美貌を持つ和装の少女だった。
 この宿屋の看板娘一号をやっている――アカネと言ったか?

「昨晩はよく眠れたかしら?」
「え、ええ。おかげさまで。マジで、信じられないくらいぐっすり眠れたぜ」

 ハンスがそう答えると、アカネは「よかったです」と花開くような笑みを浮かべる。
 その笑顔が、気の休まらない冒険の日々で心がささくれ立っていたハンスの胸に、優しく染みわたっていく。

「うわ、あんた。なに鼻の下伸ばしてんの?」
「な、何を言うんだエインッ! お、おお、俺は別に、コロッと落とされてなんかねぇからな!?」

 冷や汗まみれで弁明するハンスだが、逆効果だったのかエインの眼はさらに鋭くなるだけだった。

「あ、そうだ。もうそろそろ朝ご飯ができるので、よかったら食堂へ」
「! そ、そうっすか! いやぁ~楽しみだなぁ。昨日の夕飯も美味かったから、今日も楽しみだぜ!」

 話題が変わったことをこれ幸いにと、ハンスは朝ご飯の話に飛びつく。
 エインはさらにゴミを見る目を向けるばかりだが、朝ご飯じたいは楽しみなのか、浮足立った様子だった。

「今日の朝ご飯はなんすか?」
「“ファング・ラビット”のもも肉のベリーソース添えと、野草とキノコのサラダと聞いてますよ?」
「ふ、“ファング・ラビット”って……鋼鉄を噛み砕く牙を持ってる、あの魔獣か?」
「味の想像がつきませんわね。それに、昨日の“キラー・ボア”のときも思いましたが、ランクBに匹敵する魔獣のお肉を、いったいどこから仕入れているのでしょう」

 ゴーラルとカーミルが、疑問を口にする。
 それは、ハンスも昨日から持っていた疑問だった。キノコや野草は、その辺に生えているものを採取しているだろうから、まだわかる。
 魚も、すぐそばが湖だから同じく。

 だが――“キラー・ボア”は、腕利きの冒険者がパーティーで倒すことを推奨されるくらいの、危険な魔獣だ。“ファング・ラビット”に関しては、単体でのランクこそCと“キラー・ボア”に劣るが、コイツ等は基本5体以上の群れで行動する。下手をしたら、“キラー・ボア”よりも厄介だ。

 ハンス達でも万全な状態ならば倒せるが、ここは次々魔獣が襲ってくる魔境。昨日“キラー・ボア“相手に敗走したことからもわかるように、際限なく襲われてはどうしようもない。
 
 そんな魔獣たちの肉を、どうやって手に入れているというのだ。

「あー……それは、ねぇ」

 ハンス達の疑問に、アカネはどこか疲れたような曖昧な笑みを浮かべる。
 その様子を見て、ハンス達は小首をかしげ――そのときだった。

 バァンッ! と、穏やかな空気を引き裂く轟音が、あたりに響き渡る。

「な、なんだ!?」

 ハンス達が勢いよく後を振り返ると、扉が大きく開け放たれ、その勢いで歪んでいる。
 そして――朝日を背負って、数人の男たちが立っていた。

「へぇ……こんな僻地に宿ねぇ」

そのうちの一人――巨大な戦斧を担いだ年の頃40ほどと思しき大男が、あたりを見回しながら獰猛に嗤う。そして、舌なめずりをして大声で宣言した。

「気に入ったぜ! 今日からここを――この俺様、《残虐》のギャン様の居城とする!」
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