勇者パーティを追放された俺、辺境で全力スローライフを始めました!~美少女と楽しく雑貨屋経営してたのに、なぜか勇者より先に魔王を倒しちゃった~

果 一

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第一話 パーティ追放、そして……

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「お前、もう要らねぇから出てけよ」



 凍てつくように冷たい、リーナのアイスブルーの瞳が、俺――カイルを射貫いた。



「……は?」



 俺は、一瞬何が起きているのかわからず呆けてしまった。

 乾いた声が、俺達の泊まっている宿屋の、無駄に広い部屋の奥へ吸い込まれていく。

 俺は、茫然自失しながら、目の前に並び立つ同じパーティのメンバーを見まわす。



 冗談の類い――ではないな。

 どう見ても、目が笑ってない。



「ちょ、ちょっと待ってくれよ。いきなりの解雇宣告はないだろう!?」

「いきなりだぁ? ナメたことぬかしてんじゃねぇぞ、おい」



 リーナは、女らしからぬ物言いで舌打ちしつつ、側にあった高級そうなイスを容赦なく蹴飛ばした。

 イスは、二度三度カーペットの敷かれた床の上をバウンドし、壁にぶつかって凄い音を立てた。



 見ての通り口が悪く、素行不良。

 こんなガサツ女が、パーティリーダーで、しかも魔王を倒す勇者だなんて、世も末だと本気で思う。

 どっちかと言うと、田舎の不良だ。



 本人は、勇者という天命パーソナリティを得て、その重責に堪えかねたから。みたいな話をしていたが、好き放題暴れるための建前であり、詭弁にしか聞こえないのだ。



 リーナは俺の前までズカズカと歩いてくると、ドンッ! と近くにあった棚を殴りつけた。



「テメェみてぇな役立たずは、ウチには要らねぇんだよ。テメェだって、薄々気付いてたろ。みんな、お前の役立たずっぷりにイライラしてんだ」

「まったく、リーナ様の言う通りだぜ」



 筋肉ダルマのような見た目をした大柄の男――ダズが、無精髭をさすりながら忌々しげに吐き捨てた。



「剣も使えない、魔法もダメ。戦闘になればいつでも足手まとい。そんなヤツが、勇者パーティにいるだなんて、烏滸がましいとは思わねぇのか。俺は恥ずかしくて仕方ねぇがな!」

「そ、それは……! でも、その代わりサポートを頑張ってきたはずだ!」

「ああ、そうだな。だが、壊れた武器や防具を直したり、物資を運んだりするだけだろ。そんなこと、お前じゃなくてもできる“当たり前”のことだ。その“当たり前”を「頑張ってきた」だなんて言われてもな。「結果は出てないけど努力した」なんてガキの理論が通じるのは、ガキのウチだけだ。――あ、テメェはそもそもガキだったな。ごめんな、大人の理屈を押しつけちまって。まだ脳みそ小さくて、理解できねぇよなぁ?」



 ダズは、汚い歯を見せて笑う。

 この野郎。俺がまだ十六で成人前だからって、バカにしやがって!



 反論したい。

 剣も杖も鎧も、今まで壊れる度に直してきたのはこの俺だ。荷物運びだってしてきた。料理も創薬も、全部俺がしてきたことだ。



 でも、この勇者パーティでは戦いが全て。

 剣術も使えない上に、魔法も扱えない俺がいても、足を引っ張るだけだ。

 それが鬱陶しかったのだろう。



 最近は、目に見えてメンバーからの嫌味や説教が多くなっていた。

 そして――ここにきて解雇宣言である。



「出て行け。テメェの席、もうねぇから」

「――ッ!」



 無駄に派手なピンク色の髪を掻き上げながら、リースは最後通告をしてくる。

 俺は、それに逆らうこともできず、奥歯を噛みしめながら部屋を後にした。

 誰かが、俺の背中に唾を吐きかけたが――振り返る勇気はなかった。



△▼△▼△▼



「くそっ……!」



 勇者パーティを追い出された俺は、行く当てもなく街中を彷徨さまよった。

 すれ違った男が、悪態をついた俺の方をちらりと見てから、何も知らない振りをして行ってしまう。



 普通の人間なら、捨てられた腹いせに「復讐してやる!」とか「見返してやる!」とか思うのだろう。

 けれど……俺はそういうタイプじゃなかった。



 争いを好まない性格という点もあるが、それ以上に俺の低すぎるステータスが原因だ。



◆◆◆◆◆◆



 カイル=グレイス



 レベル:7



 天命パーソナリティ:一般人

 性別:男

 年齢:16



 魔力:100000

 攻撃力:12

 防御力:15

 俊敏:17

 運:30



 スキル:―

 アイテム:《短剣》 《火打石式拳銃フリントロック・ピストル



◆◆◆◆◆◆



 というザマである。

 レベルは当然のように低いから攻撃力も低い。スキルも持っていない。

 唯一高いのは、常人の十倍近く持っている魔力だけだが、それも宝の持ち腐れだ。

 理由は、五つある隠しステータスに起因する。

 隠しステータスは、この世界で生まれたときに与えられる“才能”のようなもので、一生お付き合いするものなのであるが――

 俺の隠しステータスはというと。



 魔法の才:無

 剣技の才:無

 体術の才:無

 商売の才:有

 技巧の才:有



 見たら大体察しが付くと思うが、要するに。

 戦いに役立つ三つの才能が皆無であり、戦いには元来向かない体質なのだ。

 だからどれだけ魔力があっても、俺は魔法が使えない。



 魔法が使えないからと言って、体術や剣技ができるわけでもない。

 ゆえに、モンスターなどろくに刈れるはずもなく、一向にレベルもステータスも上がらないのである。



 そんな俺が勇者パーティにいたのは、どいつもこいつも戦いの才能溢れる脳筋の天才《アホ》ばかりで、幅広いサポートのできる人間がいなかったから、たまたま目を付けてもらっただけだ。



「ま、戦えない人間は足手まといだったみたいで、こうして斬り捨てられたわけだけど」



 俺は、自嘲気味に吐き捨てる。

 もう、どうでもいい。

 あんな阿婆擦あばずれ勇者様の機嫌をとって、こき使われるのはうんざりだ。

 

 いっそ、戦いのない穏やかな辺境に行って、のんびり暮らすとしよう。

 そんなことを考えながら歩いていると、いつの間にか街を出て大きな平原まで来ていた。



 青々とした草が風に揺れ、穏やかな午後の日差しに煌めいている。

 一周回って清々しい気持ちになった俺に、この空気は心地良かった。



「さて……それじゃ、口うるさい勇者様のいないまったりライフを満喫するか~」



 開き直って、草原を歩き出した――そのときだった。

 『きゅっきゅっ!』という、モンスターの金切り声が聞こえてきた。



「な、なんだ?」



 俺は、当たりの草をかき分けて声の正体を探る。

 ――いた。

 何の変哲も無いただのスライムが、ポイ捨てされたガラス瓶の中に嵌まって、もがいている。



「え? なにこれ。新手の曲芸?」



 そんなはずもなく、窮屈そうにしているスライムは俺に気付くと、愛らしいつぶらな瞳で俺を見上げてきた。

 こいつ……あざとい。



 この可愛さを見習え。誰とは言わんが阿婆擦れ勇者よ。



「解放しても大丈夫……だよな。ポイズンスライムやアシッドスライムならともかく、普通のヤツは特に害もないはずだし」



 俺はガラス瓶の口に指を突っ込むと、プルプルとしたスライムの身体をほじくり出した。



 ――結果から言うと、スライムにはめちゃくちゃ感謝された。

 スライム語なんて知らないから詳細はわからないが、身体を伸ばしたり膨らませたりしながら遊んでいるうちに、勢い余ってガラス瓶に突っ込んでしまったらしい。



「わかったわかった。そんな感謝しなくてもいいから」



 飛びかかって身体を擦りつけてくるスライムを宥める。

 するとスライムは、地面に降りて一言『きゅ!』と鳴いた。



 その瞬間、スライムの身体が虹色に輝きだした。



「こ、この光は!?」



 聞いたことがある。

 普段はただのスライムの姿に擬態していて、幸運な人の元にしか現れないという伝説級の激レアモンスター。

 その名もレインボースライム。



 出会う者に奇跡を与えると言われるソイツが、俺の前にいた。

 おそらく、ピンチを救った影響だろう。

 七色の光が俺を包み込み、次の瞬間。

 俺の目前に、スキルゲットの表記が現れた。



 スキル(ランクレジェンド)《創造者クリエイター》。

 材料があれば、ありとあらゆるものを造り出せる。習得者の想像アイデア次第で、造れるモノの種類は無限大。



「な、なんか……凄いスキルゲットしちゃったんですけど!?」

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