32 / 136
第0章 ここから始まる英雄譚
絶体絶命
考えている時間などなかった。
「っ!」
やばい。そう認識するや否や、体は全力で後ろに飛んでいた。
半瞬前、日向のいた場所を無数の触手が穿つ。
間一髪猛威から逃れたが、逃れた後の立て直しなど考えていなかった。背中から地面に衝突し、バウンドした勢いで体を回転させてなんとか着地する。
「なに……コイツ!」
腰に佩いた剣をすかさず抜き、身構える日向の額から冷や汗が伝う。
やばい。やばいなんて、たった三文字で表せないくらいには、やばい。
黒いゼリーを固めたようなそのモンスターは、ぞっとするほど冷たい質感の触手をくねらせて、じりじりと日向に忍び寄る。
先ほどはなんとか不意打ちを躱したが、ほとんど奇跡のようなものだ。直感に任せて飛んだだけで、まったく見切れなかった。
鈍重そうな見た目のくせに、動きは俊敏。これ見よがしにくねらせている無数の触手が攻撃手段だろうが――それだけだとは限らない。既存のモンスターに合致する個体がいないから、何をしてくるのかわからない。
炎を吐くのか、毒の霧を散布するのかすら。それゆえに――未確認なのだから。
ただ確かなのは、Bランクの日向をして到底太刀打ちできない化け物ということだけだ。
(くっ……とにかく今は隙を見て体勢を立てなおし――)
ズンッ! という凄まじい音と衝撃が、日向の思考をかき消した。
何が起きたか、わからなかった。気づけば、衝撃波に背中を叩かれ、5メートル近く吹き飛ばされていた。
「ぐっ、一体何が――ッ!?」
勢いよく地面に倒れこんだ日向は、立ち上がり後ろを振り返る。――そして、絶句した。
いつの間にか、退路を塞ぐように触手の槍が地面に突き刺さっていた。金剛石にすら匹敵するはずの硬度(金剛石は突発的な衝撃に弱いのはさておき)を誇る青色の地面が、易々と貫かれている。
――まるで、攻撃が見えなかった。
『~~ッ!!』
人間の可聴域では到底聞こえない、空気を圧迫するような絶叫が周囲を満たす。
「ッ! このッ!」
勝ち目などない。そうわかっていて、日向は震える手で剣を握りしめる。
“生還の指輪”は――正常に作動している。死の危険はない。大丈夫、大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせ、恐怖を騙す。そうでもしないと、この恐怖に呑まれてしまう。
覚悟を決めた瞬間、触手の波が日向めがけて放たれた。
瞬きのうちに彼我の距離を詰める触手の群れを、しかし極限状態で引き延ばされた思考と動体視力が、その動きをかろうじて捉える。
「はっ!」
横薙ぎに居合一閃。迫っていた触手の先端をことごとく切り落とす。
だが、先端を切り落としただけで止まる攻撃ではない。
直線的な攻撃は対処されるとでも学習したのか、触手は軌道を変え、四方八方から日向を狙う。
右上から迫る触手を斬り上げ、返す刀で正面から迫る触手を切り捨てる。足元を這うように迫る触手を跳躍で回避。そのまま剣を突き立て切断する。
普段の日向のベストコンディションを、さたに極限状態による集中で底上げし、触手攻撃に食らいついていく。
それでも、あとからあとから触手攻撃が迫る。まるで、アリジゴクに落ちた哀れな虫を食らうかのように、触手が少女を取り囲んで攻め立てる。
(負け……ない!)
ひたすらに剣を振り、触手の猛威をさばいていく日向は、歯を食いしばる。
(私は……見返すんです! だから、こんな奴……!)
倒さなければ。
ダンジョン冒険者ならば。力を求めるのならば。成果が必要ならば。
この程度の脅威に打ち勝てなくてどうする。怒りが――恐怖を超克する。
決めたではないか? 憧れを失ったあの日に――哀れで、空っぽな剣だけは振るまいと。
今この状況は、自分勝手に動いたがゆえのピンチだとわかっている。でも、だからなんだ。
それで後悔するほどの覚悟なら、日向はこんな場所に来ていない。何が何でも、コイツを倒して成果を、結果を出すのだ!
「私はぁ――ッ!」
吠え、触手の猛威にさらされながら地面を蹴って一息に飛び出す。
そして――不定形の本体に、剣を思いっきり突き立てた。
『ッ!!』
怪物がブルリと大きく震え、触手の表面が粟立つ。
「っ! やった!」
日向の顔に、一瞬歓喜が宿る。
そして――不定形の怪物は、ゆっくりとその形を崩していき。
――ミツケタ――
そんな言葉が、日向の耳に届いた。――気がした。
(え?)
困惑している間もなかった。崩れたゼリー状の肉体が、いつの間にか日向を取り囲み、まるで海水浴客を攫う波のように、日向の全身を包み込んだ。
「っ!」
やばい。そう認識するや否や、体は全力で後ろに飛んでいた。
半瞬前、日向のいた場所を無数の触手が穿つ。
間一髪猛威から逃れたが、逃れた後の立て直しなど考えていなかった。背中から地面に衝突し、バウンドした勢いで体を回転させてなんとか着地する。
「なに……コイツ!」
腰に佩いた剣をすかさず抜き、身構える日向の額から冷や汗が伝う。
やばい。やばいなんて、たった三文字で表せないくらいには、やばい。
黒いゼリーを固めたようなそのモンスターは、ぞっとするほど冷たい質感の触手をくねらせて、じりじりと日向に忍び寄る。
先ほどはなんとか不意打ちを躱したが、ほとんど奇跡のようなものだ。直感に任せて飛んだだけで、まったく見切れなかった。
鈍重そうな見た目のくせに、動きは俊敏。これ見よがしにくねらせている無数の触手が攻撃手段だろうが――それだけだとは限らない。既存のモンスターに合致する個体がいないから、何をしてくるのかわからない。
炎を吐くのか、毒の霧を散布するのかすら。それゆえに――未確認なのだから。
ただ確かなのは、Bランクの日向をして到底太刀打ちできない化け物ということだけだ。
(くっ……とにかく今は隙を見て体勢を立てなおし――)
ズンッ! という凄まじい音と衝撃が、日向の思考をかき消した。
何が起きたか、わからなかった。気づけば、衝撃波に背中を叩かれ、5メートル近く吹き飛ばされていた。
「ぐっ、一体何が――ッ!?」
勢いよく地面に倒れこんだ日向は、立ち上がり後ろを振り返る。――そして、絶句した。
いつの間にか、退路を塞ぐように触手の槍が地面に突き刺さっていた。金剛石にすら匹敵するはずの硬度(金剛石は突発的な衝撃に弱いのはさておき)を誇る青色の地面が、易々と貫かれている。
――まるで、攻撃が見えなかった。
『~~ッ!!』
人間の可聴域では到底聞こえない、空気を圧迫するような絶叫が周囲を満たす。
「ッ! このッ!」
勝ち目などない。そうわかっていて、日向は震える手で剣を握りしめる。
“生還の指輪”は――正常に作動している。死の危険はない。大丈夫、大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせ、恐怖を騙す。そうでもしないと、この恐怖に呑まれてしまう。
覚悟を決めた瞬間、触手の波が日向めがけて放たれた。
瞬きのうちに彼我の距離を詰める触手の群れを、しかし極限状態で引き延ばされた思考と動体視力が、その動きをかろうじて捉える。
「はっ!」
横薙ぎに居合一閃。迫っていた触手の先端をことごとく切り落とす。
だが、先端を切り落としただけで止まる攻撃ではない。
直線的な攻撃は対処されるとでも学習したのか、触手は軌道を変え、四方八方から日向を狙う。
右上から迫る触手を斬り上げ、返す刀で正面から迫る触手を切り捨てる。足元を這うように迫る触手を跳躍で回避。そのまま剣を突き立て切断する。
普段の日向のベストコンディションを、さたに極限状態による集中で底上げし、触手攻撃に食らいついていく。
それでも、あとからあとから触手攻撃が迫る。まるで、アリジゴクに落ちた哀れな虫を食らうかのように、触手が少女を取り囲んで攻め立てる。
(負け……ない!)
ひたすらに剣を振り、触手の猛威をさばいていく日向は、歯を食いしばる。
(私は……見返すんです! だから、こんな奴……!)
倒さなければ。
ダンジョン冒険者ならば。力を求めるのならば。成果が必要ならば。
この程度の脅威に打ち勝てなくてどうする。怒りが――恐怖を超克する。
決めたではないか? 憧れを失ったあの日に――哀れで、空っぽな剣だけは振るまいと。
今この状況は、自分勝手に動いたがゆえのピンチだとわかっている。でも、だからなんだ。
それで後悔するほどの覚悟なら、日向はこんな場所に来ていない。何が何でも、コイツを倒して成果を、結果を出すのだ!
「私はぁ――ッ!」
吠え、触手の猛威にさらされながら地面を蹴って一息に飛び出す。
そして――不定形の本体に、剣を思いっきり突き立てた。
『ッ!!』
怪物がブルリと大きく震え、触手の表面が粟立つ。
「っ! やった!」
日向の顔に、一瞬歓喜が宿る。
そして――不定形の怪物は、ゆっくりとその形を崩していき。
――ミツケタ――
そんな言葉が、日向の耳に届いた。――気がした。
(え?)
困惑している間もなかった。崩れたゼリー状の肉体が、いつの間にか日向を取り囲み、まるで海水浴客を攫う波のように、日向の全身を包み込んだ。
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界から日本に帰ってきたら魔法学院に入学 パーティーメンバーが順調に強くなっていくのは嬉しいんだが、妹の暴走だけがどうにも止まらない!
枕崎 削節
ファンタジー
〔小説家になろうローファンタジーランキング日間ベストテン入り作品〕
タイトルを変更しました。旧タイトル【異世界から帰ったらなぜか魔法学院に入学。この際遠慮なく能力を発揮したろ】
3年間の異世界生活を経て日本に戻ってきた楢崎聡史と桜の兄妹。二人は生活の一部分に組み込まれてしまった冒険が忘れられなくてここ数年日本にも発生したダンジョンアタックを目論むが、年齢制限に壁に撥ね返されて入場を断られてしまう。ガックリと項垂れる二人に救いの手を差し伸べたのは魔法学院の学院長と名乗る人物。喜び勇んで入学したはいいものの、この学院長はとにかく無茶振りが過ぎる。異世界でも経験したことがないとんでもないミッションに次々と駆り出される兄妹。さらに二人を取り巻く周囲にも奇妙な縁で繋がった生徒がどんどん現れては学院での日常と冒険という非日常が繰り返されていく。大勢の学院生との交流の中ではぐくまれていく人間模様とバトルアクションをどうぞお楽しみください!
オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】
山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。
失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。
そんな彼が交通事故にあった。
ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。
「どうしたものかな」
入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。
今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。
たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。
そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。
『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』
である。
50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。
ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。
俺もそちら側の人間だった。
年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。
「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」
これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。
注意事項
50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。
あらかじめご了承の上読み進めてください。
注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。
注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。
ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした
むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。
配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。
誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。
そんなホシは、ぼそっと一言。
「うちのペット達の方が手応えあるかな」
それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。
転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜
まさき
ファンタジー
異世界転生した最強の金持ち嫡男、
専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活
現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。
しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。
彼は大陸一の富を誇る名門貴族――
ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。
カイルに与えられたのは
・世界一とも言える圧倒的な財力
・財力に比例して増大する規格外の魔力
そして何より彼を驚かせたのは――
彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。
献身的なエルフのメイド長リリア。
護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。
さらに個性豊かな巨乳メイドたち。
カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。
すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――
「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」
領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、
時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、
最強の御曹司カイルは
世界一幸せなハーレムを築いていく。
最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ダンジョンのある生活《スマホ片手にレベルアップ》
盾乃あに
ファンタジー
進藤タクマは25歳、彼女にフラれて同棲中の家を追い出され、新しい部屋を借りたがそこにはキッチンに見知らぬ扉が付いていた。床下収納だと思って開けたらそこは始まりのダンジョンだった。
ダンジョンを攻略する自衛隊、タクマは部屋を譲り新しい部屋に引っ越すが、そこにもダンジョンが……
始まりのダンジョンを攻略することになったタクマ。
さぁ、ダンジョン攻略のはじまりだ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?