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第二章 弓使いと学校のアイドル編
第12話 学校のアイドルに声をかけられた件
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「いやどうしたよ翔。死んで一週間経った魚みたいな目してるぞ」
朝。
自分の席に座るなり、スライムばりに脱力して机に突っ伏していると、英次が声をかけてきた。
「そりゃ熟成が進んでていいな。魚は熟成すると旨みが増すらしいぞ。つまり俺のポテンシャルも通常時より跳ね上がってるわけだ」
「あーそう。ちなみに、熟成させるとタンパク質が分解されるから、柔らかくなるらしいぜ? 今のお前にぴったりだなこの軟体動物」
ジト目で俺を見つつ、英次は前の席にどかりと腰を掛けた。
そのまま俺の方を振り返り、背もたれを肘掛け代わりに腕を置くと、「何かあったのか?」と問いかけてきた。
「まあいろいろ?」
「はぐらかすなよ、教えろよ」
「……自分のコンプレックスに救われたっていう、釈然としない状況なんだよ」
俺は素直にそう答えた。
別に、自分の容姿が嫌いというわけではない。
今はなき両親から受け取った大切なものだ。
それに、世の中には「かわいい」と思われて嬉しい男子だっていくらでもいると思う。
だから、これはただ自分の容姿が理想の自分とかけ離れているが故の苦悩に過ぎない。
「男らしく思われたい」「頼りがいがある、兄らしい自分になりたい」
そんな気持ちでいるから、中学一年の頃まで「僕」だった一人称だって「俺」に変えたのだ。
なりたい自分のイメージを持っているから、今回の事態は釈然としないのである。
「ふ~ん、まあよくわかんねぇけど。強く生きろよー」
「うわ、軽いなお前。人が真剣に悩んでるのに」
「だって他人事だし。それよりお前、昨日のアレ見たか!?」
不意に英次はテンションを上げ、俺に顔を近づけてくる。
「昨日のアレって、何?」
「何言ってんだ! アレっつったら、例のSランクパーティーを一人で返り討ちにした、アーチャーのことしかないだろ! もうSNSでバズりにバズってんぜ?」
「あー……なんかニュースで見たわ。凄かったらしいな」
「いや「あー……」って。軽いな~お前」
「そりゃまあ、他人事だし」
ホントは自分事なんだけどね、と心の中でツッコミを入れる。
「いや他人事ではねぇだろ」
英次のツッコミに、俺は一瞬ぎくりとする。
まさかこいつ、俺の正体に気付いて!?
「昨日やられたそのSランクパーティー、【ボーンクラッシャー】なんだぜ? 豪気のクソ野郎にガム吐かれたお前からしたら、気分スッキリだろ」
「そ、そうだね」
よかった。正体がバレたわけじゃないみたいだ。
「アイツもバカだよなぁ。あんな全国に恥をさらしたんだから」
「そうだね。ていうかこれ、もう学校に来れないでしょ」
「はは、確かに。まあ同情はしないけどな」
英次は笑いながら楽しそうに言った。
ある意味デジタルタトゥーをその身に刻むことになったわけだ。しばらくは大人しくするだろう。
ただ、人の噂も七十五日。ほとぼりが冷めたらまた暴れ出すかもしれない。
できればもう、関わりたくはないが――
そんなことを思っていると、朝のSHRの開始を告げるチャイムが鳴ったのだった。
――。
その日、学校は迷惑Sランクパーティーを葬った冒険者の話題で持ちきりだった。
トイレ休憩で廊下に出れば、あちこちからその話題が聞こえてくる始末だ。
「ねぇ、あの動画見た?」
「見た見た! Sランクパーティーがまるで相手にならないなんて、凄いよねぇ! 私ファンになっちゃった」
「しかもさ、あの女の子絶対可愛いよね!」
「それな! カッコいいし可愛いし、もうギャップ萌え!」
――例によって性別を思いっきり勘違いされているが、そのお陰で俺にはまったく注目が集まらないから助かった。
俺に関する話題の他に、当然のように悪役として豪気の話題も耳にした。
いくら根性捻くれ鋼鉄メンタルの豪気も、今回の件は思う所があったらしい。
今日は学校に顔を出していない。
まあ、廊下を歩いていると当たり前のように豪気を非難する声を聞くから、来ない方が正解だろうが。
――そんなこんなで一日が過ぎ、あっという間に放課後になった。
が、今日はダンジョンには行く予定はない。
理由は一つ。放課後の学校といえば、やるべきことは一つしか無いからだ。
そう、部活動である。
今日から仮入部が始まるのだ。
「弓道場ってどこにあるんだろうな……」
教室等を出た俺は、弓道場を探してしばらく歩き回り――しばらくして、建物を見つけた。
体育館裏に柔剣道場と並んで建てられている、平屋造りの建物だ。
見たところ、俺の他に仮入部の一年生はいないようである。
ダンジョンが敷地内にある本校の特性上、ダンジョン攻略部やダンジョン生態研究部など、ダンジョンが身近にあることを活かした部活が多く存在する。
また、ダンジョン攻略を優先する生徒も多いため、そもそも部活に参加していない生徒もいるから、必然的に他の部活は寂れがちになってしまう。
そのせいだろうか。幸い、俺が入りたい弓道部も部員自体かなり少ないようだ。
俺が弓道部を選んだ理由は一つ。俺がアーチャーだからで――
「……ん?」
そのとき、俺はふと重大なことに気付いた。
ちょっと待てよ。ついつい無意識に弓道部に入ろうとしてるけど、俺が例の有名人アーチャーだとバレる可能性があるのでは?
「いや、流石に考えすぎか」
現状、あのアーチャーは女の子だと思われているし、攻略中はゴーグルもしていた。
学校にいる間は男子の制服を着ているわけだし、弓矢を使うという共通点だけでバレるとは思えない。
現状でも、誰にも俺の正体はバレていないはずだ。
「大丈夫だ、うん」
そう自分に言い聞かせ、弓道場の入り口の戸を潜ろうとしたそのとき。
「あ、あなたは」
不意に後ろから声をかけられた。振り返るとそこにいたのは、目を見張るほどの美少女だった。
艶やかな金髪に白い肌。吸い込まれそうなほどに深い、青色の瞳。
清楚ながらどこか快活な雰囲気も漂うその少女には、見覚えがあった。つい先日、例の盗撮魔からさりげなく助けた子だ。
「えと……高嶺さん?」
「はい、そうです! あなたは隣のクラスの息吹翔くんですよね」
「は、はい。そうです」
驚いた。学校のアイドル、高嶺乃花《たかみねのんか》が俺のフルネームを知っているとは。一度面識はあるが、自己紹介なんてしてないはずなのに。
というかなんで、こんな場所にいるんだろうか。
そんなことを考えていると、高嶺さんは嬉しそうに微笑んで――次の瞬間、衝撃的な発言をした。
「やっぱり、息吹さんは弓道部に入るんですね。あんなに強い弓使いさんですもんね!」
……んっ!?
朝。
自分の席に座るなり、スライムばりに脱力して机に突っ伏していると、英次が声をかけてきた。
「そりゃ熟成が進んでていいな。魚は熟成すると旨みが増すらしいぞ。つまり俺のポテンシャルも通常時より跳ね上がってるわけだ」
「あーそう。ちなみに、熟成させるとタンパク質が分解されるから、柔らかくなるらしいぜ? 今のお前にぴったりだなこの軟体動物」
ジト目で俺を見つつ、英次は前の席にどかりと腰を掛けた。
そのまま俺の方を振り返り、背もたれを肘掛け代わりに腕を置くと、「何かあったのか?」と問いかけてきた。
「まあいろいろ?」
「はぐらかすなよ、教えろよ」
「……自分のコンプレックスに救われたっていう、釈然としない状況なんだよ」
俺は素直にそう答えた。
別に、自分の容姿が嫌いというわけではない。
今はなき両親から受け取った大切なものだ。
それに、世の中には「かわいい」と思われて嬉しい男子だっていくらでもいると思う。
だから、これはただ自分の容姿が理想の自分とかけ離れているが故の苦悩に過ぎない。
「男らしく思われたい」「頼りがいがある、兄らしい自分になりたい」
そんな気持ちでいるから、中学一年の頃まで「僕」だった一人称だって「俺」に変えたのだ。
なりたい自分のイメージを持っているから、今回の事態は釈然としないのである。
「ふ~ん、まあよくわかんねぇけど。強く生きろよー」
「うわ、軽いなお前。人が真剣に悩んでるのに」
「だって他人事だし。それよりお前、昨日のアレ見たか!?」
不意に英次はテンションを上げ、俺に顔を近づけてくる。
「昨日のアレって、何?」
「何言ってんだ! アレっつったら、例のSランクパーティーを一人で返り討ちにした、アーチャーのことしかないだろ! もうSNSでバズりにバズってんぜ?」
「あー……なんかニュースで見たわ。凄かったらしいな」
「いや「あー……」って。軽いな~お前」
「そりゃまあ、他人事だし」
ホントは自分事なんだけどね、と心の中でツッコミを入れる。
「いや他人事ではねぇだろ」
英次のツッコミに、俺は一瞬ぎくりとする。
まさかこいつ、俺の正体に気付いて!?
「昨日やられたそのSランクパーティー、【ボーンクラッシャー】なんだぜ? 豪気のクソ野郎にガム吐かれたお前からしたら、気分スッキリだろ」
「そ、そうだね」
よかった。正体がバレたわけじゃないみたいだ。
「アイツもバカだよなぁ。あんな全国に恥をさらしたんだから」
「そうだね。ていうかこれ、もう学校に来れないでしょ」
「はは、確かに。まあ同情はしないけどな」
英次は笑いながら楽しそうに言った。
ある意味デジタルタトゥーをその身に刻むことになったわけだ。しばらくは大人しくするだろう。
ただ、人の噂も七十五日。ほとぼりが冷めたらまた暴れ出すかもしれない。
できればもう、関わりたくはないが――
そんなことを思っていると、朝のSHRの開始を告げるチャイムが鳴ったのだった。
――。
その日、学校は迷惑Sランクパーティーを葬った冒険者の話題で持ちきりだった。
トイレ休憩で廊下に出れば、あちこちからその話題が聞こえてくる始末だ。
「ねぇ、あの動画見た?」
「見た見た! Sランクパーティーがまるで相手にならないなんて、凄いよねぇ! 私ファンになっちゃった」
「しかもさ、あの女の子絶対可愛いよね!」
「それな! カッコいいし可愛いし、もうギャップ萌え!」
――例によって性別を思いっきり勘違いされているが、そのお陰で俺にはまったく注目が集まらないから助かった。
俺に関する話題の他に、当然のように悪役として豪気の話題も耳にした。
いくら根性捻くれ鋼鉄メンタルの豪気も、今回の件は思う所があったらしい。
今日は学校に顔を出していない。
まあ、廊下を歩いていると当たり前のように豪気を非難する声を聞くから、来ない方が正解だろうが。
――そんなこんなで一日が過ぎ、あっという間に放課後になった。
が、今日はダンジョンには行く予定はない。
理由は一つ。放課後の学校といえば、やるべきことは一つしか無いからだ。
そう、部活動である。
今日から仮入部が始まるのだ。
「弓道場ってどこにあるんだろうな……」
教室等を出た俺は、弓道場を探してしばらく歩き回り――しばらくして、建物を見つけた。
体育館裏に柔剣道場と並んで建てられている、平屋造りの建物だ。
見たところ、俺の他に仮入部の一年生はいないようである。
ダンジョンが敷地内にある本校の特性上、ダンジョン攻略部やダンジョン生態研究部など、ダンジョンが身近にあることを活かした部活が多く存在する。
また、ダンジョン攻略を優先する生徒も多いため、そもそも部活に参加していない生徒もいるから、必然的に他の部活は寂れがちになってしまう。
そのせいだろうか。幸い、俺が入りたい弓道部も部員自体かなり少ないようだ。
俺が弓道部を選んだ理由は一つ。俺がアーチャーだからで――
「……ん?」
そのとき、俺はふと重大なことに気付いた。
ちょっと待てよ。ついつい無意識に弓道部に入ろうとしてるけど、俺が例の有名人アーチャーだとバレる可能性があるのでは?
「いや、流石に考えすぎか」
現状、あのアーチャーは女の子だと思われているし、攻略中はゴーグルもしていた。
学校にいる間は男子の制服を着ているわけだし、弓矢を使うという共通点だけでバレるとは思えない。
現状でも、誰にも俺の正体はバレていないはずだ。
「大丈夫だ、うん」
そう自分に言い聞かせ、弓道場の入り口の戸を潜ろうとしたそのとき。
「あ、あなたは」
不意に後ろから声をかけられた。振り返るとそこにいたのは、目を見張るほどの美少女だった。
艶やかな金髪に白い肌。吸い込まれそうなほどに深い、青色の瞳。
清楚ながらどこか快活な雰囲気も漂うその少女には、見覚えがあった。つい先日、例の盗撮魔からさりげなく助けた子だ。
「えと……高嶺さん?」
「はい、そうです! あなたは隣のクラスの息吹翔くんですよね」
「は、はい。そうです」
驚いた。学校のアイドル、高嶺乃花《たかみねのんか》が俺のフルネームを知っているとは。一度面識はあるが、自己紹介なんてしてないはずなのに。
というかなんで、こんな場所にいるんだろうか。
そんなことを考えていると、高嶺さんは嬉しそうに微笑んで――次の瞬間、衝撃的な発言をした。
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