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第二章 弓使いと学校のアイドル編
第34話 ダンジョン運営委員会からのお呼び出し
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その後、少しの間乃花と真美さんと会話をしたあと、俺は病院を後にした。
さて。ここまでで本日の予定の半分だ。
この後、俺が赴く場所。それは――ダンジョン運営委員会の支部である。
先程届いたダンジョン運営委員会からのメール。
そこに書かれていたのは、運営委員会の支部からの呼び出しだった。
文面を見る限り大至急という感じではなかったのだが、何分呼び出される理由には心当たりがありすぎる。
面倒ごとは早く済ませておきたいというのが、俺の本音だ。
幸い、いつ頃行けば良いかというアポイントメントをとったところ、「いつでもいいよ~、なんなら今日でも」的なニュアンスの回答をもらった。
「最悪、ダンジョン冒険者の資格剥奪もあり得るよなぁ~」
俺は、はぁ~とため息をついて、重い足取りでダンジョン運営委員会支部へと向かうのだった。
――。
――ダンジョン運営委員会支部。
本部の置かれている東京都を除いて、残りの46道府県に置かれている、ダンジョン運営委員会の中枢機関である。
日本中にダンジョンが現れ、混乱の渦中にある国内で、いち早くそれらを管理するために国が主導で発足した組織であり――と、説明が長くなりそうなので割愛しよう。
とにかく、各都道府県のダンジョンの管理を担っている一大組織と思ってくれればいい。
「ひゃー、相変わらずデカいな」
電車やバスを利用して移動すること、およそ1時間。
俺は、天高くそびえる前面ガラス張りのビルを見上げて、思わず呟いていた。
ここに来るのは、ダンジョン冒険者会員証の発行時以来か。初めてでないとはいえ、やはり慣れないな。
俺はごくりと喉を鳴らし、巨大な建物へと足を踏み入れた。
入ってすぐ出迎えたのは、巨大な吹き抜け構造のエントランスだ。
4,5階分はある高い天井からはシャンデリアが吊されていて、休憩用のソファが観葉植物の気を取り囲むように配置されている。
地面を踏む度に柔らかい感触を返してくるのは、西洋風の柄が描かれた絨毯だった。
雰囲気としては、都会にある一人一泊10000円では到底泊まれない高級ホテル(それこそ、その数倍は出さないといけないのではなかろうか?)といった感じだ。
だからだろうか?
落ち着きと荘厳が共存している世界で、ところどころ人が慌ただしく動いているのが気になった。
それを不思議に思いながらも、俺はエントランスの奥にあるカウンターへと向かった。
「すいません」
手元に視線を落としている男性の職員に声をかけと、男性は慌てたように顔を上げた。
どうやら、書類仕事をしていて俺の接近に気付かなかったらしい。
なんだか申し訳ないことをしたと思いつつ、俺は手短に来訪した目的を告げる。
「少々お待ちください」
そう言って、どこかと電話で連絡を取っていた男性は、やがて受話器を置いて俺に向き直った。
「お待たせしました。確認が取れましたので、お越しください」
そう言って、カウンターを出て奥へ向かう男性職員。
言われるがままついて行くと、男性はエントランスフロアの最奥にあるエレベーターへと乗り込んだ。
続いて俺が乗り込んだのを確認すると、男性職員は躊躇なく思いも寄らないボタンを押す。
――22階。このビルの最上階のボタンを。
「最上階?」
「ええ」
「あの……これから会う相手って……」
恐る恐るそう聞くと、男性職員は何の気なしに答えた。それこそ、昨日の夕飯の献立を語るくらいの気軽さで。
「寺島瑞紀。ダンジョン運営委員会支部の、支部長です」
――。
「それでは、私はこれで失礼します」
エレベーターで最上階まで俺を送り届けた男性職員は、一礼してさっさと戻ってしまった。
1人残された俺は、ようやっと一言「マジかよ」とだけ呟く。
え? は? うっそだろ?
あくまで支部の長とはいえ、こんなデカい組織のトップが、直々に俺を呼び出した!?
一体なんの要件で!?
「って、決まってるかぁ……」
俺は、もはや乾いた笑いを浮かべることしかできない。
昨日言われただろうが。ダンジョン運営委員会からダンジョン突入の命令を受けたと嘘を言った件について、後々お達しがあると。
【悲報】俺のダンジョン冒険者生活、これにて終了のお知らせ。
「誰に怒られるかと思えば、よりにもよって支部長とは……ついてないな、ほんと」
逆にここまで状況が詰んでいると、いっそ清々しくなってくる。
俺は「もうどうにでもなりやがれ!」の精神で、エレベーターを出てすぐにある大きな扉に手を掛けた。
「失礼します」
自暴自棄になりつつもノックだけはちゃんと行い、俺は中に入る。
ザ・大企業の主任の部屋、という感じだった。
無駄に広いフロアは、片側が全てガラス張り。
そして、その窓を背にする形で個人用にしては広めなデスクがぽつんと置かれていた。
「待っていたよ」
そんなデスクの前にどかりと居座る形で、1人の女性がいた。
長い茶髪に、どこか野性味のある吊り目の瞳。動物に例えると、虎や狼といった肉食獣が浮かんでくる、20代後半と思しき美女だった。
「キミが、息吹翔くん……ちゃん? でいいのか?」
「あの……こんな見た目ですが、“くん”でお願いします」
「ふむ、そうか……それより座りたまえ。立ち話もなんだろう?」
さっぱりとした返事をしたあと、寺島支部長は、デスクの前にあるイスをくいっと顎で示した。
「し、失礼します」
なんだかサバサバした人だなと思いつつ、俺は促されるままイスに腰を下ろす。
デスクを挟んで寺島支部長と向かい合う形になったところで、彼女が話を切り出してきた。
「自己紹介を軽くしておこう。私は寺島瑞紀。一応、ウチの企業の支部長をやっている」
「えと……息吹翔です」
「早速だが翔くん。私がキミに話したいこと、心当たりがあったりするかな?」
「っ! あの……たぶん、俺がダンジョン運営委員会からの命令だと嘘をついて、危険なダンジョンに突入したことですよね?」
俺は、恐る恐るそう答える。
――が。直後に帰って来たのは、想像の斜め上の反応だった。
「んん? ……ああ、そういえば、そんな報告も上がっていたな。忘れてた」
「へっ!?」
拍子抜けもいいところだった。
思わず目が点になってしまった俺は、呆けたように呟く。
「てっきり、その件で制裁がくだるものだとばかり……」
すると、何がツボにはまったんだろうか? はははははっ! と豪快に笑い飛ばした支部長は、自身の顔の前に手を持ってきてひらひらと横に振りながら答えた。
「そんなことしないしない。むしろこっちとしては、キミに感謝しているくらいさ」
「へ?」
「キミが異常発生中のダンジョンに踏み込んでくれなければ、人の命が失われていたかもしれなかった。感謝こそすれ、責める理由などないよ」
「で、でも……それは結果論じゃ」
「結果論? 確かにそうかもしれんがな、日本には「終わりよければ全て良し」って、ありがた~い格言があるのは知ってるだろう? それに、なんでもかんでも結果で示せと言われるのが、大人の社会の常だからな」
「は、はぁ……」
なんだか極論な気もするが、許されるならそれに越したことはない……のか?
「それに、キミが奮闘してくれたお陰で、ウチの負担は最小限に抑えられている。山台高校のダンジョンで起きた異変の調査と責任追及で、今てんてこまいだからな。この上生徒の命まで失いました。なんてなれば、どうなっていたか」
「なるほど、それで下はあんなに忙しそうだったのか」
エントランスがやけに慌ただしかったのには合点がいった。しかし、どうしてもわからないことがある。
いや。どちらかといえば、今沸き上がった疑問と言うべきか。
「それじゃあ、なんで今日俺を呼び出したんですか?」
「ああ、その話だな」
寺島支部長は、豊かな胸の前で腕を組むと、こう切り出してきた。
「キミ、ウチと契約を結ぶ気はないか?」
「……はい?」
契約? それってどういう……
訝しむ俺の前で、彼女はニヤリと笑って言葉を続けた。
「ウチの企業と金銭契約を結んで、ウチの会社の“顔”として活動してくれないかという勧誘だよ。要するに、プロのダンジョン冒険者にならないか? という話だ」
さて。ここまでで本日の予定の半分だ。
この後、俺が赴く場所。それは――ダンジョン運営委員会の支部である。
先程届いたダンジョン運営委員会からのメール。
そこに書かれていたのは、運営委員会の支部からの呼び出しだった。
文面を見る限り大至急という感じではなかったのだが、何分呼び出される理由には心当たりがありすぎる。
面倒ごとは早く済ませておきたいというのが、俺の本音だ。
幸い、いつ頃行けば良いかというアポイントメントをとったところ、「いつでもいいよ~、なんなら今日でも」的なニュアンスの回答をもらった。
「最悪、ダンジョン冒険者の資格剥奪もあり得るよなぁ~」
俺は、はぁ~とため息をついて、重い足取りでダンジョン運営委員会支部へと向かうのだった。
――。
――ダンジョン運営委員会支部。
本部の置かれている東京都を除いて、残りの46道府県に置かれている、ダンジョン運営委員会の中枢機関である。
日本中にダンジョンが現れ、混乱の渦中にある国内で、いち早くそれらを管理するために国が主導で発足した組織であり――と、説明が長くなりそうなので割愛しよう。
とにかく、各都道府県のダンジョンの管理を担っている一大組織と思ってくれればいい。
「ひゃー、相変わらずデカいな」
電車やバスを利用して移動すること、およそ1時間。
俺は、天高くそびえる前面ガラス張りのビルを見上げて、思わず呟いていた。
ここに来るのは、ダンジョン冒険者会員証の発行時以来か。初めてでないとはいえ、やはり慣れないな。
俺はごくりと喉を鳴らし、巨大な建物へと足を踏み入れた。
入ってすぐ出迎えたのは、巨大な吹き抜け構造のエントランスだ。
4,5階分はある高い天井からはシャンデリアが吊されていて、休憩用のソファが観葉植物の気を取り囲むように配置されている。
地面を踏む度に柔らかい感触を返してくるのは、西洋風の柄が描かれた絨毯だった。
雰囲気としては、都会にある一人一泊10000円では到底泊まれない高級ホテル(それこそ、その数倍は出さないといけないのではなかろうか?)といった感じだ。
だからだろうか?
落ち着きと荘厳が共存している世界で、ところどころ人が慌ただしく動いているのが気になった。
それを不思議に思いながらも、俺はエントランスの奥にあるカウンターへと向かった。
「すいません」
手元に視線を落としている男性の職員に声をかけと、男性は慌てたように顔を上げた。
どうやら、書類仕事をしていて俺の接近に気付かなかったらしい。
なんだか申し訳ないことをしたと思いつつ、俺は手短に来訪した目的を告げる。
「少々お待ちください」
そう言って、どこかと電話で連絡を取っていた男性は、やがて受話器を置いて俺に向き直った。
「お待たせしました。確認が取れましたので、お越しください」
そう言って、カウンターを出て奥へ向かう男性職員。
言われるがままついて行くと、男性はエントランスフロアの最奥にあるエレベーターへと乗り込んだ。
続いて俺が乗り込んだのを確認すると、男性職員は躊躇なく思いも寄らないボタンを押す。
――22階。このビルの最上階のボタンを。
「最上階?」
「ええ」
「あの……これから会う相手って……」
恐る恐るそう聞くと、男性職員は何の気なしに答えた。それこそ、昨日の夕飯の献立を語るくらいの気軽さで。
「寺島瑞紀。ダンジョン運営委員会支部の、支部長です」
――。
「それでは、私はこれで失礼します」
エレベーターで最上階まで俺を送り届けた男性職員は、一礼してさっさと戻ってしまった。
1人残された俺は、ようやっと一言「マジかよ」とだけ呟く。
え? は? うっそだろ?
あくまで支部の長とはいえ、こんなデカい組織のトップが、直々に俺を呼び出した!?
一体なんの要件で!?
「って、決まってるかぁ……」
俺は、もはや乾いた笑いを浮かべることしかできない。
昨日言われただろうが。ダンジョン運営委員会からダンジョン突入の命令を受けたと嘘を言った件について、後々お達しがあると。
【悲報】俺のダンジョン冒険者生活、これにて終了のお知らせ。
「誰に怒られるかと思えば、よりにもよって支部長とは……ついてないな、ほんと」
逆にここまで状況が詰んでいると、いっそ清々しくなってくる。
俺は「もうどうにでもなりやがれ!」の精神で、エレベーターを出てすぐにある大きな扉に手を掛けた。
「失礼します」
自暴自棄になりつつもノックだけはちゃんと行い、俺は中に入る。
ザ・大企業の主任の部屋、という感じだった。
無駄に広いフロアは、片側が全てガラス張り。
そして、その窓を背にする形で個人用にしては広めなデスクがぽつんと置かれていた。
「待っていたよ」
そんなデスクの前にどかりと居座る形で、1人の女性がいた。
長い茶髪に、どこか野性味のある吊り目の瞳。動物に例えると、虎や狼といった肉食獣が浮かんでくる、20代後半と思しき美女だった。
「キミが、息吹翔くん……ちゃん? でいいのか?」
「あの……こんな見た目ですが、“くん”でお願いします」
「ふむ、そうか……それより座りたまえ。立ち話もなんだろう?」
さっぱりとした返事をしたあと、寺島支部長は、デスクの前にあるイスをくいっと顎で示した。
「し、失礼します」
なんだかサバサバした人だなと思いつつ、俺は促されるままイスに腰を下ろす。
デスクを挟んで寺島支部長と向かい合う形になったところで、彼女が話を切り出してきた。
「自己紹介を軽くしておこう。私は寺島瑞紀。一応、ウチの企業の支部長をやっている」
「えと……息吹翔です」
「早速だが翔くん。私がキミに話したいこと、心当たりがあったりするかな?」
「っ! あの……たぶん、俺がダンジョン運営委員会からの命令だと嘘をついて、危険なダンジョンに突入したことですよね?」
俺は、恐る恐るそう答える。
――が。直後に帰って来たのは、想像の斜め上の反応だった。
「んん? ……ああ、そういえば、そんな報告も上がっていたな。忘れてた」
「へっ!?」
拍子抜けもいいところだった。
思わず目が点になってしまった俺は、呆けたように呟く。
「てっきり、その件で制裁がくだるものだとばかり……」
すると、何がツボにはまったんだろうか? はははははっ! と豪快に笑い飛ばした支部長は、自身の顔の前に手を持ってきてひらひらと横に振りながら答えた。
「そんなことしないしない。むしろこっちとしては、キミに感謝しているくらいさ」
「へ?」
「キミが異常発生中のダンジョンに踏み込んでくれなければ、人の命が失われていたかもしれなかった。感謝こそすれ、責める理由などないよ」
「で、でも……それは結果論じゃ」
「結果論? 確かにそうかもしれんがな、日本には「終わりよければ全て良し」って、ありがた~い格言があるのは知ってるだろう? それに、なんでもかんでも結果で示せと言われるのが、大人の社会の常だからな」
「は、はぁ……」
なんだか極論な気もするが、許されるならそれに越したことはない……のか?
「それに、キミが奮闘してくれたお陰で、ウチの負担は最小限に抑えられている。山台高校のダンジョンで起きた異変の調査と責任追及で、今てんてこまいだからな。この上生徒の命まで失いました。なんてなれば、どうなっていたか」
「なるほど、それで下はあんなに忙しそうだったのか」
エントランスがやけに慌ただしかったのには合点がいった。しかし、どうしてもわからないことがある。
いや。どちらかといえば、今沸き上がった疑問と言うべきか。
「それじゃあ、なんで今日俺を呼び出したんですか?」
「ああ、その話だな」
寺島支部長は、豊かな胸の前で腕を組むと、こう切り出してきた。
「キミ、ウチと契約を結ぶ気はないか?」
「……はい?」
契約? それってどういう……
訝しむ俺の前で、彼女はニヤリと笑って言葉を続けた。
「ウチの企業と金銭契約を結んで、ウチの会社の“顔”として活動してくれないかという勧誘だよ。要するに、プロのダンジョン冒険者にならないか? という話だ」
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