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第三章 《ハンティング祭》の騒乱編
第37話 とある少女へのとばっちり
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翌々日の月曜日。
いつものように学校へ行った俺は、正門を潜って教室へ向かう。
が、その途中で何やら妙な噂があちこちから聞こえてくることに気付いた。
「なあ、聞いたか。あの噂!」
「聞いた聞いた! あれマジの話なの?」
「さあな。だが、この件に関してウチの教師陣はノーコメントを貫いてるらしいぜ?」
「ノーコメント? 完全な否定じゃなくて?」
「ああ。臭いだろ? 十分にあり得るぜ。あの人が、ここの生徒だって説!」
何やら興奮したように話し合っているカップルらしき2人を横目に、俺は首を傾げる。
――と。
「おーーーーはようっ!」
ドンッと、後ろから何かに追突され、俺は思いっきり前につんのめった。
あっぶな! もう少しで顔面から地面に飛び込みをするところだった。
こんなことをしてくるヤツは、アイツしかいない。
「なんだよ、英次」
「朝の挨拶だ」
「前方不注意の追突事故じゃなくて?」
「うんにゃ。前方確認済みの突進事故だ」
「あーそうかい、また法廷で会おう」
俺は後ろを振り返りつつ、ジト目で英次を睨む。
彼は彼で、両手をあわせて「わりぃわりぃ」と(なんの悪びれもなく)言っていた。
「それより、お前聞いたか? 例の噂」
「噂? 何それ」
「バカお前、噂っつったら、アレに決まってんだろ! 金曜日、ウチのダンジョンに異変が起きたとき、現れたんだってよ! あの話題沸騰中の弓使いが!」
「うげほっ、ごほっ!」
「あ? どうしたんだよ。急に咳き込んで」
「な、なんでもない……」
俺はなるべく平静を保ちながらも、内心ではメチャメチャ焦っていた。
は!? うっっっそだろ!?
いやよくよく考えれば、噂にならない方がおかしいんだ! あのとき私服に着替えてたとはいえ、部外者が平然と学校内のダンジョンにいたのは怪しい! 例のアーチャーとこの学校に、何かしらの繋がりがあると考えられても不思議じゃない!
慌てて周りの喧噪に耳を傾けてみると、どうやらあのアーチャーがウチの生徒であるんじゃないか疑惑まであがっているようだった。
とすると――早晩、俺の正体に気付く人が出てくるかもしれない。
いや。既に、俺の正体がバレていても不思議ではない……?
「おいそこのお前! お前……今話題になってるアーチャーだろ!?」
「っ!」
不意にそんな大声が聞こえて、俺は肩をすくめる。
やばい! 正体がバレた!?
「お前だよお前、そこの白髪の――」
「あ? 何よ」
――が、その声は、どういうわけか俺に向けられたものではなかった。
俺は恐る恐る顔を上げ、周りを見まわす。
その先に、数人の集団があった。――いや、よく見れば1人の少女を数人の男子が囲んでいる構図だった。
取り囲んでいる男子達の1人――一際大柄で、髪をトサカのように立てて赤く染めているヤツが、口を開いた。
「お前だろ、例のアーチャー」
「は? アーチャー? なにそれ、あたしそんなの知らないけど」
当の女子生徒は、迷惑そうに眉根をよせて吐き捨てる。
2人とも、見識があった。
大柄の少年の方は、同じクラスの不良の親玉的な存在。君塚賀谷斗。そして少女の方は、同じクラスの一匹狼的な存在――潮江かや。
君塚くんは、怪訝そうな潮江さんの方へ一歩近寄って乱暴に吐き捨てた。
「例のアーチャーがこの学校の生徒だってこたぁ、わかってんだ! そのくらい、お前だって知ってんだろ?」
「え? まあ、聞いてはいるけど、あたしはそんなの興味ないし……って、痛っ! 何すんのよ!」
潮江さんは不意に顔をしかめる。
君塚くんが、彼女の細腕を掴んで引っ張り上げていたからだ。
「とぼけんなよクソアマがよ! テメェしかいねぇんだよ、候補がよ!」
「は? 一体何を証拠に――」
「白髪で華奢な女はこの学校にお前1人しかいないって言ってんだ!」
――あー。
それを遠巻きに見ていた俺は、どういう反応をしていいかもの凄く困っていた。
確かに、噂では俺は少女ということになっていた。つまり――必然的に、俺以外の場所に標的が向かってしまう。
特に潮江さんの場合、俺と背格好がそっくりだ。
それは決して、彼女の胸がまな板だとか、俺の身長が男子の中では低い方と言っているわけではない。うん、絶対に!
というか、今はそんなことを言ってる場合ではない!
彼女は今、暴力を振るわれている状態だ。このまま放っておくなんてことはできない!
そもそも、俺のせいで受ける必要のない虐待に晒されているのだ。これを放っておくなどと言えるものか。
「おい、お前ら――」
「おいテメェ等、その子離せよ!」
が、俺が一歩踏み出すより先に英次が動いていた。
「あ? んだよ」
尋問を止められた君塚くんは、不機嫌そうに鼻を鳴らして、潮江さんを掴んでいた手を離した。
「そういうことして、恥ずかしくないのかよ」
「はっ、テメェこそ、そんな鉄板のヒーロームーブして恥ずかしくねぇのかよ? お前にゃ似合わねぇだろ」
「まあな。だが、俺は普通のヒーローとはすこーし違う」
「あん?」
怪訝そうに顔をしかめる君塚くんへ、英次は容赦なく爆弾を放り投げた。
「なぜなら俺は今の君達の行動を一部始終スマホで録画していたからだ! そして、今すぐにでも学校のホームページと俺のトイッターに載せて拡散できる! なーはっはっはっはっ!!」
「なっ、テメェ卑怯だぞ!」
「卑怯? それはどの口が言ってるのかにゃ? 一度動画が拡散されたら、世間はお前等の悪行を無断で載せた俺よりも、か弱い女の子を寄ってたかって苛めた卑怯者《おまえら》を非難するだろうぜ? 今のご時世、デジタルタトゥーは怖いぞ~? さーて、どうする? このままお前等が悪行を続けるってんなら、俺の正義の刃が断罪を下すだろう! さて、賢いお前等はどうするね?」
「くっ!!」
君塚くんは、ちらりと周囲を確認する。
動画を拡散される以前に、ギャラリーが増えていることを確認して忌々しげに舌打ちすると、取り巻き達に「行くぞ」と告げて去って行った。
「へっ、おとといきやがれ」
英次は鼻で笑いつつ、いつのまにか撮影していた動画を削除する。
「……なんつーか俺、お前の友人でよかったわ。もし敵対してたら、今頃身ぐるみ全部剥がされてた気がする」
「ぜんぜん嬉しくない褒め言葉をどーも。さて」
片手でケータイを弄びつつ、英次は潮江さんのところへ向かった。
「大丈夫?」
そう声をかける英次だったが。
「は? 何? ひょっとして、助けたつもり? 言っとくけど、あんたなんかこなくても、あたし1人でなんとかなったから」
ツンとすました顔で、英次を睨みあげる潮江さん。
「おい、いくらなんでも、そんな言い方は――」
思わず突っ込みかけた俺を片手で制し、英次は言葉を続けた。
――むしろ、自分から嫌われにいくような姿勢で。
「ほうほう、これが古き良きツンデレですか~。ひょっとして照れ隠し? 俺に惚れちゃっ――」
パン! と乾いた音が響く。
潮江さんが、容赦なく右の平手を振り抜いていたのだ。
「バカ、死ね!」
そう言い捨てて、彼女は足早に去って行く。
俺は、頬を赤く腫らした英次をジト目で睨んで、ぼそりと告げた。
「今のはお前が悪い」
「ですよね~。いや~、ツンデレだと思ったんだけどなぁ~」
ヘラヘラと笑いながら、英次はそんなことをぼやいていた。
呆れつつも、俺は彼に少しだけ同情したのだった。
英次を一言で突き放した相手、潮江かやさん。入学当初からあんな調子だから、少しずつ話しかける人がいなくなって、今では孤立してしまっている。
冷たく人をあしらうからこそ。俺は、人に心を開かない彼女の背中が、どこか物寂しく見えた。
そんな彼女が、有名になってしまった俺の身代わりになっているような、今の現状も気がかりだ。
そして、案の定。
彼女を巻き込んだ大事件が、早々に幕を開けることとなる。
いつものように学校へ行った俺は、正門を潜って教室へ向かう。
が、その途中で何やら妙な噂があちこちから聞こえてくることに気付いた。
「なあ、聞いたか。あの噂!」
「聞いた聞いた! あれマジの話なの?」
「さあな。だが、この件に関してウチの教師陣はノーコメントを貫いてるらしいぜ?」
「ノーコメント? 完全な否定じゃなくて?」
「ああ。臭いだろ? 十分にあり得るぜ。あの人が、ここの生徒だって説!」
何やら興奮したように話し合っているカップルらしき2人を横目に、俺は首を傾げる。
――と。
「おーーーーはようっ!」
ドンッと、後ろから何かに追突され、俺は思いっきり前につんのめった。
あっぶな! もう少しで顔面から地面に飛び込みをするところだった。
こんなことをしてくるヤツは、アイツしかいない。
「なんだよ、英次」
「朝の挨拶だ」
「前方不注意の追突事故じゃなくて?」
「うんにゃ。前方確認済みの突進事故だ」
「あーそうかい、また法廷で会おう」
俺は後ろを振り返りつつ、ジト目で英次を睨む。
彼は彼で、両手をあわせて「わりぃわりぃ」と(なんの悪びれもなく)言っていた。
「それより、お前聞いたか? 例の噂」
「噂? 何それ」
「バカお前、噂っつったら、アレに決まってんだろ! 金曜日、ウチのダンジョンに異変が起きたとき、現れたんだってよ! あの話題沸騰中の弓使いが!」
「うげほっ、ごほっ!」
「あ? どうしたんだよ。急に咳き込んで」
「な、なんでもない……」
俺はなるべく平静を保ちながらも、内心ではメチャメチャ焦っていた。
は!? うっっっそだろ!?
いやよくよく考えれば、噂にならない方がおかしいんだ! あのとき私服に着替えてたとはいえ、部外者が平然と学校内のダンジョンにいたのは怪しい! 例のアーチャーとこの学校に、何かしらの繋がりがあると考えられても不思議じゃない!
慌てて周りの喧噪に耳を傾けてみると、どうやらあのアーチャーがウチの生徒であるんじゃないか疑惑まであがっているようだった。
とすると――早晩、俺の正体に気付く人が出てくるかもしれない。
いや。既に、俺の正体がバレていても不思議ではない……?
「おいそこのお前! お前……今話題になってるアーチャーだろ!?」
「っ!」
不意にそんな大声が聞こえて、俺は肩をすくめる。
やばい! 正体がバレた!?
「お前だよお前、そこの白髪の――」
「あ? 何よ」
――が、その声は、どういうわけか俺に向けられたものではなかった。
俺は恐る恐る顔を上げ、周りを見まわす。
その先に、数人の集団があった。――いや、よく見れば1人の少女を数人の男子が囲んでいる構図だった。
取り囲んでいる男子達の1人――一際大柄で、髪をトサカのように立てて赤く染めているヤツが、口を開いた。
「お前だろ、例のアーチャー」
「は? アーチャー? なにそれ、あたしそんなの知らないけど」
当の女子生徒は、迷惑そうに眉根をよせて吐き捨てる。
2人とも、見識があった。
大柄の少年の方は、同じクラスの不良の親玉的な存在。君塚賀谷斗。そして少女の方は、同じクラスの一匹狼的な存在――潮江かや。
君塚くんは、怪訝そうな潮江さんの方へ一歩近寄って乱暴に吐き捨てた。
「例のアーチャーがこの学校の生徒だってこたぁ、わかってんだ! そのくらい、お前だって知ってんだろ?」
「え? まあ、聞いてはいるけど、あたしはそんなの興味ないし……って、痛っ! 何すんのよ!」
潮江さんは不意に顔をしかめる。
君塚くんが、彼女の細腕を掴んで引っ張り上げていたからだ。
「とぼけんなよクソアマがよ! テメェしかいねぇんだよ、候補がよ!」
「は? 一体何を証拠に――」
「白髪で華奢な女はこの学校にお前1人しかいないって言ってんだ!」
――あー。
それを遠巻きに見ていた俺は、どういう反応をしていいかもの凄く困っていた。
確かに、噂では俺は少女ということになっていた。つまり――必然的に、俺以外の場所に標的が向かってしまう。
特に潮江さんの場合、俺と背格好がそっくりだ。
それは決して、彼女の胸がまな板だとか、俺の身長が男子の中では低い方と言っているわけではない。うん、絶対に!
というか、今はそんなことを言ってる場合ではない!
彼女は今、暴力を振るわれている状態だ。このまま放っておくなんてことはできない!
そもそも、俺のせいで受ける必要のない虐待に晒されているのだ。これを放っておくなどと言えるものか。
「おい、お前ら――」
「おいテメェ等、その子離せよ!」
が、俺が一歩踏み出すより先に英次が動いていた。
「あ? んだよ」
尋問を止められた君塚くんは、不機嫌そうに鼻を鳴らして、潮江さんを掴んでいた手を離した。
「そういうことして、恥ずかしくないのかよ」
「はっ、テメェこそ、そんな鉄板のヒーロームーブして恥ずかしくねぇのかよ? お前にゃ似合わねぇだろ」
「まあな。だが、俺は普通のヒーローとはすこーし違う」
「あん?」
怪訝そうに顔をしかめる君塚くんへ、英次は容赦なく爆弾を放り投げた。
「なぜなら俺は今の君達の行動を一部始終スマホで録画していたからだ! そして、今すぐにでも学校のホームページと俺のトイッターに載せて拡散できる! なーはっはっはっはっ!!」
「なっ、テメェ卑怯だぞ!」
「卑怯? それはどの口が言ってるのかにゃ? 一度動画が拡散されたら、世間はお前等の悪行を無断で載せた俺よりも、か弱い女の子を寄ってたかって苛めた卑怯者《おまえら》を非難するだろうぜ? 今のご時世、デジタルタトゥーは怖いぞ~? さーて、どうする? このままお前等が悪行を続けるってんなら、俺の正義の刃が断罪を下すだろう! さて、賢いお前等はどうするね?」
「くっ!!」
君塚くんは、ちらりと周囲を確認する。
動画を拡散される以前に、ギャラリーが増えていることを確認して忌々しげに舌打ちすると、取り巻き達に「行くぞ」と告げて去って行った。
「へっ、おとといきやがれ」
英次は鼻で笑いつつ、いつのまにか撮影していた動画を削除する。
「……なんつーか俺、お前の友人でよかったわ。もし敵対してたら、今頃身ぐるみ全部剥がされてた気がする」
「ぜんぜん嬉しくない褒め言葉をどーも。さて」
片手でケータイを弄びつつ、英次は潮江さんのところへ向かった。
「大丈夫?」
そう声をかける英次だったが。
「は? 何? ひょっとして、助けたつもり? 言っとくけど、あんたなんかこなくても、あたし1人でなんとかなったから」
ツンとすました顔で、英次を睨みあげる潮江さん。
「おい、いくらなんでも、そんな言い方は――」
思わず突っ込みかけた俺を片手で制し、英次は言葉を続けた。
――むしろ、自分から嫌われにいくような姿勢で。
「ほうほう、これが古き良きツンデレですか~。ひょっとして照れ隠し? 俺に惚れちゃっ――」
パン! と乾いた音が響く。
潮江さんが、容赦なく右の平手を振り抜いていたのだ。
「バカ、死ね!」
そう言い捨てて、彼女は足早に去って行く。
俺は、頬を赤く腫らした英次をジト目で睨んで、ぼそりと告げた。
「今のはお前が悪い」
「ですよね~。いや~、ツンデレだと思ったんだけどなぁ~」
ヘラヘラと笑いながら、英次はそんなことをぼやいていた。
呆れつつも、俺は彼に少しだけ同情したのだった。
英次を一言で突き放した相手、潮江かやさん。入学当初からあんな調子だから、少しずつ話しかける人がいなくなって、今では孤立してしまっている。
冷たく人をあしらうからこそ。俺は、人に心を開かない彼女の背中が、どこか物寂しく見えた。
そんな彼女が、有名になってしまった俺の身代わりになっているような、今の現状も気がかりだ。
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