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第三章 《ハンティング祭》の騒乱編
第47話 迫る厄災
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「いやぁ……今回、怪我のせいで参加できなかったからさ。だから、その……かっくんにお疲れ様って言いたくて」
気恥ずかしそうに頬を染めながら、そんなことを言ってくる乃花。
その可愛らしい仕草に、思わずドキッとして危機感を忘れそうになるが――周囲からの(物理的に)熱い視線が俺を現実に引き戻した。
来てしまったものは仕方が無い。
君塚に狙われるようなことがあれば、どんな手を使ってでも守り通してやる。
そんな風に(熱烈な視線……というより死線を全身で浴びながら)、そう決意を固めたときだ。
「おー、お疲れぇ翔ぅ~」
空気を読まない誰かの声が聞こえてきて、俺は振り返る。
そこには、片手で戦利品の入った袋を持った英次が、上機嫌で片手をブンブン振っていた。
「見ろよこれ! この、イワシの群れを海の中から丸ごと網で掻っ攫ったような大☆収☆穫っ! へっへへ、これなら10万ポイントはくだらねぇぜ!」
英次はにっこにこの笑顔で片手に提げた袋を見せびらかす。
そこには、大量の鉱石やらモンスターのドロップアイテムが詰め込まれていた。
「で? お前の方はどうよ……んげっ」
――が、俺の袋を覗き込んだとたん、その顔を引きつらせた。
「くっ……な、なんだこのレア鉱石と薬草の量は!? お前……錬金術師か!?」
「いや? まあちょっと、偶然人気の無いスポットを見つけたもので」
英次は、七色に輝く鉱石がひとまとまりになって、さながら一つの巨大な宝石のようになっている光景を眺めながら、
「ちくしょう! 上機嫌で大量獲得したイワシを見せびらかしたら、養殖場ごとマグロの群れを突きつけられた気分だ! どうしてくれんだこの気持ちぃ!!」
「いや、例えがまったく想像できんからどうしようもない。とりあえずDHAが足りてなさそうだから海鮮丼でも食っとけ?」
ひとしきり悔しがったあと、英次は俺の方へ顔をよせてきた。
「そんでよ。お前、いつの間にみんなのアイドル高嶺様とお近づきになったのよ」
ジト目で、俺と、小首を傾げる高嶺さんを交互に眺めながら、若干恨みの籠もった声で聞いてくる。
「いや、まあ……いろいろありまして」
「なるほどなるほど。この俺を差し置いて天下の息吹翔様は青春街道まっしぐらってわけですかそうですか。くっ……なぜ俺の友人は出世していくのに、俺は妄想の中でしか女の子と付き合えないのか!?」
妄想のレベルが高すぎて、現実が追いついてこないからじゃね?
とは、流石に言えない俺であった。
ひとしきり悶えたあと、英次は俺の正面に立って若干困惑気味に苦笑いしていた乃花の方へ、一歩近づく。
それから、「ん、んん」と軽く咳払いをして、ホテルマンみたいに恭しく礼をして、いきなり挨拶をし出した。
しかも、半オクターブほど声を下げて、若干ダンディー感を醸し出すのも忘れない。
「どうも、高嶺乃花さん。ワタクシ、息吹翔さんと長いこと親友をやらせていただいております。八代英次と申します」
「まだ出会って2週間しか経ってないけどな……うぐっ」
鋭いツッコミを入れたら、鋭い(肘の先による脇腹への)突っ込みで返された。
「いつもウチの息吹翔がお世話になっております」
「は、はあ」
「そこでなんですが……お近づきの印に、握手をさせていただいても?」
「え? あ、はい……構いませんけど?」
困惑しつつ、乃花は英次が差し出した手を握る。
「ありがとうございます。これからもどうか、息吹翔。息吹翔をよろしくお願いします」
政治家の選挙か。
終始硬い表情を保っていた英次は、くるりと踵を返し、俺の方へ戻って来ると――
「や、やばいよ! お、女の子の手握っちゃった! す、すげぇ、や、やや、柔らかかった!」
「純かよ」
何かとテンションの忙しい英次に、俺は呆れるしかない。
と、そのときだった。
それは、唐突にやって来た。
ビーッ! ビーッ!
突如として、ダンジョン内にけたたましい警報が鳴り響く。
「な、なんだ!」
「何が起きたの!?」
「まさか、また異常が!?」
「うそ! あれってもう治ったんじゃ!!」
聞き慣れない警報に、パニックになる生徒達。
混乱は瞬く間に狭いホールを埋め尽くし、不安が大きく波打つ。
「……何が起きた?」
そんな中、英次が無理矢理冷静さを保つように言った。
そして――事態が大きく動いていく。
「ひ、ひいっ!」
「助けてくれ!」
集計場所となっているホールへ、数人の男女が流れ込んできた。
その誰もが、恐怖に顔を歪め、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。
その連中を見て、俺は眉をひそめた。
「あれって……君塚の取り巻き、だよな」
嫌な予感が、した。
常に君塚の恐怖によって行動を縛られている彼等が、命を乞うて逃げ出す程の脅威が、背後にいる。
そう、明確に突きつけるようで――その予感は、現実のものとなる。
「な、なんだあれっ!」
ホールにいた誰かが、裏返った声で叫ぶ。
その先に――ヤツはいた。
体高は、ダンジョンの通路の天井スレスレ、三メートルほどでそこまで大きくはない。
が、赤さびた茶色の肌は腐乱死体のようにドロドロと溶け出し、地面に落ちる度にジュウと音を立てて地面から煙が上がる。
黒い瞳孔の奥に見える赤紫の瞳は爛々と輝き、されど生命の息吹を欠片も感じさせない。
そして――何より特徴的なのは、その全身から放つ紫色の瘴気だった。
俺自身も、コイツを見るのは初めてだが、その見た目から“状態異常特化”のモンスターというのは想像に難くない。それも――かなり上位のランクの。
「な、なんでこんなバケモノが、1階層に来るんだよ!?」
「普通、下の階層にしか強いモンスターは出ないはずだろ!」
「ひ、ひっ! 解析したらランクがSってなってる!」
「は!? 嘘だろS!? そんなのが、こんな場所まで!?」
混乱は広がり、場はパニックの渦中にあった。
俺も、奥歯を食いしばりながらそのバケモノを見据える。
「ほんと、なんでだ。なんであんな、最下層のエリアボスレベルの敵が、こんな場所に!!」
だが、そんな疑問も、俺の視界に入ったあるもののせいで吹き飛んだ。
急に現れたSランクのモンスター。そのドロドロの大きな両手が、何かを掴んでいたのだ。
1人は、半狂乱で何かを喚いている君塚賀谷斗。
そして、もう1人。
朦朧とした意識の中、ぐったりと手を投げ出している――白髪の少女を見た。
気恥ずかしそうに頬を染めながら、そんなことを言ってくる乃花。
その可愛らしい仕草に、思わずドキッとして危機感を忘れそうになるが――周囲からの(物理的に)熱い視線が俺を現実に引き戻した。
来てしまったものは仕方が無い。
君塚に狙われるようなことがあれば、どんな手を使ってでも守り通してやる。
そんな風に(熱烈な視線……というより死線を全身で浴びながら)、そう決意を固めたときだ。
「おー、お疲れぇ翔ぅ~」
空気を読まない誰かの声が聞こえてきて、俺は振り返る。
そこには、片手で戦利品の入った袋を持った英次が、上機嫌で片手をブンブン振っていた。
「見ろよこれ! この、イワシの群れを海の中から丸ごと網で掻っ攫ったような大☆収☆穫っ! へっへへ、これなら10万ポイントはくだらねぇぜ!」
英次はにっこにこの笑顔で片手に提げた袋を見せびらかす。
そこには、大量の鉱石やらモンスターのドロップアイテムが詰め込まれていた。
「で? お前の方はどうよ……んげっ」
――が、俺の袋を覗き込んだとたん、その顔を引きつらせた。
「くっ……な、なんだこのレア鉱石と薬草の量は!? お前……錬金術師か!?」
「いや? まあちょっと、偶然人気の無いスポットを見つけたもので」
英次は、七色に輝く鉱石がひとまとまりになって、さながら一つの巨大な宝石のようになっている光景を眺めながら、
「ちくしょう! 上機嫌で大量獲得したイワシを見せびらかしたら、養殖場ごとマグロの群れを突きつけられた気分だ! どうしてくれんだこの気持ちぃ!!」
「いや、例えがまったく想像できんからどうしようもない。とりあえずDHAが足りてなさそうだから海鮮丼でも食っとけ?」
ひとしきり悔しがったあと、英次は俺の方へ顔をよせてきた。
「そんでよ。お前、いつの間にみんなのアイドル高嶺様とお近づきになったのよ」
ジト目で、俺と、小首を傾げる高嶺さんを交互に眺めながら、若干恨みの籠もった声で聞いてくる。
「いや、まあ……いろいろありまして」
「なるほどなるほど。この俺を差し置いて天下の息吹翔様は青春街道まっしぐらってわけですかそうですか。くっ……なぜ俺の友人は出世していくのに、俺は妄想の中でしか女の子と付き合えないのか!?」
妄想のレベルが高すぎて、現実が追いついてこないからじゃね?
とは、流石に言えない俺であった。
ひとしきり悶えたあと、英次は俺の正面に立って若干困惑気味に苦笑いしていた乃花の方へ、一歩近づく。
それから、「ん、んん」と軽く咳払いをして、ホテルマンみたいに恭しく礼をして、いきなり挨拶をし出した。
しかも、半オクターブほど声を下げて、若干ダンディー感を醸し出すのも忘れない。
「どうも、高嶺乃花さん。ワタクシ、息吹翔さんと長いこと親友をやらせていただいております。八代英次と申します」
「まだ出会って2週間しか経ってないけどな……うぐっ」
鋭いツッコミを入れたら、鋭い(肘の先による脇腹への)突っ込みで返された。
「いつもウチの息吹翔がお世話になっております」
「は、はあ」
「そこでなんですが……お近づきの印に、握手をさせていただいても?」
「え? あ、はい……構いませんけど?」
困惑しつつ、乃花は英次が差し出した手を握る。
「ありがとうございます。これからもどうか、息吹翔。息吹翔をよろしくお願いします」
政治家の選挙か。
終始硬い表情を保っていた英次は、くるりと踵を返し、俺の方へ戻って来ると――
「や、やばいよ! お、女の子の手握っちゃった! す、すげぇ、や、やや、柔らかかった!」
「純かよ」
何かとテンションの忙しい英次に、俺は呆れるしかない。
と、そのときだった。
それは、唐突にやって来た。
ビーッ! ビーッ!
突如として、ダンジョン内にけたたましい警報が鳴り響く。
「な、なんだ!」
「何が起きたの!?」
「まさか、また異常が!?」
「うそ! あれってもう治ったんじゃ!!」
聞き慣れない警報に、パニックになる生徒達。
混乱は瞬く間に狭いホールを埋め尽くし、不安が大きく波打つ。
「……何が起きた?」
そんな中、英次が無理矢理冷静さを保つように言った。
そして――事態が大きく動いていく。
「ひ、ひいっ!」
「助けてくれ!」
集計場所となっているホールへ、数人の男女が流れ込んできた。
その誰もが、恐怖に顔を歪め、涙と鼻水でぐしゃぐしゃになっている。
その連中を見て、俺は眉をひそめた。
「あれって……君塚の取り巻き、だよな」
嫌な予感が、した。
常に君塚の恐怖によって行動を縛られている彼等が、命を乞うて逃げ出す程の脅威が、背後にいる。
そう、明確に突きつけるようで――その予感は、現実のものとなる。
「な、なんだあれっ!」
ホールにいた誰かが、裏返った声で叫ぶ。
その先に――ヤツはいた。
体高は、ダンジョンの通路の天井スレスレ、三メートルほどでそこまで大きくはない。
が、赤さびた茶色の肌は腐乱死体のようにドロドロと溶け出し、地面に落ちる度にジュウと音を立てて地面から煙が上がる。
黒い瞳孔の奥に見える赤紫の瞳は爛々と輝き、されど生命の息吹を欠片も感じさせない。
そして――何より特徴的なのは、その全身から放つ紫色の瘴気だった。
俺自身も、コイツを見るのは初めてだが、その見た目から“状態異常特化”のモンスターというのは想像に難くない。それも――かなり上位のランクの。
「な、なんでこんなバケモノが、1階層に来るんだよ!?」
「普通、下の階層にしか強いモンスターは出ないはずだろ!」
「ひ、ひっ! 解析したらランクがSってなってる!」
「は!? 嘘だろS!? そんなのが、こんな場所まで!?」
混乱は広がり、場はパニックの渦中にあった。
俺も、奥歯を食いしばりながらそのバケモノを見据える。
「ほんと、なんでだ。なんであんな、最下層のエリアボスレベルの敵が、こんな場所に!!」
だが、そんな疑問も、俺の視界に入ったあるもののせいで吹き飛んだ。
急に現れたSランクのモンスター。そのドロドロの大きな両手が、何かを掴んでいたのだ。
1人は、半狂乱で何かを喚いている君塚賀谷斗。
そして、もう1人。
朦朧とした意識の中、ぐったりと手を投げ出している――白髪の少女を見た。
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