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第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編
第72話 白爪直人の苦労
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迫り来る黒き大量の影。
ざっと数百を超える大群へ狙いを定め、背中の矢筒にある矢を全て引き抜く。
それから、まとめて弓につがえて引き絞った。
「属性は無し、威力は変更不可、数は100――“レインズ・アロー”」
刹那、鉄の雨が重力を無視して斜め上へ降り注いだ。
ケーブ・バットは、小さい身体であることを補うために、集団で固まって獲物へ襲いかかる。
さながら、バッタの足に噛みつくアリ達や、スズメバチに団子状に覆い被さって自身等の体温で殺すミツバチの群れのように。
だが、ケーブ・バットに至ってはそれが決定的な隙となった。
集団でまとまっていたが故に、回避が遅れた。
その瞬間を逃さず、鉄の雨が容赦なく黒い影をまとめて串刺しにしていく。
この際、相手の数よりこちらの手数の方が少ないことはあまり関係ない。
固まった敵の群れをまとめて矢が串刺にし、焼き鳥か串団子のように黒い影が矢に突き刺さる。
あっという間に、数百匹のケーブ・バットを退けることに成功する。
――が。
「まだだな」
俺は、ギリギリで射線から逃れた個体が数十匹いることを見逃していなかった。
群れの中心付近は固まっていて外側へ逃れることができなかったから、そのまま矢に穿たれたが、逆に言えば最も外側にいたヤツらは回避を阻害する仲間がいないのだから、ギリギリで矢の雨を回避したのだろう。
残った数十匹のケーブ・バットは、怒り狂ったように左右の悪魔のような翼をはためかせながら、四方八方からこちらへ突っ込んでくる。
持ってきた「通常矢」は今の一撃で使ってしまったし、こうもバラバラの方角から来られたら、全てを撃ち落とすのは困難。
が――たかが矢を使い切ったくらいで、勝ち誇ったように襲いかかられても困るというものだ。
俺は、矢をつがえぬまま、弓の弦をその場で引き絞る。
いつか、三本に増やした弓でやった技。
“重音波破弾”。
弦が空気を叩く音を数倍に増加する、一種の音波兵器。
一発では、射線上にある物体を僅かに破壊するレベルでしかない。しかし、微妙に弾く際の強さやタイミングをずらした三つの波を放ち、狙った場所で重ねることで、ピンポイントで不可視の爆発を生むという、君塚相手に行った反則級の技。
しかし、今回はその対・コウモリ版だ。
使う弓は一つ。その代わり、弦を弾く際に起動する“拡声”のスキルの音波を少しばかり弄りる。
「“超音波弾《ウルトラ・サウンド》”」
刹那、弦を弾いた俺を中心に、見えない音の波が波及した。
超音波。
人間には聞こえない、可聴域を越えた場所にある巨大な音を、周囲に放ったのだ。
大前提として、夜行性のコウモリは基本的に目が発達していない。
だから、超音波を出し、物体に当たって跳ね返ってきた超音波を受信して、物体との距離を測るようになっている。
それは、ケーブ・バットも一緒。
ならばいくらでもやりようはあるわけだ。
例えば、こちらから超特大の超音波をぶっ放して、超音波を受け取る器官を思い切り狂わせるとか。
結果。
今まさに襲いかかってきたケーブ・バットの群れが、一斉にガクンと勢いを無くす。
特大の超音波を浴びたケーブ・バットは、その情報を処理しきれずに、その全てが地面へボトボトと落ちていった。
「ふぅ……一件落着」
俺は思わず安堵の息を吐く。
とりあえず、これで脅威は去った。
「一応、ケーブ・バット全部撃退しておきました。撮影の続き、やりましょ!」
俺は、直人と七禍の方を振り返り、気持ちの良い笑顔でサムズアップする。
が――当人達は口をあんぐりと開けたまま、瞬き一つせずに俺の方を見ていた。
え? 何?
なにその、ツチノコ見つけちゃった……みたいな目は。
「えと……どうしたの? なんか、珍獣を見るみたいな目になってるけど」
「はっ! そうか珍獣か! 貴様は人間ではないから、そんなバカげたことができるんじゃな! なるほどなるほどそうか、珍獣か! これで、目の前の現象にも説明がつくというものじゃ!」
「……うん、よくわからないけど、バカにされてるんだろうなってことはわかった」
安心したような表情で人を珍獣呼ばわりしてくる七禍に、俺はジト目を向ける。
ていうか、一応そのツチノコさんが失態の尻ぬぐいをしたことに、この中二病少女は気付いているんだろうか。
「なるほど、これが噂に聞くSSランクの弓使い、ですか……凄まじいですね」
直人は、若干額に脂汗を浮かべつつ、そう呟く。
「いやはや想像以上で、目が開きっぱなしです」
糸目なのに?
とは、流石に言えない俺だった。
普通に考えて、「目が小さいですね」とか面と向かって人に言うのは失礼すぎる。
だから俺は、「そんなことないですよ~」と無難に返し――
「くっははははは! 傑作じゃ! 貴様、糸目じゃから目が開いておらんぞ? というか、どこが目じゃ! あひひひひっ! お腹痛い!」
その場で腹を抱えて笑い出したヤツがいた。やっぱり七禍だった。
あ、この子地雷踏んだな。
それも、さっきの罠とは比較にならないくらい超特大のヤツを。
「あひゃひゃひゃひゃ――ひっ!」
目尻に涙すら浮かべていた七禍の顔が、一瞬にして凍り付く。
直人が、影を落とした顔でそっと七禍の襟を掴んでいた。
「一応、僕が気にしていることなんですけどね……少しばかり、お仕置きが必要ですかね」
「ちょっ、じょ、冗談じゃ! これはその、言葉の綾というか、あのぉ……」
ガタガタと震えながら、さっきとは真逆の方向で涙目になった少女が、俺の方を見る。
たぶん「助けてたもれ」とでも訴えているのだろう。
俺は目を瞑り、すーっと深呼吸をした後、満面の笑みでサムズアップした。
「頑張れ! 流石に死にはしないでしょ、たぶん!」
「う、裏切り者ぉおおおおおおおおおおおお!?」
「というわけで、休憩がてら向こうでお話しましょう? じっくりと、ね?」
完全にブチ切れモードで、直人が七禍を引っ張っていく。
「ちょ、待って! 謝る! 謝るのじゃ! だからお仕置きだけはぁああああああああああ!!」
直人に引きずられた七禍が、ダンジョンの奥へと消えていった。
願わくば、ちゃんと五体満足の七禍と今世で再会したいものだ。
ざっと数百を超える大群へ狙いを定め、背中の矢筒にある矢を全て引き抜く。
それから、まとめて弓につがえて引き絞った。
「属性は無し、威力は変更不可、数は100――“レインズ・アロー”」
刹那、鉄の雨が重力を無視して斜め上へ降り注いだ。
ケーブ・バットは、小さい身体であることを補うために、集団で固まって獲物へ襲いかかる。
さながら、バッタの足に噛みつくアリ達や、スズメバチに団子状に覆い被さって自身等の体温で殺すミツバチの群れのように。
だが、ケーブ・バットに至ってはそれが決定的な隙となった。
集団でまとまっていたが故に、回避が遅れた。
その瞬間を逃さず、鉄の雨が容赦なく黒い影をまとめて串刺しにしていく。
この際、相手の数よりこちらの手数の方が少ないことはあまり関係ない。
固まった敵の群れをまとめて矢が串刺にし、焼き鳥か串団子のように黒い影が矢に突き刺さる。
あっという間に、数百匹のケーブ・バットを退けることに成功する。
――が。
「まだだな」
俺は、ギリギリで射線から逃れた個体が数十匹いることを見逃していなかった。
群れの中心付近は固まっていて外側へ逃れることができなかったから、そのまま矢に穿たれたが、逆に言えば最も外側にいたヤツらは回避を阻害する仲間がいないのだから、ギリギリで矢の雨を回避したのだろう。
残った数十匹のケーブ・バットは、怒り狂ったように左右の悪魔のような翼をはためかせながら、四方八方からこちらへ突っ込んでくる。
持ってきた「通常矢」は今の一撃で使ってしまったし、こうもバラバラの方角から来られたら、全てを撃ち落とすのは困難。
が――たかが矢を使い切ったくらいで、勝ち誇ったように襲いかかられても困るというものだ。
俺は、矢をつがえぬまま、弓の弦をその場で引き絞る。
いつか、三本に増やした弓でやった技。
“重音波破弾”。
弦が空気を叩く音を数倍に増加する、一種の音波兵器。
一発では、射線上にある物体を僅かに破壊するレベルでしかない。しかし、微妙に弾く際の強さやタイミングをずらした三つの波を放ち、狙った場所で重ねることで、ピンポイントで不可視の爆発を生むという、君塚相手に行った反則級の技。
しかし、今回はその対・コウモリ版だ。
使う弓は一つ。その代わり、弦を弾く際に起動する“拡声”のスキルの音波を少しばかり弄りる。
「“超音波弾《ウルトラ・サウンド》”」
刹那、弦を弾いた俺を中心に、見えない音の波が波及した。
超音波。
人間には聞こえない、可聴域を越えた場所にある巨大な音を、周囲に放ったのだ。
大前提として、夜行性のコウモリは基本的に目が発達していない。
だから、超音波を出し、物体に当たって跳ね返ってきた超音波を受信して、物体との距離を測るようになっている。
それは、ケーブ・バットも一緒。
ならばいくらでもやりようはあるわけだ。
例えば、こちらから超特大の超音波をぶっ放して、超音波を受け取る器官を思い切り狂わせるとか。
結果。
今まさに襲いかかってきたケーブ・バットの群れが、一斉にガクンと勢いを無くす。
特大の超音波を浴びたケーブ・バットは、その情報を処理しきれずに、その全てが地面へボトボトと落ちていった。
「ふぅ……一件落着」
俺は思わず安堵の息を吐く。
とりあえず、これで脅威は去った。
「一応、ケーブ・バット全部撃退しておきました。撮影の続き、やりましょ!」
俺は、直人と七禍の方を振り返り、気持ちの良い笑顔でサムズアップする。
が――当人達は口をあんぐりと開けたまま、瞬き一つせずに俺の方を見ていた。
え? 何?
なにその、ツチノコ見つけちゃった……みたいな目は。
「えと……どうしたの? なんか、珍獣を見るみたいな目になってるけど」
「はっ! そうか珍獣か! 貴様は人間ではないから、そんなバカげたことができるんじゃな! なるほどなるほどそうか、珍獣か! これで、目の前の現象にも説明がつくというものじゃ!」
「……うん、よくわからないけど、バカにされてるんだろうなってことはわかった」
安心したような表情で人を珍獣呼ばわりしてくる七禍に、俺はジト目を向ける。
ていうか、一応そのツチノコさんが失態の尻ぬぐいをしたことに、この中二病少女は気付いているんだろうか。
「なるほど、これが噂に聞くSSランクの弓使い、ですか……凄まじいですね」
直人は、若干額に脂汗を浮かべつつ、そう呟く。
「いやはや想像以上で、目が開きっぱなしです」
糸目なのに?
とは、流石に言えない俺だった。
普通に考えて、「目が小さいですね」とか面と向かって人に言うのは失礼すぎる。
だから俺は、「そんなことないですよ~」と無難に返し――
「くっははははは! 傑作じゃ! 貴様、糸目じゃから目が開いておらんぞ? というか、どこが目じゃ! あひひひひっ! お腹痛い!」
その場で腹を抱えて笑い出したヤツがいた。やっぱり七禍だった。
あ、この子地雷踏んだな。
それも、さっきの罠とは比較にならないくらい超特大のヤツを。
「あひゃひゃひゃひゃ――ひっ!」
目尻に涙すら浮かべていた七禍の顔が、一瞬にして凍り付く。
直人が、影を落とした顔でそっと七禍の襟を掴んでいた。
「一応、僕が気にしていることなんですけどね……少しばかり、お仕置きが必要ですかね」
「ちょっ、じょ、冗談じゃ! これはその、言葉の綾というか、あのぉ……」
ガタガタと震えながら、さっきとは真逆の方向で涙目になった少女が、俺の方を見る。
たぶん「助けてたもれ」とでも訴えているのだろう。
俺は目を瞑り、すーっと深呼吸をした後、満面の笑みでサムズアップした。
「頑張れ! 流石に死にはしないでしょ、たぶん!」
「う、裏切り者ぉおおおおおおおおおおおお!?」
「というわけで、休憩がてら向こうでお話しましょう? じっくりと、ね?」
完全にブチ切れモードで、直人が七禍を引っ張っていく。
「ちょ、待って! 謝る! 謝るのじゃ! だからお仕置きだけはぁああああああああああ!!」
直人に引きずられた七禍が、ダンジョンの奥へと消えていった。
願わくば、ちゃんと五体満足の七禍と今世で再会したいものだ。
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