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第四章 大人気ダンチューバー、南あさり編
第101話 不良のたまり場で
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《翔視点》
水路脇の人目に付かない工場の扉をこじ開けると、今まさに襲われようとしている亜利沙の姿が目に入った。
――もう、ほとんど反射で行動していた。
二人の間のわだかまりとか、そんなの全部忘れて、俺はただ小さな弓矢にパチンコ玉のような小さな鉄球をのせて、タトゥー男の手に叩き込んだ。
「いっ、でぇえええええええええっ!」
絶叫と共に、手に鉄球を受けたタトゥー男が床を転がる。
「くっそが! なんだ、誰だ! こんなもん俺の手に撃ち込みやがったのは!」
血走った目で周囲を見まわすタトゥー男。
どこから攻撃されたのかにも気付いていない時点で、この街の不良が聞いて呆れるな。
ただ一人、鎖で縛り付けられた亜利沙だけが俺に気付き、小さく声を上げていた。
俺は扉を一気に開き、工場の中へと足を踏み入れる。
「ここだよ、ゲス野郎」
俺は、底冷えのする声でタトゥー男へ告げた。
「なっ……んだと」
いきなりの来訪者に驚いた様子で、固まるタトゥー男。
俺は、ゆっくりと歩みを進める。
奥の方にも数人いるな。ここは不良のアジトみたいだ。
「どう……して?」
不意に、亜利沙の口から声が漏れる。
「どうして、助けに来たの!」
「? どうしてって、まあいろいろ苦労したよ。乃花に手伝って貰って、片っ端から周囲を捜索したんだ。センター・ダンジョンの近くにいられたらお手上げだったし、半分賭けだったけど、なんとか運はこちらに味方して――」
「そういう意味じゃない! なんで? 私、お兄ちゃんに勝手に面倒ごと押しつけて、勝手に逃げた! だから、これは私の問題で、私が一人でなんとかすべきことなのに! なんで助けに来てくれるの!」
「……」
俺は、涙をボロボロこぼしながら、喉が割れんばかりに叫ぶ妹をしばらくの間無言で見つめていた。
やがて、一つだけため息をついてから答えた。
「本気でそう思ってるのなら、後でお兄ちゃん式ヘッドロックをかましてやるから覚悟しとけよ?」
「う゛っ」
とたん、亜利沙が押し黙る。
昔亜利沙が我が儘を言って家族を困らせたときに、俺がお仕置きで行ったヘッドロックで、亜利沙は大泣きした。
たぶん、そのトラウマがまだ残っているのだ。
「て、めぇ……」
そのとき。
ようやくダメージから回復したらしいタトゥー男が、手を押さえてヨロヨロと立ち上がる。
「どうやってここを探し当てた。確かに攫った用水路はすぐ脇だが、それにしたってここをピンポイントで襲撃できるはずが……、まさか!? GPSか?」
「残念外れだよ」
GPS、悪い考察ではないが残念ながら亜利沙のスマホにGPSは入っていない。
ずっと疑問だったが、たぶん彼女は有名人だから、位置情報を悪用されることを恐れてあえて入れなかったのだろう。
今回は、それが裏目に出てしまったが。
「じゃあ、一体どうやって?」
「亜利沙が道端にヒントを残しといてくれたから、見当を付けられたんだよ」
俺は、ポケットからあるものを取り出す。
それは、真っ二つに砕けた小さなカラーコンタクトだった。
「たぶん攫うときに、亜利沙の手元から落ちたんだろう。道端に落ちてるこれを踏んづけていなければ、きっと俺はまだ亜利沙を探して走り回ってた」
「ちっ、クソがっ!」
タトゥー男は舌打ちをして、俺を睨みつける。
――が、何を思ったのかここで低く笑い声を発した。
「くっくく……まあ、妹を助けるためにここまでやって来た兄弟愛は認めてやろう。けどな、こっちは武装した兵力が10人もいんだぞ! そんなチンケなパチンコでどうにかできる相手じゃねぇ! ひゃははははは、傲ったな、お前!」
高笑いをしたタトゥー男は、後ろを振り向いて手下と思われる連中に指示を出す。
「てめぇら、やっちまえ!」
「「「「うぉおおおおおおおおおお!!」」」」
上がる咆哮。
釘バットや鉄パイプを握りしめた不良達が、まとまって俺の方へ駆けてくる。
前列二人、真ん中の列と後列が三人ずつの、計八人が一斉に俺めがけて肉薄する。
「はははははっ! 止めて見やがれ!」
「たかが玩具の弓矢でこの街最強の俺達を止められるものかよ!」
高笑いとともに突っ込んでくる、道を踏み外した哀れな者達。
「この街最強、ねぇ……」
つまらない自称の称号を持つ彼等へ向け、俺は告げた。
「悪いけど、お前等が今から相手をするのは、世界最強の弓使いなんだけど」
水路脇の人目に付かない工場の扉をこじ開けると、今まさに襲われようとしている亜利沙の姿が目に入った。
――もう、ほとんど反射で行動していた。
二人の間のわだかまりとか、そんなの全部忘れて、俺はただ小さな弓矢にパチンコ玉のような小さな鉄球をのせて、タトゥー男の手に叩き込んだ。
「いっ、でぇえええええええええっ!」
絶叫と共に、手に鉄球を受けたタトゥー男が床を転がる。
「くっそが! なんだ、誰だ! こんなもん俺の手に撃ち込みやがったのは!」
血走った目で周囲を見まわすタトゥー男。
どこから攻撃されたのかにも気付いていない時点で、この街の不良が聞いて呆れるな。
ただ一人、鎖で縛り付けられた亜利沙だけが俺に気付き、小さく声を上げていた。
俺は扉を一気に開き、工場の中へと足を踏み入れる。
「ここだよ、ゲス野郎」
俺は、底冷えのする声でタトゥー男へ告げた。
「なっ……んだと」
いきなりの来訪者に驚いた様子で、固まるタトゥー男。
俺は、ゆっくりと歩みを進める。
奥の方にも数人いるな。ここは不良のアジトみたいだ。
「どう……して?」
不意に、亜利沙の口から声が漏れる。
「どうして、助けに来たの!」
「? どうしてって、まあいろいろ苦労したよ。乃花に手伝って貰って、片っ端から周囲を捜索したんだ。センター・ダンジョンの近くにいられたらお手上げだったし、半分賭けだったけど、なんとか運はこちらに味方して――」
「そういう意味じゃない! なんで? 私、お兄ちゃんに勝手に面倒ごと押しつけて、勝手に逃げた! だから、これは私の問題で、私が一人でなんとかすべきことなのに! なんで助けに来てくれるの!」
「……」
俺は、涙をボロボロこぼしながら、喉が割れんばかりに叫ぶ妹をしばらくの間無言で見つめていた。
やがて、一つだけため息をついてから答えた。
「本気でそう思ってるのなら、後でお兄ちゃん式ヘッドロックをかましてやるから覚悟しとけよ?」
「う゛っ」
とたん、亜利沙が押し黙る。
昔亜利沙が我が儘を言って家族を困らせたときに、俺がお仕置きで行ったヘッドロックで、亜利沙は大泣きした。
たぶん、そのトラウマがまだ残っているのだ。
「て、めぇ……」
そのとき。
ようやくダメージから回復したらしいタトゥー男が、手を押さえてヨロヨロと立ち上がる。
「どうやってここを探し当てた。確かに攫った用水路はすぐ脇だが、それにしたってここをピンポイントで襲撃できるはずが……、まさか!? GPSか?」
「残念外れだよ」
GPS、悪い考察ではないが残念ながら亜利沙のスマホにGPSは入っていない。
ずっと疑問だったが、たぶん彼女は有名人だから、位置情報を悪用されることを恐れてあえて入れなかったのだろう。
今回は、それが裏目に出てしまったが。
「じゃあ、一体どうやって?」
「亜利沙が道端にヒントを残しといてくれたから、見当を付けられたんだよ」
俺は、ポケットからあるものを取り出す。
それは、真っ二つに砕けた小さなカラーコンタクトだった。
「たぶん攫うときに、亜利沙の手元から落ちたんだろう。道端に落ちてるこれを踏んづけていなければ、きっと俺はまだ亜利沙を探して走り回ってた」
「ちっ、クソがっ!」
タトゥー男は舌打ちをして、俺を睨みつける。
――が、何を思ったのかここで低く笑い声を発した。
「くっくく……まあ、妹を助けるためにここまでやって来た兄弟愛は認めてやろう。けどな、こっちは武装した兵力が10人もいんだぞ! そんなチンケなパチンコでどうにかできる相手じゃねぇ! ひゃははははは、傲ったな、お前!」
高笑いをしたタトゥー男は、後ろを振り向いて手下と思われる連中に指示を出す。
「てめぇら、やっちまえ!」
「「「「うぉおおおおおおおおおお!!」」」」
上がる咆哮。
釘バットや鉄パイプを握りしめた不良達が、まとまって俺の方へ駆けてくる。
前列二人、真ん中の列と後列が三人ずつの、計八人が一斉に俺めがけて肉薄する。
「はははははっ! 止めて見やがれ!」
「たかが玩具の弓矢でこの街最強の俺達を止められるものかよ!」
高笑いとともに突っ込んでくる、道を踏み外した哀れな者達。
「この街最強、ねぇ……」
つまらない自称の称号を持つ彼等へ向け、俺は告げた。
「悪いけど、お前等が今から相手をするのは、世界最強の弓使いなんだけど」
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