【悲報】最弱ジョブ「弓使い」の俺、ダンジョン攻略中にSランク迷惑パーティーに絡まれる。~配信中に最弱の俺が最強をボコしたらバズりまくった件~

果 一

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番外編 中二少女と白忍者

第109話 初めての友達(?)

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《三人称視点》

 江西彩花の中に、縁七禍が生まれた日。

 その日を境に、七禍には目標ができた。
 憧れのセブンス・サインのように優しい人間になることと、セブンス・サインのように強くなること。
 前者は生き様だが、後者に関しては何をもって強くなるのか? という問いが付きまとうが、幸いにも彼女は見つけたのだ。

 それこそが、ダンジョン冒険者。
 命を失う危険は(よほどのことがない限り)無く、まるで異世界ファンタジーの世界に入り込んだかのような、ゲームよりもリアルな冒険ができる場所。
 そこで強くなろうと、彼女は決めたのだった。

――。

 さて。
 彼女が中二病で、台詞もセブンス・サインに似通っているのは、つまるところ憧れたキャラクター像が中二病だからに他ならない。

 口調や生き様は完全にセブンス・サインをリスペクト(という名の丸パクリ)をしているし、後にプロ冒険者となったときの名前だって“七つの大罪”からとって“七禍”である。
 セブンス・サインが扱う魔法は、子どもウケを意識してか動物を象ったエフェクトであるからか、彼女が選んだ役職もモンスターを操る“獣使いテイマー”だった。
 
 一応差違を上げるとすれば、魔王という設定のセブンス・サインに対し、彼女は吸血鬼設定を頑なに通していることくらいか。

 そんなこんなで、“獣使いテイマー”となった少女は1人、憧れの存在のようになるために、ダンジョンへと潜るようになった。

――そして、およそ一年後。
ほぼ毎日ダンジョンに潜っていた彩花は、めきめきと腕を伸ばし、中学1年にしてBランクへと到達していた。

「む? なんじゃ? おやつが欲しいのかのう?」

 いつものようにダンジョンを進んでいた彩花は、着込んだローブの裾を突くフェニックスの方を向いた。
 フェニックスはダンジョンの中層に住むモンスターで、ランクはB+に相当する。
 
 “獣使いテイマー”がテイムできるモンスターのランクは、術者の練度とランクに左右されるから、個人でこれほどの強力なモンスターを味方に付けている時点で、既に彼女のレベルは相当なものになっていた。

「ふふふ、仕方ないのう。この甘えんぼめ」

 彩花は口元をほころばせながら、フェニックスの頭をつんつんと突く。
 彩花にじゃれついていたフェニックスは、嬉しそうに「きゅい」と鳴いた。
 
(思えば随分遠くへ来たのう。いつの間にか強くなって、モンスターにも懐かれて……ふふ、これはもう“優しくて強い自分”になれたのではないかの?)

 そんな風にほくそ笑む彩花。
 そのとき、不意にフェニックスが高く鳴いた。警戒を示すときの声色だと、彩花はすぐに気付く。

「ふむ、なるほど。“イリーガル・タイガー”か」

 彩花もまた、すぐに自身を狙う存在に気付いた。
 進む道の先に、“イリーガル・タイガー”――サーベルタイガーのように尖った牙を持つ、赤と黒の縞模様が特徴的なBランクのモンスターだった。
 フェニックスよりも弱いから警戒する必要はあまりない。しかし、そのモンスターを見た途端、彩花は「なっ!」と叫んでいた。

 その個体が強力だったから、ではない。
 “イリーガル・タイガー”の先には、3人組の女子がへたり込んでいたからだ。
 おそらく彩花の一つか二つ年上といったところだろう。3人でパーティーを組んで攻略していたら、“イリーガル・タイガー”に襲われて身動きがとれなくなっているようだった。

「いけっ!」

 反射的に彩花はフェニックスに指示を出していた。
 一度甲高く鳴いてから、フェニックスは翼をはためかせて突進する。
 赤い翼から火の粉が散り、一筋の流星となって空を駆け、今まさに少女達に飛びかかろうとした“イリーガル・タイガー”を貫いた。

「だ、大丈夫か!?」

 光の粒子となって消えていくモンスターを見て、目を白黒させている3人組へ、彩花は駆け寄る。

「すごい」
「ランクBのモンスターを一撃で……」
「あ、あなたがやったの?」
「ま、まあ……そうじゃな」

 褒められていない彩花は、頬を掻きながら応じる。
 3人組は顔を見合わせたあと、一気に彩花に詰め寄った。

「助けてくれてありがと! それでさ、君、私達とダンジョン攻略しない?」
「うぇっ!?」

 突然の誘いに驚いて、今度は彩花の方が目をぱちくりさせる。

「うん、それがいいよ! 私達、ちょっと背伸びして深いとこまできちゃって……でも、君がいてくれたら安心だよ!」
「え、あ、あの……」
「だめ……かな?」
「え、あう……」

 三者三様に詰め寄られて、彩花は萎縮してしまう。
 無理もなかった。そもそも、彼女は友達というものができたことがない。ここまで一方的に迫られるのは慣れていないのだ。

 しかし、同時に嬉しくもあった。
 自分のしたことに感謝され、褒められることが。

(はぁ。まったく。ここで彼女らの頼みを受け入れるのも、優しさというものなのかのう)

 そんな風に心の中で格好付けつつ、彩花は――

「えぇ? ふへへ。ま、まあ仕方ないのう。どうしてもと言うのなら、妾が付き添ってやらんこともないが? へへへへ」

 ――めっちゃノリノリであった。
 褒められ慣れていないから、めっちゃキモく体をくねらせて全身で喜びを表現していた。

「マジ? ありがと! ウチは子音しおん。ジョブは“魔術師マジシャン”でランクはCになったばかりかな~。最近はネイルアートにハマってる。でもって、こっちが麻美あさみと恵里《えり》。一応みんな中学三年だよ。よろしくね」
「ちょいちょい子音!」
「ウチらの紹介雑すぎん?」

 子音と名乗った少女に紹介された麻美と恵里が、陽キャっぽくツッコミを入れる。

「めんごめんご。で、君の名前は?」
「え、えと……江西彩花じゃ……です。ジョブは“獣使いテイマー”でランクはB。一応、中学1年……ですじゃ。よろしく」
「え!? その歳でランクB!? すっご!」
「将来有望やね~」
「てかその話し方なにw」

 3人揃って快活に笑う。
 緊張しながらも、彩花は口元がほころぶのをとめられなかった。
 何せ、人生で初めてできた友達だ。

(楽しみ……じゃな)

 やはり、空っぽだった自分に好きなものができてよかった。
 このとき、彩花はそう思った。そう――
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