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第五章 『ダンジョン・ウォーターパーク』の光と影編
第114話 支部長からのお達し
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《翔視点》
――ダンチューバー南あさりとの一悶着から一週間と少し経った水曜日の昼下がり。
珍しく短縮日課だったおかげで午前中だけで授業を終えた俺は、久しぶりにダンジ ョン運営委員会の支部に来ていた。
五月下旬に差し掛かったのもあり、流石にこの時間帯は暑い。
少しプールが恋しくなってくる気温だ。
今回呼び出したのは寺島支部長だが、要件はわかっている。
例の不良達をブッ飛ばした件についてのペナルティだろう。
俺は深呼吸をひとつして、自動ドアを潜って中に入った。
平日のお昼時ゆえか、ロビーには冒険者らしき人達の姿は見当たらない。
受付の人達もさぞ退屈していることだろう。
「――どいつもこいつも彼氏彼氏彼氏って! 私への当てつけか!? あぁ!?」
「だ、大丈夫ですよ寺島支部長!」
「そうですよ! 支部長美人ですし、きっとすぐに素敵な方が現れますよ!!」
「やかましいっ! 貴様等彼氏持ちに何ヲ言われても、全く響かないんだよぉおおおおおおおおお!!」
「「えぇ~……」」
――なんかいる。
カウンターに肘を突き、得若い女性社員に大人げもなく喚き散らしているパワハラ(?)上司の寺島瑞紀さんがいる。
受付嬢の反応を見る限り、「じゃあ、どう慰めろって言うんだ?」という困惑と呆れが入り交じった表情だ。
相変わらず、思ったことをそのまま口に出す人だな、寺島さんは。
とにかく、これは見なかったことにしよう。
俺はそのままバックで退室しようとして――寺島支部長と目が合った。
「よぉ、待っていたぞ」
相変わらず男勝りな口調で片手を挙げ、俺を歓迎してくれる寺島さん。
さっきとんでもない醜態をさらしたはずなのに、この人に羞恥心とかそういうのはないんだろうか?
「お、お世話になります」
一度出直すのを諦めて頭を下げた俺の視界に、受付の人達の姿が映る。
来客が少ないからか、今は若い女性社員が2人体制でカウンターにいる。(いつもは3人体制)
1人は知らない人だが、もう1人は知っている。
この間来た時に、俺がSSランクの“弓使い”だと知ってぶっ倒れた気弱お姉さんだ。
俺の方を見た気弱お姉さんは、パッと表情を明るくして、小さく手を振ってくれた。
かわいい。確かに、彼氏ができるのもわかる気がする――とかいうと、寺島さんに殺されそうだからやめておこう。
「話がある。私の部屋までご足労願おうか?」
「はい、よろしくお願いします」
不敵に笑ってエレベーターの方へ向かう寺島さんの後ろをついていく俺であった。
――。
「――さて、と。今日はまた遙々済まなかったな。どうしても、キミに伝えねばならぬことがあってね」
ガラス窓の正面に置かれたイスにどかりと腰掛け、綺麗な曲線美を描く足を優雅に組みながら支部長はそう言ってきた。
「はい。覚悟はしています。プロ冒険者としての活動休止・もしくは権利剥奪の件ですよね?」
唾を飲み込みつつ聞いた俺に対し、寺島さんはフッと含みのある笑いを零し――
「え? ごめん、なんのことだ?」
「え」
「全然違うし、どうしてそうなる?」的な顔で小首を傾げられた。
「え、いやだって。前ニュースで見たでしょう? 俺(と思われる人間)が、不良を現行犯逮捕したって。そのときに、暴行とか器物損壊とか、いろいろやっちゃってるので……それで、プロ冒険者の資格が剥奪されるのかなと身構えていたんですが」
終始目を白黒させて聞いていた支部長は、やがて豪快に笑い出した。
「くっはははははっ! やはりおもしろいなキミは。わざわざ言う必要も無い罪を暴露するとは、真面目すぎる! 自分から弱みをひけらかすのは大事なことではあるが、これから社会に出る上では損だぞ?」
なるほど一理ある。
だが一つ言わせて欲しい。
あんたにだけは言われたくないよ。結婚できない恨みをストレートにぶちかましてるあんたにだけは。
「それに、むしろ賞賛すべき案件だろう? 世の中、正義の皮を被れば暴行だって正当化される。家宅捜索をする検察官が、頑なに出てこようとしない被疑者の家の扉をこじ開けるようにな。だから今回のこともさして問題ないだろう」
「的を射ているのかもしれませんが、ちょっと考え方が乱暴すぎませんかね……」
もはや苦笑いしか出てこない俺であった。
「まあ、権利剥奪も謹慎期間も必要無いだろうが、それでも自発的に反省したいと言うなら好きにしろ。といっても、キミのことだ。その一件があってから、まだダンジョンに行っていないのだろう?」
「ええ、まあ」
俺は鷹揚に頷いてみせる。
この1週間半、一度もダンジョンには赴いていない。
「ならばダンジョン運営委員会としても、「矢羽翔は不良の現行犯逮捕での騒動に対し、自発的に二週間の謹慎期間を履行中」と公式に発表しておこう。それならば問題ないだろう?」
「はい、ご厚意ありがとうございます」
俺は素直に頭を下げた。
納得いかない部分もあるが、世間がそれでいいというのならば、俺としても異論はない。
しかし――それでは一つ疑問が残る。
「あの、今日俺が呼び出された理由って、なんなんですか?」
「ああ、それはだな――」
長い足を組み替えつつ、寺島さんは言った。
「話題沸騰から人気が留まるところを知らない、新人プロ冒険者の矢羽翔くんに、オファーが来ている」
「オファー?」
訝しむ俺の前で、寺島さんはニッと白い歯を見せて笑いつつ言葉を続けた。
「『ダンジョン・ウォーターパーク』。今話題のレジャー施設を運営している代表取締役から、直々にご指名だ。ウチのレジャー施設を、是非とも宣伝して欲しいとさ」
――ダンチューバー南あさりとの一悶着から一週間と少し経った水曜日の昼下がり。
珍しく短縮日課だったおかげで午前中だけで授業を終えた俺は、久しぶりにダンジ ョン運営委員会の支部に来ていた。
五月下旬に差し掛かったのもあり、流石にこの時間帯は暑い。
少しプールが恋しくなってくる気温だ。
今回呼び出したのは寺島支部長だが、要件はわかっている。
例の不良達をブッ飛ばした件についてのペナルティだろう。
俺は深呼吸をひとつして、自動ドアを潜って中に入った。
平日のお昼時ゆえか、ロビーには冒険者らしき人達の姿は見当たらない。
受付の人達もさぞ退屈していることだろう。
「――どいつもこいつも彼氏彼氏彼氏って! 私への当てつけか!? あぁ!?」
「だ、大丈夫ですよ寺島支部長!」
「そうですよ! 支部長美人ですし、きっとすぐに素敵な方が現れますよ!!」
「やかましいっ! 貴様等彼氏持ちに何ヲ言われても、全く響かないんだよぉおおおおおおおおお!!」
「「えぇ~……」」
――なんかいる。
カウンターに肘を突き、得若い女性社員に大人げもなく喚き散らしているパワハラ(?)上司の寺島瑞紀さんがいる。
受付嬢の反応を見る限り、「じゃあ、どう慰めろって言うんだ?」という困惑と呆れが入り交じった表情だ。
相変わらず、思ったことをそのまま口に出す人だな、寺島さんは。
とにかく、これは見なかったことにしよう。
俺はそのままバックで退室しようとして――寺島支部長と目が合った。
「よぉ、待っていたぞ」
相変わらず男勝りな口調で片手を挙げ、俺を歓迎してくれる寺島さん。
さっきとんでもない醜態をさらしたはずなのに、この人に羞恥心とかそういうのはないんだろうか?
「お、お世話になります」
一度出直すのを諦めて頭を下げた俺の視界に、受付の人達の姿が映る。
来客が少ないからか、今は若い女性社員が2人体制でカウンターにいる。(いつもは3人体制)
1人は知らない人だが、もう1人は知っている。
この間来た時に、俺がSSランクの“弓使い”だと知ってぶっ倒れた気弱お姉さんだ。
俺の方を見た気弱お姉さんは、パッと表情を明るくして、小さく手を振ってくれた。
かわいい。確かに、彼氏ができるのもわかる気がする――とかいうと、寺島さんに殺されそうだからやめておこう。
「話がある。私の部屋までご足労願おうか?」
「はい、よろしくお願いします」
不敵に笑ってエレベーターの方へ向かう寺島さんの後ろをついていく俺であった。
――。
「――さて、と。今日はまた遙々済まなかったな。どうしても、キミに伝えねばならぬことがあってね」
ガラス窓の正面に置かれたイスにどかりと腰掛け、綺麗な曲線美を描く足を優雅に組みながら支部長はそう言ってきた。
「はい。覚悟はしています。プロ冒険者としての活動休止・もしくは権利剥奪の件ですよね?」
唾を飲み込みつつ聞いた俺に対し、寺島さんはフッと含みのある笑いを零し――
「え? ごめん、なんのことだ?」
「え」
「全然違うし、どうしてそうなる?」的な顔で小首を傾げられた。
「え、いやだって。前ニュースで見たでしょう? 俺(と思われる人間)が、不良を現行犯逮捕したって。そのときに、暴行とか器物損壊とか、いろいろやっちゃってるので……それで、プロ冒険者の資格が剥奪されるのかなと身構えていたんですが」
終始目を白黒させて聞いていた支部長は、やがて豪快に笑い出した。
「くっはははははっ! やはりおもしろいなキミは。わざわざ言う必要も無い罪を暴露するとは、真面目すぎる! 自分から弱みをひけらかすのは大事なことではあるが、これから社会に出る上では損だぞ?」
なるほど一理ある。
だが一つ言わせて欲しい。
あんたにだけは言われたくないよ。結婚できない恨みをストレートにぶちかましてるあんたにだけは。
「それに、むしろ賞賛すべき案件だろう? 世の中、正義の皮を被れば暴行だって正当化される。家宅捜索をする検察官が、頑なに出てこようとしない被疑者の家の扉をこじ開けるようにな。だから今回のこともさして問題ないだろう」
「的を射ているのかもしれませんが、ちょっと考え方が乱暴すぎませんかね……」
もはや苦笑いしか出てこない俺であった。
「まあ、権利剥奪も謹慎期間も必要無いだろうが、それでも自発的に反省したいと言うなら好きにしろ。といっても、キミのことだ。その一件があってから、まだダンジョンに行っていないのだろう?」
「ええ、まあ」
俺は鷹揚に頷いてみせる。
この1週間半、一度もダンジョンには赴いていない。
「ならばダンジョン運営委員会としても、「矢羽翔は不良の現行犯逮捕での騒動に対し、自発的に二週間の謹慎期間を履行中」と公式に発表しておこう。それならば問題ないだろう?」
「はい、ご厚意ありがとうございます」
俺は素直に頭を下げた。
納得いかない部分もあるが、世間がそれでいいというのならば、俺としても異論はない。
しかし――それでは一つ疑問が残る。
「あの、今日俺が呼び出された理由って、なんなんですか?」
「ああ、それはだな――」
長い足を組み替えつつ、寺島さんは言った。
「話題沸騰から人気が留まるところを知らない、新人プロ冒険者の矢羽翔くんに、オファーが来ている」
「オファー?」
訝しむ俺の前で、寺島さんはニッと白い歯を見せて笑いつつ言葉を続けた。
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