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第五章 『ダンジョン・ウォーターパーク』の光と影編
第120話 最近の義妹は少し積極的すぎる
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《翔視点》
――時間は少し巻き戻って。
直人への連絡を終えた俺は、通話を切った。
「どうだった?」
ふと、亜利沙の声が俺の真下から聞こえてくる。
「とりえあず、七禍がOKなら、全員来れそうな感じかな。潮江さんからも、さっきお礼と行きたいっていう連絡が来たし」
そう答えると、亜利沙は満足げに頷いた。
「それはそうと亜利沙さん?」
「ん? 何?」
「これは一体どういう状況なんだい?」
俺は、さっきからずっと気になっていたことを亜利沙に聞く。
亜利沙の暖かさと重さが同時に、俺の太ももをずっと圧迫しているのだ。有り体に言えば、コイツは今、ソファに座っている義兄の膝を枕にしてくつろいでいるのである。
亜利沙はニヤリと笑うと、俺の膝の上でう~んと伸びをした。
「これは、最近モテだした浮気者のお兄ちゃんを鎖で封じているのです。ふっ、こういうことができるのも同じ屋根の下で既に暮らしている私の特権。これはもはや正妻の余裕!」
「……お前、この間の一件から、マジで遠慮をしなくなったよな」
この間の一件とは、言わずもがな南あさりと息吹亜利沙が同一人物だということがわかり、しかも亜利沙が俺に好意を寄せていて。お互いの認識と好意の相違から一度はすれ違ったけれども、なんやかんやあって亜利沙とちゃんと向き合い続けるという新しい関係性に落ち着いたのだ。
――で。その結果として、コイツのアピールが露骨になった。
「確かに、俺はお前がどんな気持ちを向けてきたとしても、ちゃんと向き合い続けるし、1人の女の子としても見るとは言った。だけどさ……」
俺は遠い目をして思い出す。
お風呂でくつろいでいたら、バスタオルを巻いて侵入してくる義妹を。
朝起きたらいつの間にか添い寝している義妹を。
登下校中、なんか視線を感じるなと思ったら俺の後を付けている義妹を。
「なあ、亜利沙」
「なに、お兄ちゃん」
「俺に、プライバシーって概念、適応されるのかな?」
「確かに、お兄ちゃんは有名人だからね。私の友達も、勝手にPINEのアイコンをおにいちゃんのカッコいい画像にしてるし」
それはそれで面倒だけど、俺が言いたいのは君のことだよ亜利沙くん。
「なぁんて。ごめんねお兄ちゃん。流石に鬱陶しかったよね?」
亜利沙は起き上がると、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら言った。
「お兄ちゃんのことが好きでも、迷惑を掛けるのは違うと思うから気をつけるよ」
「そうしてくれると助かる」
面と向かって好きと言われるのも、これはこれでこそばゆいものがあるが。
「あ、そうそう。私の友達も、『ダンジョン・ウォーター・パーク』に行くことになったから」
思いだしたように、亜利沙がそう告げてくる。
彼女の裏の顔は大人気ダンチューバーの南あさりであり、今回俺と一緒に富田潤沢から指名を受けているのだ。
「友達って、俺の知らない人か?」
「ううん。熊猫パンダさんと栗落花梅雨さん」
「あー、あの2人か」
確か、以前しゃぶしゃぶに行った時に知り合ったダンチューバーだ。
今回も呼んでいるということは、たぶん相当仲が良いのだろう。
「ちなみに費用はどうなるんだ?」
「私と2人は、事務所が持ってくれるよ? そっちも、同じ感じでしょ」
「ああ。……調子に乗って誘いすぎたかもしれないけど」
俺は頬を掻きつつ答える。
まあ、ここは頼れる大人の寺島さんを信じるしかない。いざとなれば俺のポケットマネーの出番だ。
「楽しみだね。『ダンジョン・ウォーターパーク』」
さっき離れたのにさりげなく俺の膝に腰掛けてリラックスしながら、亜利沙が言う。
「まあ、一度は行ってみたいレジャー施設だもんな」
俺もそれに同調して、ソファの背もたれに身体を預けた。
――だから、このときの俺達は知るよしもなかった。
『ダンジョン・ウォーターパーク』の華々しい光の裏側に、特濃の影が存在することを。
――時間は少し巻き戻って。
直人への連絡を終えた俺は、通話を切った。
「どうだった?」
ふと、亜利沙の声が俺の真下から聞こえてくる。
「とりえあず、七禍がOKなら、全員来れそうな感じかな。潮江さんからも、さっきお礼と行きたいっていう連絡が来たし」
そう答えると、亜利沙は満足げに頷いた。
「それはそうと亜利沙さん?」
「ん? 何?」
「これは一体どういう状況なんだい?」
俺は、さっきからずっと気になっていたことを亜利沙に聞く。
亜利沙の暖かさと重さが同時に、俺の太ももをずっと圧迫しているのだ。有り体に言えば、コイツは今、ソファに座っている義兄の膝を枕にしてくつろいでいるのである。
亜利沙はニヤリと笑うと、俺の膝の上でう~んと伸びをした。
「これは、最近モテだした浮気者のお兄ちゃんを鎖で封じているのです。ふっ、こういうことができるのも同じ屋根の下で既に暮らしている私の特権。これはもはや正妻の余裕!」
「……お前、この間の一件から、マジで遠慮をしなくなったよな」
この間の一件とは、言わずもがな南あさりと息吹亜利沙が同一人物だということがわかり、しかも亜利沙が俺に好意を寄せていて。お互いの認識と好意の相違から一度はすれ違ったけれども、なんやかんやあって亜利沙とちゃんと向き合い続けるという新しい関係性に落ち着いたのだ。
――で。その結果として、コイツのアピールが露骨になった。
「確かに、俺はお前がどんな気持ちを向けてきたとしても、ちゃんと向き合い続けるし、1人の女の子としても見るとは言った。だけどさ……」
俺は遠い目をして思い出す。
お風呂でくつろいでいたら、バスタオルを巻いて侵入してくる義妹を。
朝起きたらいつの間にか添い寝している義妹を。
登下校中、なんか視線を感じるなと思ったら俺の後を付けている義妹を。
「なあ、亜利沙」
「なに、お兄ちゃん」
「俺に、プライバシーって概念、適応されるのかな?」
「確かに、お兄ちゃんは有名人だからね。私の友達も、勝手にPINEのアイコンをおにいちゃんのカッコいい画像にしてるし」
それはそれで面倒だけど、俺が言いたいのは君のことだよ亜利沙くん。
「なぁんて。ごめんねお兄ちゃん。流石に鬱陶しかったよね?」
亜利沙は起き上がると、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべながら言った。
「お兄ちゃんのことが好きでも、迷惑を掛けるのは違うと思うから気をつけるよ」
「そうしてくれると助かる」
面と向かって好きと言われるのも、これはこれでこそばゆいものがあるが。
「あ、そうそう。私の友達も、『ダンジョン・ウォーター・パーク』に行くことになったから」
思いだしたように、亜利沙がそう告げてくる。
彼女の裏の顔は大人気ダンチューバーの南あさりであり、今回俺と一緒に富田潤沢から指名を受けているのだ。
「友達って、俺の知らない人か?」
「ううん。熊猫パンダさんと栗落花梅雨さん」
「あー、あの2人か」
確か、以前しゃぶしゃぶに行った時に知り合ったダンチューバーだ。
今回も呼んでいるということは、たぶん相当仲が良いのだろう。
「ちなみに費用はどうなるんだ?」
「私と2人は、事務所が持ってくれるよ? そっちも、同じ感じでしょ」
「ああ。……調子に乗って誘いすぎたかもしれないけど」
俺は頬を掻きつつ答える。
まあ、ここは頼れる大人の寺島さんを信じるしかない。いざとなれば俺のポケットマネーの出番だ。
「楽しみだね。『ダンジョン・ウォーターパーク』」
さっき離れたのにさりげなく俺の膝に腰掛けてリラックスしながら、亜利沙が言う。
「まあ、一度は行ってみたいレジャー施設だもんな」
俺もそれに同調して、ソファの背もたれに身体を預けた。
――だから、このときの俺達は知るよしもなかった。
『ダンジョン・ウォーターパーク』の華々しい光の裏側に、特濃の影が存在することを。
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