【悲報】最弱ジョブ「弓使い」の俺、ダンジョン攻略中にSランク迷惑パーティーに絡まれる。~配信中に最弱の俺が最強をボコしたらバズりまくった件~

果 一

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第五章 『ダンジョン・ウォーターパーク』の光と影編

第126話 学年七位によるバカみたいな提案

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《三人称視点》

 かくして、一同はその場で解散となった。
 無事全員で『ダンジョン・ウォーターパーク』に行けることに、ほっと胸をなで下ろしながら。

――。

 西日の差し込む昇降口で。
 どこか緩慢な所作で、1人の少女が靴を履き替えていた。

 生徒達はとっくに部活に勤しむなり、ダンジョンに潜るなりしているから、そこには少女の姿しかない。
 だからだろうか?
 靴を履き替え終わった後も、少女は心ここにあらずといった風に立ち尽くしていた。
 
 まるで、周りに誰もいないからいくらでも隙を見せられるとでも言うように。
 しかし、そうは問屋が卸さなかった。

「何やってんだ、こんなとこで」
「っ!」

 不意にぶっきらぼうな声が投げかけられて、少女はビクリと肩を振るわせる。
 振り返った少女の視界に映ったのは、相変わらずいけ好かない目をした彼女の友人であった。

「……何、英次。あたしに何か用?」
「まあ、用があると言えば用があるな」

 声の主――英次は、どこか底意地悪そうに笑うと、少女の方へ一歩足を踏み出す。
 少女――潮江かやは、そこから距離を取るように一歩後ろへ下がった。

「みんなが浮かれムードだっていうのに、1人だけ悪夢を見るような顔してたからな」
「はっ、何ソレ。あんたみたいなデリカシーのないヤツに、人の心が読めるとは思えないけど?」
「まあ、そうだな。基本理屈っぽく考えちまうから、否定はしねぇよ」
 
 皮肉の効いた潮江の反応を軽く受け流しながら、英次はコキコキと首をならす。

「だから、デリカシーなんて関係なく傷口に塩を塗らせて貰うぜ? お前、本当は赤点だろ」
「っ!」

 図星を突かれた潮江の表情が、一瞬怯えたように揺れて――すぐに、英次を睨みつけた。

「ほんっと、デリカシー皆無なくせに頭が回るのね。ええ、お察しの通り。あたし1人だけ、情けなくも赤点をとったの」

 ここで見栄を張っても無駄だと判断した潮江は、観念して自身の順位表を出す。
 あの場で、1人だけ提示していなかった、彼女自身の順位表を。
 それを受け取った英次は、無言で結果を眺めた。

「……総合331点。151位……数学1・Aだけ、平均の半分を下回ってるな」

 英次は、小声で唸るように呟いた。
 数学1・Aの平均点は、58.2点。小数点以下は切り捨てされるので、29点未満をとったら問答無用で赤点補習対象となる。
 赤文字で印刷されている潮江の点数は、23点。

「あの場では恥ずかしくて言えなかったけど、ここであんたにバレたのは良かったかもね。どうせ、いつかバレることだったし」

 潮江は、なんでもない風を装って抑揚のない声で言う。
 数学は、潮江が最も苦手とする教科だ。勉強会でも、なんだかんだ英次にコツを教えて貰わなければ、問題さえまともに溶けなかったレベルで。

「そもそも、あたしに数学とか解けるわけないじゃない。最初から無駄なあがきだったのよ」
「それはないだろ。まあ、あれだけやって報われなかったのは残念だけど、コツコツやってまた次頑張ればいいさ」

 英次は、なんとはなしにそう言って、潮江に順位表を返す。
 が、潮江はそれを受け取らなかった。代わりに、呆気にとられたように英次を見ていた。

「怒らないの?」
「は? なんで」
「だって、あんたの時間を奪ってあれだけ教えて貰ったのに、結果が出なかったのよ? あたしが不甲斐ないせいで、楽しみにしてた『ダンジョン・ウォーターパーク』も楽しめなくなって、みんなにも迷惑かけて……そんなに優しくされる筋合いなんてない!」

 潮江は、僅かに涙ぐんだ声でそう訴える。
 目尻には、こぼれ落ちないように必死に溜めている涙が光っていた。
 対して、英次は呆れたようにため息をついた。

「はぁ~、まったく。お前って、たまに面倒くさいよな」
「なっ! 面倒くさいってなによ!」
「いや~だからさ、今回のことに関しちゃ別にお前に否はねぇだろ」
「はぁ? 頭おかしいんじゃないの? あたしのせいでみんなに迷惑を――」
「誰にだって得意不得意はあるだろ。現にお前は、数学が絶望的なまでに苦手で、それでもなんとかしようと頑張っただろ? 不得意なことに果敢に挑戦して、成果を出そうとしたんだ。だったら、自分を責める必要なんてないんじゃないか?」
「そりゃそうかもしれないけど、今そんなことは関係ないでしょ!」

 潮江は困惑して、英次に食って掛かる。
 当たり前だ。今ここで重要なのは、潮江が失敗して全員に迷惑を掛けたことだ。不得意だから仕方ないとか、そういう気休めはそもそも論点がズレている。

「これは、あたしの失態。だから、許すわけにはいかないの」
「…………」

 諦めたように俯いてしまう潮江を、英次はしばし無言で眺めていた。が、何を思ったのか、不意に口を開いた。

「お前が自分を責める分には勝手にそりゃいいが。この一週間、お前が数学に向きあう姿を見てきた俺としては、正直イライラしてくる」
「は? どういう意味よ」
「だからさ。簡単に言えばお前の頑張る姿を見てたから、この結果にも、それを受け入れてるお前にも、納得がいってねぇんだよ」
「は、はぁ……」

 潮江は、わけがわからず眉根をよせる。
 結果に納得がいってないとか、なぜそれをこの男が言うのか、潮江には理解できなかった。

「えっと、ごめん。つまりどういうこと?」
「つまり、あれだ。お前の頑張りに見合った希望くらいあってもいいと思うから、直談判しに行くぞ」
「はぁ?」
「ついてこい。職員室に乗り込むぞ」
「……はぁっ!?」

 学年七位のバカ野郎によるとんでもない提案に、潮江はたまらず素っ頓狂な声を上げてしまった。

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