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第五章 『ダンジョン・ウォーターパーク』の光と影編
第129話 義妹の我が儘
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《翔視点》
――中間テストが終わり、無事全ての答案が返却された。
梅雨前線の近づく今週末は、いよいよ『ダンジョン・ウォーターパーク』へと赴く――そんな折り。
「お兄様、極めて重大な話があります」
午後。
リビングのソファでくつろいでいた僕の前に、亜利沙が現れていきなり正座してきた。
しかも、なんだか変な口調だ。
「……どうした? なんか嫌な予感しかしないんだけど……ひょっとして、めちゃくちゃヤバい案件?」
「はい。特A級に致命的な案件であります」
その、普段のおちゃらけた様子からは考えられない真面目な姿に、俺は思わずゴクリと喉を鳴らす。
この次期に言うヤバい案件とは、例のアレくらいしか思いつかない。
昨日、英次に気化されて驚いたが、潮江さんが実は赤点を採ってしまっていたようだし(何をどうやったのかは定かではないが、『ダンジョン・ウォーターパーク』には行けるらしい)。
亜利沙に限って、それはないと思うが――
「まさかお前、中間テストで赤点を――」
「あ、それは大丈夫ですお兄様。無事学年3位でした」
「お、おう」
あたりまえのようにとんでもないことを言ってのける亜利沙に、俺は少々目眩がした。
まあ、亜利沙に限って赤点はないわな。もちろん、信じていたとも!
「でも、中間テスト関係の話じゃないなら、一体何がヤバいのさ。次期生徒会長にでも推薦されたとか?」
「確かに、生徒会からはちょくちょく声をかけられますが、それも違います」
「声はかけられてるのかよ」
冗談半分で言ったのに、マジな話だった。
亜利沙は現在中学二年だし、9月を持って現生徒会長は引退して代替わりするはず。
だから、まあ声をかけられる次期ではあるんだろうが――さすが俺の妹といったところだな。
「そうなると、本気でわからないぞ? 何がヤバいのか」
そう答えると、亜利沙は真剣みの増した表情で口を開いた。
「今週末、『ダンジョン・ウォーターパーク』に行くんですよね?」
「ああ、行くな」
「waterってことは、つまり水ってことですよね?」
「なんで流ちょうに言ったのかは知らんが、そうだな」
「つまり、可愛らしい水着が必須ということで――そのとき私は気付きました」
ふぅと小さく息を吐いた亜利沙は、カッと目を見開いて一気にまくし立てた。
「お兄ちゃんに見せる勝負水着持ってない!!!」
「あ、素に戻った」
「タンスの中を漁っても、あるのは学校指定のスク水だけ! 別にプールとか興味ないからオシャレな水着なんて1着も持っていない! そうなっては、過激な水着でお兄ちゃんを悩殺するプランも台無しなんだよ!!」
「一応聞くけど、お前ちゃんと自分が言ってる言葉の意味わかってるよな?」
コイツ、いよいよ見境がなくなってきたな。
「ということでお兄ちゃん! 私はプランBに変更するよ」
「……はぁ。えと、つまり?」
「今から、私とお買い物行くよ! 行き先はもちろん、デパートの水着売り場」
「……はぁ!?」
思わず変な声を上げてしまった。
「俺と行くの!?」
「うん。名付けて、水着買いに行って、いろんな水着の試着でお兄ちゃんを誘惑してやろう大作戦!」
そういうのって、普通言わずに連れて行くものじゃないだろうか?
現に、言われたせいで行く気が失せたぞ。
「……まあ、どうしてもって言うなら、付き合うけど」
「ほんと? やった!」
目を輝かせて、その場で飛び跳ねる亜利沙。
こういう年相応な姿を見ると、可愛いと思ってしまう自分がいるのは否定できない。
これはたぶん、恋心と言うよりも兄としての愛な気がするが……いつかこの感情が変わるときが来るのかもしれない。
ちなみに、自分に正直になってブラコンは認めることにした。
だから、妹の頼みには甘々になってやるのだ。
「お兄ちゃん大好き!」
そう言って、ぎゅっと抱きついてくる亜利沙。
小さな身体の奥から、心臓のとくんとくんという音が聞こえ、サラサラの髪から仄かに甘い香りがくすぐった。
「じゃあ、私支度してくるね!」
俺から離れた亜利沙は、真夏のような笑みを浮かべると、颯爽とリビングを飛び出していく。
今日――いきなり妹とのお出かけが決まったのだった。
――中間テストが終わり、無事全ての答案が返却された。
梅雨前線の近づく今週末は、いよいよ『ダンジョン・ウォーターパーク』へと赴く――そんな折り。
「お兄様、極めて重大な話があります」
午後。
リビングのソファでくつろいでいた僕の前に、亜利沙が現れていきなり正座してきた。
しかも、なんだか変な口調だ。
「……どうした? なんか嫌な予感しかしないんだけど……ひょっとして、めちゃくちゃヤバい案件?」
「はい。特A級に致命的な案件であります」
その、普段のおちゃらけた様子からは考えられない真面目な姿に、俺は思わずゴクリと喉を鳴らす。
この次期に言うヤバい案件とは、例のアレくらいしか思いつかない。
昨日、英次に気化されて驚いたが、潮江さんが実は赤点を採ってしまっていたようだし(何をどうやったのかは定かではないが、『ダンジョン・ウォーターパーク』には行けるらしい)。
亜利沙に限って、それはないと思うが――
「まさかお前、中間テストで赤点を――」
「あ、それは大丈夫ですお兄様。無事学年3位でした」
「お、おう」
あたりまえのようにとんでもないことを言ってのける亜利沙に、俺は少々目眩がした。
まあ、亜利沙に限って赤点はないわな。もちろん、信じていたとも!
「でも、中間テスト関係の話じゃないなら、一体何がヤバいのさ。次期生徒会長にでも推薦されたとか?」
「確かに、生徒会からはちょくちょく声をかけられますが、それも違います」
「声はかけられてるのかよ」
冗談半分で言ったのに、マジな話だった。
亜利沙は現在中学二年だし、9月を持って現生徒会長は引退して代替わりするはず。
だから、まあ声をかけられる次期ではあるんだろうが――さすが俺の妹といったところだな。
「そうなると、本気でわからないぞ? 何がヤバいのか」
そう答えると、亜利沙は真剣みの増した表情で口を開いた。
「今週末、『ダンジョン・ウォーターパーク』に行くんですよね?」
「ああ、行くな」
「waterってことは、つまり水ってことですよね?」
「なんで流ちょうに言ったのかは知らんが、そうだな」
「つまり、可愛らしい水着が必須ということで――そのとき私は気付きました」
ふぅと小さく息を吐いた亜利沙は、カッと目を見開いて一気にまくし立てた。
「お兄ちゃんに見せる勝負水着持ってない!!!」
「あ、素に戻った」
「タンスの中を漁っても、あるのは学校指定のスク水だけ! 別にプールとか興味ないからオシャレな水着なんて1着も持っていない! そうなっては、過激な水着でお兄ちゃんを悩殺するプランも台無しなんだよ!!」
「一応聞くけど、お前ちゃんと自分が言ってる言葉の意味わかってるよな?」
コイツ、いよいよ見境がなくなってきたな。
「ということでお兄ちゃん! 私はプランBに変更するよ」
「……はぁ。えと、つまり?」
「今から、私とお買い物行くよ! 行き先はもちろん、デパートの水着売り場」
「……はぁ!?」
思わず変な声を上げてしまった。
「俺と行くの!?」
「うん。名付けて、水着買いに行って、いろんな水着の試着でお兄ちゃんを誘惑してやろう大作戦!」
そういうのって、普通言わずに連れて行くものじゃないだろうか?
現に、言われたせいで行く気が失せたぞ。
「……まあ、どうしてもって言うなら、付き合うけど」
「ほんと? やった!」
目を輝かせて、その場で飛び跳ねる亜利沙。
こういう年相応な姿を見ると、可愛いと思ってしまう自分がいるのは否定できない。
これはたぶん、恋心と言うよりも兄としての愛な気がするが……いつかこの感情が変わるときが来るのかもしれない。
ちなみに、自分に正直になってブラコンは認めることにした。
だから、妹の頼みには甘々になってやるのだ。
「お兄ちゃん大好き!」
そう言って、ぎゅっと抱きついてくる亜利沙。
小さな身体の奥から、心臓のとくんとくんという音が聞こえ、サラサラの髪から仄かに甘い香りがくすぐった。
「じゃあ、私支度してくるね!」
俺から離れた亜利沙は、真夏のような笑みを浮かべると、颯爽とリビングを飛び出していく。
今日――いきなり妹とのお出かけが決まったのだった。
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