ダンジョンに迷い込んだ落ちこぼれの僕。偶然助けた“最強種”の少女と契約したら、強さがバグってSランクモンスターをブッ飛ばしちゃった件

果 一

文字の大きさ
12 / 61
第1章 最初の《契約》、竜の少女

第12話 自称嫁の手料理

しおりを挟む
 嫁の手料理。
 字面だけ見れば、全男が憧れるであろう状況。

 しかし、実際に今台所に立っているのは、エプロンを着けてはいるが、禍々しい角と尻尾が生えた7,8歳くらいの少女である。
 つまり状況だけ見れば、思春期をこじらせた高校生男子が、小学生くらいの女の子にコスプレをさせて、「嫁の手料理楽しみ~」とか言っているヤバい感じで。

 ――まあ、現実は本来こっちの世界にいるはずがないモンスターの女の子が勝手に読め風を吹かせているだけという、もっとヤバいシチュエーションなのだが。

「なあ、シャル」
「ん? なんじゃ旦那様?」

 尻尾をふりふり、冷蔵庫の中身を取り出しながらシャルがこちらを見る。

「大前提として、君料理とか作ったことあるの?」
「ない!」
「そっか」

 自信満々の即答どうもありがとう。
ていうか、そもそもドラゴンて料理なんてするのか?
 僕の偏見だが、ドラゴン=仕留めた獲物の肉をがっついているイメージしかない。
 と、僕の考えを知ってか知らずか、シャルは鼻をならしつつ答えた。

「ふふん、じゃが妾の母上は料理上手じゃからのう。それを思い出しながら作れば、まあなんとかなるじゃろう」

 あ、料理はするんだね。僕の中のドラゴンのイメージがまた一つ崩れ落ちた。
 まあ、シャルが張り切っているし、ここは彼女に任せておこう。
 そう思い、妹の初めてのお菓子作りを見守る兄のような、大らかな気持ちでいようと思った。

 そう、最初は思っていたのだ。――甘かった。

 ――「ちょっと!? 鍋に何投入してんの!?」
 ――「人間界の食べ物は妾もよく知らぬが、常識でわかることもある。赤い果実は甘くて美味い!」
 ――「それ唐辛子だから! めちゃくちゃ辛いヤツだから! あー、袋ごと入れるな!!」

 ――「うん、これはほどよく塩気が効いていて美味いな! よし、気に入ったから全部入れよう!」
 ――「ぎゃぁあああああああ! バターまるまる一塊料理に使うヤツがあるか! 死ぬわ!」

 ――「う~ん。コンロとやらはちと火力が弱すぎんか? よし! ここは妾が全身全霊の《バーニング・ブレス》で!」
 ――「やめろぉ! Sランクモンスターを一撃で消し飛ばす魔法なんか使うんじゃない! 料理どころかアパートが消し炭になる!!」

 ――「なあ、旦那様? 隠し味に妾の体液を入れたいと思うんじゃが、どう思う?」
 ――「やめてくださいお願いしますなんでもしますから、マジで」

 結果は、火を見るよりも明らかだった。
 ゲテモノ料理ができる、とかそれ以前の問題だ。

「完成じゃ! 旦那様!」
「うん、で、何コレ?」

 僕は真顔で、テーブルに置かれた品を見る。

「失礼な! 妾が真心込めて作った料理じゃよ!」

 本人はこう言うが、それは最早料理では無かった。赤紫色の液体がグツグツと皿の中で悲鳴を上げている。
あえて料理名を言うなら、『焦がしバター(燃えかす)と赤唐辛子の毒スープ』と言ったところか。ここに『~ドラゴンの体液を添えて~』というサブタイトルが付かないだけマシではあるが。

「さ、どうぞ召し上がれ。旦那様♡」

 シャルはお盆を胸に押しつけ、可愛らしくウインクする。
 こんなに殺意が湧く目配せも初めてだが、まあ悪気が無いことだけはわかるから食べるとしよう。

「いただきます――ぱくっ」

 口に含んだ瞬間、視界が明滅した。
 味覚? そんなものどう感じろと。とにかく、人体にはよくない刺激が許容量を超えて突き抜けたことで、なんか頭がふわふわして上下がわからなくなり――そのまま机に突っ伏した。

「だ、旦那様!? どうしたのじゃ!? 旦那様ぁああああああああああああッ!!」

 真っ白に燃え尽きた僕の前で、シャルの叫びが虚しく木霊した。

――。

 ――数分の気絶の後、なんとか現世に舞い戻ってきた僕は思う。
 シャルと契約して鉄の胃袋を手に入れていなければ、たぶんこのままあの世へ行っていた。

 とにかく、結局自分の分とシャルの分の夕食を作り直すことになり、今夜は余った食材でテキトーにチャーハンを作って済ませる流れに落ち着いたのだった。

「むぅ、なんか納得いかないのじゃ」
「なんで?」

 不機嫌そうな表情とは裏腹にチャーハンにがっつきながら、シャルが言う。

「家庭的スキルなら雌である妾の独壇場なのに、あっさり負けた」

 それはどうだろう? 男性も普通に台所に立つ時代だし、そんなこともないだろうけど。

「気にすることないって。シャルにはシャルで僕にできないことができるでしょ? ドラゴンだし」
「そんなこと言ったら、妾と契約した旦那様も、ドラゴンにできることは大抵できるじゃろ?」
「……あ、そういえばそうだった」

 完全論破されてしまった。

「まあ、妾はめげるつもりはないがな。何せ、おぬしの妻なのじゃから!」

 シャルは、ない胸を張って宣言する。
 頑張るのは嬉しいが、料理スキルが上がるまで、あれを食わされるのか。……そうか。
 毒耐性の固有スキルを持ってる子と契約しようかな?

「さて。お腹もいっぱいになったし、そろそろダンジョンに向かうかの?」

 いつの間にかチャーハンを完食していたシャルが、う~んと伸びをしてそう宣言する。

「旦那様も、はやく着替えてくれ」
「うん。それで、ダンジョンに何しに行くの?」
「ん? まあちょっとした冒険じゃが……」

 シャルは片目を瞑って、とんでもないことを宣言した。

「囚われの人魚姫を助けにゆくぞ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

美人四天王の妹とシテいるけど、僕は学校を卒業するまでモブに徹する、はずだった

ぐうのすけ
恋愛
【カクヨムでラブコメ週間2位】ありがとうございます! 僕【山田集】は高校3年生のモブとして何事もなく高校を卒業するはずだった。でも、義理の妹である【山田芽以】とシテいる現場をお母さんに目撃され、家族会議が開かれた。家族会議の結果隠蔽し、何事も無く高校を卒業する事が決まる。ある時学校の美人四天王の一角である【夏空日葵】に僕と芽以がベッドでシテいる所を目撃されたところからドタバタが始まる。僕の完璧なモブメッキは剥がれ、ヒマリに観察され、他の美人四天王にもメッキを剥され、何かを嗅ぎつけられていく。僕は、平穏無事に学校を卒業できるのだろうか? 『この物語は、法律・法令に反する行為を容認・推奨するものではありません』

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

プール終わり、自分のバッグにクラスメイトのパンツが入っていたらどうする?

九拾七
青春
プールの授業が午前中のときは水着を着こんでいく。 で、パンツを持っていくのを忘れる。 というのはよくある笑い話。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...