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第1章 最初の《契約》、竜の少女
第12話 自称嫁の手料理
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嫁の手料理。
字面だけ見れば、全男が憧れるであろう状況。
しかし、実際に今台所に立っているのは、エプロンを着けてはいるが、禍々しい角と尻尾が生えた7,8歳くらいの少女である。
つまり状況だけ見れば、思春期をこじらせた高校生男子が、小学生くらいの女の子にコスプレをさせて、「嫁の手料理楽しみ~」とか言っているヤバい感じで。
――まあ、現実は本来こっちの世界にいるはずがないモンスターの女の子が勝手に読め風を吹かせているだけという、もっとヤバいシチュエーションなのだが。
「なあ、シャル」
「ん? なんじゃ旦那様?」
尻尾をふりふり、冷蔵庫の中身を取り出しながらシャルがこちらを見る。
「大前提として、君料理とか作ったことあるの?」
「ない!」
「そっか」
自信満々の即答どうもありがとう。
ていうか、そもそもドラゴンて料理なんてするのか?
僕の偏見だが、ドラゴン=仕留めた獲物の肉をがっついているイメージしかない。
と、僕の考えを知ってか知らずか、シャルは鼻をならしつつ答えた。
「ふふん、じゃが妾の母上は料理上手じゃからのう。それを思い出しながら作れば、まあなんとかなるじゃろう」
あ、料理はするんだね。僕の中のドラゴンのイメージがまた一つ崩れ落ちた。
まあ、シャルが張り切っているし、ここは彼女に任せておこう。
そう思い、妹の初めてのお菓子作りを見守る兄のような、大らかな気持ちでいようと思った。
そう、最初は思っていたのだ。――甘かった。
――「ちょっと!? 鍋に何投入してんの!?」
――「人間界の食べ物は妾もよく知らぬが、常識でわかることもある。赤い果実は甘くて美味い!」
――「それ唐辛子だから! めちゃくちゃ辛いヤツだから! あー、袋ごと入れるな!!」
――「うん、これはほどよく塩気が効いていて美味いな! よし、気に入ったから全部入れよう!」
――「ぎゃぁあああああああ! バターまるまる一塊料理に使うヤツがあるか! 死ぬわ!」
――「う~ん。コンロとやらはちと火力が弱すぎんか? よし! ここは妾が全身全霊の《バーニング・ブレス》で!」
――「やめろぉ! Sランクモンスターを一撃で消し飛ばす魔法なんか使うんじゃない! 料理どころかアパートが消し炭になる!!」
――「なあ、旦那様? 隠し味に妾の体液を入れたいと思うんじゃが、どう思う?」
――「やめてくださいお願いしますなんでもしますから、マジで」
結果は、火を見るよりも明らかだった。
ゲテモノ料理ができる、とかそれ以前の問題だ。
「完成じゃ! 旦那様!」
「うん、で、何コレ?」
僕は真顔で、テーブルに置かれた品を見る。
「失礼な! 妾が真心込めて作った料理じゃよ!」
本人はこう言うが、それは最早料理では無かった。赤紫色の液体がグツグツと皿の中で悲鳴を上げている。
あえて料理名を言うなら、『焦がしバター(燃えかす)と赤唐辛子の毒スープ』と言ったところか。ここに『~ドラゴンの体液を添えて~』というサブタイトルが付かないだけマシではあるが。
「さ、どうぞ召し上がれ。旦那様♡」
シャルはお盆を胸に押しつけ、可愛らしくウインクする。
こんなに殺意が湧く目配せも初めてだが、まあ悪気が無いことだけはわかるから食べるとしよう。
「いただきます――ぱくっ」
口に含んだ瞬間、視界が明滅した。
味覚? そんなものどう感じろと。とにかく、人体にはよくない刺激が許容量を超えて突き抜けたことで、なんか頭がふわふわして上下がわからなくなり――そのまま机に突っ伏した。
「だ、旦那様!? どうしたのじゃ!? 旦那様ぁああああああああああああッ!!」
真っ白に燃え尽きた僕の前で、シャルの叫びが虚しく木霊した。
――。
――数分の気絶の後、なんとか現世に舞い戻ってきた僕は思う。
シャルと契約して鉄の胃袋を手に入れていなければ、たぶんこのままあの世へ行っていた。
とにかく、結局自分の分とシャルの分の夕食を作り直すことになり、今夜は余った食材でテキトーにチャーハンを作って済ませる流れに落ち着いたのだった。
「むぅ、なんか納得いかないのじゃ」
「なんで?」
不機嫌そうな表情とは裏腹にチャーハンにがっつきながら、シャルが言う。
「家庭的スキルなら雌である妾の独壇場なのに、あっさり負けた」
それはどうだろう? 男性も普通に台所に立つ時代だし、そんなこともないだろうけど。
「気にすることないって。シャルにはシャルで僕にできないことができるでしょ? ドラゴンだし」
「そんなこと言ったら、妾と契約した旦那様も、ドラゴンにできることは大抵できるじゃろ?」
「……あ、そういえばそうだった」
完全論破されてしまった。
「まあ、妾はめげるつもりはないがな。何せ、おぬしの妻なのじゃから!」
シャルは、ない胸を張って宣言する。
頑張るのは嬉しいが、料理スキルが上がるまで、あれを食わされるのか。……そうか。
毒耐性の固有スキルを持ってる子と契約しようかな?
「さて。お腹もいっぱいになったし、そろそろダンジョンに向かうかの?」
いつの間にかチャーハンを完食していたシャルが、う~んと伸びをしてそう宣言する。
「旦那様も、はやく着替えてくれ」
「うん。それで、ダンジョンに何しに行くの?」
「ん? まあちょっとした冒険じゃが……」
シャルは片目を瞑って、とんでもないことを宣言した。
「囚われの人魚姫を助けにゆくぞ」
字面だけ見れば、全男が憧れるであろう状況。
しかし、実際に今台所に立っているのは、エプロンを着けてはいるが、禍々しい角と尻尾が生えた7,8歳くらいの少女である。
つまり状況だけ見れば、思春期をこじらせた高校生男子が、小学生くらいの女の子にコスプレをさせて、「嫁の手料理楽しみ~」とか言っているヤバい感じで。
――まあ、現実は本来こっちの世界にいるはずがないモンスターの女の子が勝手に読め風を吹かせているだけという、もっとヤバいシチュエーションなのだが。
「なあ、シャル」
「ん? なんじゃ旦那様?」
尻尾をふりふり、冷蔵庫の中身を取り出しながらシャルがこちらを見る。
「大前提として、君料理とか作ったことあるの?」
「ない!」
「そっか」
自信満々の即答どうもありがとう。
ていうか、そもそもドラゴンて料理なんてするのか?
僕の偏見だが、ドラゴン=仕留めた獲物の肉をがっついているイメージしかない。
と、僕の考えを知ってか知らずか、シャルは鼻をならしつつ答えた。
「ふふん、じゃが妾の母上は料理上手じゃからのう。それを思い出しながら作れば、まあなんとかなるじゃろう」
あ、料理はするんだね。僕の中のドラゴンのイメージがまた一つ崩れ落ちた。
まあ、シャルが張り切っているし、ここは彼女に任せておこう。
そう思い、妹の初めてのお菓子作りを見守る兄のような、大らかな気持ちでいようと思った。
そう、最初は思っていたのだ。――甘かった。
――「ちょっと!? 鍋に何投入してんの!?」
――「人間界の食べ物は妾もよく知らぬが、常識でわかることもある。赤い果実は甘くて美味い!」
――「それ唐辛子だから! めちゃくちゃ辛いヤツだから! あー、袋ごと入れるな!!」
――「うん、これはほどよく塩気が効いていて美味いな! よし、気に入ったから全部入れよう!」
――「ぎゃぁあああああああ! バターまるまる一塊料理に使うヤツがあるか! 死ぬわ!」
――「う~ん。コンロとやらはちと火力が弱すぎんか? よし! ここは妾が全身全霊の《バーニング・ブレス》で!」
――「やめろぉ! Sランクモンスターを一撃で消し飛ばす魔法なんか使うんじゃない! 料理どころかアパートが消し炭になる!!」
――「なあ、旦那様? 隠し味に妾の体液を入れたいと思うんじゃが、どう思う?」
――「やめてくださいお願いしますなんでもしますから、マジで」
結果は、火を見るよりも明らかだった。
ゲテモノ料理ができる、とかそれ以前の問題だ。
「完成じゃ! 旦那様!」
「うん、で、何コレ?」
僕は真顔で、テーブルに置かれた品を見る。
「失礼な! 妾が真心込めて作った料理じゃよ!」
本人はこう言うが、それは最早料理では無かった。赤紫色の液体がグツグツと皿の中で悲鳴を上げている。
あえて料理名を言うなら、『焦がしバター(燃えかす)と赤唐辛子の毒スープ』と言ったところか。ここに『~ドラゴンの体液を添えて~』というサブタイトルが付かないだけマシではあるが。
「さ、どうぞ召し上がれ。旦那様♡」
シャルはお盆を胸に押しつけ、可愛らしくウインクする。
こんなに殺意が湧く目配せも初めてだが、まあ悪気が無いことだけはわかるから食べるとしよう。
「いただきます――ぱくっ」
口に含んだ瞬間、視界が明滅した。
味覚? そんなものどう感じろと。とにかく、人体にはよくない刺激が許容量を超えて突き抜けたことで、なんか頭がふわふわして上下がわからなくなり――そのまま机に突っ伏した。
「だ、旦那様!? どうしたのじゃ!? 旦那様ぁああああああああああああッ!!」
真っ白に燃え尽きた僕の前で、シャルの叫びが虚しく木霊した。
――。
――数分の気絶の後、なんとか現世に舞い戻ってきた僕は思う。
シャルと契約して鉄の胃袋を手に入れていなければ、たぶんこのままあの世へ行っていた。
とにかく、結局自分の分とシャルの分の夕食を作り直すことになり、今夜は余った食材でテキトーにチャーハンを作って済ませる流れに落ち着いたのだった。
「むぅ、なんか納得いかないのじゃ」
「なんで?」
不機嫌そうな表情とは裏腹にチャーハンにがっつきながら、シャルが言う。
「家庭的スキルなら雌である妾の独壇場なのに、あっさり負けた」
それはどうだろう? 男性も普通に台所に立つ時代だし、そんなこともないだろうけど。
「気にすることないって。シャルにはシャルで僕にできないことができるでしょ? ドラゴンだし」
「そんなこと言ったら、妾と契約した旦那様も、ドラゴンにできることは大抵できるじゃろ?」
「……あ、そういえばそうだった」
完全論破されてしまった。
「まあ、妾はめげるつもりはないがな。何せ、おぬしの妻なのじゃから!」
シャルは、ない胸を張って宣言する。
頑張るのは嬉しいが、料理スキルが上がるまで、あれを食わされるのか。……そうか。
毒耐性の固有スキルを持ってる子と契約しようかな?
「さて。お腹もいっぱいになったし、そろそろダンジョンに向かうかの?」
いつの間にかチャーハンを完食していたシャルが、う~んと伸びをしてそう宣言する。
「旦那様も、はやく着替えてくれ」
「うん。それで、ダンジョンに何しに行くの?」
「ん? まあちょっとした冒険じゃが……」
シャルは片目を瞑って、とんでもないことを宣言した。
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