裏切られてダンジョンの最下層に落とされた僕。偶然見つけたスキル、《スキル交換》でSクラスモンスターの最強スキルを大量ゲット!? 

果 一

文字の大きさ
62 / 84
第二章 《最凶の天空迷宮編》

第六十二話 因縁の対決

しおりを挟む
 メキメキと音を立て、ウッズの筋肉がみるみる内に膨れあがる。

 服がはじけ飛び、下から青黒く変色した肌が露わになる。



 八重歯は大きく伸び、牙のような形に変化し、額には第三の目が出現した。

 胸元には、《憑怪の石》が現れ、全身に禍々しい力を送っているのがわかる。



「ウォオオオオオオオオオオッ!」



 魂を喰い潰して生んだような咆哮が、大気を震撼しんかんさせた。

 見たところ、理性を失っているようだ。



 この変化は、紛れもなく――



「人のモンスター化?」

「ええ、そうよ」



 僕の呟きに対し、エナが淡々とそう答えた。

 

「《憑怪の石》は、魂と引き替えに人をモンスターにしてしまう、呪具じゅぐ。その正体は解明されていないこともあり、攻略者ギルドは特S級危険物に認定し、見つけても使用を硬く禁じているわ。まさか、ウッズがそれを使用するなんて……」



 そんな危険なものがあったなんて、知らなかったな。

 一応、冒険者歴はエナより長いつもりなんだけど。

 ほんの少しだけ、プライドが傷付いた。



「ちなみに、モンスター化の後、胸にある石を壊したら、人に戻ったりするの?」

「わからないわ。けど、戻るのであればわざわざ特S級危険物に認定しないでしょうね」

「だよね」



 だとしたら、ウッズは命と引き替えに僕と戦うことを選んだということか。

 一体何故――



 そんなことを考えていたそのとき。

 不意に、ウッズが動いた。

 瞬発的に地面を蹴り、瞬く間に彼我の距離を詰めてくる。



「え、エランくん!!」



 エナが悲痛な叫びを上げるが、僕は慌てず《龍鱗ドラゴン・スケール》を起動。

 左手にはめたガントレットの上に、びっしりとオレンジ色の鱗を生やし、モンスター化したウッズが放った正拳突きを真っ向から受け止める。



 通常、攻撃力や防御力などの戦闘向きステータスは魔法スキルに軍配が上がる。

 しかし、無属性の通常スキルでも高クラスモンスターの持つスキルは、その限りではない。



 《衝撃拳フル・インパクト》や《龍鱗ドラゴン・スケール》など、ボスクラスの持つスキルは、場合によって戦闘面における性能が、魔法スキルを凌駕するポテンシャルを秘めている。



 けれど、通常の冒険者がそれを手にすることはない。なぜなら、ボスクラスが持つスキルがドロップする確率は、途方もないほどに低いからだ。



 僕のように、相手のスキルを手に入れることのできるユニークスキルを持っていない限り、手にすることはないだろう。



 ダンジョン最下層のラスボスが持っていたスキル《龍鱗ドラゴン・スケール》。その防御力は絶大で、難なくモンスター化したウッズの拳を受け止める。

 そればかりか、自分が拳を放った勢いでウッズの腕の方が、ぐにゃりと歪んだ。



「グォッ!?」



 理性が残ってはいないようだが、本能でこちらとのレベル差を察したらしい。

 ウッズは大きく飛び下がり、距離を取る。



 複雑に折れた手は、生き物のようにうねりながら元の形を取り戻した。

 どうやら、再生持ちのようだ。

 けれど、負ける気は全くしない。



「悲惨だね、ウッズ」



 僕は、最早哀れみの感情すら浮かんでいた。

 たとえモンスター化したとしても、元となったのは人間。しかも、Cランクのそこそこ強いだけの冒険者。



 必然、強化の幅には限度がある。

 手合わせしてみてわかったが、精々Sクラス上位くらいの強さしかない。

 最も、普通の冒険者が複数人のパーティを組んで一斉攻撃をし、やっと倒せるレベルであることに変わりは無い。



 けれど、今の僕にはただの格下以外の何物でも無かった。

 もちろん、自分の強さに驕って見下しているわけじゃない。



 このウッズという男が、なけなしの慈悲を無視して、死を選んだことが愚かだと思ったからだ。

 助かったはずの命を放りだし、僕に助けられるくらいならと、死を覚悟で僕に挑んできた。

 

(いや、最初から僕に殺されるつもりでモンスター化したのかもしれないな)



 再び突っ込んでくるウッズに《反発バックラッシュ》の対象指定をし、再生したばかりの拳が触れた瞬間、身体ごと後方に弾き飛ばす。

 ゴロゴロと無様に転がっていくウッズを見ながら、僕は思案を続ける。



 いけ好かないけれど、こいつは《緑青の剣》のリーダーだった。

 相手との力量の差を見誤るとは思えない。

 モンスター化しても、僕に勝てるとは思わないはずだ。

 十中八九、負けることがわかっていて人としての死を選んだ。



(とすると、僕に対する嫌がらせか?)



 どうあっても命を見すてないスタンスの僕に、殺させて一矢報いようとでも言うのか。

 だとしたら、性根が腐りすぎていて虫唾が走る。



「結局、最後まで僕は、お前のことを理解してやれなかったよ。ウッズ」



 どうして僕に、そこまで噛みついてくるんだろう?

 八つ当たりもいい加減にして欲しい。

 

 きっと、僕が拳を振るい彼を生物的に完全に殺すそのときまで、心が交わることはないのだろう。



 ふと視線を上げると、体勢を立て直したウッズが突っ込んでくる。

 口を開け、目を光らせ。

 悲しいくらい惨めな姿で、僕の方に牙を剥いてくる。



 だから。

 僕はいろんなわだかまりを抱えたまま、やるせない気持ちを拳に乗せるしかないのだ。



「《衝撃拳フル・インパクト》……」



 突っ込んで来たウッズにカウンターを合わせるようにして、胸元の《憑怪の石》に拳をたたき付ける。

 その瞬間だった。



 僕の耳に、エコーのかかったウッズの声が響いてきた。



 ――「お前は、この先俺みたいにはなるなよ」――



「……え?」
しおりを挟む
感想 15

あなたにおすすめの小説

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない

あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。

詠唱? それ、気合を入れるためのおまじないですよね? ~勘違い貴族の規格外魔法譚~

Gaku
ファンタジー
「次の人生は、自由に走り回れる丈夫な体が欲しい」 病室で短い生涯を終えた僕、ガクの切実な願いは、神様のちょっとした(?)サービスで、とんでもなく盛大な形で叶えられた。 気がつけば、そこは剣と魔法が息づく異世界。貴族の三男として、念願の健康な体と、ついでに規格外の魔力を手に入れていた! これでようやく、平和で自堕落なスローライフが送れる――はずだった。 だが、僕には一つ、致命的な欠点があった。それは、この世界の魔法に関する常識が、綺麗さっぱりゼロだったこと。 皆が必死に唱える「詠唱」を、僕は「気合を入れるためのおまじない」だと勘違い。僕の魔法理論は、いつだって「体内のエネルギーを、ぐわーっと集めて、どーん!」。 その結果、 うっかり放った火の玉で、屋敷の壁に風穴を開けてしまう。 慌てて土魔法で修復すれば、なぜか元の壁より遥かに豪華絢爛な『匠の壁』が爆誕し、屋敷の新たな観光名所に。 「友達が欲しいな」と軽い気持ちで召喚魔法を使えば、天変地異の末に伝説の魔獣フェンリル(ただし、手のひらサイズの超絶可愛い子犬)を呼び出してしまう始末。 僕はただ、健康な体でのんびり暮らしたいだけなのに! 行く先々で無自覚に「やりすぎ」てしまい、気づけば周囲からは「無詠唱の暴君」「歩く災害」など、実に不名誉なあだ名で呼ばれるようになっていた……。 そんな僕が、ついに魔法学園へ入学! 当然のように入学試験では的を“消滅”させて試験官を絶句させ、「関わってはいけないヤバい奴」として輝かしい孤立生活をスタート! しかし、そんな規格外な僕に興味を持つ、二人の変わり者が現れた。 魔法の真理を探求する理論オタクの「レオ」と、強者との戦いを求める猪突猛進な武闘派女子の「アンナ」。 この二人との出会いが、モノクロだった僕の世界を、一気に鮮やかな色に変えていく――! 勘違いと無自覚チートで、知らず知らずのうちに世界を震撼させる! 腹筋崩壊のドタバタコメディを軸に、個性的な仲間たちとの友情、そして、世界の謎に迫る大冒険が、今、始まる!

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...