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第一章
だから、どこだっつーの
しおりを挟む温かい光が顔に当たり、眠りの奥底に沈んでいた意識が徐々に浮上する。うっすら開いた視界に見えたのは、細かい塵に触れた白い光でぼやけた天井だった。
「あ、れ……?」
重い腕を動かし、両手をかざす。蛇の毒に侵されて死んだと思ったのに。
寝起きで覚醒していない体は、殊の外重い。それでもなんとか体を起こし、肩を回し首を回し、上半身をひねった。
「――うん、問題ないな。」
特にこれといった痛みや不快感はない。シーツをめくって足首を確認してみてけど、蛇に噛まれた痕跡もない。――しっかし、めちゃくちゃリアルな夢だったなぁ。
あんな傍若無人男が、将来国を背負って立つかもしれなかったと思うと本気で困惑する。
ロクな教育を受けてこなかったのが、透けてみえるようだった。いや、偉い立場のようだったから、単に矯正する人間がいなかったのかもしれない。親の方は、仕事が忙しいとはいえ、育児放棄気味だったのだろう。世も末だなぁ。
それはそうと、グーパーと手を動かす。
起きた今でも、あの男の肩を外した感覚が残っている。あんなのが婚約者だったら人生オワっていた。考える頭がなさすぎて笑うしかねぇ。
「しっかし、まさか王子が同性愛者だったとはなぁ。」
同性婚自体は、そんなに珍しいことでもない。どちらかの戸籍に、特別養子縁組として入ることで、界隈で結婚としてみなしているくらいだし。実際のところ、身近にそんな奴がいないから、全てはニュースの受け売りだ。けど、王子っていうのだから跡継ぎは必要だろうし、あの後どうなったンかね。続きが気になる。
ベッドの上で軽くジャブの動きを繰り出してみるけれど、体がダルい以外、特に問題はない。―――そう、問題はないはずだった。
「――んんん??」
寝ていたベッドから降りて、大きなカーテンを引く。
ガラス越しの朝日が直接目を刺してきて、あまりの眩しさに一瞬目を閉じた。薄めにそっと開けば、一面の緑の真ん中にぽっかり開かれた植物公園と、遠くに連なる山々が飛び込んできた。
「―――は?」
山々の間から顔を覗かせた朝日に、体内時計は正常だったとわかる。わかるんだけど、オイまて、そうじゃない。
改めて部屋を見渡した。室内は、テレビで見たバロック様式のロココ調デザインで統一された洋間で、ザ・金持ちを彷彿とさせる装飾で覆われている。ここが世界遺産の展示会場とかだとしたら、警備員に見つかった時点で捕まるのは間違いない。
「ここは―――どこだ……?」
まかり間違っても、パリの某宮殿に行こうとしたわけじゃない。親父の実家の手伝いで、通学にも使っていた駅で電車を待っていたんだ。そう、もうすぐホームに到着するアナウンスが流れていて、そこで俺は―――いや、その前に。
開け放った窓から強い朝日が部屋の中を照らす。その奥で反射した光がきらめいた。
身を翻し、急いで駆け寄る。そして、大きな姿見に映った姿に言葉を失くした。
「……うそだろ……」
頬を摘まんでぐにぐにと押しつぶし、バシンッと叩く。そして、頭のつむじから素足の爪先まで穴が開くだろう強さで凝視してみるけれど、どうやら間違いないようだ。
「これ、おれェ……?」
視線の先には、鏡に手を付けた高校生くらいの女の子が立っていた。
水に反射したエメラルドを思わせる目に、不相応なほど不健康な白い顔と血色の悪い唇。普段見える位置よりも低い頭と、アニメでよく見る、動くのに邪魔すぎるほどの長い銀髪に、お目にかかることもなかったガーゼ生地の長袖のワンピース。若干肌が透けているのは見なかったふりをしよう。しかしさぁ……。
「誰だよ、この美人。」
おいおいマジかよ、笑えねぇって。
鏡の前でくるりと回ってみる。どっからどう見ても、コレが俺らしい。夢で見た光景は、この人の見た夢なのか?いや、あの感覚は間違いなく俺だった。けど。
――猫目にモデル並みの小さい顔。醸し出す雰囲気からみて、高校生より上かもしれない。鏡の中の自分をよくよく見てみると、鎖骨下に普段じゃ見慣れないものがくっついている。いやこれ、くっついてるっていうほど安易なものじゃない。わかってはいるけれど、震える手を恐る恐る伸ばしてみた。
「――!!」
まんまるの膨らみに指が埋もれた。透けていた胸元に手を添わす。元の手ならうまく包めただろう。だけど、今の手では全てをおさめるすべがなかった。試しに下から持ち上げてみると、たぷんと揺れて手から溢れた。鷲掴み力任せに揉んだら、爪が食いこんでなかなか痛い。極めつけは、乳首が指と擦れて思わず変な声が出た。信じたくはないけれど、どうやら俺はオンナノコになってしまったらしい。
「なんのテンプレだよ……」
アクションマンガは好きで結構読んだ。だけど、それと同じくらい、俺は転生ハーレム系のノベルが大好きだ。
女の子を侍らせるのは男の夢だ。その日その時で決めた女の子と、いろんなシチュエーションで欲望のまま心の底から楽しむ。エロまんがみたいな展開を起こしてみたり、好みの子のアヘ顔を堪能したりと、想像するだけで涎が止まらない。まぁ、現実でそんなことしようもんなら顰蹙の嵐だけど、夢で見るくらいいいじゃないか。そんなわけで、ハーレム系を買い漁っていたわけだけど。
「まさか自分が女の子になるとはなぁ……」
しかも、ラノベに登場していそうな美少女。こりゃ、周囲が放って置かないぞ……。しっかし、やわらけぇーな、おい。
もにゅもにゅと胸を揉む手が止まらない。しかし、そんなことしていると、遠くから重量ある何かが走ってくる音が聞こえてきた。
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