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さらに吉報

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少し前まで、自分のことを虫ケラと言って
インタビューで好みの女性のタイプを聞かれても虫ケラにそんなこと言う権利がない、って答えてインタビュアーを困惑させていた、その彼が
一緒に歩いて行こうと思えた人。

自信がなかった彼が、誰かと寄り添えるような気持ちになっていたことが嬉しくて、
会えもしない、誰かもわからないそのお相手のかたに
全力のありがとうを伝えたくなった。

でもありがとう、って
うちの子をもらってくれてありがとう、みたいな印象で……やはり母の気持ち……???

その時点で人生の半分以上を彼のファンとして生きてたから、
見守りたいような気持ちが強かったせいかもしれない。


その2年後、新しい家族が生まれた報告もしてくれた。
可愛くて仕方ないようで
ライブのMCでそのお子さんのことをたまにボソッと話してくれる姿がまた素敵で、さらに大好きになってしまった。

Lunaの頃から
シングルで育ててくれたお母さんをとても尊敬しているようで
尊敬しているから、という意味で
母のような人になりたい、と公言していたから
結婚したら、きっとその奥さんも子どもも大切にするんだろうなと思っていたから
子煩悩を垣間見せてもらえると、なんだかすごく嬉しくなってしまった。

届くことはないけど
名前も知らないお子さんに
素敵なパパでよかったね、って
心から思った。

いつか、お子さんが
彼の音楽に触れることがあるんだろうか。
もしかしたら、一緒に歌ったり、曲を作ったりするんだろうか。

お子さんの前ではどんな顔をしているんだろう。
ライブでも、いつも楽しそうにはしているけど
きっとお子さんには、もっと優しい、パパの顔も見せたりしていて
もしかしたら、奥さんはいいとこ取りというか、甘やかすだけの彼に困ったりしているかもしれない。

一般的なファンの方はどうなのかわからないけど、
少なくてもわたしは
彼の家庭は幸せが満ちている想像しかできなかった。
勝手な願望だけど、幸せでいてほしかったから。


わたしがライブ参戦へ復帰してから
何回目のライブだったかな。

その日もわたしは地下に続く階段を
整理番号順に並んでいたのだけど

たまたま一桁の、しかもかなり前の方で
早く並んでいたから

まだ観客は入れないライブ会場へ入ろうとしている、ベビーカーを押した女性の後ろ姿に気づくことができた。

そしてーーーーー
その姿が、彼女に……

わたしに、Lunaを教えてくれた、わたしが憧れて、会えなくなってからもずっと探し続けた彼女のシルエットにとてもよく似ていて

思わず、声をかけてしまった。

「き……響(きょう)ちゃん…………??」
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