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第13話 お母さんのお弁当
しおりを挟む次の日の朝、お母さんがお弁当を作ってくれた。それと、心細くなったら読むようにと、封筒に入った手紙を渡してくれる。
トントン。
裏口のドアがノックされた。
ドアを開けると、セドルさんだった。
セドルさんは隙間の向こう側で、お辞儀をした。
仕立ての良い白いシャツを着ており、昨日とは見違えるように気品がある。
わたしはてっきり歩いていくのかと思っていたのだが、馬車を用意してくれた。黒塗りでシンプルなキャビンだが、所々、控えめに金の装飾があしらわれている。
御者さんもいる。
わたしは、馬車というと農作物を運ぶような荷馬車しか乗ったことがないので、緊張してしまう。
セドルさんは、わたしの手をとるとキャビンにエスコートしてくれた。
どれもこれも、初めての経験だ。
こんな素敵な馬車に乗れるなんて、人生で最初で最後かもしれない。
この人、どこぞのお坊ちゃんかと思ったが、思った以上の大物なのかな。
私が着席して窓の外をみると、セドルさんがお母さんに、深々とお辞儀をしているのが見えた。
お母さんは、きっと「まぁまぁ、頭をあげてください」とでも言っているのだろう。両手を上げて、恐縮した顔をしている。
御者さんが鞭を打つと、馬車が動き出した。
セドルさんも着席すると、スケジュールについて説明してくれた。
ジーケンに着いたら、セドルさんの家の空いている部屋を使わせてくれるらしい。
食事も出してくれるようで、至れり尽くせりだ。
そして、改めて自己紹介される。
「ちゃんと自己紹介していませんでしたね。セドルというのは愛称で、私の正式な名前は、セドリック・フォン・ラインライトと言います。改めて、よろしくね」
『ラインライト……、え? それって、この国の名前だよ? どゆこと?』
わたしの頭の中は大混乱だ。
「ああ、えと、困らせてしまったかな。きっと、最初から名乗ったら、依頼を断られてしまうと思ったんだ」
わたしの顔は、きっと引きつっていると思う。自然に愛想笑いをしてしまう。自分でわかるけれど、どうしようもない。
「お貴族の人ですか?」
「前にも言った通り、貴族じゃないよ。王族だよ」
……余計にダメですよ。王子様。
「あの、わたし失礼なことを言ったから死刑になっちゃうんですか?」
「そんなことはしないよ。こんなお願いして、失礼なことをしてるのはこっちだからね」
数日は、この小さい空間で、セドルさんと一緒に過ごさねばならない。
徒歩の方が気楽だったなぁ。
…………。
キャビンに無言が訪れる。聞こえるのは、車輪が転がる音と、時々聞こえる鞭の音だけだ。
気心の知れた相手なら、無音はむしろ好ましいのだろうけれど。
そういう訳じゃないし、さすがに3日間無言は厳しい。
人間強度がもっと高ければ何も感じないのかも知れないけれど。引きこもり歴が浅いわたしは、まだまだその高みには至っていないよ。
何か話さないと……。
「あの。えと。あの。村の税金高すぎると思うんです!」
何を言っているんだ。わたしは。
時事ネタに疎いくせに、見栄をはって背伸びしてしまった。
でっかい地雷を踏んだ気がする。
わたしの顔は、さっきにも増して強ばる。
『セドルさん。なんかこっち見てる。わたし、死刑になるの?』
セドルさんはわたしと目を合わせると、こちらに向き直す。
『どんな刑にするか、検討してる!?』
そして、深々と頭を下げた。
「村の者達には苦労をかけてすまない。王族の端くれとして申し訳ないと思う」
「あ、いえいえ。そういう意味じゃないんです」
ますます気まずい。
本気で死刑の足音が聞こえてきそうだ。
話題を変えねば……。
そういえば、ちょっとお腹が空いたな。
「そろそろお昼ですね。お昼ご飯にしませんか?」
すると、セドルさんは馬車をとめてくれた。
馬達もお昼ご飯と休憩にするようだ。
わたしの心配を察してくれたのか、ニコッとしている。
さて、わたしは……。
お母さんにもらった紙袋を開ける。
お昼ご飯にしてはちょっと大きいかな……?
すると、中には、お弁当の他に巾着袋が入っていた。
なんだろうこれ。
開けてみる。
すると、なんだか厚手のブラが入っていた。
メモが添えてある。
「娘の幸せのために、勝負ブラを入れました。これがあれば、慎ましやかなソフィアでも大丈夫! 使用上の注意:外すときは暗闇の中でね」
って、……誰と何を勝負するんだ。
帰ったら、母とは、じっくり話しをせねばなるまい。
とりあえず、これ。どうしよう。
まるで色々と期待してるみたいじゃない。
セドルさんに見つからないようにしないと。
巾着をさっと締め、座席の下の隙間に巾着袋を押し込む。
そして、涼しい顔をしてお弁当を開ける。
……よし、完全に誤魔化せた!
お弁当の中身は、りんごと、ライ麦の丸パンが2つ。それとスクランブルエッグ。あとはソーセージ。ソーセージには、炒めたじゃがいもが添えてある。
いつもより豪勢だ。
きっとお母さん頑張ってくれたんだ。
でも、セドルさんに比べたら……。
セドルさんは、折り畳みのテーブルを組み立てると、クロスを敷き準備を始める。
きっと、わたしは見たことがないような豪華な料理がたくさん並ぶのだろう。
セドルさんは、わたしのお弁当に興味があるらしく、覗き込もうとする。
だけれど、わたしは。
ガサッと紙袋の口を雑につかみ、紙袋を閉じた。そして、自分のお弁当を、背中の後ろに隠したのだ。
王族の人の食事に比べたら、わたしの食事は……。
ひどくみすぼらしくて、情けないものなんだと感じてしまった。
お母さんごめんね。
酷いことをしているってわかってるんだ。
でも、居たたまれなくて。
この場から逃げ出したい。
じぶんの気持ちが抑えられないよ。
本当にみすぼらしいのは、食事ではなくて、きっと今のわたしの卑屈さなんだろう。
ごめんね。
泣きたい気持ちになってきた。
セドルさんは、わたしの様子に気づいたらしい。腕を組むと、王様ゴッコ遊びの子供のように振る舞う。
「王族として命令する。そのお弁当を私に見せるように」
……渋々、お弁当を前に出す。
すると、セドルさんはヒョイっと、わたしのお弁当のソーセージを手で掴み、口に入れた。
「もーらいっと。美味しいね、これ」
「こんな、平民の食べ物ですみません……」
すると、セドルさんはニコッと口角をあげた。
「そうかな? 僕からすると羨ましいけれどね。顔も知らない料理人が作った僕のお弁当より、はるかに贅沢だよ」
そして、悪戯好きの少年のように、わたしを見つめると。
「いらないなら全部くれない? 代わりに僕のをあげるよ」
わたしは…、さっき隠したくせに。
「あげない!!」と答えていた。
セドルさんはすごく残念そうな顔をする。
「そっかぁ……」
わたしは、さっきのお返しとばかりに腕を組む。そして、少しだけ上から目線で。
「でも、半分ならあげてもいいですよ」
ナイフでパンに切れ目を入れると、玉子とソーセージを挟んでセドルさんに渡した。
セドルさんは、パンをぎゅっと押して具を固定すると、幸せそうな顔をする。
そして、平べったくなった丸パンを、美味しそうに頬張るのだった。
セドルさんは本当に嬉しそうだ。
「うん。ほんとうに美味しい。母上のお料理を思い出すよ。毎日食べてると忘れちゃうんだよね。いつまでも食べれるわけじゃないのに」
わたしはダメダメで。
あまり人付き合いが得意じゃない。
学校も通えないし、親には心配ばかりかけている。
それなのに、毎日、温かいご飯を作ってくれるお母さん。
こんなご飯を食べられるわたしは、いま、きっと幸せなんだろう。
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