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第23話 エマのノート
しおりを挟むエトスさんは講義を始めた。
すると、ソフィアは懸命に板書を取り始めた。あくびもしていないし、眠そうな様子もない。
『この子はホント……』
エマはその様子を呆れ顔で見ている。
エマもこの数日でソフィアについて分かったことがいくつかあった。
知識欲が異常なほど強い。
自分に正直で、周りに歩調を合わせることが苦手。
関心がないことには、とことん無気力。
これだけ並べると、相当なダメ人間っぷりだが。
好ましい不器用さんだと思う。
そのソフィアがネコ耳が生えてるのにも気づかず、一生懸命授業を受けている。だから、トイレに行くフリをして、頭にフードを被せた。
ソフィアはそれを気にとめる素振りすらなく、授業に懸命に聞き入っている。
その様子を見て思った。
子供の頃の私は。
大きな本を抱えていたソフィア。
好きなものに素直なソフィア。
その姿が羨ましくて。
きっと、憧れていたのだ。
それで。
あんな酷いことを言ってしまったのだと思う。
何でも屋に入ったのは、藁にもすがる思いだった。
その時の私は。
毎日、自分が否定されているようで。
この牢獄にいたら、私は擦り切れて無くなってしまうのではないかと思っていた。
でも、君は。
我儘で自分勝手なお願いを聞いてくれた。
わたしが君に与えた悪意を。
まっさらな好意にして返してくれた。
だから今は。
都合がいいのは分かっているけれど、君の好意に甘えている。
自分本位なのは知っているけれど、友達でいたいと思っている。
授業の内容は、大体がソフィアに教えてもらったことと同じだ。わたしは早々に飽きてしまい、ノートに落書きをして過ごした。
講義の終わりにエトスさんは宿題を出した。
「魔法について、何か一つ考えてくるように」
ロコ村では、魔法屋はないし、魔法を使える人も殆どいない。隣村でも同じようなものだろう。魔法に関心を持たせるという意味では良い宿題だと思った。
授業が終わると、ソフィアが高揚した顔で近づいてくる。
そして、私に言った。
「ちゃんと聞いてた? ノート貸してあげようか?」
私はやんわり断る。
するとソフィアは。
「ほんとー? ノートみせて」
ノート?
いやいや。このノートは……。
今考えてた恥ずかしいポエムが書いてあるから。
無理かな。
「それよりも、宿題のこと考えようよ」
すると、ソフィアは首を傾げ、指を口に当てる。
「どうしたら、先生のことビックリさせられるかなぁ」
学校が終わり、家に帰る。
カバンを投げ置き着替えると、ソフィアの家に行く。
今日は宿題のテーマを決めるのだ。
明日と明後日は学校は週末のお休みなので、3日間で仕上げないといけない。
どうしようかな。
私は魔法は全然わからないけれど、全部ソフィア任せにはしたくない。でも、私なんかにできることがあるんだろうか。
ソフィアはテーマについて身振り手振りで力説する。
「魔導士さんに、普段の研究の成果を見てもらいたい! わたしは、魔力の効率化や事前詠唱(プレ•キャスト)の発表がいいと思う」
うーん。どうかなぁ。
みんな魔法なんて見たこともない子ばっかりだし。
あまりに分からないと余計に興味がなくなりそう。
「授業に出ているのは、魔法なんて見たことない子ばっかりだよ。きっと難しいのは無理なんじゃないかな?」
すると、ソフィアは腕を組んで唸っている。
そっか。この子は賢すぎて、他の子と歩調を合わせるのが苦手なのか。
ソフィアも万能じゃないんだ。
私も役に立てることがあるかもしれない。
ソフィアは本気で困っているようだ。
「どうしよう。ぜんぜん分からない」
「ねぇ。ソフィアちゃん。魔法を皆んなが使えるくらいに簡単にできないのかな? 簡単にすることって、もっと難しいことを考えることと同じくらい大変だと思うんだ」
すると、ソフィアは、何かを閃いたようで、ノートに一心不乱に何かを書き出した。
ここからは、ソフィアの仕事かな。
私は、ソフィアの作業が終わるのを待つことにした。
「ペンタグラムは魔力経路が……、でも、そうすると与干渉が……」
ソフィアはブツブツ言いながら、作業をしている。小一時間ほどで、ソフィアの独り言が止まった。
「エマちゃん。できた。見てて」
ソフィアは、床に図形を書き始める。
そして、唱えた。
「「一つ星の春風(シングルスター•スプリングブリーズ)」」
すると、ふわっとぬるい風が吹き抜けた。
ソフィアは、えっへんという感じで魔法の説明を始める。
「これは、セドルさんにもらった『寒い時に暖をとる魔法』を、可能な限り簡略化したものだよ」
詠唱の大半を図形におきかえ、魔法の効果を落とすことで、発動を極限まで容易にしているらしい。
全員とまでは言えないが、これなら、クラスで何人かは使えるんじゃないかと思う。
私はソフィアに言った。
「うん。これなら、クラスの皆も喜んでくれそうだね」
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