16 / 37
望月
純 クレイジードール
しおりを挟む
俺の名前は高木純、茨城大学の四年生だ。今は就職活動中で、内定をもらうためにスーツを着て何社か面接に回っている。俺はハードコア系のバンドでベースをしている。他のメンバーは幼なじみでドラムの大志と、ギター兼ヴォーカルの京極さん。バンド名は《The birth of Venus》っていう。大志の話だと今度は大きなイベントに出るために遠出するらしい。
その日、俺は赤塚駅前のバスロータリーの前で彼女が来るのを待っていた。昨日は水戸市の花火大会があったらしく、駅には過ぎ去った祭のポスターが貼られている。たしか、大志と京極さんが見に行くと言っていた。あの二人は本当に仲がいい、喧嘩ばっかりしているようで実は互いに信頼し合っているのだろう。
「純くーん!」
後ろからの声に振り返ると彼女の美佳が立っていた。ゴスロリファッションで夏だというのに実に暑そうな格好をしている。ご丁寧に日傘まで差していた。
「美佳さぁ、暑くないの? 今日はかんかん照りだよ?」
「えー、だって可愛い方がいいもん! ミカは純君のためにおしゃれしてきてるんだよ!」
誰もそんなこと頼んでない……。とは言わなかった。彼女はまるでお人形さんのようだ。目の周りもしっかりアイシャドウをしているし、スカートはもこもこしている。ファンシーなことこの上ない。
「純君今日はどこいこっか?」
「うん。今日はとりあえずスタバでまったりしよう! それから美佳の買い物に付き合うよ」
俺と美佳は駅近くのスターバックスに行った。俺はドリップのアイスコーヒーを、美佳は抹茶クリームフラペチーノとスコーンを注文した。
「はやくぅー、できないかなぁー」
美佳は鼻歌まじりでスタバの店員がフラペチーノを作るのを眺めている。彼女はとても端正な顔立ちをしていてスタイルもいい。普通の格好をして黙ってさえいれば、かなりモテるはずだ。幸いというか不幸というか彼女はちょっとおかしかった。いや、訂正する。かなりおかしい。
「お待たせいたしましたー。こちら抹茶クリームフラペチーノになります!」
店員は出来上がったフラペチーノを美佳に手渡した。
「ありがとぉー。お姉さんクリームマシマシしてくれたんだねー」
美佳は満足げだ。店員は少し苦笑いを浮かべているけど。
俺たちは店内を出るとテラス席に座った。なんでこの暑いさなかにわざわざ外に出たいのかわからない。そして通行人達は美佳を物珍しそうに眺めながら通り過ぎていった。まるで客寄せパンダのようだ。
美佳は同じ大学のサークルの後輩だった。俺が二年生に上がってすぐに学内の軽音サークルに入部してきたのが彼女だった。入部した当時から彼女はおかしかった。おかしいおかしいといいながらもこうして付き合ってしまった俺が一番おかしいのかもしれないけど。
「うー、抹茶おいしーよー、純君も飲んでみるー?」
「遠慮しとくよ! 俺は苦いコーヒーの方が好きなんだ。美佳、これから服見たいんだよね?」
「そーだねー。ミカが欲しい服は売ってるお店少ないからちょっと遠くまで行きたいな!」
「遠くってどこらへんまで?」
「つくば市のショッピングモール行くと専門店入ってるから、純君の運転でいこーよー!」
俺はそれを聞いて「やれやれ」と思った。ここからつくば市まで行くには高速で一時間以上かかる。美佳はそんなことおかまいなしのようだ。
「そっか……。まぁいいよ、行こうか」
俺は内心面倒くさいと思いながらも彼女の提案を受け入れた。
美佳は美味しそうに抹茶クリームフラペチーノを飲んでいる。こうして見ていると、彼女の精神年齢は小学校低学年程度ではないかと思えてくる。
「そういえばさぁ、バンドやめないのー?」
「ん? やめるつもりはないけど、なんで?」
美佳は少しむくれた感じになって、上目遣いに俺のことを見た。
「だって純君、もう就職するんでしょー? だったら早く解散してさー、ミカともっと楽しいこといっぱいしよーよ! 忙しいのにバンドに時間使うなんてもったいないよぉ」
「いやいや、俺は好きでやってるんだよ? 大志だって京極さんだって一生懸命やってるんだからもう少しやっていたいんだよ」
それを聞いて彼女はますます不機嫌になった。スイッチが入ったかな?
「なにそれー!? ミカと過ごす時間よりバンドが大切なわけぇ? 最悪、大志君はいいとして……。あのヤンキークソビッチと一緒に演奏する方が楽しいって言いたいの!?」
やれやれ、また美佳の癇癪が始まった。京極さんの話をするといつもこれだ。
「美佳と京極さんは違うよ! あの子はただ真面目にギターやりたがってるんだよ! 俺も彼女のギターの腕とあの声は凄いと思うし……」
本当はもう少しだけ京極さんを褒めてもいいと思ったけどそれ以上は言わなかった。たぶん美佳はマジギレする。京極さんのギターの腕は相当なものだった。ギターを弾くとき異常なほどの集中力を発揮してミスを一切しないのだ。あの歳でプロ級の腕を持つ彼女をバンドとして手放すのは惜しいと思う。ヴォーカルとしても有能だった。性格に難があることを除けば最高のギタリストだ。
「あー!? もう一回いってみ? アタシとあの半金髪不良どっちがいいって!?」
ヤバいな、完璧にブチキレてる。美佳はブチ切れると一人称が「アタシ」に変わる。
俺はその後必死に美佳を宥めた。なんで俺はこの娘と付き合ってるんだろう? と思ったけど考えるのはやめた。コーヒーを一気飲みして、席を立つ。こうなってしまった以上、急いで買い物に連れて行って、機嫌を直してもらうしかないのだ。
その日、俺は赤塚駅前のバスロータリーの前で彼女が来るのを待っていた。昨日は水戸市の花火大会があったらしく、駅には過ぎ去った祭のポスターが貼られている。たしか、大志と京極さんが見に行くと言っていた。あの二人は本当に仲がいい、喧嘩ばっかりしているようで実は互いに信頼し合っているのだろう。
「純くーん!」
後ろからの声に振り返ると彼女の美佳が立っていた。ゴスロリファッションで夏だというのに実に暑そうな格好をしている。ご丁寧に日傘まで差していた。
「美佳さぁ、暑くないの? 今日はかんかん照りだよ?」
「えー、だって可愛い方がいいもん! ミカは純君のためにおしゃれしてきてるんだよ!」
誰もそんなこと頼んでない……。とは言わなかった。彼女はまるでお人形さんのようだ。目の周りもしっかりアイシャドウをしているし、スカートはもこもこしている。ファンシーなことこの上ない。
「純君今日はどこいこっか?」
「うん。今日はとりあえずスタバでまったりしよう! それから美佳の買い物に付き合うよ」
俺と美佳は駅近くのスターバックスに行った。俺はドリップのアイスコーヒーを、美佳は抹茶クリームフラペチーノとスコーンを注文した。
「はやくぅー、できないかなぁー」
美佳は鼻歌まじりでスタバの店員がフラペチーノを作るのを眺めている。彼女はとても端正な顔立ちをしていてスタイルもいい。普通の格好をして黙ってさえいれば、かなりモテるはずだ。幸いというか不幸というか彼女はちょっとおかしかった。いや、訂正する。かなりおかしい。
「お待たせいたしましたー。こちら抹茶クリームフラペチーノになります!」
店員は出来上がったフラペチーノを美佳に手渡した。
「ありがとぉー。お姉さんクリームマシマシしてくれたんだねー」
美佳は満足げだ。店員は少し苦笑いを浮かべているけど。
俺たちは店内を出るとテラス席に座った。なんでこの暑いさなかにわざわざ外に出たいのかわからない。そして通行人達は美佳を物珍しそうに眺めながら通り過ぎていった。まるで客寄せパンダのようだ。
美佳は同じ大学のサークルの後輩だった。俺が二年生に上がってすぐに学内の軽音サークルに入部してきたのが彼女だった。入部した当時から彼女はおかしかった。おかしいおかしいといいながらもこうして付き合ってしまった俺が一番おかしいのかもしれないけど。
「うー、抹茶おいしーよー、純君も飲んでみるー?」
「遠慮しとくよ! 俺は苦いコーヒーの方が好きなんだ。美佳、これから服見たいんだよね?」
「そーだねー。ミカが欲しい服は売ってるお店少ないからちょっと遠くまで行きたいな!」
「遠くってどこらへんまで?」
「つくば市のショッピングモール行くと専門店入ってるから、純君の運転でいこーよー!」
俺はそれを聞いて「やれやれ」と思った。ここからつくば市まで行くには高速で一時間以上かかる。美佳はそんなことおかまいなしのようだ。
「そっか……。まぁいいよ、行こうか」
俺は内心面倒くさいと思いながらも彼女の提案を受け入れた。
美佳は美味しそうに抹茶クリームフラペチーノを飲んでいる。こうして見ていると、彼女の精神年齢は小学校低学年程度ではないかと思えてくる。
「そういえばさぁ、バンドやめないのー?」
「ん? やめるつもりはないけど、なんで?」
美佳は少しむくれた感じになって、上目遣いに俺のことを見た。
「だって純君、もう就職するんでしょー? だったら早く解散してさー、ミカともっと楽しいこといっぱいしよーよ! 忙しいのにバンドに時間使うなんてもったいないよぉ」
「いやいや、俺は好きでやってるんだよ? 大志だって京極さんだって一生懸命やってるんだからもう少しやっていたいんだよ」
それを聞いて彼女はますます不機嫌になった。スイッチが入ったかな?
「なにそれー!? ミカと過ごす時間よりバンドが大切なわけぇ? 最悪、大志君はいいとして……。あのヤンキークソビッチと一緒に演奏する方が楽しいって言いたいの!?」
やれやれ、また美佳の癇癪が始まった。京極さんの話をするといつもこれだ。
「美佳と京極さんは違うよ! あの子はただ真面目にギターやりたがってるんだよ! 俺も彼女のギターの腕とあの声は凄いと思うし……」
本当はもう少しだけ京極さんを褒めてもいいと思ったけどそれ以上は言わなかった。たぶん美佳はマジギレする。京極さんのギターの腕は相当なものだった。ギターを弾くとき異常なほどの集中力を発揮してミスを一切しないのだ。あの歳でプロ級の腕を持つ彼女をバンドとして手放すのは惜しいと思う。ヴォーカルとしても有能だった。性格に難があることを除けば最高のギタリストだ。
「あー!? もう一回いってみ? アタシとあの半金髪不良どっちがいいって!?」
ヤバいな、完璧にブチキレてる。美佳はブチ切れると一人称が「アタシ」に変わる。
俺はその後必死に美佳を宥めた。なんで俺はこの娘と付き合ってるんだろう? と思ったけど考えるのはやめた。コーヒーを一気飲みして、席を立つ。こうなってしまった以上、急いで買い物に連れて行って、機嫌を直してもらうしかないのだ。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
二十年仕えた王女が私を敵に売った。それでも守ることにした
セッシー
ファンタジー
二十年間、王女殿下の護衛騎士として仕えた。その殿下が、私を敵に売った。
牢の中で事実を知り、一分考えて——逃げることにした。殿下の目的を、まだ果たしていないから。
裏切りの真相を確かめるため、一人王都へ戻る護衛騎士の話。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる