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第四話 深夜水溶液
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ひさしぶりのお茶会。私たちは取り留めなく近況報告しあった。大学での思い出や家族の話、仕事のこと……。そんな話だ。話題は数珠つなぎのように続いた。ガールズトークはこれだから楽しい。
「月子ちゃんもメジャーデビューだもんねー。遠くの人になっちゃった気がするよ」
栞は紅茶に息を吹きかけながら感慨深げに言った。
「ぼちぼちな。インディーズで長いことやっとったからいまいちピンとこんけど……。とりあえずこれで一歩前進やな」
メジャーデビューの話は唐突にやってきた。私たちバンドメンバーは少なからず驚いたけれど西浦さん的には完全に予定通りだったらしい。まぁ、逆に西浦有栖的にはメジャーデビューしないほうが問題なのだろう。
「すごいよ! しかもデビューしてすぐツアーだもんね」
「ああ、それな。ほんまに上の人たちのやることはわからんわ」
本当にお偉いさんのやることは理解できない。西浦さん含め、現場はレーベル上層部の連中の意向に振り回されっぱなしだ。「社会なんてこんなもんだ」と言えばそれまでだけれど、正直理不尽なことが多すぎる気はする。
「そっかぁ……。すごい世界だよね」
「せやな。すごい……。世界やね。汚いこともせなあかんしなぁ」
と自ら口にして改めて痛感した。キタナイコト。その六文字の重さについて。
汚れ仕事の大半は西浦さんが熟してくれているのだ。彼女がいなければメジャーデビューどころか会場を押さえることさえままならないだろう。口うるさいことを言われても彼女は私の大恩人なのだ。ちょっとだけ贅沢を言わせて貰えば眉間の皺は減らして欲しいけれど……。
「……。栞も大変やろ? 小説家の事情には疎いからよくはわからんけど」
「うーん。大変は大変かな? でもそこまで派手なことはないから私には合ってるかなぁ」
「ハハハ、まぁ合ってる仕事がええよね。栞には天職やろうなぁ」
私は箸より先にマイクを持つことを覚えた。
栞は箸より先に筆を持つことを覚えた。
そんな冗談を言い合うぐらい私たちは天職に巡り会えた気がする。生まれ持って私たちは「何者」かになれたのだ。これはかなり希有なことだと思う。多くの人間は「何者」にもなれず死んでいくのだから。
栞と二人でまったりしていると日常の嫌なことを忘れられた。西浦さんの額の皺も健次の空気を読まない発言も全部許せてしまいそうだ。それぐらい栞は尊いのだ。月並みな言い方だけれど私の天使だと思う。
「『みっつめの狂気』ほんまに良かったで。お世辞抜きで今まで読んだ小説の中で一番やった」
「ありがとうー。そう言って貰えるとすごく嬉しいよ」
素直な感想を伝えると栞は本気で喜んでくれた。反応が可愛い。さすが私の天使だ。
それから栞は天使らしからぬ物語の裏話を教えてくれた。紅茶と死の香りが漂う。そんな物語だ。
「月子ちゃんもメジャーデビューだもんねー。遠くの人になっちゃった気がするよ」
栞は紅茶に息を吹きかけながら感慨深げに言った。
「ぼちぼちな。インディーズで長いことやっとったからいまいちピンとこんけど……。とりあえずこれで一歩前進やな」
メジャーデビューの話は唐突にやってきた。私たちバンドメンバーは少なからず驚いたけれど西浦さん的には完全に予定通りだったらしい。まぁ、逆に西浦有栖的にはメジャーデビューしないほうが問題なのだろう。
「すごいよ! しかもデビューしてすぐツアーだもんね」
「ああ、それな。ほんまに上の人たちのやることはわからんわ」
本当にお偉いさんのやることは理解できない。西浦さん含め、現場はレーベル上層部の連中の意向に振り回されっぱなしだ。「社会なんてこんなもんだ」と言えばそれまでだけれど、正直理不尽なことが多すぎる気はする。
「そっかぁ……。すごい世界だよね」
「せやな。すごい……。世界やね。汚いこともせなあかんしなぁ」
と自ら口にして改めて痛感した。キタナイコト。その六文字の重さについて。
汚れ仕事の大半は西浦さんが熟してくれているのだ。彼女がいなければメジャーデビューどころか会場を押さえることさえままならないだろう。口うるさいことを言われても彼女は私の大恩人なのだ。ちょっとだけ贅沢を言わせて貰えば眉間の皺は減らして欲しいけれど……。
「……。栞も大変やろ? 小説家の事情には疎いからよくはわからんけど」
「うーん。大変は大変かな? でもそこまで派手なことはないから私には合ってるかなぁ」
「ハハハ、まぁ合ってる仕事がええよね。栞には天職やろうなぁ」
私は箸より先にマイクを持つことを覚えた。
栞は箸より先に筆を持つことを覚えた。
そんな冗談を言い合うぐらい私たちは天職に巡り会えた気がする。生まれ持って私たちは「何者」かになれたのだ。これはかなり希有なことだと思う。多くの人間は「何者」にもなれず死んでいくのだから。
栞と二人でまったりしていると日常の嫌なことを忘れられた。西浦さんの額の皺も健次の空気を読まない発言も全部許せてしまいそうだ。それぐらい栞は尊いのだ。月並みな言い方だけれど私の天使だと思う。
「『みっつめの狂気』ほんまに良かったで。お世辞抜きで今まで読んだ小説の中で一番やった」
「ありがとうー。そう言って貰えるとすごく嬉しいよ」
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それから栞は天使らしからぬ物語の裏話を教えてくれた。紅茶と死の香りが漂う。そんな物語だ。
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