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第三章 神戸1992
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ライブは終わった。結果的に『レイズ』以上のバンドは一組もいなかった。
大半のバンドがコピーバンドでどんなに上手いと言ってもあくまでメジャーバンドの真似でしかなかった。
「すごくよかったね!」
「せやな……。ちょっと佐藤君とこ挨拶行こうか?」
私たちは係員に事情を説明して『レイズ』の控え室に案内して貰った。
「やぁ、鴨川さん来てくれたんだね」
控え室に入ると佐藤君が挨拶に来てくれた。
気味の悪い雰囲気は健在のようだ。
「ご招待ありがとう。すごかったで! めっちゃビビったわ」
「ハハハ、ありがとう。ああ、ウチのメンバー紹介するよ」
佐藤君は私たちを手招きする。そして『レイズ』のメンバーを紹介してくれた。
「えーとね。この子がヴォーカルの逢子、でギターの繁樹ね。ドラムは……。あれ? ヒロは?」
「ああ、ヒロならコーヒー買いに行ったで」
ヴォーカルの女性はしゃがれた声で佐藤君にそう言うと私に手を差し出した。
「どうも、初めまして。ヴォーカルやってます逢子って言います」
「ハジメマシテ」
握った彼女の指先は女性の物とは思えないくらい硬かった。
これは普段から弦楽器を触っている手だと思う。
「鴨川さん……? ですよね! 亨一から聞いてます! めっちゃおもろい人やって聞いてますよー」
「は? そうなん?」
私は佐藤君の方を睨むように見た。彼は苦笑いを浮かべる。
「いやいや、楽器屋でいきなりあんな風に絡む人初めてあったからさ……」
「ああ、そうか……」
佐藤君は私のどこを見て面白いと思ったのだろう?
むしろ佐藤君のほうが面白い気がする。良くも悪くも……。
「みんなー! 飲み物買ってきたでー」
どうやら『レイズ』のドラマーが戻ってきたらしい。
「ああ、お帰り。鴨川さん、あの子がウチのドラムだよ」
佐藤君は彼女のことも紹介してくれた。
なかなか面白いメンバー構成だと思う。ヴォーカルの女性はステージ上のパフォーマンスからは想像出来ないほどまともで、他の二人も酷く大人しく見えた。
特にヒロさんはそのドラムの腕とは裏腹にかなり普通な少女のようだ。どこにでも居るような地味な中学生にしか見えない。
「いやー。ほんまにすごかったで! 佐藤君めっちゃベース上手いんやね!」
「ありがとう。でもまだまだだよ」
「いやいや、マジ半端なかったで? あーあ、ウチもバンドメンバー欲しいわぁ」
私は健次たちを完全放置して、『レイズ』のメンバーと世間話をしていた。
彼らの話を聞いていると胸の奥にある感情に飲まれそうになる。
「おーい月子ぉ! そろそろ帰えらんか?」
「ああ、せやね……」
まだ話したりない気もしたけれど、これ以上健次たちを放置するわけにもいかない。
「したらウチらは帰るでー」
「ああ、今日は来てくれてありがとうね。もしよかったら僕らの地元にも遊びにおいでよ!」
「ああ、ありがとう」
帰り道。
私たち三人は夕焼けの街を肩を並べて歩いていた。
二条城に越しに見える夕日はオレンジ色より濃く、朱色のように見えた。
これが私たちと『レイズ』の出会いだった。
そしてこの出会いがこれからの私たちの方向性を決定づけることになる――。
大半のバンドがコピーバンドでどんなに上手いと言ってもあくまでメジャーバンドの真似でしかなかった。
「すごくよかったね!」
「せやな……。ちょっと佐藤君とこ挨拶行こうか?」
私たちは係員に事情を説明して『レイズ』の控え室に案内して貰った。
「やぁ、鴨川さん来てくれたんだね」
控え室に入ると佐藤君が挨拶に来てくれた。
気味の悪い雰囲気は健在のようだ。
「ご招待ありがとう。すごかったで! めっちゃビビったわ」
「ハハハ、ありがとう。ああ、ウチのメンバー紹介するよ」
佐藤君は私たちを手招きする。そして『レイズ』のメンバーを紹介してくれた。
「えーとね。この子がヴォーカルの逢子、でギターの繁樹ね。ドラムは……。あれ? ヒロは?」
「ああ、ヒロならコーヒー買いに行ったで」
ヴォーカルの女性はしゃがれた声で佐藤君にそう言うと私に手を差し出した。
「どうも、初めまして。ヴォーカルやってます逢子って言います」
「ハジメマシテ」
握った彼女の指先は女性の物とは思えないくらい硬かった。
これは普段から弦楽器を触っている手だと思う。
「鴨川さん……? ですよね! 亨一から聞いてます! めっちゃおもろい人やって聞いてますよー」
「は? そうなん?」
私は佐藤君の方を睨むように見た。彼は苦笑いを浮かべる。
「いやいや、楽器屋でいきなりあんな風に絡む人初めてあったからさ……」
「ああ、そうか……」
佐藤君は私のどこを見て面白いと思ったのだろう?
むしろ佐藤君のほうが面白い気がする。良くも悪くも……。
「みんなー! 飲み物買ってきたでー」
どうやら『レイズ』のドラマーが戻ってきたらしい。
「ああ、お帰り。鴨川さん、あの子がウチのドラムだよ」
佐藤君は彼女のことも紹介してくれた。
なかなか面白いメンバー構成だと思う。ヴォーカルの女性はステージ上のパフォーマンスからは想像出来ないほどまともで、他の二人も酷く大人しく見えた。
特にヒロさんはそのドラムの腕とは裏腹にかなり普通な少女のようだ。どこにでも居るような地味な中学生にしか見えない。
「いやー。ほんまにすごかったで! 佐藤君めっちゃベース上手いんやね!」
「ありがとう。でもまだまだだよ」
「いやいや、マジ半端なかったで? あーあ、ウチもバンドメンバー欲しいわぁ」
私は健次たちを完全放置して、『レイズ』のメンバーと世間話をしていた。
彼らの話を聞いていると胸の奥にある感情に飲まれそうになる。
「おーい月子ぉ! そろそろ帰えらんか?」
「ああ、せやね……」
まだ話したりない気もしたけれど、これ以上健次たちを放置するわけにもいかない。
「したらウチらは帰るでー」
「ああ、今日は来てくれてありがとうね。もしよかったら僕らの地元にも遊びにおいでよ!」
「ああ、ありがとう」
帰り道。
私たち三人は夕焼けの街を肩を並べて歩いていた。
二条城に越しに見える夕日はオレンジ色より濃く、朱色のように見えた。
これが私たちと『レイズ』の出会いだった。
そしてこの出会いがこれからの私たちの方向性を決定づけることになる――。
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