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ウサギとカメのデットヒート
月姫 ウサギとカメのデットヒート④
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姉が帰ってきたのは父の死から一週間後の事だ。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
姉は大きなキャリングケースを持って我が家に帰ってきた。
しばらく見ないうちに、彼女の髪はかなり伸びている。
腰まである長い髪は、彼女が動く度に左右に揺れた。
「やっぱ、綺麗に掃除されてんねー。あんたの性格がよーくわかるよ!」
姉は自室のベッドに腰掛けると赤いキャップを脱いで髪をかき上げた。
「やっぱり使わない部屋でもちゃんと掃除しとかないとさー。埃まみれになるの私嫌いだし……。お姉また髪伸びた?」
「うん。もうかれこれ二年くらいまともに切ってないからねー。ルナはここんとこずっとボブだよねー。私も短い方が楽なんだけど勿体ない気がして切れないんだよねー」
姉はポケットからヘアゴムを取り出すと、その長い髪をポニーテールにして手櫛をかけた。
「今日は叔父さんも来るってさ! もうお葬式まで日もないし、葬儀屋さんと打ち合わせしなきゃね!」
「陽介叔父さんかー。会うの久しぶりだよ!」
「叔父さんもお姉に会いたがってたよ。昔から叔父さんとお姉仲良かったもんねー」
「うん、あの人ヤンキー気質だから気が合うんだー。早く来ねーかなぁ?」
やはり姉も叔父に会いたいようだ。
この二人はよく似ている。
もし叔父が姉の父親なら親子関係も上手くいっていたんじゃないだろうか?
叔父が来たのは姉の帰宅から一時間ほど経ってからだ。
誇り高き錬金術師(笑)の登場。
「おぉ、帰ったか! おかえり!」
「たっだいまー。叔父さんひっさしぶりー! 全然変わんないねー」
「だろ? 俺はまだ若いんだよ!」
「いやいや、私が高校ん時からずっとおっさんじゃね?」
「は!? おっさん呼ばわりすんじゃねーよ。クソヤンキーが!」
この二人が罵声を浴びせ合うのを見るのも何年ぶりだろう?
これがこの二人なりのコミュニケーションの取り方なのだ。
私は理解しかねるけれど、互いに楽しそうなので問題はないのだろう。
「もうすぐ葬儀屋さん来るからねー。それで叔父さん? おじいちゃんたちは来れるの?」
私が叔父にそう聞くと叔父はばつが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「実はなぁ……」
叔父がそう言いかけるのを遮るように姉が口を挟んだ。
「あの人たちは来ねーよ! ルナだって知ってるでしょ? 親父はあの人たちに勘当されてんだからさ! ま、しゃーねーって! それとさ……。母さんの実家にも連絡したけどやっぱ来ないってさ……」
姉は吐き捨てるようにそう言うと不機嫌に視線を落とした。
「悪いなルーちゃん……。親父たちにも葬式くらい出るように頼んだんだけどやっぱり来たくないってよ……。恵理香ねーさんの実家も来れないんじゃちょっと寂しいよな……」
「叔父さんは謝んねーでいいよ! 分かりきってた事だし! 親父の友達とご近所さんに来て貰うだけで弔いになるだろうし! それでいいよ!」
吐き捨てる姉の言葉には明らかな怒りが感じ取れた。
私自身も両家の親が葬儀に来ない事は何となく察していた。
寂しい気はするけど仕方が無い……。
「まぁ仕方ないよね……。じゃあ、予定通り喪主はお姉にお願いするけどいい?」
午後になると葬儀屋が打ち合わせにやってきた。
面白いもので葬儀プランは完全にパッケージ化されているようだ。
そのお陰でかなりスムーズに葬儀の段取りは決める事ができた。
人の死さえ型に填め込まれてしまうのが少し滑稽で悲しく思えるけれど……。
「では……。当日よろしくお願い致します! ご面倒お掛けして本当に申し訳ありません」
姉は葬儀屋に深々と頭を下げるて彼らを見送った――。
通夜と葬儀は恙なく執り行われた。
幼馴染みが受付を手伝ってくれたし思っていたより弔問客も来てくれた。
「あ! ルナちゃん!」
女性に声を掛けられて振り返る。
銚子警察署の泉さんだ。
「来てくれたんですね。先日はありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそごめんなさいねー。お父さんのご遺体お返しするのが遅くなってしまって……」
「あの……。伊瀬さんからお伺いしたんですが……。父の死因て……」
「ああ……。まだはっきりした事は言えないんだけどね。今調査中だからもう少し時間貰えると助かるかな……」
父の遺体の引き渡しの時に伊瀬刑事から気になる事を聞かされていた。
どうやら父は自殺ではないらしいのだ。
伊瀬刑事は具体的な内容は教えてはくれなかったけれど、そんなニュアンスだった。
「ルナぁー! そちらの方は?」
「えーと、この方が泉さんだよー! お姉にも話したでしょ? 父さんの事で捜査してくれてる刑事さん」
姉は泉さんの姿をまるで珍しい動物でも見るような目で眺めた。
「ああ……。お話は伺ってます。父の事では本当にご面倒お掛けしました。葬儀にまで参列して頂いちゃって恐縮です……」
本当に姉らしくない。
私はそう思いながら泉さんと姉の挨拶を眺めていた。
金髪でさえなければ、きっと姉もまともに見える事だろう。
私たちは泉刑事に父の捜査をよくお願いして彼女を見送った――。
「それじゃあルナ! 今日はバンドメンバーと話があるから夜は出かけるよ!こんな時に悪いんだけどさ!」
葬儀が終わると姉はバンドメンバーの大志さんと出かけるようだ。
「大丈夫だよー! こっちこそ喪主お願いしちゃってごめんねー」
「気にすんなって! とりあえずこれで一段落だ……。ルナは仕事明後日から復帰だったよね?」
「そだよー。お姉は明日帰るんでしょ?」
「うん……。ウチの上司をいつまでもほっとく訳にもいかないかんね……。ねぇルナ? こんな事になっちゃったけどあんた大丈夫? もし不安なら私も職場に都合つけて定期的に実家戻るよ?」
姉は心配そうに言って私の右頬に手を当てた。
触れた彼女の指先は酷く硬い。
本当にギタリストらしい指先をしている。
「大丈夫だよ! もしなんかあったら連絡するし! お姉はお姉のやりたい事やった方が良いよ!」
私がそう言うと姉は苦笑いを浮かべながらゆっくりとため息を吐いた。
「ありがとう……。あんたもこれからは自分のためにね……」
そんな姉の言葉に涙腺がゆっくりと解かれていくの感じた……。
彼女の言うとおり、これからは自分のために生きたいと思った。
そして私は姉の言葉を噛みしめるように肯いた――。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
姉は大きなキャリングケースを持って我が家に帰ってきた。
しばらく見ないうちに、彼女の髪はかなり伸びている。
腰まである長い髪は、彼女が動く度に左右に揺れた。
「やっぱ、綺麗に掃除されてんねー。あんたの性格がよーくわかるよ!」
姉は自室のベッドに腰掛けると赤いキャップを脱いで髪をかき上げた。
「やっぱり使わない部屋でもちゃんと掃除しとかないとさー。埃まみれになるの私嫌いだし……。お姉また髪伸びた?」
「うん。もうかれこれ二年くらいまともに切ってないからねー。ルナはここんとこずっとボブだよねー。私も短い方が楽なんだけど勿体ない気がして切れないんだよねー」
姉はポケットからヘアゴムを取り出すと、その長い髪をポニーテールにして手櫛をかけた。
「今日は叔父さんも来るってさ! もうお葬式まで日もないし、葬儀屋さんと打ち合わせしなきゃね!」
「陽介叔父さんかー。会うの久しぶりだよ!」
「叔父さんもお姉に会いたがってたよ。昔から叔父さんとお姉仲良かったもんねー」
「うん、あの人ヤンキー気質だから気が合うんだー。早く来ねーかなぁ?」
やはり姉も叔父に会いたいようだ。
この二人はよく似ている。
もし叔父が姉の父親なら親子関係も上手くいっていたんじゃないだろうか?
叔父が来たのは姉の帰宅から一時間ほど経ってからだ。
誇り高き錬金術師(笑)の登場。
「おぉ、帰ったか! おかえり!」
「たっだいまー。叔父さんひっさしぶりー! 全然変わんないねー」
「だろ? 俺はまだ若いんだよ!」
「いやいや、私が高校ん時からずっとおっさんじゃね?」
「は!? おっさん呼ばわりすんじゃねーよ。クソヤンキーが!」
この二人が罵声を浴びせ合うのを見るのも何年ぶりだろう?
これがこの二人なりのコミュニケーションの取り方なのだ。
私は理解しかねるけれど、互いに楽しそうなので問題はないのだろう。
「もうすぐ葬儀屋さん来るからねー。それで叔父さん? おじいちゃんたちは来れるの?」
私が叔父にそう聞くと叔父はばつが悪そうに苦笑いを浮かべた。
「実はなぁ……」
叔父がそう言いかけるのを遮るように姉が口を挟んだ。
「あの人たちは来ねーよ! ルナだって知ってるでしょ? 親父はあの人たちに勘当されてんだからさ! ま、しゃーねーって! それとさ……。母さんの実家にも連絡したけどやっぱ来ないってさ……」
姉は吐き捨てるようにそう言うと不機嫌に視線を落とした。
「悪いなルーちゃん……。親父たちにも葬式くらい出るように頼んだんだけどやっぱり来たくないってよ……。恵理香ねーさんの実家も来れないんじゃちょっと寂しいよな……」
「叔父さんは謝んねーでいいよ! 分かりきってた事だし! 親父の友達とご近所さんに来て貰うだけで弔いになるだろうし! それでいいよ!」
吐き捨てる姉の言葉には明らかな怒りが感じ取れた。
私自身も両家の親が葬儀に来ない事は何となく察していた。
寂しい気はするけど仕方が無い……。
「まぁ仕方ないよね……。じゃあ、予定通り喪主はお姉にお願いするけどいい?」
午後になると葬儀屋が打ち合わせにやってきた。
面白いもので葬儀プランは完全にパッケージ化されているようだ。
そのお陰でかなりスムーズに葬儀の段取りは決める事ができた。
人の死さえ型に填め込まれてしまうのが少し滑稽で悲しく思えるけれど……。
「では……。当日よろしくお願い致します! ご面倒お掛けして本当に申し訳ありません」
姉は葬儀屋に深々と頭を下げるて彼らを見送った――。
通夜と葬儀は恙なく執り行われた。
幼馴染みが受付を手伝ってくれたし思っていたより弔問客も来てくれた。
「あ! ルナちゃん!」
女性に声を掛けられて振り返る。
銚子警察署の泉さんだ。
「来てくれたんですね。先日はありがとうございました!」
「いえいえ、こちらこそごめんなさいねー。お父さんのご遺体お返しするのが遅くなってしまって……」
「あの……。伊瀬さんからお伺いしたんですが……。父の死因て……」
「ああ……。まだはっきりした事は言えないんだけどね。今調査中だからもう少し時間貰えると助かるかな……」
父の遺体の引き渡しの時に伊瀬刑事から気になる事を聞かされていた。
どうやら父は自殺ではないらしいのだ。
伊瀬刑事は具体的な内容は教えてはくれなかったけれど、そんなニュアンスだった。
「ルナぁー! そちらの方は?」
「えーと、この方が泉さんだよー! お姉にも話したでしょ? 父さんの事で捜査してくれてる刑事さん」
姉は泉さんの姿をまるで珍しい動物でも見るような目で眺めた。
「ああ……。お話は伺ってます。父の事では本当にご面倒お掛けしました。葬儀にまで参列して頂いちゃって恐縮です……」
本当に姉らしくない。
私はそう思いながら泉さんと姉の挨拶を眺めていた。
金髪でさえなければ、きっと姉もまともに見える事だろう。
私たちは泉刑事に父の捜査をよくお願いして彼女を見送った――。
「それじゃあルナ! 今日はバンドメンバーと話があるから夜は出かけるよ!こんな時に悪いんだけどさ!」
葬儀が終わると姉はバンドメンバーの大志さんと出かけるようだ。
「大丈夫だよー! こっちこそ喪主お願いしちゃってごめんねー」
「気にすんなって! とりあえずこれで一段落だ……。ルナは仕事明後日から復帰だったよね?」
「そだよー。お姉は明日帰るんでしょ?」
「うん……。ウチの上司をいつまでもほっとく訳にもいかないかんね……。ねぇルナ? こんな事になっちゃったけどあんた大丈夫? もし不安なら私も職場に都合つけて定期的に実家戻るよ?」
姉は心配そうに言って私の右頬に手を当てた。
触れた彼女の指先は酷く硬い。
本当にギタリストらしい指先をしている。
「大丈夫だよ! もしなんかあったら連絡するし! お姉はお姉のやりたい事やった方が良いよ!」
私がそう言うと姉は苦笑いを浮かべながらゆっくりとため息を吐いた。
「ありがとう……。あんたもこれからは自分のためにね……」
そんな姉の言葉に涙腺がゆっくりと解かれていくの感じた……。
彼女の言うとおり、これからは自分のために生きたいと思った。
そして私は姉の言葉を噛みしめるように肯いた――。
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